ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
ロジスティクス・ビジネスはロジスティクス業界の専門雑誌です。
2009年8号
ケース
フェデックス・コーポレーション 金融危機

*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。

AUGUST 2009  38 金融危機 フェデックス・コーポレーション 需要減少で宅配便・LTLとも業績が急落 DHLの市場撤退も収益性にはマイナスに  住宅メーカーの積水ハウスは業界で初めて、新築 施工現場で発生する廃棄物のゼロエミッションを達 成した。
現場で分別を行い、集荷拠点を経由して 自社のリサイクル施設に回収する仕組みを作ること で、廃棄物の発生量を大幅に削減した。
さらに部 材の設計段階から発生抑制を図るため、回収時に ICタグで廃棄物情報を収集するシステムの構築を めざしている。
キャッシュフローの黒字化を最優先  フェデックス・コーポレーションは六月、二 〇〇九年年度(〇九年五月期)の第4四半期 と通期の決算を発表した。
第4四半期の売上 高は七八億五二〇〇万ドル(七四五九億四〇 〇〇万円)で前年同期比二〇%減、営業損失 は八億四九〇〇万ドル、最終損失は八億七六 〇〇万ドルだった。
四半期ベースとしては過 去最大の赤字を計上した。
 これによって〇九年度の通期決算は、売上 高が前年度比六%減の三五四億九七〇〇万ド ル、営業利益が同六四%減の七億四七〇〇万 ドル、最終利益は同九一%減の九八〇〇万ド ルとなり、大幅な減収減益となった。
一株当 たりの最終利益は〇・三一ドルで同九一%減 少した(図1)。
 同社のフレデリック・スミス会長兼CEO (最高経営責任者)は、決算発表後のアナリス ト向け説明会で、〇九年度を振り返り、「われ われはフェデックスの歴史の中で、最も困難な 経営環境に直面してきた。
第二次世界大戦以 降で最も厳しい経済環境の時期が、フェデッ クスの〇九年度決算と重なった」と語った。
 さらにスミスCEOは「不況の最悪期はお そらく終わった」としながらも、「景気が上向 いてくるまでにどれぐらい時間がかかるのか、 またどれだけの力強さをもって景気が回復して くるのかは依然として不透明だ」として、同 社の一〇年度の経営においても、先行きが十 分に見通せない ことを示唆した。
 フェデックス の〇九年度の低 調ぶりは、過去 五年間の業績の 推移をみるとは っきりする(図 2)。
図2の中で 目立つのは、営業 利益率の落ち込 みだ。
〇六年度と 〇七年度の九% 台をピークに、〇 八年度は五%台、 〇九年度は二% 台に落ち込んだ。
収益力の低下は、 株価にも反映さ れている。
〇六 年から〇七年にかけては一〇〇ドル前後で推 移していた同社の株価が現在は、ほぼ半分の 水準に落ち込んだ。
 それでも経営基盤はいまだ盤石だと同社は 主張する。
同社のアレン・グラフCFO(最高 財務責任者)は、減収減益においても支出の 引き締めを行ったことで、「〇九年度末時点で 二三億ドルのキャッシュフローがある」という。
また一〇年度は経営環境の如何にかかわらず、 「われわれが最優先に掲げる目標は、単年度で フェデックス・コーポレーションの2009年度の通 期決算は大幅な減収減益だった。
金融危機以降、エ クスプレス部門とLTL部門の収益性が急激に悪化し ている。
一方、成長を維持している陸上宅配便部門 は労働問題に直面し、議会対策でライバルのUPSと 泥仕合を演じている。
FedExコーポレーション FedExサービシーズ FedExグランド FedExフレイト FedExエクスプレス FedEx スマートポスト FedEx グランド インターナショナル FedEx グランドUS FedEx エクスプレス フレイト FedEx エクスプレス インターナショナル FedEx エクスプレス US FedEx カスタマー インフォメーション サービシーズ FedEx グローバル サプライチェーン サービシーズ FedEx LTL リージョナル FedEx LTL ナショナル (旧ワトキンズ) FedEx オフィス (旧キンコーズ) ※一部割愛 39  AUGUST 2009 のキャッシュフローの黒字化だ」と説明した。
 〇九年度の通期決算を、部門別にみると以 下のようになる。
 国際宅配便をメーンとする中核会社のフェ デックス・エクスプレスは、売上高二二三億六 四〇〇万ドル(前年度比八%減)、営業利益 は七億九四〇〇万ドル(同五八%減)で、営 業利益率は三・六%だった。
 売上高の内訳は、国内外の航空宅配便(エ クスプレス便)が一八二億六一〇〇万ドル(同 八%減)、重量貨物専門のフェデックス・エク スプレス・フレイトが三六億三八〇〇万ドル (同一〇%減)だった。
 エクスプレス便の取扱個数は一日平均で三 三七万六〇〇〇個(同五% 減)、一個当たりの収益は 二一・三ドル(同四%減)。
フレイトの一日当たりの重 量は一〇七二万一〇〇〇 ポンド(同一五%減)、一 ポンド当たり収益は一・三 四ドル(同七%増)だった。
 エクスプレス部門におい ては、ドイツポスト傘下の DHLが昨年十一月に米国 内市場からの撤退を発表し ている。
DHLの貨物の一 部がフェデックスに流れた ことで、取扱件数としては プラスに働いた。
しかしそ のことが利益率の足を引っ張った側面がある という。
 同社のT・マイケル・グレン上級副社長は 「われわれは(DHLがサービスを提供してい た)すべての商品群において、われわれが握 っていたシェア以上の貨物を獲得することに 成功した。
しかしそれらのいくつかは収益面 でマイナスの影響をもたらした。
フェデックス と比べるとDHLの貨物は、重量が軽く、し かも荷主が大手法人顧客に集中していた。
こ の二つのことが、運賃に(マイナスの)影響 を与えた」という。
LTL事業が赤字転落  それでもフェデックスは、キャッシュフロー と株主の利益を重視するという観点から、運 賃が一定の水準を下回った貨物は取り扱わな い方針をとっているという。
グレン上級副社 長は次のように説明する。
 「われわれは毎週、アレンCFOの下で、収 入管理委員会を開催している。
財務担当の役 員と法務担当者、各事業会社の幹部が出席す る。
そこでわれわれは、(各商品の)価格設 定が、それぞれの事業会社と持ち株会社にど んな影響を与えるのかについて明確な認識を 共有している。
価格競争が激しい商品におけ るわれわれの収益性をみれば、われわれが市 場で同業他社を上回っていることがわかるは ずだ」  同社のLTL部門(Less Than Truckload: 図1:フェデックスの2009 年度の決算数字 総売上高 354億9700万ドル ▲6% FedEx エクスプレス 223 億6400 万ドル ▲8% FedEx グランド 70 億4700 万ドル 4% FedEx フレイト 44 億1500 万ドル ▲11% FedEx サービシーズ 19 億7700 万ドル ▲8% その他 ▲3 億600 万ドル ―― 総営業経費 347億5000万ドル ▲3% 人件費と福利厚生 137 億6700 万ドル ▲3% 傭車代 45 億3400 万ドル ▲2% レンタル代や空港使用料 24 億2900 万ドル ▲0% 原価償却 19 億7500 万ドル 1% 燃料費 38 億1100 万ドル ▲14% 整備と修理 18 億9800 万ドル ▲8% 減損とその他の経費 12 億400 万ドル 37% その他 51 億3200 万ドル ▲3% 総営業利益 7億4700万ドル ▲64% FedEx エクスプレス 7 億9400 万ドル ▲58% FedEx グランド 8 億700 万ドル 10% FedEx フレイト ▲4400 万ドル ―― FedEx サービシーズ ▲8 億1000 万ドル ―― 最終利益 9800万ドル ▲91% 一株当たりの利益 0.31ドル ▲91% (注1)フェデックスは5 月決算 (注2)パーセンテージは前年度比増減率 40,000 35,000 30,000 25,000 20,000 15,000 10,000 5,000 0 10 8 6 4 2 0 (百万ドル) (%) 29,363 32,294 35,214 37,953 35,497 98 1,449 1,806 2,016 1,125 8.4% 2.1% 5.5% 9.3% 9.3% 図2 フェデックスの業績の推移 05 年度06 年度07 年度08 年度09 年度 売上高 最終利益 営業利益率 AUGUST 2009  40 日本の特別積み合わせ貨物運送に相当)のフ ェデックス・フレイトは〇九年度に赤字転落し た。
売上高四四億一五〇〇万ドル(四一九四 億二五〇〇万円、前年度比十一%減)に対し て、四四〇〇万ドルの営業損失を計上した。
前 期は三億二九〇〇万ドルの黒字だった。
 一日当たりの出荷件数は、七万四三八九件 (同七%減)、平均の出荷重量は一一二六ポン ド(同一%減)、一〇〇ポンド当たりのLT L収益は一九・〇七ドル(一八一一・六五円、 同三%減)で、すべての指標が悪化している。
 フレイト部門は〇五年から〇七年までの三 年間にわたり一〇%を超える営業利益率を誇 っていた。
それが急速に悪化したのはリーマ ンショック以降のこと。
同部門の四半期ごと の売上高営業利益率の推移をみると、六〜八 月の第1四半期には六・六%を維持していた。
リーマンショックに直面した九〜十一月の第 2四半期にも、まだ二・七%の黒字を確保し ていた。
 ところが、クリスマスシーズンを迎えた十二 〜翌二月の第3四半期に、マイナス六・五% に転落。
さらに三〜五月の第4四半期には営 業利益率のマイナスが十一・二%に拡大した。
 マクロ的には米国内のLTL市場の低迷は、 サブプライム問題が表面化して住宅市場が軟 化をはじめた〇六年から始まっていた。
これ に〇八年秋以降の金融危機による個人消費の 冷え込みが追い打ちをかけた。
〇六年と比べ ると米国内のLTL市場は全体で二〇%以上 く主要三部門の営業利益率の推移を比較して も、フェデックス・グランドの好調ぶりは際立 っている。
 フェデックス・グランドは、自社の陸上輸送 ネットワークを使うフェデックス・グランドU Sおよびフェデックス・グランド・インターナ ショナルと、米国郵便事業庁(USPS)の 配送ネットワークを使うフェデックス・スマー トポストの二つの部門によって構成される。
 このうちグランドの一日平均の取扱貨物は 〇九年度、三四〇万四〇〇〇個(同一%増)、 一個当たりの収益は七・七ドル(同三%増) だった。
グランドの好調の理由の一つとして、 同事業会社のロジャー・マルティカCOO(最 高執行責任者)は決算発表前の五月に開かれ た株主向けの説明会で、そのサービスレベルの 高さを挙げた。
 「宅配市場における主要なサービスレベルの 指標にオンタイム配送率がある。
今年二月に 初めてフェデックス・グランドは、九九%以上 のオンタイム配送率を記録した。
三月、四月 についても九九%を超えている」  一方、スマートポストの一日平均の取扱貨物 は八二万七〇〇〇個(同三四%増)で、一個 当たりの収益は一・八一ドル(同一三%減)だ った。
マルティカCOOはスマートポストを同 社の「秘密兵器」と呼ぶ。
 フェデックスは〇五年に、小包の混載業者 を買収して、フェデックス・スマートポストと して傘下におさめた。
五ポンド(二・二キロ) 縮小したといわれ、供給過多に陥っている。
 フェデックス・フレイトのダグラス・ダンカ ン社長兼CEOは、荷主からの運賃の値下げ 要求の現状を次のように説明する。
 「荷主はそれぞれの方法で運賃の値引き交渉 を行ってくる。
それは、燃料サーチャージ分 の値引き要求であったり、基本料金の値引き 要求であったりする。
そうした要素を細分化 するよりも、全体の収益としてみることが大 切だ。
全体でみればわれわれは収益を十分に 管理することができたと考えている。
(〇六年 にワトキンズ・モーター・レーンズを買収して 作った)フェデックス・ナショナルも、市場に おいて(価格競争の面よりも)商品価値が認 められてきたと考えている。
だがしかし、供 給過剰の市場では、激しい価格競争が行われ ている」 不況に強い“一人親方”体制  フェデックスの主要三部門の中で、最も業 績がよかったのが陸上宅配便部門のフェデッ クス・グランドだ。
 同社の〇九年度の売上高は七〇億四七〇〇 万ドルで前年度比四%増を確保した。
営業利 益も八億七〇〇万ドルで同一〇%増だった。
四 事業会社の中で唯一増収増益を果たし、グル ープの連結業績に大きく貢献した。
 しかも同社の営業利益率は十一・五%で、過 去五年間にわたって一〇%を超えている。
物 流付帯事業のフェデックス・サービシーズを除 41  AUGUST 2009 として、「われわれが一人親方がいいと思うの は、それが変動費だからだ」と語っている。
 しかし、本誌〇九年六月号のケーススタデ ィでも取り上げたように、フェデックス・グラ ンドと一人親方の契約形態に関しては、その 合法性を巡って米国全土で現在、裁判が行わ れている。
 フェデックスとしては、今年四月にワシント ン州で下った「一人親方は合法である」とい う判決と、同じ四月に出たワシントンDCで の「フェデックス・グランドのドライバーは組 合を組織することはできない」という判決を 受けて、違法性はないと主張する。
 しかし、カリフォルニア州では正反対の判決 が下っている。
フェデックスが一人親方たち と一〇年越しで争ってきた裁判で、州最高裁 は昨年十二月に一人親方を違法と認め、フェ デックス側の敗訴が確定した。
UPSのロビー活動を激しく非難  この一人親方問題とは別に、フェデックスは 労働組合問題にも直面している。
同社の正社 員従業員の労務管理にはこれまで鉄道労働法 ( The Railway Labor Act)が適用されてき た。
これを労働者側に有利となる全米労働関 係法( The National Labor Relations Act) の適用に変えようとする議会の動きがある。
 既に五月に下院では法案が可決された。
今 後、上院でも可決されれば法律が改正されて、 フェデックスの労務管理に全米労働関係法が 適用されることになる。
これについてスミス 会長兼CEOは、決算説明会の冒頭で、最大 のライバルであるUPSを、社名を挙げて激 しく非難している。
 「下院で近頃、連邦航空局の再認可法案が 承認されたが、これは非常に反競争的だ。
フ ェデックスに的を絞ることで、UPSに不当 な利益をもたらす条項が含まれている。
この 問題でUPSはチームスターズ(全米トラック 運転手組合)と手を組んで(議会に)強力に 圧力をかけている」  スミス氏は一九二〇年代の鉄道労働法の施 行にさかのぼって、フェデックスに同法が適 用される妥当性を説いた上で、「極めて率直に いって、UPSがやっていることはばかげて いる(absurd)。
なぜなら、UPSはフェデッ クスに対して有利になるという判断から、現 在の(全米労働関係法の範疇におさまるとい う)組織体系を選んだのだから」とした。
 スミス会長兼CEOのこうした強い口調は、 フェデックスの従業員がチームスターズに組み 入れられれば、人件費の高騰は避けられない ことが背景になっている。
また同社が今年に入 って実施した米国内の従業員の賃金五%カッ トや向こう一年間の年金積み立ての凍結、一 〇〇〇人規模の人員削減といった強引な手法 もとれなくなるとの懸念があるとみられてい る。
     (ジャーナリスト 横田増生) (編集部注・この記事は各種資料および同社決算 発表の記者会見の内容を中心にして執筆した) 以下で、ダイレクトメールなど時間指定の必要 のないBtoCの小包を集荷しUSPSのネ ットワークを使って配送する。
 貨物追跡などの情報面ではエクスプレスや グランドのサービス商品に劣るものの、料金と 比べて信頼性は高い。
スマートポストを傘下に 収めたことで、顧客の幅広いニーズにこたえ られるようになった。
 またフェデックス・グランドの高い収益性を 支える理由の一つとして、マルティカCOO は?一人親方(Independent Contractor:独 立業務請負人)?の活用を挙げる。
同社の貨 物を配送する約二九万人のドライバーは、同 社の社員ではなく、独立した事業主だ。
その 報酬は労働時間ではなく、集荷・配達した貨 物の個数によって決まる。
 マルティカCOOは、一人親方というビジ ネスモデルが同社の「成功の重要な要因」だ 図3 主要3部門の営業利益率の推移 05 年度 14 12 10 8 6 4 2 0 -2 (%) 06 年度07 年度08 年度09 年度 FedExグランドの 営業利益率 FedExエクスプレス の営業利益率 FedExフレイトの 営業利益率

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