ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
ロジスティクス・ビジネスはロジスティクス業界の専門雑誌です。
2001年10号
特集
ヤマト・佐川二強時代 コスト管理強化で『強い佐川』を取り戻す

*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。

OCTOBER 2001 30 ――宅配便の歴史を振り返ってみた時、「物流二法」 の前と後では何が変わったのでしょうか。
「物流二法以降、市場競争のポイントは品質・サー ビスに完全にシフトしました。
それまではスピードだ った。
荷物が翌日に着くというスピードを荷主は重視 していました。
その点では、当社が最もよく対応して いた。
ダントツだったと自負しています」 ――翌日配送という意味では他社も同じでしょう。
「確かにそうですが、大事なのはブランドイメージな んです。
当社のドライバーはいつも走っている。
それ も含めて当社は特別に速いという認識を持って頂いて いた。
しかし、その後、東京佐川急便事件が起きた。
あれがちょうど一〇年前です。
当社にとっては物流二 法よりも大きな転換点でした」 「東京佐川事件以降、当社は前向きな設備投資が一 切できなくなってしまった。
その後もお陰様で荷物は 減らず、むしろ増えていきましたが、精神論だけで荷 物をとってきたというのが現状です。
投資が再開でき るようになった平成一〇年頃まではそうでした。
実際、 クール便についても大手の中では当社の参入が最後で した。
メール便もしかり。
後手後手に回っていた」 ――そのことで、どのような影響が出たのですか。
「東京佐川事件の時は現場も経営陣も本当に強い危機 感を持ちました。
そのために精神論だけでも荷物が集 められた。
しかし、集まった荷物の処理に必要なイン フラへの投資ができないのですから、サービスや品質 にはどうしても無理が生じる。
つまり当時は施設の能 力以上の荷物を集めていた」 ――前向きな投資ができるようになったのは具体的に いつからということになりますか。
「コンピュータシステムを刷新した時ですから、三 年前になります。
その頃から、佐川急便としてのしっ かりとした戦略・戦術がとれるようになりました。
精 神論ではなく、ドライバーに具体的な戦略・戦術を指 示できるようになった。
全荷主、全店、全ドライバー の単価を把握できるようになりましたからね。
コスト 管理能力の強化によって強い佐川を取り戻すことが、 営業本部長としての私の役割だと考えています」 「以前、私が東京支社長だった時代のコンペで、他 社さんがかなり安い価格を出してきたことがあります。
当社の料金体系ではとても対応しきれない値段だった ので諦めざるを得なかった。
しかし、その内容をよく 吟味してみると、ほとんどが五〇〇グラム以下、一キ ロ以下の荷物であり、確かに単価を下げても採算がと れる荷物でした」 「しかし、当時の佐川急便にはそんな対応はできな かった。
一キロだろうが一〇キロだろうが、ほとんど 運賃格差がなかった。
細かい区分がなかったわけです。
そもそも一個当たりの原価を把握できていなかった。
社内の配分方法も合理的ではなかった。
そこを他社さ んはしっかり管理していた。
原価が分かっていた。
勉 強させられました」 ――運賃単価は過去一〇年にわたり下落傾向が続い ています。
「営業本部では今期から適正運賃の収受に改めて取り 組んでいます。
新年度に入った三カ月間で、まずは適 正重量のチェックを徹底しました。
実際の重量よりも 軽い価格帯を適用しているケースが発生していたため、 それを是正したんです」 「今年七月からは当社の経営幹部とドライバーが実 際にお客様のところに出向いて、適正価格のご相談を させて頂いています。
七月、八月の二カ月間で約四五 万の荷主企業と価格の話をさせて頂きました。
今期は 下落傾向に歯止めがかけられそうです」 特集 ヤマト・佐川二強時代 「コスト管理強化で『強い佐川』を取り戻す」 営業本部長として全国のセールスドライバーの陣頭指揮を とる。
東京佐川事件以来、現場が失ってしまった自信の回 復を目下の最大のテーマに掲げる。
今年夏の運賃交渉では 10年続いた単価の下落も反転。
「1個とられたら5個取り返 す」精神でライバルを追撃するという。
佐川急便平間正一 副社長 Interview 31 OCTOBER 2001 ――規模拡大については。
「売り上げと単価は伸ばす必要がありますが、個数 を追う必要はない。
というのも、右肩上がりで経済が 伸びている時は、とにかく個数を集めてくればよかっ た。
実際、バブル前まではそれで結果がついてきた。
ところがバブル崩壊後もそれを引きずってしまったと ころに問題がある。
これは物流業界全体にいえること だと思います」 ――佐川は「B to B」でスタートしましたが、今では 「B to C」の扱いが増えている。
これはネットワーク にどのような影響を与えますか。
「現在、売り上げの八〇%が『B to B』の貨物です。
基本的に『C to C』は少ないので、残る二〇%の大 部分が『B to C』ということになります。
一〇年ぐら い前までは九二%が『B to B』でした。
年を追うごと に、割合がだんだん変化しています。
これによって 『 to C』の整備が現在、当社の最大の取り組み課題に なっています。
実際、当社が受けるクレームのうち九 割近くは『 to C』に関するものなんです。
八〇%を占 める『B to B』のクレームは少ない」 ――ネットワーク自体の改革については、どうお考え ですか。
ヤマト運輸と比べて佐川急便の拠点数は圧倒 的に少ない。
「ヤマトさんは郵政やコンビニを強く意識されてい るのではないでしょうか。
当社のスタンスとはかなり 違います」 ――ヤマトが今後、ネットワークを細分化していけば、 ますます扱う荷物のカテゴリーが絞られてくる。
それ に対して佐川は何でも扱う。
その方針は今後も同じで すか。
「当社のインフラで対応できる荷物であれば何でも 運びます。
ただし、運ぶ手段は任せて頂きたいし、必 要な価格も頂戴したい。
これから数年の物流市場は、 何よりコスト管理能力が問われる時代になると考えて います。
そのために今期は新たな内部配分制度に基づ いた価格についてのガイドラインを設けました」 『 to C』のインフラ整備を模索 ――今後も「 to C」の荷物は増えていくはずです。
そ の時にも、拠点は細分化させないのですか。
「現時点では、具体的に決めていません。
たしかに 『 to C』は今後も増えるでしょうが、それが最終的に どれだけの規模になるのか。
あれだけ騒がれたeビジ ネスしても、物量に換算すればその影響は当初予想さ れていたほどではなかった。
そのあたりを見極めてか らでも遅くないと考えています」 「いずれにしても、当社は今後も『B to C』に十分 対応していきます。
そのためにはインフラの整備が必 要であることは確かです。
一つの選択肢として、東京 や大阪などの大都市圏に宅配専用のセンターを設置することも検討しています。
それで現在の二〇%の『B to C』『C to C』貨物の大部分をカバーできる」 ――既存の「B to B」のネットワークとは別に「 to C」 のインフラを整備するとなると、相当規模の投資も必 要となりますね。
「設備投資は当然、財務との『見合い』になってい きます。
しかし、これまで当社では『 to C』が二割を 占めるようになっているにも関わらず、全ての面で 『B to B』の貨物が最優先されていました。
これから 『 to C』に対してキメの細かいサービスを展開してい くためには、施設の利用の仕方も考えなくてはならな いし、それなりの投資も必要になります。
財布と相談 しながら『 to B』にも『 to C』にも対応できる設備を 拡充していくつもりです」

購読案内広告案内