ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
ロジスティクス・ビジネスはロジスティクス業界の専門雑誌です。
2004年2号
ケース
ソニー・ミュージックディストリビューション――情報システム

*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。

FEBRUARY 2004 48 共同化を進めやすい業界体質 ソニー・ミュージックディストリビューシ ョン(SMD)による流通効率化の取り組み が進んでいる。
同社は音楽ソフト業界の最大 手、ソニー・ミュージックエンターテイメン ト(SME)が一〇〇%出資している販売会 社だ。
CDやレコードなど音楽ソフトのマー ケティングと流通管理を担当している。
SMEは三年前、それまで社内に抱えてい たレーベル(音楽ソフトの制作・販売を行う 組織やブランド)や生産部門、営業部門など を大胆に機能分社した。
現在のSMEは、ソ ニーグループの音楽事業の統括会社であると 同時に、SMEグループのなかでは持株会社 のような位置づけになっている。
実務は機能 分社で誕生した傘下の企業が分担して手掛け ている。
SMEグループのサプライチェーン運営は、 販売会社であるSMDが流通向けの管理業務 を担い、物流は物流子会社のジャレード(本 社・静岡県志多郡大井川町)が全面的に手 掛けるという役割分担になっている。
SMD とジャレードともに、ソニー関連の業務だけ でなく音楽業界のプラットフォーム事業を手 広く運営しているという共通点を持つ。
一般的な製品とは違い、音楽ソフトには同 業他社の製品とほぼ完全に差別化できるとい う商品特性がある。
製品を管理するうえで無 視できないこの特徴について、SMDマーケテ 流通在庫の削減に情報インフラを整備 オープンな姿勢と無償が奏功し急拡大 ソニー・ミュージックディストリビュー ションが、POSデータを活用した流通在 庫の削減に3年前から取り組んでいる。
サプ ライチェーンを効率化することで、在庫か ら発生する返品の削減を狙う。
すでに音楽 ソフトの業界インフラとして定着しつつあ り、流通効率化の先進事例として他業界か らも注目されている。
ソニー・ミュージックディストリビューション ――情報システム 49 FEBRUARY 2004 ィング部の佐藤朗次長は次のように説明する。
「極端なことを言えば、我々にとっても、(ラ イバル企業である)エイベックスから出てい る浜崎あゆみさんのCDも売れてもらわなけ れば困る。
そうしなければ、レコード店が次 の商品を仕入れる原資が生まれない。
音楽ソ フトというのは、いくら世間で売れていても、 好きなアーティストの作品でなければ要らな いという嗜好品。
しかもアーティストはレコ ード会社と独占販売の契約を交わしているた め、メーカー同士の競合意識は薄い」 もちろん、同じ購買層をターゲットとする アーティストの作品同士は、消費者の懐具合 によって互いに売れ行きが影響される。
この ためキャンペーンのタイミングなどでのメー カー間の綱引きは当然あるが、ライバル企業 の売り上げが落ちたからといって、自社の製 品が代わりに売れるわけではない。
こうした 事情から、音楽業界では企業が業務の共同化 に取り組みやすい素地が昔からあった。
実際、この業界では早くから中間流通の共 同化が進んだ。
CBSソニー(現SME)と ワーナー・パイオニアの二社は、一九七五年 に商品物流の効率化を図るための物流子会社、ジャパン・レコード配送(現ジャレード)を 共同出資で発足した。
その三年後には同業大 手のビクターエンターテイメントとその親会 社の日本ビクターが流通子会社、日本レコー ドセンター(NRC)を設立。
こちらは物流 だけでなく、情報システムの開発・運用から 流通管理までを垂直統合したビジネスモデル で中間流通の効率化に乗り出した。
その後、ジャレードを擁するCBSソニー とワーナーは、東芝EMIなど複数の大手メ ーカーにも声を掛け、一〇社近くの共同出資 でジャパン・ディストリビューションシステ ム(JDS)という情報システム会社を発足。
受発注システムなどの共同開発と共同運用を スタートした。
そして、この際にジャレード の立場もJDSグループのなかで共同物流を 担うように転換。
より一層、業界インフラと しての色合いを強めることになった。
JDSグループとNRCは、これまで業界 の成長とともに順調に事業規模を拡大してき た。
店舗へのPOSレジの導入などにも積極 的に取り組んで、音楽ソフトの流通効率化を 推進。
結果として音楽業界の中間流通は、こ の二グループによる寡占化が進んだ。
現在で は、このJDSグループとNRCが音楽業界 を二分する流通インフラとして機能している。
音楽業界を襲った変化の波 NRCとジャレードの業績を一般的な物流 企業と比べると、その高収益に驚かされる。
と くに九〇年代のNRCは、売上高こそ一〇〇 億円程度の中堅規模ながら、利益率は悠々と 二桁台を確保。
業界プラットフォーム事業の 成功事例として脚光を浴びていた。
NRCほどの派手さはなかったが、JDS グループに所属するジャレードも物流企業と してはかなり高い利益率を確保してきた。
複 数企業の共有インフラとして利益の追求を主 眼としていないにもかかわらず、高収益を確 保できたのは、それだけ共同化の取り組みが 上手く機能していた証とみていいだろう。
ただし、両陣営とも、従来の枠組みのなか では解決できない悩みも抱えていた。
高止ま りしたまま減らない流通在庫と、その結果と して生み出される返品の問題である。
出版物の流通と同様に、音楽ソフトの流通 にも商習慣として「返品制度」がある。
いっ たんは流通上で商取引が成立し、レコード店 の売り場に数カ月も並んだ製品が再びメーカ ーに返品として戻ってくる。
収入はゼロであ るにもかかわらず、物流費や管理費だけが発 生する。
加えてメーカー在庫を集中管理して いる「中央倉庫」から出荷した時点で支払う 印税も返金されない。
九〇年代後半のレコード業界では、この返 品率が生産実績の約一〇%あった。
音楽ソフ トの売り上げがピークを迎えた九八年には、 業界全体の売り上げが六〇〇〇億円を超えて いたため、返品額も約六〇〇億円あった計算 ソニー・ミュージックディ ストリビューション(SM D)の佐藤朗マーケティン グ部次長 になる。
製品を流通させるコストと、アーテ ィストに支払う印税は返品総額の一割程度に なる。
業界全体としては毎年、数十億円を返 品処理のために負担している計算だった。
ただでさえ音楽ソフトの市場は、九〇年代 後半に岐路に差し掛かっていた。
業界全体の 売上高こそ伸びていたが、内実は楽観できる ものではなかった。
一部の人気アーティスト がミリオンセラーを連発する一方で、その他 の売り上げは静かに地盤沈下していた。
そし てインターネットの普及が急加速していた九 八年には、業界首位のSMEがネットによる 音楽配信を開始。
CDをはじめとするパッケ ージ商品の将来性の厳しさが、徐々に露わに なっていた。
こうした状況を受けて、当時はまだSME で営業に携わっていた佐藤次長は、既存のレ コード店の支援に本腰を入れるよう社内で訴 えた。
過去にも店頭支援のプロジェクトはあ ったが、あまり上手くいってはいなかった。
にもかかわらず、ネット配信など既存店の神 経を逆なでしかねない動きばかりが進むこと に佐藤次長は危機感を抱いていた。
提案は上 層部に受け入れられ、九九年春から「Music Express 」と呼ぶ流通効率化プロジェクトが スタートすることになった。
もっともプロジェクトの開始から約一年間 は、顧客へのヒヤリングなどを繰り返したに 過ぎない。
プロジェクトメンバーが全国の主 要な取引先を訪問し、POSシステムの導入 状況や、かねて問題視されていた返品に関する情報収集を進めた。
このときの活動を通じ て意外な事実が分かった。
「音楽ビジネスでは、新人を育成するため に店頭にCDを並べてもらい、それがヒット せずに返品になるのは仕方がない。
しかし、 いろいろと分析してみると、実は売れ筋商品 に関する返品が非常に多いことが分かった。
関係者のなかに店頭に並べれば売れた時代の 意識が残っていて、そこからムダな返品コス トが発生していた」(佐藤次長) 一年間かけてヒヤリングを進める間にも、 市場環境の厳しさは増すばかりだった。
まが りなりにも右肩上がりの成長を続けていた業 界は、ついに九八年をピークに縮小に転じた。
もともと楽観的な人たちの多い業界だったが、 さすがに流通関係者のあいだにも危機感が芽 生えはじめていた。
過去のビジネス環境のなかでは、レコード 店の経営者にとって返品は「どうせメーカー が引き取ってくれる」ものだった。
しかし、 縮小する市場で従来通りの利益を確保しよう としたら、BPR(ビジネスプロセスの再構 築)が避けられない。
皮肉なことに徐々に厳 しさを増した市場環境が、プロジェクトの活 動を後押しする格好になった。
第一歩はPOSデータの入手 着手から一年を経た二〇〇〇年四月、プロ ジェクトは三人の専任部署として本格的な活 動をスタート した。
前年の 調査結果を踏 まえて、具体 的なシステム 構築へと進む ことが正式に 決まったので ある。
ただし、 活動の目的そ のものは、約 一年前に佐藤 次長が社内で プレゼンテーションを行ったときからずっと 同じだった。
目的は三つであった。
一つはキャッシュフ ロー経営の徹底だ。
メーカーから流通に至る 商品の流れを適正化して、在庫削減や販売機 会ロスの回避し、さらには店頭における製品 の回転率向上などを実現する。
二つ目は、従 来は倉庫からの出荷実績を見て一喜一憂して いた営業活動を、販売店のPOSによる実売 データの活用でよりタイムリーなものに変え る。
そして三つ目は、業界レベルでSCMの 仕組みを構築する――というものだ。
まずプロジェクトとしては、こうした活動 の目的を流通関係者と共有する必要があった。
さらに「いくら考え方に賛同してもらっても、 それだけでは意味がない。
プロジェクトにと って一番大切なのはPOSデータをもらうこ FEBRUARY 2004 50 ジャレードが手掛けている庫内作業 流れ作業ではなく、各作 業者がピッキングから梱 包まで手掛けることで生 産性を高めた 51 FEBRUARY 2004 とだった。
情報システムなどの仕組みは、お 金と時間さえかければできる。
POSデータ を入手できる関係さえできれば、SCMの一 段階目は完結に近いと私は考えている」と佐 藤次長は強調する。
当時の音楽業界には、POSデータを小売 りチェーンから有償で買い上げ、これを分析して再販売するビジネスがすでに存在してい た。
これに対してプロジェクトでは、最初か らPOSデータの対価を支払うつもりはない と明言していた。
ビジネスを行うわけではな く、業界全体の流通効率化を図るのがプロジ ェクトの目的だからという理屈である。
取引先の反応はさまざまだった。
すぐに主 旨を理解して快諾してくれる小売りチェーン もあれば、とんでもない話だと耳を貸そうと しないチェーンもあった。
それでも粘り強く 説明を続けた結果、かなりの数の小売りチェ ーンから協力を得られる見通しがついた。
勢 いづいたプロジェクトメンバーは、次は具体 的な情報システムの構築に向けて、店側とP OSデータを収受する契約を取り付けて回る ことになった。
一歩間違えればメーカーにとって?虫がい い話〞と勘繰られかねないこの提案を、SM Eの経営陣の、ある決断が強力にバックアッ プした。
SMEの在庫データを取引先に公開 することをプロジェクトに許可したのである。
当時、どのメーカーも実施していない画期的 なことだった。
プロジェクトメンバーが取引先にPOSデ ータの無償提供を依頼すると、決まって店側 から返ってくるのは「我々のメリットは何?」 という問い掛けだった。
流通全体を効率化す るという理念には賛同してもらえても、一方 で他の事業者がPOSデータを有償で買い上 げている状況では、それだけでは説得材料と して弱い。
ギブ&テイクの話であることを、 分かりやすい形で提示する必要があった。
そう考えた佐藤次長は、当時のSMEの経 営トップにメーカー在庫の公開を直訴。
主旨 を理解したトップが二つ返事でOKしてくれ たことで話はトントン拍子で進んだ。
しかも、 投資はほとんど不要だった。
すでにSMEの 社内で営業マン向けに配信していた在庫情報 を、インターネット経由で取引先も検索でき るようにしさえすればいい。
過去のメーカー主導の販売活動のなかでは、 「在庫が品薄だから、いま製品を確保しなけ れば入手できなくなるかもしれませんよ」と いうセールストークは、どこの業界でも通用 する営業マンの販売テクニックの一つだった。
これに対してメーカーが在庫データを公開す るというのは、このような綱引きとの決別を 意味している。
このSMEからの申し出が、 POSデータを小売りチェーンから入手する うえで有効なツールになった。
こうした経緯があったため、二〇〇〇年九 月に「Music Express 」のなかで最初に立ち 上がったのは、メーカーからの「情報配信シ ステム」だった。
本来の機能であるPOSデ ータを使った「販売分析システム」の開発に 着手したのは、それから一カ月後。
つまり数 億円の投資と、相応の開発期間を要する本丸 のシステム構築は、ある程度まで参加者のメ ドをつけてからスタートしたのである。
特約店本部システム 「Music Express」の構成図 本部サーバー 本部端末 POS端末 特約店 各店舗 販売委託 メーカー SME セールス 店舗端末 営業所 (マーケット情報) 工場 (入庫情報) 生産計画 (在庫情報) 宣伝 (プロモーション情報) グループウエア Notesサーバー 業務処理サーバー Webサーバー 営業本部 商品情報 データ分析 工場各 協力会社 物流会社 (JDS) エイベックス 東芝EMI ソニーミュージック・グループ VAN インターネット インターネット 販売・在庫 データ アーティスト情報 商品情報 在庫・入庫情報 受発注用資料 売上分析データ 制作 (アーティスト情報) ASP FEBRUARY 2004 52 結局、「Music Express 」のコア機能とも いうべき「販売分析システム」は二〇〇一年 六月に立ち上がった。
続いて収集するデータ を元に販売予測を行う「需要予測システム」 の構築に着手。
プロジェクトが四年目に入っ た二〇〇二年四月から、販売予測データを実 際に参加店に配信しはじめた。
ただし当初の「Music Express 」には致命 的な欠陥があった。
「最大の欠点はソニーミ ュージック一社だけの情報しかない点」(佐 藤次長)だった。
店側にしてみれば、新たな 仕組みをSME一社のために導入するのは合 理的ではない。
この事態はプロジェクトでも 想定していた。
だからこそ当初から業界のS CMプラットフォームに育てていくという目 的を掲げたのだが、実際に他メーカーの情報 を扱える状態にはなっていなかった。
このためシステムに目鼻がついてくると、 需要予測システムの開発と併行するかたちで、 プロジェクトメンバーは他メーカーの参加を 募る活動も本格化した。
すでに業界で注目を 集めていたこの取り組みの詳細を、複数メー カーに説明して参加を打診。
結果として、J DSグループでともに物流共同化に取り組ん できた東芝EMIとエイベックス・ディスト リビューションの参加が決まった。
二〇〇一 年末から共同運営の準備を進め、二〇〇二年 四月にはメーカー三社による共同運営体制へ と移行した。
その後、二〇〇二年八月からは業界最大手 の卸、星光堂とのプロジェクトも開始した。
それまではメーカーと直接取引をしているチ ェーン本部とだけ話し合ってきたのだが、こ の業界の流通の半分は卸経由だ。
チェーン本 部で使ってもらっている仕組みを卸にも適用 してもらうことで、参加店舗の裾野を広げよ うというわけだ。
翌二〇〇三年には二番手、 三番手の卸が参加することも決まり、卸ルー トの大半を押さえることに成功した。
さらに大きかったのは、二〇〇三年一〇月 に四社目のメーカーとしてビクターエンター テイメントが「Music Express 」の共同運営 に参画したことだ。
周知の通り、ビクターは ソニーの宿敵の松下電器産業に近い企業。
同 業界の物流や流通インフラが二陣営に分かれ ていたのにも、こうした事情が少なからず影 響していた。
ビクターの参加はこの勢力図を 覆すものであり、これによって業界でSCM プラットフォームを運営する前提が整った。
SCMのために頭は下げない すでに小売りチェーンを通じて提携済みの 約一五〇〇店に、業界の半分の流通を握って いる大手卸の取引先まで加えると、業界の七 割を超す販売ルートで情報共有をできること が視野に入ってきた。
POSデータを収受す る契約そのものはメーカーごとに個別にやっ ているため、実際にはまだそこまで網羅でき たわけではない。
だが他業界のSCMの事例 に比べると、後発組ながら見事に業界一丸の 取り組みに高まっている。
成功の理由はいくつか挙げられる。
冒頭で 説明した共同化を進めやすい業界体質による ところも大きいが、それ以上に特筆すべきは 業界首位のSMEグループが最初からオープ ンなインフラづくりを主導した点だ。
直接的 なシステム投資も、ほとんどSMEグループ が引き受けた。
共同運営に参加しているメー カー各社から運営費をもらってはいるものの、 あえて初期投資のコストまでは回収しようと はしていない。
こうした背景があったからこそ、有償で買 い上げられていたPOSデータを、無償で入 手することに成功した。
さらに佐藤次長は「(取引先に)こういう話をするなかで我々は 一切、頭を下げていない。
お付き合いでの参 加もしなくてもいいと明言してきた」と強調 する。
店側でコンピュータを購入するなどの 設備投資が必要であれば自主的にやってもら い、各自がサプライチェーン上での役割を果 たすように働きかけてきた。
システムの開発でも、参加者のハードルを 低くする工夫をいくつも施した。
他メーカー に気持ちよく参加してもらうため、システム の運用はJDSグループで実績のある日本情 報産業という独立系のITベンダーにアウト ソーシングした。
システム運用を外部の独立 企業に委ねることで、各メーカーが自社のデ ータ以外には見られない体制を構築し、各社 の不安を取り除いたのである。
――音楽ソフトの物流は、一昔前には日本レコ ードセンター(NRC)の一人勝ちだった。
そ れを近年、ジャレードが逆転したわけだが、決 め手は何だったのでしょう。
「JDSグループは三年くらい前に、地方倉庫 を全廃してすべての在庫を中央倉庫に集約し た。
これによって、まず在庫管理がしやすくな った。
また、従来は売れるかどうか分からない 段階で中央倉庫から地方倉庫に移していたた め、その段階で支払っていた印税にムダが発 生していた。
拠点集約をNRCさんに先駆け てやった効果は大きかったはずだ」 ――九八年のピークを境に音楽ソフトの売上規 模は大きく落ちこんでいる。
にもかかわらずジ ャレードの売上高が、市場の失速に比例して 減っていない理由は? 「まずゲームソフト(プレステのソフト)を扱 ったことによる好影響がある。
さらにソニーミ ュージックの事業のなかでも、従来は手掛けて いなかった化粧品だとかキャラクター商品、通 販事業などの倉庫事業を、ぜんぶ我々のとこ ろで扱うようになったことも売り上げ減を補っ てくれた」 ――ジャレード自身はど のような工夫をしてきた のですか。
「我々の倉庫(静岡県 志多郡大井川町)では、 派遣社員まで含めると 総勢一三〇〇人近い人 たちが働いている。
その 53 FEBRUARY 2004 価なSCMソフトを使うのではなくゼロから 開発して投資コストを抑えた。
システム開発の考え方を、佐藤次長はこう 説明する。
「そもそもコンピュータに音楽の ことが分かるわけがない。
だから私はシステ ムが提示する通りに仕入れるなんてやめてく ださいと、お店の方には言っている。
そうで はなくて、過去に漠然と一〇〇枚発注してい たようなオーダーの仕方を見直してください ということ。
だからシステムが提示する数値 も、あくまでも目安に過ぎない」 一連の取り組みを進めたことで、SMEの 在庫は三年前に比べて半分以下に減った。
返 品によって償却する製品の数量も従来より大 幅に少なくなった。
今後、「Music Express 」 が業界プラットフォームとして定着するかど うかは、まだ先行きを見守る必要がある。
共同 運営に参加しているメーカーも同様の成果を 得られるのか。
店側はPOSデータを提出し たことに見合う在庫削減を実現できるのか。
そ の結果次第でシステムの評価も決まる。
ただ業界レベルのSCMを構築するうえで、 この取り組みが示唆に富んでいることだけは 間違いない。
そして、その際に注目すべきは 情報システムの細部の仕組みではない。
イン フラ構築を主導する人たちの姿勢であり、サ プライチェーンパートナーとの関係を築くう えでの工夫だ。
SCMが本来、泥臭い作業の 積み上げで成り立っていることが、この事例 から分かる。
(岡山宏之) なかでジャレードの正社員は一二〇人弱しか いない。
つまり、ほとんどは契約期間のきまっ た有期社員で、こういう人たちの働くモチベー ションをいかに高めるかが我々にとっては非常 に重要なテーマだ」 「忙しい週末などには社員が総出で庫内作業を するのだが、先日、私もパッキングをやってい て凄く感激したことがあった。
一部のパートさ んたちに休みを返上して出てきてもらっていた のだが、彼女たちが午前中で帰るとき、いちい ち私に対して『申し訳ありません』と謝ってい く。
ここでの業務を自分たちの仕事と思ってい て、それを私たちにやらせることを申し訳ない と考えてくれている。
私はSMEの工場に長 く勤務していたが、工場のパートさんたちとは また異なる雰囲気がここにはある」 「我々の作業は翌日配送が大原則のため、どう しても物量によっては夜遅くまで残業しなけれ ばならない日が出てくる。
このあいだ聞いた話 では、あるパートさんはいったん自宅に帰って、 お父さんの食事を作ってからまた戻ってきてく れるのだという。
繰り返しになるが、それだけ ここでは自分たちの仕事に責任感を持って当 たってくれている」 ――御社と同様に音楽ソフトやゲームソフトを 扱っているある物流倉庫では、作業者による 盗難に頭を痛めていると聞いたことがあります。
「うちの場合、そんな心配は一切していない。
とくに対策など施さなくとも、在庫の誤差はほ とんど発生しない。
こういうところが当社の一 番の強みだと思っている」 パートのモチベーションの高さが武器 ジャレード沢田和実社長 数億円を投じた販売分析や需要予測のシス テムについても、いたずらに高度で複雑な機 能を追求しようとはしなかった。
店が発注す る際に意志決定の助けにさえなればいいと割り切って開発に取り組み、統計分析の機能な どをかなり絞りこむことによって、既存の高

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