ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
ロジスティクス・ビジネスはロジスティクス業界の専門雑誌です。
2001年12号
特集
リサイクル物流の真実 拡大を始めた静脈物流市場

*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。

DECEMBER 2001 20 倍々ゲームの静脈物流 日本通運は九七年四月のエコビジネス部発足を機 に、静脈物流ビジネスを本格化させた。
全国九九カ所 の自治体で産廃収集運搬の許可を取得して、全国ネ ットワークを構築。
これを武器に、次々と新規ビジネ スを立ち上げてきた。
取扱品目は廃電池、汚染土壌、 トナー、OA機器、ペットボトルなどの廃プラスチッ ク、建設廃材と多岐に渡る。
今年四月からは家電リ サイクル事業にも乗り出している。
いずれの品目も物量は年々増え続けており、それに 伴い収入も伸びているという。
エコビジネス部の昨年 度の売り上げは五一億円。
これに対して、今年度は既 に上期だけで三九億九〇〇〇万円を確保した。
通期 では一〇〇億円の大台を突破する勢いだ。
静脈物流 ビジネスの潜在需要を掘り起こす全国の支店のエコビ ジネス担当者を約一四〇人にまで拡充するなど組織 強化も急いでいる。
「静脈物流ビジネスは利益が出にくいと言われてい るが、当社の数ある事業のなかでも利益率は決して悪 くないほうだと思う。
静脈物流は動脈物流と違い時間 を問われない。
トラックの帰り便などをうまく利用す れば確実に利益を出せるビジネスだ」と戸部紘エコビ ジネス部長は力説する。
日通とほぼ同じ時期に沖縄県を除く全国の自治体 で産廃許可を取得し、静脈物流ビジネスに進出してい た日立物流でも収入の右肩上がりが続いているという。
静脈物流ビジネスを担当する環境リサイクル部の昨年 度の売り上げは九億円だったが、今年度は十二億円 にまで拡大する見通しだ。
日通と比較すると規模はま だまだ小さいが、着実に成果は上がってきている。
同社が展開する静脈物流ビジネスはペットボトル、 OA機器、自販機などのリサイクル輸送が中心。
ペッ トボトルに関しては再生処理を手掛けるベンチャー企 業に出資するほどの熱の入れようだ。
四月には家電リ サイクルの分野への進出も果たしている。
同社の軽部熊次郎環境リサイクル部長は「複数の 場所から廃棄物を集めて再生処理工場へ持ち込むと いうリサイクル輸送の作業フローは、動脈での調達物 流のフローと本質的には変わらない。
確かに製品輸送 に比べ廃棄物輸送の運賃は安い。
だが、急がない荷物 なので空き車をうまく利用できるといった利点もある。
トラックの稼働効率を上げるという意味では決して悪 い仕事ではない」と説明する。
西濃運輸の場合、産廃の中でもとりわけ取り扱いが 難しいとされる医療廃棄物分野に参入したのが静脈 物流ビジネスの始まりだった。
二〇〇〇年四月、医療 産廃の収集・運搬、処理を手掛ける子会社「メディ カルサポート」を設立。
愛知県内の病院を対象に注射 器など医療廃棄物の回収、焼却による最終処分まで を一括管理するサービスを提供している。
約二〇億円を投じて愛知県大府市に専用の処理プ ラントも建設した。
「まずは難しいとされる分野に挑 戦し、そこでノウハウを蓄積して他の分野にも応用さ せていくという戦略だった」と大塚委利営業部長は医 療廃棄物に進出した経緯を説明する。
リサイクル分野ではOA機器やトナーなどのほかに、 自動車の廃バッテリー回収にも着手した。
対象はトヨ タ自動車のハイブリッドカー「プリウス」に搭載され ているバッテリーだ。
発売から数年しか経っていない 車種であるため、回収の実績が上がってくるのはこれ からだが、自動車関連のリサイクルは今後の有望市場 と見られているだけに、大きな期待を寄せている。
西濃では今年度、静脈物流ビジネスでの収入として 拡大を始めた静脈物流市場 物流業者が静脈物流ビジネスで着実に売り上げを伸ばして いる。
最大手の日通は今年度100億円の大台が見えてきた。
日 立物流、西濃運輸も大幅な増収を見込む。
ただし、今年4月に 始まった家電リサイクルの利幅は薄い。
静脈物流を新たな収 益源とするためには一次輸送への進出など事業領域の拡大が 不可欠となる。
第3部 21 DECEMBER 2001 リサイクル物流の真実 特集  一〇億円を見込む。
「主力の路線事業に比べると、ま だまだ規模は小さいが、収入は着実に伸びている」と 大塚委利営業部長は満足している。
家電リサイクルへの挑戦 二〇〇〇年版の環境白書によると、九七年に二四 兆円だった環境ビジネスの市場規模は二〇一〇年に は三九兆円にまで拡大すると見込まれている。
なかで も廃棄物の再資源化に絡む事業の市場規模は九一年 のリサイクル法の制定以降、急速に拡大している。
現 在、五兆円と言われているマーケットは二〇一〇年に はほぼ倍の一〇兆円にまで膨れ上がると予測されてい る。
このうち、収集・運搬の部分がどのくらいのマーケ ット規模に成長するのかは定かではないが、二〜四兆 円程度には達するとの試算が出ている。
日通総合研 究所の山本明弘物流技術部研究主査は「物流専業者 のフィールドであった動脈物流の部分は、今後の輸送 量の伸びがほとんど期待できない。
これに対して静脈 物流はこれから本格的に動き出す新興市場。
マーケッ ト規模は今後どんどん大きくなっていくことが予想さ れる。
既存の一廃・産廃業者が進出していない未開 の地も多く、物流専業者にとっては動脈物流の需要 減を埋める有望市場」と指摘する。
静脈物流ビジネスへの本格進出を狙う物流専業者 にとって最初のビックチャンスとなったのは今年四月 に始まった家電リサイクルだった。
家電リサイクル法 という規制によって新たに生まれたマーケットである ため、既存の一廃・産廃業者との軋轢も少なく、比 較的参入が容易だということもあって、日通、日立物 流、西濃といった静脈物流ビジネスの先駆者たちだけ ではなく、それまでは静脈分野にほとんど興味を示し てこなかった物流専業者までもが食指を動かした。
家電量販店や一般小売店が消費者から収集した廃 家電を一時保管する「指定引取場所」の運営と、指 定引取場所に集まった廃家電を処理プラントまで運ぶ 「二次輸送」の受け皿会社を決める家電メーカー主催 の物流コンペには、特別積み合わせ業者を中心とした 多数の物流専業者が参加。
その結果、Aグループでは 佐川急便、岡山県貨物運送などが、Bグループでは 日通、日立物流、西濃などがパートナーに選ばれた (表参照)。
北海道の特別積み合わせ業者、札幌通運も今回の 家電リサイクルを機に、静脈物流ビジネスへの取り組 みを本格化させようとしている一社だ。
同社は三年ほ ど前に北海道内での産業廃棄物収集・運搬許可の取 得を終えていたが、静脈物流ビジネスで具体的なアク ションを起こしたのは家電リサイクルが初めてだった。
現在、旭川など道内四カ所の指定引取場所を運営し ている。
「これを足がかりに静脈物流ビジネスのノウハウを蓄積して活動の場を拡げていきたい」(佐藤知 正取締役)と意気込んでいる。
回収実績は五一七万台 物流専業者にとって家電リサイクルの一番の魅力は、 法規制によって新たに創出される物流の?ボリュー ム〞にあった。
今年四月から十一月までに回収された 廃家電の数は全国で累計五一七万台。
このまま推移 すると、廃家電の回収台数は年間で約一〇〇〇万台 に達するという。
これを金額ベースに直すと、実に数 十億円規模になる。
それだけの輸送需要が家電リサイ クルによって生み出されるわけだ。
当初はリサイクル費用が有料化されることで廃家電 の回収率が低下するのではないか、という懸念もあっ ●家電リサイクルに参入した主な物流会社 佐川急便 岡山県貨物運送 アルプス物流 日本通運 西濃運輸 九州産交運輸 日立物流 札樽自動車運輸 久留米運送 札幌通運 23 4 1 119 19 9 8 7 6 4 近畿エリア 中国エリア 東北エリア 全国 関東・中部・四国エリア 九州エリア 北海道・関東エリア 北海道エリア 九州エリア 北海道エリア 会社名 指定引取場所数 担当エリア Aグループ Bグループ DECEMBER 2001 22 たが、蓋を開けてみると予想をはるかに超える物量が 指定引取場所に集まった。
とりわけ、今年の夏は猛暑 の影響でエアコンの買い換えが進み、それに伴い「大 量の廃エアコンが指定引取場所に寄せられ、保管スペ ースが足りなくなるくらいだった」(西濃の大塚部長) という。
年間約三〇億個にも上る宅配便の取扱個数と比較 すると、家電リサイクルがもたらす荷物の個数はまだ わずかに過ぎない。
とはいえ、構造的な貨物輸送量の 低迷に苦しめられている物流専業者たちにとって、そ のインパクトは決して小さなものではない。
一一九カ所の指定引取場所を運営する日通には「家 電リサイクルの仕事が動脈物流の落ち込みを埋めてく れた、と全国の支店から感謝の声がエコビジネス部に 寄せられた」(戸部部長)という。
こうした特需の影響もあって、家電リサイクルに参 画した物流専業者各社の収入は軒並み、当初の予想 を上回るペースで推移している。
日通の家電リサイク ルでの収入は上期(四〜九月)だけで約一〇億円。
一 方、日立物流では「静脈物流ビジネス全体で今年度、 前年に比べ二〜三億円の増収を見込んでいるが、伸 びた分の大半は家電リサイクルによるものだ」(軽部 部長)という。
運賃は一個三〇〇円 今回の家電リサイクルが静脈物流ビジネス初挑戦と なった札幌通運でも「予算の二倍のペースで推移して いる」(佐藤取締役)と手応えを感じている。
家電の 買い換える需要の発生が見込まれる冬のボーナスが支 給される十二月、そして引越シーズンの来年三月には 再び廃家電の荷動きが活発化することも予想され、物 流業者の期待は膨らんでいる。
しかし、収入は伸びていても利益はついてきていな いようだ。
運賃は家電一個当たり三〇〇円――。
それ が家電リサイクルの実態だ。
本誌が家電リサイクルに 進出した物流専業者を対象に聞き取り調査を実施し た結果、地域差こそあるが、二次輸送の家電一個当 たりの運賃はおおよそ三〇〇〜五〇〇円の範囲、指定 引取場所での家電一個当たりの保管料は運賃の?八 掛け〞(八〇%)程度の低水準であることが判明した。
しかも、運賃と保管料は「テレビであればどんなサ イズであっても三〇〇円」というように品目ごとに固 定されている。
つまり、容積や重さの異なる「携帯用 テレビ」と「三二インチテレビ」の運賃が一緒なわけ だ。
荷物の容積や重さに応じて収受する運賃を変動さ せることが一般的な物流業界の常識からは考えられな い料金体系が家電リサイクルではまかり通っている。
そのため「収支はトントンがいいところ。
物量の少な い一部の指定引取場所では赤字を計上している。
忙 しい思いをしている割には、肝心の利益が全く出てい ない状態だ」と肩を落とす物流専業者も少なくない。
家電リサイクル法が施行される前に繰り返し行われ た実証実験の段階では、二次輸送の運賃は家電一個 当たり一〇〇〇円程度が妥当であるとされてきた。
と ころが、実際には運賃はその半分以下で落ち着いた。
その背景について、ある物流専業者は「家電メーカー によって運賃の計算方式があらかじめ決められていて、 その計算方式を用いると、物流業者にはほとんど利益 が残らない仕掛けになっていた」と打ち明ける。
家電メーカーが提示した計算方式とは、一体どのよ うなものだったのか。
複数の物流業者に尋ねてみたが、 荷主の立場である家電メーカーへの配慮からか、「運 賃の計算方法についてはメーカーに直接聞いてくれ」 の一点張りで、その詳細について多くを語ろうとする 日立物流の軽部熊次郎環 境リサイクル部長 日本通運の戸部紘エコビ ジネス部長 リサイクル物流の真実 特集  23 DECEMBER 2001 者は皆無に等しかった。
肝心の家電メーカー側も「守 秘義務の関係上、運賃の決め方に関する質問は答え られない」と堅く口を閉ざしている。
もっとも、家電リサイクル法には、その基本姿勢と して小売り、収集運搬業者(物流業者)、家電メーカ ー、再生処理業者の各プレーヤーが大儲けできるよう な仕組みであってはならない、と謳われている。
この ことが、家電メーカーの要請する格安運賃の大義名分 となっている。
しかし、実際に二次輸送を手掛ける物流業者の多 くは現状に納得していない。
日立物流のように「当初 から家電リサイクルは大きく儲かるような仕事ではな いと聞かされていたので、利幅が薄いことには納得し ている」(軽部部長)と割り切っているのは、親会社 に家電メーカーを持つ物流子会社など、少数派に過ぎ ない。
それでも、物流専業者たちは今後も家電リサイ クルの仕事を続けていくつもりだという。
動脈物流の 主要荷主でもある家電メーカーのサプライチェーンに 欠くことのできない存在になることが、経営全体には プラスに働くと算盤を弾いているからだ。
一次輸送で穴埋め もはや現行の担当領域のみでは家電リサイクルの旨 味は享受できないというのが物流専業者たちの共通認 識になっている。
そこで、指定引取場所の運営と二次 輸送での収支トントン、もしくは赤字計上は我慢する。
その代わりに、消費者から使用済み家電を引き取る一 次輸送、さらに「一・五次輸送」と呼ばれる小売りから 指定引取場所までの輸送などを積極的に取り込むこ とで利益を出そう、という発想に頭を切り替えている。
日通は秋田市でアロー便ネットワークを活用した廃 家電回収サービスを始めた。
自治体からの依頼を受け て消費者宅から廃家電を回収し、指定引取場所まで 運ぶサービスだ。
回収料金はテレビ九〇〇円、冷蔵庫 一三〇〇円、エアコン一〇〇〇円、洗濯機九〇〇円。
二次輸送よりもはるかに高い運賃を収受している。
「自治体からの一次輸送の引き合いも多いが、最近 では処理プラントから素材を運び出す三次輸送のニー ズも出てきた。
家電リサイクルではこれまで指定引取 場所の運営と二次輸送がメーンだったが、カバーする 領域は徐々に拡大しつつある」と戸部部長は説明する。
西濃運輸は量販店からの依頼を受けるかたちで名 古屋市で一次輸送を展開している。
同社にとって今 回の一次輸送への進出は、近い将来、リサイクルの対 象に含まれる可能性のある廃パソコンの回収業務を睨 んだ前哨戦という位置付けでもあるという。
「ビジネ スユーズのパソコンはすでにリース会社などによって 回収の仕組みが出来上がっている。
これに対して、個 人保有のパソコンを回収する仕組みはまだ整備されて いない。
当社の宅配便インフラを活かすチャンスだ」と大塚部長は鼻息を荒くする。
家電リサイクル法の施行で本格的に動き出した物 流専業者たちの静脈物流ビジネスは、家電メーカーに よる運賃の縛りなどがあって厳しい船出となった。
動 脈物流と同様に大手荷主には逆らえないという立場の 弱さも露呈している。
それでも、従来は一廃・産廃業 者の独壇場であった一次輸送への参入が可能になり、 巨大マーケットの足がかりはできた。
廃棄物という運賃負担力のない荷物を扱いながら、 確実に利益を生み出すためにはどの領域を攻めればよ いのか。
今後はその見極めと決断が大事になる。
事業 領域を拡げていく過程で発生する既存の一廃・産廃 業者との衝突も乗り越えなければならない。
初心者マ ークをぶら下げた物流専業者たちの挑戦は続く。
指定引取場所に集まった廃テレビの山。
運賃は1個当たり300円が相場だという 西濃運輸の大塚委利営業 部長

購読案内広告案内