ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
ロジスティクス・ビジネスはロジスティクス業界の専門雑誌です。
2005年5号
ケース
JUKI――モーダルシフト

*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。

MAY 2005 50 中距離のモーダルシフト 今年二月、京都議定書が発効した。
二〇一 二年までに温室効果ガスの排出量を九〇年比 で六%削減するという約束を達成できなけれ ば、日本は国際的な信用を失うことになる。
産業界のCSR(企業の社会的責任)に対す る認識も深まってきた。
消費者の視線を意識 せざるをえない大企業ほど、環境対応で実効 を上げようと躍起になっている。
物流分野に向けられる視線は、社会的にも 企業内でも厳しい。
国土交通省によると、運 輸部門が国内で排出する温室効果ガスは九〇 年代を通じて増え続けてきた。
二〇〇二年の 実績値はすでに九〇年比で二〇・四%増加し ており、このまま成り行きに任せれば二〇一 〇年には二六・七%増になると試算されてい る。
経済活動の進展に伴う、やむをえない面 もあるが、現状のまま放置すれば運輸部門は 地球温暖化の元凶にすらされかねない。
そこで国交省は、運輸部門における二〇一 〇年の温室効果ガスの排出量を、九〇年比で 一五・一%増に抑え込む計画を打ち出してい る。
この数値目標は、二〇〇二年の実績値に 対して八年後には四%以上も削減することを 意味している。
近年、対策を打ってきたにも かかわらず増え続けたことを考えると、極め て厳しい目標といえる(図1)。
計画を達成するための具体的な施策として、 国交省は「物流の効率化」に大きな期待を寄 海コンの陸送を鉄道にシフト 環境対応とコスト削減を両立 東京港と栃木県を結ぶ海上コンテナの 内陸移動を、車両によるドレージ輸送か ら鉄道輸送に切り替えた。
JUKIの輸出 と、日立グループの輸入を組み合わせて、 海コンの往復輸送(ラウンドユース)を 実現。
採算が合わないとされてきた中距 離モーダルシフトの成功事例を構築した。
JUKI ――モーダルシフト 51 MAY 2005 せている。
なかでもトラック輸送を鉄道や船に切り替えるモーダルシフトは、依然として 有力手段の一つだ。
日本で排出されている温室効果ガスの九割 はエネルギー起源の二酸化炭素が占めている。
なかでも問題視されているのが、自動車が走 行時に出す二酸化炭素だ。
その大きな部分を 占めるトラックからの排出量を減らすには、 物流そのもののムダをなくすか、走行時の燃 費を高めるといった施策がある。
しかし前者 はすでに日常的に取り組まれているし、後者 はトラックメーカーの技術開発を待つしかな い。
いずれも即効性は薄い。
その点、モーダルシフトは、関係者の姿勢 や工夫次第で結果を左右できる余地が大きい。
同じ荷物の輸送をトラックから鉄道に切り替 えれば、二酸化炭素の排出量は約八分の一に 減る。
だからこそ、環境負荷の低減を目に見 えるかたちで実現したい荷主の多くが、積極 的に取り組んできた。
もっとも現実にトラック輸送を鉄道輸送に 変更するためには、多くの条件をクリアする 必要がある。
なかでも輸送コストとリードタ イムがどうなるかは、荷主にとって無視でき ない要因だ。
環境対策のためだけにコスト増 やリードタイムが延長するのは、常識的に受 け入れられない。
こうした条件をクリアするカギは、実は鉄 道輸送以外の部分にある。
鉄道を使ってドア ツードア輸送を行うと、必ず貨物ターミナル 駅から先で車両によるショートドレージが発 生する。
この部分を上手く設計しなければ、 結果として鉄道輸送のデメリットばかりが目 立つようになってしまう。
このため従来の常識では、トラックから鉄 道へのモーダルシフトは輸送距離が五〇〇キ ロメートルを超える遠距離でなければ難しい とされてきた。
距離が短いと、トラックと比 較した場合のコスト増やリードタイムの延長 が見過ごせないレベルで発生してしまうため だ。
石油のような特殊な貨物の輸送でもない 限り、中距離で鉄道を使うのは難しいという のが物流業界の常識だった。
しかし、工業用ミシンで世界第一位のJU KIは、現在、この中距離のモーダルシフト を見事に軌道に乗せつつある。
栃木県大田原 市にある国内の主力工場から、東京港を経由 して海外に輸出する海上コンテナの内陸輸送 を、段階的にトラックから鉄道に切り替えて いるのだ。
ここでの鉄道輸送の距離は約一〇 〇キロメートル。
従来であれば非現実的と考 えられてきたケースである。
多くの要因が合致した成功事例 九〇年代初頭までのJUKIは、大田原工 場からの輸出に使う海上コンテナを、わざわ ざ港湾地区から空のままドレージしていた。
この海コンに工場で製品を詰め、再び港まで 運ぶ。
非常にムダが多いように思えるが、内 陸部に生産拠点を構える一般的な輸出業者に 275 264 261 259 255 250 217 1990 '98 '99 '00 '01 '02 2010 京都議定書 による基準年 運輸部門のCO2排出量(百万トン) (※)自動車のトップランナー基準による 燃費改善における追加対策量を加えると、 運輸部門の追加対策による削減効果は 約900万tとなる 2億5,840万t―CO2 2002年度実績を元に、 既存の対策を講じた結 果による2010年度の 推計値) 現行大網における運輸 部門の目標値 2億5,000万t―CO2 中間とりまとめにお いて試算された2010 年見通しにおける最 大値と最小値 自然体ケース 対策を講じなかった場 合に見込まれる排出量 (トップランナー基準による 削減効果は織り込み済み) 西暦(年) 従来の対策による削減効果 (約1,610万t) ●自動車単体及び走行形態の環境配慮化 450万t ●交通流対策 510万t ●物流の効率化 450万t ●公共交通機関の利用促進 180万t ●鉄道・航空機のエネルギー消費効率向上 20万t 追加対策による削減効果※ (約840万t) ●物流トラックの営自転換・積載率向上 390万t ●通勤交通マネジメント 90万t (目標) ●サルファフリー燃料、バイオ燃料等 360万t 出典:国土交通省 図1 運輸部門からの二酸化炭素(CO2)排出量の実績と見通し 運輸部門の 268.4 排出量実績 とって当時はこれが当たり前だった。
しかし、トンキロベースで考えたときに海 上運賃に比べて圧倒的に割高なドレージ料金 に業を煮やしたJUKIは、その後、さまざ まな手段を講じてコストを下げようとしてき た。
ドレージ料金そのものは相場があるため 簡単には削減できない。
そこで空のコンテナ の移動を極力、なくすことによって合理化し ようとしてきた。
まず九三年から、特定の船会社と提携して、 港から空コンテナをドレージしてくるのでは なく、東北・北関東地区で役目を終えた輸入 コンテナをJUKIの大田原工場に回送して もらう取り組みを始めた。
二〇〇一年四月に は、栃木県内にある海コンの管理拠点、UI CT(宇都宮国際コンテナターミナル)の利 用をスタート。
ここで空コンテナをピックア ップするようにした。
さらに二〇〇四年十一月からは、環境負荷 の低減を強く意識しながら、ドレージ車両に よる国内陸送を鉄道輸送に切り替える実験を スタートした。
そして見事に中距離のモーダ ルシフトに成功。
環境負荷を低減すると同時 に、輸送コストの削減を実践してみせた。
JUKIの工業用ミシン事業部・生産・ 物流管理部門で貿易業務に携わっている荻原 克郎課長は、成果をこう説明する。
「かつて 空コンテナを横浜港から持ってきていたとき には、四〇フィートの海上コンテナの国内輸 送費だけで一四万円以上かかっていた。
これ は日本から海外に輸出する海上運賃より高いくらいだ。
国内の人件費などを考えれば理解 できる面もあったが、ここを何とかしたかっ た。
そこで段階的に見直しを進め、鉄道を使 うようにした現在のパターンでは六万円くら いで済むようになっている」 ただし、ここに至る道のりは平坦ではなか った。
前述したようにJUKIは、九〇年代 を通じて海コンの往復輸送に取り組んできた が、輸出入のバランスが大きく偏っている日 本では簡単ではなかった。
しかも海コンは、 リース制度が発達しているパレットと違い、 複数の荷主のあいだで共用する発想がほとん どない。
大半を船会社が所有しており、船会 社はいつでも荷主が望むときに空コンテナを 融通できることを差別化手段にしてきた。
海コンを往路と復路で異なる荷主が利用す るときには、必ず一度、船会社のチェックが 入る仕組みになっている。
コンテナが損傷し ていないことを事前に確認しておかなければ、 海上輸送中に水濡れ事故が起こっても船会社 が責任を取れないためだ。
そして、このチェ ック作業を行える場所は、船会社が拠点を構 える港湾エリアか、内陸部ではUICTのよ うな国際コンテナプールしかない。
このような事情から、JUKIの大田原工 場の近くの企業が、たとえ輸入業務で同じ四 〇フィート海コンを使っていたとしても、船 会社が違えば全く無意味だった。
早い話が、 同じ船会社という限定付きで輸出入をマッチ ングし、海コンを相互運用するための煩雑な 体制を整えるくらいなら、港から空コンテナ を持ってきた方が現実的だったのである。
それが今回の取り組みでは、香港系船会社 のООCLと、川崎汽船(Kライン)の親密 の関係から、例外的にコンテナの相互乗り入 れが実現した。
川崎汽船のコンテナを持ち込 んで、代わりにООCLのコンテナをピック アップすることが認められたのである。
たま たまこの二社が、共にUICTに営業拠点を 構える船会社だったことが幸いした。
今回のモーダルシフトの枠組みはJUKI だけでは実現できなかった。
同社の輸出と逆 工程で海コンを利用している荷主企業が欠か せなかったし、日本貨物鉄道(JR貨物)や、 コンテナの所有者である船会社、さらにはド レージ業者などの協力が不可欠だった。
そう したパートナーシップによって、画期的な成 功事例が生み出された。
同じ悩みを持つ荷主が連携 JUKIの輸出業務に対応して、輸入業務 で海コンを使っている荷主のパートナーは、 MAY 2005 52 JUKIの萩原克郎課長 53 MAY 2005 同じく栃木県内に大型拠点を構える日立グル ープである。
日立の家電子会社が扱う冷蔵庫 やエアコンといった白物家電の生産は、近年、 相次いで中国に移転した。
その結果、現状で は日本市場向けの製品を海外から大量に輸入 するようになっている。
日立グループの物流を担う日立物流は、二 〇〇三年初頭から日立の栃木事業所に輸入 する海上コンテナの物流管理を取り扱うよう になった。
当初の取扱本数は微々たるものだ ったが、海外生産の増加に伴ってどんどん輸 入量が増加。
夏場のピーク時には、月間六八 〇本の四〇フィートコンテナを取り扱うまで になった。
そして、これらの輸入コンテナは当初、す べてドレージによって運んでいた。
まず京浜 港(東京・横浜港)で水揚げされた海上コン テナを、トラクターで栃木事業所まで牽引し てくる。
ドレージ車両はデバンニング作業が 終わるまで事業所内で待機しており、帰りは デバンニング済みの空コンテナを持ち帰る、 というサイクルである。
しかし日立グループとしては、全量をドレ ージで運び続けるのは何としても避けたいと考えていた。
京浜港から栃木に向かうために は、必ず首都圏を通過しなければならない。
環境対策や交通渋滞を考えると好ましい方法 ではない。
そこで鉄道輸送に眼を着けた。
東 京港の隣接地にある、JR貨物の東京貨物タ ーミナルから宇都宮までを鉄道で運べないか とJR貨物に接触した。
ほどなく鉄道利用の メドは立ったが、問題はコストだった。
前述したように、こうした中距離のモーダ ルシフトは、コストやリードタイムの悪化を 伴うことが多い。
リードタイムについては、 日立グループ内での横持ち輸送のためそれな りに対応できる。
しかし、いくら環境負荷が 少なくなるといっても、コストが大幅にアッ プするようでは許されない。
モーダルシフト を実現するためには、従来はなかった何らか の工夫を施す必要があった。
「鉄道輸送の両端で発生するショートドレ ージを、いかに低コストで抑えられるかがポ イントだった。
ここで専用車両を使っていて は、とても採算が合わない。
そこで東京から 栃木まで海上コンテナを運ぶドレージ車両に アルバイトをしてもらうことを思いついた。
輸入コンテナのデバンニングをしている間に、 JR貨物の宇都宮ターミナルに別のコンテナ を取りに行くようにした」と日立物流・輸送 システム部の高橋末男部長は解説する。
海コンを牽引するトラクターは、コンテナ を積んだトレーラーごと切り離せる。
まず日 立の栃木事業所に輸入コンテナ(実入り)を 搬入したトラクターは、これをトレーラーご と切り離し、代わりに鉄道で運んできた輸入 用の空コンテナを牽引して、JR貨物の宇都 宮ターミナルに持ち込む。
ここで空コンテナ を降ろすと、東京から鉄道輸送で送り込まれ た輸入コンテナ(実入り)を新たに積み込み、 また栃木事業所へと戻っていく。
こうして、従来は東京・栃木間を単純往復 するだけだったドレージ車両を有効利用する 枠組みを作った。
車両のドライバーにとって は、待ち時間がショートドレージの作業に変 わってしまうが、その分は売り上げも増える。
ドレージによる陸送と鉄道輸送を上手く組み 合わせることで、全体のコスト上昇を抑える ことに成功した。
とは言え、日立グループにとっては、これ は輸送効率化の第一歩に過ぎなかった。
日立 の栃木事業所が扱う国際物流のための海上コ ンテナは、ほとんどが輸入用だ。
このためモ ーダルシフトを一部で実現したとはいえ、復 路で空コンテナを運ぶムダは従来通りだった。
日立にとっては、栃木事業所に輸入したコン テナを、輸出で使ってくれる事業者を探すの が次の段階における課題になった。
鉄道輸送拡大の新たな切り口 そうしたなかで日立物流が声を掛けたのが、 同じく栃木県内で事業活動を行っているJU KIだった。
いきなり両社が接触したわけで 日立物流の高橋末男部長 MAY 2005 54 はない。
まずは日立物流がJR貨物などと連携しながら打開策を模索した。
その過程でN PO法人のエスコット(省エネルギー輸送対 策協議会)を主催する藤本治生理事長などと 知り合い、こうした人的ネットワークを通じ てJUKIとの接点が生まれた。
ただし海コンの往復輸送(ラウンドユース) を具体化するためには、乗り越えるべき壁が もう一つ残っていた。
日立が輸入業務で川崎 汽船(Kライン)を利用しているのに対し、 JUKIの輸出はООCLが手掛けている。
両社の間で海コンをどのように引き渡せばい いのか、またその際の検査はどうするか、と いった問題をクリアする必要があった。
関係者は宇都宮市にある国際コンテナの管 理施設、UICTに目を付けた。
この施設に はKラインとOOCLの二社が入居している。
幸い両社が親しい間柄にあることも手伝って、 前述したように、日立が輸入に使っているK ラインの海コンをUICTに持ち込み、これ に代わってJUKIが使うOOCLの検査済 みコンテナを持ち出すことが可能になった。
これによって、ようやく今回の枠組みが完 成した。
しかもドレージ車両を効率良く運行 する日立物流の仕組みを応用できたため、J UKIにとっては物流コストの低減も実現す ることができた。
異なる輸出入企業が、異な る船会社の海コンを、鉄道輸送で往復利用す る日本で初めての取り組みが、陽の目をみる ことになった(図2)。
もっとも今回、日立とJUKIを仲介する 格好になったJR貨物の受け止め方は少し違 う。
JR貨物のロジスティクス本部・国際物 流開発室に所属し、今回の仕組みの一端を担 ってきた高道哲也室長代理は、「我々は数年 前からエスコットの藤本さんたちと一緒に輸 出入で使うコンテナのバランスをよくしよう としてきた。
だから今回の件は、何年も前からの宿題をようやく一つの形にできたという 感じだ。
正直なところ、画期的という意識は あまりない」と述懐する。
それでも、この取り組みが中距離のモーダ ルシフトを推進していくうえで、興味深い成 功事例であることはJR貨物も認める。
実際、 二〇〇四年十一月からの試行結果に満足した JUKIは、この四月から鉄道によるコンテ ナ輸送を拡大する方針を打ち出している。
従 来は月間八本程度だったのを大幅に増やして、 将来的には月間三〇〜四〇本程度にしていく という。
物流業界でも高く評価されている。
この事 例は、JUKIの荻原課長によって、全国通 運連盟が募った「鉄道によるグリーン物流の JR貨物の高道哲也室長代理 3 4 5 2 1 JUKI大田原工場 JR貨物・宇都宮 貨物ターミナル UICT宇都宮国際 貨物ターミナル 日立グループ 栃木事業所 JR貨物・ 東京貨物ターミナル 東 京 湾 東 京 千 葉 茨 城 埼 玉 群 馬 栃 木 神奈川 A B C D E F JR貨物・東京貨物ターミナル? ↓(20:15発〜0:21着) JR貨物・宇都宮貨物ターミナル? JR貨物・宇都宮貨物ターミナル? ↓ 日立グループ・栃木事業所? 日立グループ・栃木事業所? ↓ 宇都宮国際貨物ターミナル? 宇都宮国際貨物ターミナル? ↓ JUKI・大田原工場? JUKI・大田原工場? ↓ JR貨物・宇都宮貨物ターミナル? JR貨物・宇都宮貨物ターミナル? ↓(13:24発〜16:57着) JR貨物・東京貨物ターミナル? 東京湾で水揚げされた海コンを、 隣接する東京貨物Tから鉄道で 宇都宮貨物Tに輸送 日立Gが東京・栃木間のドレー ジに使っている車両で海コンを ピックアップし栃木事業所へ 同じドレージ車両が、別の海コ ンを牽引して宇都宮国際ターミ ナル(UITC)まで横持ち UITCで別の海コンをピックアッ プした同じ車両が、これをJUKI・ 大田原工場に横持ち 次はJUKI・大田原工場でバンニ ング済みの別の海コンをピック アップし宇都宮貨物Tへ 列車発車の約2時間前くらいに 到着したJUKIの海コンを、鉄道 で東京貨物Tに輸送 A B C E D F 一台のドレージ車両で複数工程をこなす 図2 鉄道を利用する海上コンテナ往復利用の工程 55 MAY 2005 ための新たな推進方策」の提案論文に応募さ れた。
物流分野の研究者や実務家を中心に全 部で三十三件の論文が集まったなかで、荻原 課長の「海上コンテナの鉄道輸送による物流 効率化の提案」は最優秀賞に選ばれた。
発想そのものは従来からあったが、何より も実践したことが評価された。
今回の成功事 例は、中距離のモーダルシフトを推進しよう とする荷主は、どのような問題点を解消すれ ば良いのかを分かりやすく提示している。
今 後は多くの荷主が追随するはずだ。
機能別管理からは出てこない発想 JUKIなどが作りあげた仕組みは、言わ れてみれば当たり前の話でしかない。
なぜ過 去に同様の取り組みが実現しなかったのか不 思議にすら感じる。
そこには分かりやすい理 由がある。
従来の荷主や物流業界の常識では、こうした発想が出てこなかったのである。
ロジスティクスや3PLの考え方が浸透し てきたことで、国内物流の分野ではようやく 輸送や保管、荷役といった物流機能をトータ ルで効率化する考え方が定着しつつある。
一 方、国際物流の世界では、依然として海運、 港湾運送、国内輸送といった機能を個別に管 理する傾向が強い。
そして各機能を異なる専 門業者が担っているため、横断的に効率化す る動きはどうしても生まれにくい。
それが今回は、環境対応という同じ切り口 に共鳴する荷主を中心に、海コンを所有する 船会社、これを運ぶドレージ業者、JR貨物、 物流業者といった異なる分野のプレーヤーが、 互いに協力しあいながら最適解を探した。
荷 主が各プレーヤーと個別に交渉するだけだっ たら、今回の事例は生まれなかったはずだ。
ここに運輸部門における環境対応を促進する ための重要なヒントが隠されている。
ただ、この事例ではたまたま多くの幸運が 重なったことも事実だ。
UICTという国内 コンテナターミナルが近くにあり、これを鉄 道輸送と絡めて使える立地条件が整っていた。
全国を見渡しても、こうしたエリアはそう多 くない。
さらにUICTに入居する二つの船 会社が、たまたま海コンの相互運用を認めて くれたことも大きい。
日立グループの海外への生産移転に伴う輸 入コンテナの急増も特殊要因といえる。
現在 の日立グループは、生産拠点こそ中国に移し たものの、国内での最終加工や検査体制が栃 木事業所に残っているため、日本全国に販売 する物量をいったん栃木にすべて集めるフロ ーを採用している。
この変則的にも見えるサ プライチェーンが、過去には考えられなかっ た輸出入のバランスを実現した。
さらにJUKIという会社の物流管理に対 する柔軟な姿勢も見逃すわけにはいかない。
かつて同社は東京重機運輸という物流子会社 をグループに持っていたが、これを二〇〇〇 年に富士物流に人材ごと移管し、この子会社 は現在、富士物流の傘下でJUKIの仕事を 手掛けている。
物流子会社の処遇に悩む荷主 企業が少なくない中、JUKIは過去のしが らみを断ち切ることで、結果として物流現場 の人たちをも活かせる道を切りひらいた。
今回の事例の背景にも、過去のしがらみを タブー視することなく挑戦したJUKIの企 業姿勢がある。
同社の荻原課長は、「この取 り組みを進めるなかで、物流業者とのパート ナー意識はもちろん、互いに綿密な打ち合わ せを重ねながら仕組みを作りあげていく重要 性を痛感した」という。
今後、運輸部門が環境負荷を低減していく ためには、結局は物流効率化を進めるのが一 番の早道だ。
そこでは環境対策に吹く追い風 に便乗するくらいのしたたかさで、過去には 手付かずだった課題をクリアしていくことが 求められている。
(岡山宏之) ドレージ車両の有効活用がコスト低減のポイントに なった

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