ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
ロジスティクス・ビジネスはロジスティクス業界の専門雑誌です。
2002年8号
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トランコム

*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。

AUGUST 2002 64 株主との距離が近い この連載ではこれまで国内外の大手物流企 業を中心に焦点を当ててきた。
個々の企業の 業績水準に関わりなく、認知度の高い企業の 現状を把握し、それを理解することで、物流 業界の中で企業価値がどのように分布されて いるかを検証してきた。
しかし、今月号から は数回にわたって、事業規模こそ小さいもの の、好業績を維持している中堅物流企業を 分析し、そこからのインプリケーションを導 き出してみたいと思う。
前月号でも指摘したが、物流業界では「好 業績企業=大手企業」という構図がほとんど 成り立っていない。
特定分野に経営資源を絞 り込んでいる中堅企業のほうが過去最高利益 を更新するなど業績が堅調に推移しているケ ースが多い。
こうした中堅物流企業では現場レベルで 様々な知恵と工夫を凝らしている。
それらに はすぐに自らの仕事で応用できるようなもの もあり、少なからず物流と接点を持つ読者の 皆さんも共感できる点が多々あるのではない だろうか。
さて、今回取り上げるのは、名古屋を中心 に東海圏および東名大で事業領域を拡張し ているトランコムである。
二〇〇二年三月期 の業績は、連結売上高一八七・九億円(前 年比一七・七%増)、連結営業利益十一・一 億円(前年比六五・六%増)と好調だった。
営業利益率は六・〇%、連結ROE(株主 資本当期利益率)は十一・三%だった。
業 界内でも高い収益力を誇っている。
トランコムを最初に取り上げるのは、?同 社は過去に順風満帆だったとは言えなかった、 ?しかし、いくつかの障壁を乗り越えてきた 時の意思決定スピードが早かった、?人材活 用なども含め風通しの良い企業風土が感じら れること――など企業経営全般について示唆 に富む企業であるからだ。
株式市場でも開かれた株主総会を行う企 業として評価されている。
株主と経営陣が忌 憚なく会話し議論できる場を提供している企 業は、日本でもまだ数が多いとはいえないが、 同社の株主総会では一般株主と経営陣の距 離は非常に近い。
また、企業の情報開示についても積極的で情報公開内容の精度も高い。
武部社長の実直なキャラクターに負うところ もあるが、役員レベルの株主経営に対する認 識も総じて高いからであろう。
脱・共同配送企業 まず同社の事業概要について説明したい。
事業セグメントは、?運輸事業(二〇〇二 年三月期の売上構成比六七・七%)、?ロジ スティクマネジメント(LM)事業(同二 三・八%)、?自動車整備事業(同四・三%)、 ?アウトソーシング事業(同四・二%)に分 かれている。
運輸事業はトラック輸送を中心とする主力 第17回 トランコム 共同配送に特化してきたトランコムが事業構造の変換を進め、 成功を収めている。
求貨求車事業や物流センター運営事業など の新事業はここ数年、高い売上成長率を維持している。
やや総 花的になりつつある事業ポートフォリオをどのように管理して いくかが課題となる。
北見聡 野村証券金融研究所 運輸担当アナリスト 65 AUGUST 2002 事業であるが、さらに共同配送事業(同一 四・二%)、貸切輸送事業(同一六・九%)、 物流情報サービス事業(同三六・六%)の 三つに区分される。
共同配送事業はそもそも 同社の核となる事業であり、以前は?共同配 送のトランコム〞と自称していた時代もあっ た。
因みに三期前(九九年三月期)の共同 配送事業の売上高構成比は三〇%近い。
エ リア別の共同配送と家電の共同配送があるが、 それぞれの荷主企業の再編や物流効率化の 煽りを受けて収益が悪化。
共同配送事業に 固執する状況からの事業構造の変換を迫られ ていた。
それを支えた第一のポイントは貸切輸送事 業である。
一般に貸切輸送と言えば、競争の 激しいビジネスであるが、同社は一日の時間 区分で管理する時間制輸送の導入で運行稼 働率を向上させ、収益を改善させることに成 功した。
さらにパートナー化の推進などで、 輸送品質や運行管理基準の共有化等を進め ており、今後は一段と収益寄与度が高まるこ とになろう。
貸切輸送については、差別化の 工夫が無ければ、単純な価格競争に追い込ま れるのはいうまでもないが、こうした改善努 力を進めている企業は予想以上に少ないとい うのが実情だ。
第二のポイントは、物流情報サービス事業 である。
この数年間、毎年二〇%を超える売 上高成長率を誇っている。
この事業はいわゆ る求貨求車事業であるが、昔ながらの?単なる 水屋稼業〞ではない。
物流効率化を推進する 情報を荷主企業に提供することで、元請け企 業化に成功している点を見逃してはならない。
数年前にインターネットを利用した求貨求 車システム事業者が乱立したが、今では名前 すら聞かない事業者が多い。
情報ネットワー クの利用と輸送実需との掛け橋の作り込み方 の違いが勝敗を決定しているのであろう。
課題は事業ポートフォリオの管理 第三のポイントは、商品管理事業と物流セ ンター事業で構成されているロジスティクマ ネジメント(LM)事業である。
荷主企業の コアビジネスへの回帰を背景とした物流のア ウトソーシングに対するニーズ、SCM導入 による物流効率化のニーズが同社にとって追 い風となっている。
ここでは、輸送管理にお ける品質と生産性の高さが、事業拡大の全て であるといっても過言ではないだろう。
生産 性管理指標の導入と、従業員のモチベーショ ンを維持する仕組み作りが業容拡大を支えて きた。
価格競争だけで攻勢を掛けた物流企業 が、実は一番苦戦している分野と言い換える こともできるだろう。
先述したように、同社は?共同配送のトラ ンコム〞だった。
しかし、ここ数年で同社の 事業ポートフォリオと事業収益力は格段に改 善された。
株主をはじめとした外部の意見を 取り入れ、さらに内部でも風通しの良い議論 を進め、経営陣の意思決定を早める。
それに よって物流業界の大きな変化に気付き、それ に素早く対応できる企業になった。
もちろん、やや総花的になりつつある事業 ポートフォリオをどのように管理し続けるか、 という課題も残されている。
こうした課題に 対して次はどのような回答を出していくのか。
興味が尽きない企業である。
きたみ さとし 一橋大学 経済学部卒。
八八年野村 証券入社。
九四年野村総 合研究所出向。
九七年野 村証券金融研究所企業調 査部運輸セクター担当。
社団法人日本証券アナリ スト協会検定会員。
プロフィール トランコムの株価推移 (円) (出来高)

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