ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
ロジスティクス・ビジネスはロジスティクス業界の専門雑誌です。
2002年7号
特集
物流会社負け組の処方箋 親の描く過酷なシナリオ

*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。

JULY 2002 12 日通と松下電工が合弁で3PL 今年六月、松下電工は日本通運との合弁で「ナイ ス(NAIS)ロジスティクス」を設立した。
松下電 工の物流部門の一部をNAISロジスティクスに移 管。
日通からも職員を派遣し、ジョイントベンチャー 方式で3PL事業を展開する。
株式は松下電工が過 半数を握る。
NAISロジスティクスの「活動の詳細については 現在、詰めている最中。
七月の中旬頃に正式発表す る予定」(松下電工)というが、今年八月中にも本格 稼働する模様だ。
当面は松下電工の国内オペレーショ ンの運営管理を代行し、その後、国際物流、外部荷 主獲得へと業務範囲を拡大していく展開が予想され る。
荷主企業と物流業者の大手同士が本格的なジョイ ントベンチャーを設立するのは日本では初めて。
しか し、欧米ではゼネラルモータース(GM)が、有力3 PLのメンロ・ロジスティクスを傘下に持つCNFグ ループと、「ベクターSCM」を合弁で立ち上げるな ど(本誌二〇〇二年六月号参照)、3PL導入の一手 法として認知されるようになっている。
荷主企業にとって3PLの導入には、既存のアセッ トやスタッフの処遇問題、オペレーションの混乱、コ ントロール機能の喪失などの懸念材料がある。
しかし、 アウトソーシング先が資本関係の全くない第三者では なく、勝手知った3PL子会社であれば、こうした懸 念が軽減されるため、導入のハードルは下がる。
物流業者側から見ても、3PL子会社を通じて、大 手荷主企業を囲い込み、そのオペレーション業務を確 保できるという旨味がある。
NAISロジスティクス の今後の動向次第では、荷主企業と物流業者による 物流子会社の再編が急を告げている。
業績悪化で含み益を全 て吐き出した親会社が、コア・ビジネスへの特化に本腰を入れ 始めた。
物流子会社のハシゴが外され、市場の再編が進む。
物 流子会社大国が3PL大国に変身する。
本誌編集部 ジョイントベンチャー方式の3PLが、一気に日本で 広がっていく可能性がある。
同時に、他の物流業者は長年取引のあった主要荷 主を突然、失ってしまうという危険性が出てきた。
松 下電工の現在の協力物流業者の幹部は「日通と合弁 で子会社を作ったとなれば、現業もそっちに流れる のは必至だ。
今後も当社が使ってもらえるという保 証はない。
大変なことになった」と危機感を募らせ ている。
丸全昭和は昭和電工の子会社を買収 横浜市に本社を置く東証一部上場の丸全昭和運輸 は、今年四月一日付けで昭和電工から同社の一〇〇% 子会社の昭和物流と昭和アルミサービスの株式を譲 渡された。
昭和物流と昭和アルミサービスの既存の従 業員も、丸全昭和側でそのまま引き受ける。
この両子 会社に昭和アルミサービスの一〇〇%子会社で、高 齢者雇用の受け皿となっている昭和エルダーサービス の三社の従業員を合わせると、合計二〇〇人近い物 流マンが、荷主企業から協力物流業者に籍を移すこ とになる。
丸全昭和の加藤耕一郎経営企画室長は「昭和電工 は当社の古くからの大口荷主。
そこから頼まれれば、 断るわけにはいかない。
仮に当社が断って他社が物流 子会社を引き取ることにでもなれば、昭和電工の仕事 がそのままライバルに流れてしまう」と今回の買収の 経緯について説明する。
丸全昭和の支払った買収金額は公表されていない が、昭和電工は物流子会社の売却によって手にした 資金を、連結欠損金の穴埋めに充てるという。
昭和 電工は二〇〇三年を最終年度とする中期経営計画の 中で、コア・ビジネスから外れる事業や関係会社を売 親の描く過酷なシナリオ 解説 13 JULY 2002 特集 物流子会社 却し、有利子負債と人員を削減する「戦略的縮小」を うたっている。
二つの物流子会社の売却もこの一環だ。
このように大手荷主企業が子会社を物流専業者に 売却するというケースは、過去にはほとんど例がなか った。
ところが今や環境は一変した。
丸全昭和が物流 子会社の買収を発表した途端に「銀行などを通じて 物流子会社を買って欲しいという依頼が、これまで当 社と全く取引のなかった企業も含めて、いくつも寄せ られるようになった。
反響の大きさに驚いている」と 加藤室長はいう。
攻勢に転じる特積み業者 中堅特別積み合わせ業者の第一貨物は今年四月、豆 菓子メーカーの「でん六」から販売物流を一括して委 託されたのに伴い、でん六の既存の物流スタッフの転 籍を受け入れた。
過去にも第一貨物は3PLの受託 に際して、依頼があれば荷主の既存従業員を受け入れ てきた。
同社の武藤幸規社長は「とくにここ数年は、資産 も含めて物流部門を丸ごと買ってくれという話が珍し くなくなっている。
当社のような中堅でもそうなのだ から大手の物流業者ともなれば、大変な数の案件を抱 えているはずだ。
そうしたニーズの重要性に気付いて いない物流業者がいるとすれば市場から抹殺されかね ない」という。
これまで日本では産業界全体に乱立する物流子会 社の存在が3PL普及のネックとなっていた。
物流子 会社は市場競争にさらされることなく生存を許されて きた。
逆にいくら競争力のある3PLであっても、荷 主企業と資本関係で結びついた物流子会社がある限 り、彼らを押しのけてアウトソーシングを受託するこ とはできなかった。
しかし今や親会社の多くが子会社を?聖域〞とは 考えていない。
コア・ビジネスの強化に必要なキャッ シュを手に入れるために、子会社を他人に売り飛ばす ことも辞さないドライな親会社が増えている。
買収に 応じた物流会社は子会社に代わり荷主の新たな元請 けの座を確保する。
極めて日本的な3PLの普及が 始まっている。
米国の物流市場では大手荷主企業が自ら大量のレ イオフを断行した後に、その穴を埋める形で3PLが 利用された。
荷主の既存従業員を雇い入れる必要が ないため、新興ベンチャーや、大手キャリアの戦略子 会社など、資産を持たないノンアセット系の3PLに 活躍の場が与えられた。
欧州ではEU統合に伴うネッ トワーク再編が3PLの大きなテーマだった。
そこで は経営コンサルタント出身者を提案部隊に起用した大 手フォワーダーがニーズに応えた。
これに対して日本では、物流子会社を始めとする既 存リソースのリストラを、ソリューションとして提供することが、3PLの最大のテーマになる。
倉庫や設 備などの資産を買い上げ、物流スタッフの再就職の受 け皿となることで、荷主企業の本業回帰を後押しする のと引き替えに、そのまま元請け物流業者のポジショ ンに座るという極端なアセット型の3PLだ。
その担い手としては意外にも、九〇年の規制緩和 以降、一〇年にわたり防戦一方に立たされていた特積 み業者が、最有力候補として浮上している。
物流子 会社を抱えるような中堅以上のメーカーは、メーカー 発のB to B輸送をドメインとする特積み業者にとって は従来からの主要顧客。
物流リストラの相談相手とし ては最も近い立場にいる。
カギとなる労務管理についても「ドライバーやセン ター作業員など、現場スタッフの労務管理は特積み業 第一貨物の武藤幸規社長 JULY 2002 14 者が長年にわたって作り込んできたコア・コンピタン ス。
しかも、路線ターミナルのオペレーションは、今 日のSCMで求められている流通センターのクロスド ッキングにそのまま適用できる」と第一貨物の武藤社 長はいう。
後は子会社の買収に必要な資金さえ用意できれば、 日本型3PLの担い手としての条件は揃う。
荷主が 物流子会社を設置するたびに、特積み業者は苦い思 いを味わってきた。
仕事の内容はそれまでと同じでも、 子会社ができた瞬間に特積み業者は孫請けに成り下 がり、上前を跳ねられた。
それが3PLビジネスでは 攻勢に転じる。
連結決算で転換する子会社経営 昭和四〇年代以降、日本では物流子会社が一貫し て増え続けた。
その数は現在、約一〇〇〇社近くに 上ると言われる。
売上高を合計すると悠に四兆円を超 える。
これほど広く物流子会社が幅を利かせている国 は他に例がない。
そもそも日本の物流子会社は輸送需給が逼迫して いた高度経済成長時代に、安定的に輸送力を確保す ることが設立の狙いだったとされる。
ところがその後、 輸送需給が緩和すると、今度は親会社の余剰人員の 受け皿に役割を変えた。
同時に内部取引の調整によ って親会社の決算数字を操作する道具としても便利 に利用されるようになっていった。
経営層は全員、親会社からの天下り。
売り上げ先 も全て親会社。
そんな市場原理の全く働かない環境の 下で、物流子会社は長い間、温存されてきた。
放って おいても土地資産などの含み益が増加し、単独決算を 基本とする日本式の会計制度がある以上、それでも意 味のない存在ではなかった。
ところが、バブル崩壊以降の長期にわたる景気低迷 で含み益が消失。
日本の会計制度が連結決算重視に 移行したことで、一連の歯車が狂った。
内部取引の調 整による決算操作は意味を成さなくなり、それまで子 会社に押しつけてきた余剰人員や不良資産がそのまま 表に出ることになってしまった。
株主価値最大化のた めの経営効率の重視など、その後も改革のプレッシャ ーは強まる一方だ。
新たな事態に対応するため、親会社も物流子会社 整理に腰を上げざるを得ない。
その手始めとして取り 組んだのが、子会社の全国統合だ。
実際、食品業界、 製鉄業界、繊維業界など、あらゆる業界の代表的メ ーカーが過去数年の間に子会社の全国統合を実施し ている。
王子製紙もその一つだ。
昨年一〇月、同社は全国 五つの物流子会社を合併し、王子物流を設立した。
同 時に本社の物流本部も新会社に統合した。
王子製紙 の常務執行役員を兼務する平井創王子物流社長は「連 結決算では、親会社との取引で子会社が利益を出し ても意味がない。
これまでの子会社の在り方を改める 必要があった」と改革の狙いを説明する。
新設した王子物流は資本金一四億三四〇〇万円。
従 業員数約八八〇人。
初年度の売上高は約八〇〇億円 を見込んでいる。
そのうち王子製紙向けの売り上げが 約七割を占める。
今後、五年間で従業員数を一〇〇 人減らし、王子製紙の物流コストを一〇〇億円削減 することが当面の目標だ。
王子製紙向けの仕事で利益を上げることは許されな い。
平井社長は「私を含め経営層を本社と兼務する 体制にして、親会社のコストダウンに貢献することを 子会社の使命だと割り切った。
もはや法人格が別なだ けで、実態としては子会社は親会社と一体だ」と、新 王子物流の平井創社長 15 JULY 2002 特集 物流子会社 たな子会社の位置づけを説明する。
外販の拡大も、その利益を親会社に還元するという 面では期待されていても、子会社として経営の自立性 を高めることが主眼ではない。
株式公開も当面、視野 には入っていない。
従来の物流子会社政策とは一八 〇度、方向性が違う。
誤ったビジネスモデル 連結決算が導入される以前の物流子会社経営は、従 来のコストセンターという位置付けを改め、外部荷主 の獲得によってプロフィットセンターとして自立する ことが最大のテーマだった。
最終ゴールは株式の上場 であり、日立物流がその目標とされた。
八八年に同社 が株式を上場した時の外販比率三〇%は、物流子会 社にとって自立の目安ともなってきた。
また日立物流は物流子会社のモデルであるのと同時 に、日本で最も3PL的な物流業者としても知られて いる。
実際、同社は荷主企業のサプライチェーン全体 を視野において自らの業務範囲を拡大し、ITの活 用や海外展開でも常に業界他社の先手を打ってきた。
親会社の日立製作所にとって、物流スタッフ機能まで 取り込んだ日立物流は文字通り3PLとして機能し ている。
物流子会社の多くはビジネスモデルの面でも、日立 物流を踏襲する形の3PLを目指している。
しかし、 それが物流子会社の勝ちパターンから外れていること は軽視されているようだ。
日立物流はアパレルや医薬 など、親会社のベースカーゴと重複しない分野で外販 を拡大してきた。
これに対してキユーピー系のキユーソー流通システ ムやアルプス電気系のアルプス物流など、日立物流以 外で成功している子会社はいずれも親会社の物流イン フラをベースにそれを同業他社にも提供する形の共同 物流で収益を稼いでいる。
そこで提供されているのは 宅配便に近いパッケージ化されたサービス商品であり、 個別の荷主に合わせたソリューションを提供する3P Lとは対極にある。
アルプス物流の長迫令爾会長は「国内には現在、電 子部品メーカーが約一六〇〇社ある。
そのうちの七 五%、約一二〇〇〜一三〇〇社が当社の顧客になっ ている。
既に電子部品の物流プラットフォームは確立 できた。
この業界で商売している以上、当社のシステ ムに乗らないわけにはいかない」と胸を張る。
同社は収入基盤の安定を図る目的で、共同物流と は別に川下物流や他業界に目を向けた時期もあった。
しかし現在は電子部品に特化した物流プラットフォー ムの強化に経営のフォーカスを絞っている。
日立物流のモデルを他の物流業者が真似ても収益 を上げるのは難しい。
他の物流子会社が目指すべきな のは、3PLよりもむしろ物流プラットフォーム事業だ。
ただし、物流プラットフォーム事業はシェアが何 よりモノを言う。
そこで成功を収めることができるの は市場分野ごとに上位二〜三社に限られる。
それ以 下のプレーヤーは早晩、淘汰を免れない。
一定のシェ アを確保できないビジネスが売却対象になるのは、既 に他の分野では常識ともいえる。
日本は近く物流子会社大国から3PL大国に変身 する。
荷主→物流子会社→物流専業者という日本の 物流市場の現在のサプライチェーンは、やがて物流子 会社を買い取った3PL→市場分野別の物流プラッ トフォーム→現業を担う専業者という形に再編される。
新たなサプライチェーンのなかで、どのプロセスを担 うのか。
物流子会社を含めて全てのプレーヤーがそれ を問われている。
荷主A 荷主B 荷主C 専業者 専業者 専業者 専業者 専業者 物流子会社A 物流子会社B 物流子会社C 荷主A 荷主B 荷主C 従 来 今 後 3PL 3PL 3PL 業界プラットフォーム 専業者 専業者 専業者 専業者 専業者

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