ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
ロジスティクス・ビジネスはロジスティクス業界の専門雑誌です。
2002年7号
特集
物流会社負け組の処方箋 グループ経営の常識が変わった

*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。

JULY 2002 16 内販の減少に歯止め ――外販比率が五六%にまで拡大しました。
かねて六 〇〜七〇%が目標だとおっしゃっていましたが、会社 としての方針に変わりはないのですか。
「変わっていません。
ただし、外販のターゲットは 少しずつ変化してきています。
業績の落ち込みが激し い電機をはじめとする製造業から、医薬品や小売業な ど流通・サービスといった川下の分野に徐々にシフト させています。
実際、ここ数年は製造業を対象とした 外販はそれほど伸びていません」 「外販比率が上がっていくことは親会社から自立す るという意味では非常に喜ばしいことです。
しかし、 多少心配な面もある。
日立グループ向けの仕事がどん どん減ってきている点です。
モノが売れない時代なの で物流が減るのは仕方がない、そういってこの問題を 簡単に片づける社員がいますが、そういう社員には 『おいちょっと待てよ。
本当に日立グループからの物 流は減る一方なのか。
増やす手段はないのか』と言っ ている。
実は日立グループの中には当社以外に物流業 務を委託していたり、特殊な管理技術を必要とするた め自社で物流を手掛けている企業がいくつもあります。
その中には日立マクセルのように業績を伸ばしている 企業もある。
要するに、まだまだ内販を拡大する余地 が残っているわけです。
外販に力を注いでいくことも 大事なことですが、その前にもう一度、グループ内で の取りこぼしをなくしていく必要があります」 ――システム物流と呼んでいる3PLサービスでの成 功が外販拡大に大きく貢献しています。
しかし、3P Lでは顧客企業向けに倉庫を用意したり、独自の情 報システムを開発しなければならないなど投資を必要 とします。
投資が嵩むわりに利益率が低い。
黙って内 販だけをやっていたほうが物流子会社としては儲かる のではないでしょうか。
「私が社長だった頃から当社は設備投資を抑えてい ます。
設備投資をしなくても倉庫を増床できる時代に なったからです。
安い労働力を求めて国内工場の海外 移転が急速に進んでいますが、その結果、抜け殻とな った工場を倉庫として活用できるようになった。
しか も、建物の持ち主は『倉庫として必要な設備をすべて こちらで用意しますから使ってください』という。
そ ういう物件をうまく活用すれば、外販の仕事であって もきちんと利益は出せます」 「3PL論では物流改善で浮いた分のコストを顧客 企業側とゲインシェアリング(成果配分)すれば、サ ービスを提供する側も確実に儲かる、と言われていま す。
しかし日本では絵に描いたようにうまくはいかな い。
欧米とは異なり、まだまだ日本では浮いたコスト を顧客企業側、もしくは物流子会社と親会社であれ ば親会社側が全部取ってしまう傾向が強い。
では、ど うやって利益を確保していけばいいのか。
ムダな投資 は避けて、倉庫を賃借してアセットに掛かるコストを 低く抑えるしかない。
そういう意味では現在日本は3 PLを展開しやすい環境にあると言えるでしょう」 ――日立グループでは従来、子会社を上場させて各分 野のリーダー企業として自立させる、という政策を打 ち出していました。
しかし現在ではそれが少しずつ変 化してきていると聞いています。
「数年前に日立製作所はグループ協議会を発足させ ました。
日立製作所の経営トップを議長に、グループ 会社の経営トップたちが集まってグループ経営のあり 方などを検討する会合です。
そこである時、『果たし て日立のこれまでの子会社政策は正しかったのか』と いう議論になった。
欧米では成績優秀な子会社を手 「グループ経営の常識が変わった」 日立物流の外販比率は50%を超えている。
3PLで成 功を収めている日本で数少ない企業として、同社を手本と する物流子会社は少なくない。
引き続き外販を強化するが、 その一方で今後は日立グループからの売り上げの落ち込み にも対策を講じる必要があるという。
日立物流 中久信 会長 Interview 17 JULY 2002 特集 物流子会社 元に置いて、成績の悪い子会社を外に出す。
これに対 して、日立の場合は優秀な子会社をどんどん外に出し て上場させた。
それが親会社としての役割だと認識し ていたし、社会的な使命であるとも考えていた」 「ところが、日立製作所本体の時価総額が下がり、 逆に子会社の時価総額が上がっていくと徐々に考え 方が変わってきた。
成績の悪い子会社を外に出して、 優秀な子会社の株を一〇〇%握る。
そうすることで本 家のほうが栄える。
これが本来グループ経営の正しい 姿なのではないか、という結論に達しました」 ――日立物流に対する日立グループの持ち株比率は 五九・九%。
しかし、将来は、親会社の持ち株比率 が上がっていく可能性もあるというわけですね。
「持ち株比率はどうなるかは親会社次第ですので、ど うなるかは分かりません。
まあ、日立物流の場合はグ ループ会社の中でも出来のいいほうですから、そうい う可能性がないとは言い切れませんが(笑)」 日立グループのシナリオを描く ――日立物流は自立した物流子会社として評価され ている。
ただし、親会社やグループ会社のSCMとど う関わっていくのか、その方向性が見えてこない。
ソ ニーや松下はグループ全体としての将来のロジスティ クス戦略を打ち出していますが、日立グループでは具 体的な方針がまだ示されていない。
「他の電機メーカーとは異なり、日立製作所には横 断的な物流部門が存在しません。
物流は全面的に当 社が任されています。
ですから、製作所の社内では製 作所、そしてグループ全体のロジスティクスを今後ど うしていくべきかという議論に発展しない。
実際に現 段階ではそういう話は出ていません。
しかし、このま ま黙っていたら、日立グループのロジスティクスは同 業他社に後れをとってしまう。
日立グループの将来の ロジスティクス戦略がどうあるべきか。
そのシナリオ を作るのが当社の役目だと思っています。
親会社だっ てそれを期待しているはずです」 ――電機メーカー各社が将来のロジスティクス戦略を 練っていく過程で、必ず同業他社との共同化を進める べきだという発想が出るはずです。
昔から議論されて いることですが、例えば、電機メーカーが共通で利用 する家電の物流プラットフォームのようなものを確立 することはできないのでしょうか。
「難しいでしょうね。
ほとんどの電機メーカーが現 在、物流子会社を持っています。
古い体質を引きずっ た物流子会社が集まってプラットフォームをつくると いうのは非現実的な気がします。
当社が他の電機系物 流子会社を買収して、例えば家電のプラットフォーム をつくれば物流の効率化が進むのではないか、という 意見も耳にしますが、各社は生い立ちやこれまでにや ってきたことが全く違うわけですから一緒になってもうまく機能しないでしょう。
しがらみのないベンチャ ー企業がプラットフォームをつくれば、各社がそこに 荷物を載せるという可能性はありますが」 ――実際に物流子会社を買い取ってくれないか、とい う打診もあるのでは? 「小さな運送会社を引き受けてくれ、といった話は あります。
しかし、大手の物流子会社、例えば電機系 の物流子会社に関してはそういう打診はありません。
相手にだって、同じ市場でしのぎを削ってきたライバ ルに子会社を渡せるか、というメンツがあるでしょう。
仮に打診があったとしても、電機系の物流子会社の場 合、社員の高齢化が進んでいたり、親会社の業績不 振に引っ張られるかたちで業績を悪化させているなど 負の遺産が多くて簡単には手は出せません」 250,000 200,000 150,000 100,000 50,000 0 90年 (H1) 97年 (H9) 98年 (H10) 99年 (H11) 00年 (H12) 01年 (H13) 02年予想 (H14) 75 25 53 47 52 48 48 52 46 54 49 50 51 54 (年度) (百万円) 170,285 218,414 204,042 190,510 211,304 44 56 60 196,878 40 60 65 200,000 日立グループ 一般(日立グループ以外) システム物流(3PL) ※一般に含まれる ※□内は構成比(%) ※○内は一般におけるシステム  物流の割合(%) 顧客別営業収入(単独) なか・ひさのぶ1930年生まれ。
53年京都 大学経済学部卒、同年日立製作所入社、79年 日立運輸東京モノレール(現・日立物流)に。
80年取締役、84年専務、88年副社長を経て、 94年社長に就任。
2000年から会長。
PROFILE

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