ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
ロジスティクス・ビジネスはロジスティクス業界の専門雑誌です。
2009年6号
特集
2) 第3部 もう運輸行政は経産省に移せ 全日本トラック協会 豊田榮次 専務理事

*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。

規制緩和の失敗を認めろ ──一九九〇年の「物流二法」に始まった運送業の 規制緩和は結局、何をもたらしたのでしょうか。
 「運送業の規制緩和は最初の目論み自体に誤りがあ ったと言わざるを得ません。
規制緩和によって業界は 活性化されるはずでした。
しかし現実はどうか。
輸 送品質はむしろ落ちている。
国民のため、ユーザーの ためになっていない。
正直者が損をするのが今の市場 の実態です。
それでも国交省は規制緩和を失敗だと は認識していない」  「私も運輸省のOBだから言うのですが、結局のと ころ昔の運輸省というのは業界を囲い込んで保護す ることで自分たちがOBになっても仕事にありつけた。
業界と持ちつ持たれつだったわけです。
ところが規制 緩和をよしとする時代になって、変わりすぎてしまっ た。
自分たちは身ギレイであって、業界をちゃんと監 督し指導しているという姿勢を見せようとするあまり、 業界を育てるという発想が全く抜けてしまった」 ──九〇年までは産業の育成という目的があった?  「産業の育成というより事業者の保護ですね。
そも そも運送業というのは行政から産業として認知され ていないんです。
だから流通を担当する通産省では なく運輸省が管轄している。
産業を支える下部機能 として保護すべき存在という認識です」  「運輸行政が経産省の傘下に入れば、ずいぶん変わ るはずです。
少なくとも今のように自動車交通の枠 組みに運送業を押し込めておくのはしんどいと思いま す。
物流業という枠組みで産業と認知して、きちん と育成しないと日本の物流がおかしくなる。
運送業 といっても実際には倉庫やフォワーディング、国際物 流まで手がけているわけです。
それを縦に切って、そ の部分だけ取り上げても意味がない」 ──そうした反省もあってか、九七年には省庁横断で 総合物流施策大綱が策定されました。
 「しかし、大綱の全体を監督する部署はありません。
内閣府かどこかに物流大綱本部を置くかしないと機 能しませんよ。
結局、日本には物流行政がないんで す。
これは行政以前に政治の問題で、国家的なビジョ ンがないんです」 ──行政の方針が一八〇度変われば、全日本トラック 協会をはじめとする業界団体のあり方も変わらざる を得ないはずです。
 「とりわけ地方のトラック協会は、それまで運輸省 のOBがいて、会員の申請した認可が遅れていたり、 何か問題が起きたりすれば、行政との間に入って調整 するなどの役割を果たしていた。
しかし今はそうし た仕事がまったくできなくなった。
そのためOBの存 在意義はなくなってしまいました。
ただし、全ト協は 交付金と基金があったため、安全規制、環境規制の 強化に補助金を出すという別の役割が出てきた」 ──仮に次の選挙で民主党が政権をとって公約通り軽 油引取税の暫定税率を廃止すれば、全ト協への交付 金もなくなるかも知れません。
 「十分考えられます。
もともとトラック協会への交 付金は、軽油引取税の暫定税率引き上げに伴ってス タートしたものですから、暫定税率が撤廃されると足 がかかりがなくなる。
しかも交付金は公的な補助では なく、通達による補助ですから止めるのは簡単です」 ── 全ト協は大きな岐路に立たされます。
 「今のような交付金を前提とした活動を協会に期待 することは諦めてもらうしかありません。
それでも 業界の真っ当な意見を行政・政治にぶつけるという役 割は残るはずです。
必要なのは業界の社会的地位向 もう運輸行政は経産省に移せ  運送業の規制緩和は失敗した。
競争規制の緩和ばかりが先 行し、社会的規制の強化が置き去りにされたことで、正直者 が損をする、いびつな市場ができあがってしまった。
市場を 正常化し業界の地位向上を図るために、監督官庁を国土交通 省から経済産業省に移し、物流の枠組みで運送業をとらえな おすべきだ。
      (聞き手・大矢昌浩、梶原幸絵) JUNE 2009  28 全日本トラック協会 豊田榮次 専務理事 第3部 流政策に 異議 あり! その物 特集2  自民党トラック輸送振興議員連盟(トラック議連) は四月二二日、自民党本部で総会を開催した。
国土 交通省の本田勝自動車交通局長が「中小トラック事 業者構造改善支援事業」の助成対象の拡大を明らか にしたほか、道路局担当者が高速道路料金の引き下 げついて説明するなど、関係省庁がトラック業界に 対する生活対策・経済危機対策を紹介した。
これに対 して議員や全日本トラック協会・各都道府県トラッ ク協会からはさらなる支援の拡充を求める声が多く 上がった。
 国交省のトラック事業に対する支援は「低公害・低 燃費トラックの導入支援」と中小トラック事業者構 造改善支援事業の拡充が柱。
低公害・低燃費トラッ クの導入支援には今年度補正予算で一五〇億円(バ ス、タクシーを含む)を確保する見込みとした。
 中小トラック事業者構造改善支援事業は省エネ機 器の導入、燃費向上を伴う車両代替などにより、一 定の省エネ効果を目指す中小トラック事業者の取り 組みに車両代替費、燃料費などの経費を補助率二分 の一、上限一〇〇万円以内で補助するもの。
昨年度 第一次補正予算 で新設し、五二・ 五億円(トラック 協会負担分一七・ 五億円を含む)を 計上したのに加 えて同二次補正 予算では一五〇 億円を計上した。
このため中小ト ラック業者への 支援額は総額二 〇〇億円以上と なっている。
これ 上です。
そのために安全対策、環境対策は強化する。
しかし、そのままでは単なるコストアップになってし まう。
そこで荷主に対しても安全対策、環境対策を 順守している会社を選ぶように働きかける」 全ト協も変わらざるを得ない  「ところが国交省は荷主に声がかけられない。
勧告 制度を持っていても発動しない。
認可運賃の時代に も認可運賃を払わない荷主を野放しにしてきた。
サ ーチャージ問題でも同じです。
また、最低車両保有台 数を五台だと言う以上は、五台に満たない事業者を 国交省は追い出すべきです。
それができないのなら、 管轄自体を経産省に移して欲しい」  「国交省が今のように中途半端に既得権にしがみつ いていれば、いずれ立ちゆかなくなる。
対応を変えて 本当に国民のために動くように切り替える必要があり ます。
全ト協も同じです。
業界団体自体を守る必要は ない。
既得権益を守ろうという発想ではだめで、ま ずは運送業を守る、正直モノがきちんと食べていける 業界に作り上げること第一に考える必要があります」 ──そうなれば全ト協もトラック運送会社なら誰もが 加入するという性格の組織ではなくなります。
 「それでいいと思います。
交付金がなくなれば公益 社団法人である必要もない。
これまではゴッタ煮で、 どんな事業者でもすくいあげなければならなかった。
大手の意向にも配慮する必要があるので、どうにも 軸が定まらないところがあった。
そうではなく真っ当 な人たちだけの業界団体を作り、社会的地位向上を 図る。
それなら会費制にする意味も出てくる。
二〇 〇七年にまとめた全ト協の将来ビジョンを本気で実行 に移すのであれば、そうした大きな決断をしなければ なりません」 29  JUNE 2009 は今年度への繰り越しが認められており、国交省は六 月一日まで応募を受け付ける。
 申請要件は、昨年度第一次補正予算分では保有車両 台数を「五台以上二〇台以下」としたが、同二次補正 予算分で緩和していた。
さらに、事業者やトラック議 連の要請を受けて台数の上限を撤廃し、補助対象を 「中小企業」(資本金三億円以下または従業員数三〇〇 人以下)にまで拡大する方針だ。
 古賀誠会長は「まだ足りない、との声もあるが、ト ラック議連としては可能な限り強力な支援をしたい と取り組んでおり、景気回復と事業者への支援を車の 両輪としてがんばっていく。
今後とも(業界には)支 援をお願いしたい」とあいさつ。
出席した議員からは 「中小業者からは今回の経済対策の恩恵にあずかって いないとの声が出ている。
乗用車の高速道路料金一 〇〇〇円と同様の恩恵をトラック業界にも広げ、物 流の商売にうまみが出るようにして皆を喜ばせたい」、 「高速道路をあまり使わないような弱いところにも支 援を」などの意見が出た。
 全ト協の中西英一郎会長は「予算での配慮は本当に ありがたい。
ただ高速道路については、もう少し引き 下げを検討してもらうようお願いしたい」と述べた。
また全ト協や県ト協の出席者からは「中小トラック業 者からは時間帯・距離制限なしの全線五割引への強い 要望が出ている」、「乗用車に対する割引のために土日 祝日は高速道路が混んでいるが、トラック業者は土日 祝日も物流業務を行っている」、「大口多頻度割引の要 件が四月から緩和されたが、中小は恩恵を受けられな い。
本当に困っている中小が十分な割引を受けられる ようにしてほしい」などの要望が出た。
 なお、政府が四月二七日に国会に提出した〇九年度 補正予算案は五月十三日、衆議院で可決。
同予算案で は低公害・低燃費トラック・バスの導入支援で予定通 り一五〇億円が計上された。
族議員と業界団体の関係も曲がり角に 全ト協の中西英一郎 会長 自民党トラック議連の 古賀誠会長

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