ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
ロジスティクス・ビジネスはロジスティクス業界の専門雑誌です。
2010年8号
特集
《医薬品編》第1部 アウトソーシング普及の背景

*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。

AUGUST 2010  24 最高品質の既製服に着替える  国内製薬最大手の武田薬品工業は二〇〇七年一〇 月、物流子会社の武田物流の解散と物流業務の外部 委託を発表した。
これによって以前は自家物流もし くは物流子会社への委託がほとんどだった製薬業界 の物流アウトソーシングが、販売金額ベースで四割を 超えるまで拡大したもようだ。
 政府の医療費抑制政策のために国内市場の伸び率は 鈍化している。
同時に世界市場では業界再編を経て規 模を拡大した欧米メーカーが研究開発に巨費を投じて いる。
このため、日本の医薬品メーカーも経営資源を 研究開発に集中する必要に迫られている。
国際的な新 薬を開発するには年間一〇〇〇億円以上の投資が必要 とされている。
その資金を捻出するために、あらゆる 領域でコスト削減が進められた。
物流も例外ではない。
 それまで大手メーカーの物流管理はコスト効率より もサービス品質で差別化しようという志向が強く、自 家物流による手厚いサービスを実施していた。
製薬大 手のなかでは、旧山之内製薬(現在のアステラス製 薬)が、いち早くそこにメスを入れた。
 全国四カ所に構えていた物流センターを売却。
物流 子会社を解散し、自家物流をアウトソーシングに切り 替えた。
今や物流は医薬品メーカーにとっての差別化 手段ではないという判断だった。
 ただし、医療用医薬品は安定供給が絶対条件だ。
「アウトソーシングでオーダーメードから既製服に着替 えるに当たっては、最も品質の良い既製服にしたかっ た」とアステラス製薬の営業支援子会社、アステラス 営業サポートの今村正博営業管理部ロジスティクスグ ループリーダーは語る。
 委託先の選定に当たっては綿密な調査を元にコンペ を実施した。
最終的に三菱倉庫をパートナーに選んだ。
医薬品物流のセンターの設備と作業品質、情報システ ム面での対応力を評価した。
そして〇四年一月、三菱 倉庫が建設した大阪市此花区の配送センターを「西日 本物流センター」、〇五年一月に埼玉県新座市のセン ターを「東日本物流センター」として稼働させた。
 その三カ月後の〇五年四月、山之内製薬は藤沢薬 品工業と合併し、現在のアステラス製薬に社名を変更 した。
アウトソーシングの完了直後の合併で、物流管 理部門では新しいルール作りや製品の取り扱いマニュ アルの整備などに追われた。
 今村リーダーは「何も問題なく現場が動いていれば、 荷主はKPI指標の推移を見て結果を検証し、次の 段取りの準備を行えばよい。
しかし、物流はそれほ ど甘くない。
毎日必ず何かが起こる。
これらの日々 のイベントを確実に経験知として蓄積しながら、アス テラスとしての物流体制を構築してきた。
現状の物流 品質・体制を見る限り、アウトソーシングによる問題 は出ていない」とこれまでのところを評価している。
 同社のパートナーの三菱倉庫が医薬品物流を開始し たのは一九八三年に遡る。
ただし当初の荷主は日本に 進出した外資系メーカーか、中堅以下の国内メーカー ばかりだった。
九〇年代後半には医薬品専用のセン ターを建設したが、?本丸?の国内有力メーカーは依 然として自社物流を堅持していた。
 三菱倉庫の医薬品物流事業が本格的に拡大するの は、やはり〇四年にアステラスから物流を受託して以 降のこと。
その後、武田製薬がアウトソーシング先に 選んだのも三菱倉庫だった。
 この二社を受託したことで同社の医薬品物流事業 の売り上げは大きく跳ね上がった。
昨年度の医薬品物 流事業の売上高は一二二億円に達した。
現在、同社 アウトソーシング普及の背景  製薬業界で物流アウトソーシングが進んでいる。
2004年に旧山之内製薬が三菱倉庫に物流を全面委託し たことがその契機となった。
最大手の武田薬品工業も これに続き、従来は自家物流中心だった医薬品メーカー の物流管理の流れが大きく転換した。
   (梶原幸絵) 《医薬品編》第1部 25  AUGUST 2010 は医薬品メーカー約三〇社の受託を受け、首都圏・近 畿圏を中心に四八拠点を運営している。
 そのほとんどは汎用型の施設だ。
フロアやスペース はセキュリティ区分されているが、作業スタッフは施 設全体で統合管理している。
「当社の医薬品物流の キーワードは共同化だ」と同社の西川浩司倉庫事業部 医薬品チームマネジャーはいう。
 医薬品物流では、現場の作業スタッフにも専門知 識が求められる。
そのため同社では日頃からクロスト レーニングによって作業スタッフに同じ施設内の複数 の現場を経験させて、応援が必要な場合にはすぐ人 員を投入できる体制を整えている。
医薬品向けに開 発した専用のWMSを導入し、作業方法もできる限 り標準化している。
 「もちろん受発注のスタイルや締め時間は各社によっ て異なるが、基本概念は同じ。
当社は長年の実務経 験を蓄積し、行政の指示にも対応して常に機能をバー ジョンアップさせている。
当社のスタンダードが医薬 品物流のベストプラクティスであることを説明し、ご 理解いただいている」と西川マネジャーは胸を張る。
 同社が注力しているのは、医療用医薬品の中でも特 にデリケートな扱いを必要とする高付加価値品だ。
そ のためにセンターには多額の投資を行いフルスペックの 物流機能を備えている。
国内の医療用医薬品メーカー のうち、過半はまだ自家物流を維持している。
それに 対して三菱倉庫はハイレベルな物流品質を提供するこ とでアウトソーシングの背中を押そうと考えている。
拡大必至の医薬品3PL市場  それに対してローコストの提案を強みとして、実績 を上げてきたのが日立物流だ。
医薬品である以上、汚 損や破損、誤出荷は許されないが、製品特性次第で はセンター内部の設備も空調とラック、パレット程度 で済ませることもできる。
配送も保冷品以外は一般 路線便を利用するという提案も行っている。
 日立物流の飯塚和宏グローバル第二営業開発本部 産業システム部部長は「製薬業界向けに、そうした提 案をしたのは当社が初めてだろう。
当社の仕事は製 品特性と顧客の要望によって複数パターンの提案を行 うこと」と説明する。
 同社は医療機器の物流受託から事業領域を拡大し、 二〇〇〇年頃に医薬品の3PLを開始した。
埼玉県 加須市と大阪市此花区の医薬品専用拠点などを運営 し、医療用医薬品を中心として現在一〇数社のオペ レーションを行っている。
このうち、五社はジェネ リック医薬品(後発医薬品)メーカーだ。
 ジェネリック医薬品の物流は先発品とはまったく異 なっている。
まず出荷ロット。
先発品のメーカーから の出荷はケース単位がメーンだが、ジェネリックは販 売量が少ないためにバラ出荷が基本だ。
 卸への納品リードタイムは先発品であれば北海道や 九州向けは受注翌々日が一般的だが、ジェネリック品 は受注翌日。
このため、先発品メーカーに比べて多く の物流拠点を抱えなければならない。
 しかし、現状ではジェネリック医薬品メーカーの規 模は小さく、最大手でも売上高は五〇〇億円程度に とどまっている。
物量が拠点を分散して構える規模に 満たないメーカーが多いため、工場から航空便で出荷 されるケースが多いという。
 それでも政府は医療費抑制政策の一環で、単価の 安いジェネリック医薬品の普及を促している。
今後は 市場規模が拡大していくのは必至だ。
日立物流は3 PL事業で培ったコスト管理とバラ出荷のノウハウを 武器に、その流れに乗ろうと考えている。
アステラス営業サポート の今村正博営業管理部 ロジスティクスグループ リーダー 日立物流の飯塚和宏 グローバル第二営業開発 本部産業システム部部長 三菱倉庫の西川浩司 倉庫事業部医薬品 チームマネジャー 【医薬品編】 特 集 三菱倉庫の医薬品物流の売上高推移 140 120 100 80 60 40 20 0 122 05年度06年度07年度08年度09年度 (単位:億円) 74 93 92 108

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