ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
ロジスティクス・ビジネスはロジスティクス業界の専門雑誌です。
2002年7号
ケース
シャトレーゼ――コスト削減

*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。

JULY 2002 48 「菓子のユニクロ」 菓子の製造小売り大手、シャトレーゼは現 在、全国に約五〇〇店の「シャトレーゼ工場 直売店」をフランチャイズ展開している。
二 〇〇一年度の売上高は五〇〇億円。
同社の店 舗には和洋菓子、アイスクリーム、パンなど のデザート類が一〇〇円以下の値段でズラリ と並ぶ。
水や卵、牛乳などの原料まで契約農 家から直接調達し、自社工場で製造、FC店 で販売するという徹底した垂直統合によって 低価格化を進めてきた。
本社を置く山梨県に三つの生産拠点を構え ている。
その一つ、JR小淵沢駅から車で一 五分ほどの距離にある白州工場ではアイスク リームや氷菓を製造している。
敷地面積三万 五〇〇〇坪。
現在パートを含む約二〇〇人の 従業員が同工場で働いている。
工場の組織は 工場長の下、生 産管理課、設備 課、品質管理課、物流課、総務課 が横並びになっ ている。
生産ラ インから流れて きた段ボール詰 めの商品を、パ レット積みにし て冷凍倉庫で一 お金をかけずに「変われパレタイザー」 現場スタッフが挑んだ手作りの改善 段ボール詰めの商品を自動的にパレットに 積み付けるパレタイザー。
高価なマテハン機 器だが、本当に効率的なのか。
現場作業を管 理する物流マンが、ふと疑問を抱いた。
自分 でミニチュアを作り、最適な積み付けの方法 を試行錯誤してみた。
ここから「変われパレ タイザー」という奇妙なネーミングの改善活 動が始まった。
シャトレーゼ ――コスト削減 白州工場 入されていない。
手積みだっ た。
「しかも大昔に決めた方法 で積み付けをしていた。
誰も それを変えようとしたことが なかった」と有間係長。
パレットと段ボールのミニ チュアを使って机の上で「積 み木」を繰り返してみた。
そ の結果、パレタイザーの方法 では一パレット当たり、一五 〇ケースしか積めなかった (写真1)ものを、一六五ケー ス積み付ける方法を見つけることができた(写 真2)。
改善に使ったコストは、もちろん?ゼ ロ〞である。
引き続き、有間氏はアイスクリームの二本 のラインの改善に着手した。
同じようにミニ チュアの段ボールで「積み木」した。
しかし、 パレタイザーの積み付け方以外に、上手い積 み付け方が見つからない。
段数を増やすこと もできない。
アイスクリームの二本のラインに 対して、パレタイザーは六段積みを推奨して いた。
確かに、これを七段積みにすると物流 センターの自動倉庫に入庫できなくなる。
そこで試しにミニチュアの段ボールを少し ハサミで切ってみたところ、ほんの少しケース を小さくするだけで新しい積み付けができる ことが分かった。
「箱やアイスの個々の包装な どは多少、余裕をもって設計されているはず」 と有間係長は考えた。
つまり、商品一つ一つ 本当に利口なのだろうか。
ひょっとすると、人間が考えた積み付け方法のほうが、効率が良 いのではないか。
有間氏の脳裏に浮かんだ疑 問だった。
ただし、パレタイザーの運用を改善するに は、生産管理課や設備課の協力が必要になる。
それまで同工場の物流課では、自ら改善活動 を提案したことはなかった。
「物流課から他部 門に情報を発信するということ自体、ほとん ど経験がなかった」と有間係長。
そこで一工夫することにした。
改善活動に 「変われパレタイザー」というタイトルをつけ た。
「幼稚で重みに欠けるタイトルだが、他部 門の人に興味を持ってもらうにはいい」と考 えた。
狙いは当たった。
「何のこと?」と他部 門は素直に耳を傾けてくれた。
コストをかけずに素早い成果 同工場物流課にとって初めての改善活動だ った。
そこで、お金をかけないこと、そして関 連部署に飽きられないために、一つ一つの改 善に時間をかけ過ぎず早く結果を出すことに 努めた。
パレットの積み付け率、二桁アップ を目標にした。
「一%や二%の削減では目立た ないので大雑把に目標を立てた」と有間係長 はいう。
白州工場には商品カテゴリーごとに計九つ の生産ラインがある。
そのうち、まず手をつけ たのがギフト用の和洋菓子を扱う「進物ライ ン」だ。
このラインだけは、パレタイザーが導 時保管、出荷する業務が物流課の仕事だ。
物 流課を指揮するのは有間公敏係長。
一五年前 にフォークリフトメーカーから同社に転職。
以 来、物流業に携わってきた。
現場の進捗管理 のほか、繁忙期には自らフォークの運転席に 座る。
今から三年前のこと。
有間係長は現場作業 をこなしながら、段ボール箱や専用コンテナ などのケースの積みつけられたパレットの余白 部分が、ふと気になった。
白州工場には「パ レタイザー」が合計七機、導入されている。
製 造ラインからコンベアに載って運ばれてくる 段ボール箱やコンテナは、各ラインのパレタイ ザーによって自動的にパレットに積み付けら れる。
パレタイザーは別名、パレタイズ・ロボッ トとも呼ばれ、マテハン機器としては比較的 高価な部類に入る。
段ボール箱の大きさと、パ レットのサイズのデータから積み付け方法を 提示する分析機能も持っている。
そんなハイ テク機器が処理したパレットに、なぜ空きス ペースが目立つのか。
パレタイズ・ロボットは 49 JULY 2002 シャトレーゼ白州工場物流課 の有間公敏係長 写真1 1層10ケース積 みだった改善前 写真2 並べ替えで110% の積み付け率アップに成功 の包装袋、そして数個の商品をまとめる外袋、 それらが収まる段ボールをそれぞれ少しずつ 小さくすればどうか。
また、自動倉庫は高さ 一四五〇ミリが入庫制限とされていたが、こ こにも余裕があるのではないか。
案の定、豊富工場にある物流本部の協力を 仰いで自動倉庫の高さを確かめた結果、五〇 ミリの差異が見つかった。
つまり実際には、高 さ一五〇〇ミリまでの入庫が可能だった。
そ こから計算すると、外箱の高さを五ミリ低く すれば、七段積みの状態で自動倉庫に入庫で きることになる(写真3)。
また五ミリであれば外箱のサイズを変える ために、商品の袋のサイズまで変更する必要 はなさそうだった。
生産管理課と共同でサン プルを作成、実際に商品を詰めてラインテス トを施行した。
うまく生産ラインを流れるこ とを確認したのち、段ボールメーカーに段ボ ールの折り目の位置をずらしたり、張り合わ せ方法の変更を依頼 した。
こうして、コス トをかけることもなく サイズを変更できた。
さらに、マテハン 機器のメンテナンス を担当する設備課に パレタイザーのプログ ラムの変更を依頼、再 びラインテストを行っ た。
他にも、生産管 理課にはラインテストの日程および生産調整を。
物流本部には、豊富工場にある自動倉庫 への入庫テストへの協力を仰いだ。
アイスクリームの二本のラインの改善には 結局、約三カ月という時間を費やした。
「それ でも進物ライン改善の実績があったから、関 係各部署の協力を得ることができた。
ヘンな ネーミングも活きた」と有間氏は振り返る。
積み付け率二桁アップ 三つ目の改善は、コーンアイスのライン。
写 真4のように同ラインの積み付けは、パレッ トの中心部分に隙間を残していた。
またパレ ットの端の部分にも空きスペースがあった。
そ もそも有間係長の目が改善に向いたキッカケ になったのが、このスペースだった。
この方法 で積み付けられるのは一層八箱の段ボールが 八段、計六四箱だった。
これを一層一〇箱× 八段の計八〇箱を積み付けられるように改善 した。
その方法は前と同様、外箱の大きさを小さ くすることだった。
ただし、今度は縦・横の サイズを五ミリずつ縮めた(写真5)。
同時に 高さも五ミリ縮小したが、これはパレット一 枚に積み付ける数が増えたため、重量バラン スを考慮した。
さらに、改善によって箱と箱の隙間がほと んどなくなるため、パレタイザーの構造にも手 を入れた。
「チャック」と呼ばれるパレタイザ ーのツメの部分に、テフロン加工を施し滑り をよくした。
この改善でも生産管理 課や物流本部に協力を仰 いだ。
とくに「二日間か けてパレタイザーの積み 付けプログラムの設定、 ラインテストを繰り返し た設備課には、とても感 謝している。
その結果、 一二五%という改善率を 実現できた。
初めて生産 ラインが一日無事に稼働したときは、とても ワクワクした」と有間係長は当時を振り返る。
最後の改善は、ケーキ用のラインだった。
こ れまで一層に十一ケースを積んでいたが、中 心部分にチャックを抜くための空きスペース が二カ所あった(写真6)。
ここを潰せば外箱 をいじらなくても、一層に十二ケースいける。
一〇九%の積み付け率アップだ。
ところが、ここで二つの問題に直面する。
一 層十二ケースという新しい積み付け方法では、 チャックのスペースが全くなくなってしまう (写真7)。
チャックの滑りをよくするだけでは 解決できなかった。
また、ケーキの入ったケースは密封包装し てあり、この「シュリンク包装」がチャックを 抜くときに、吸着してしまうことも問題にな った。
空きスペースには、こうした吸着を防 ぐ役割もあった。
設備課と検討を重ねて、スペースがなくて JULY 2002 50 写真3 6段積みの改善前(左)とケースの高さを 5mm低くして7段積みにした改善後 合計7機あるパレタイザー もチャックを抜ける形に構造自体を変更。
さ らにチャックに穴を開けて空気を通し、シュ リンク包装が吸着しない工夫を施した。
三つ 目の改善で必要だったチャックのテフロン加 工と、この構造変更で総額九万八〇〇〇円の コストが生じた。
しかし、一連の改善でかか った費用はこれだけだった。
こうして全部で九つあるラインのうち五つのラインで積み付け率が大きく改善した。
目 標であった全体の積み付け率二桁アップを達 成できた。
これによって従来は年間二億円か かっていた横持ち運賃は一億八二〇〇万円に 減った。
年間の節約運賃は一八〇〇万円。
「か かったコスト九万八〇〇〇円に対し、一八〇 〇万円のコスト削減。
申し分のない結果」と 有間氏は満足している。
また、冷凍倉庫内の作業にも余裕が生まれ た。
改善前は、三分二〇秒ごとに一パレット 入庫していたが、現在は一パレットに三分四 〇秒費やすことができるようになった。
そして、 出荷車両の台数も一日あたり二台減るため、年 間六〇〇台分の出荷業務が削減された。
次は「変われハンドパワー」 こうした実績と費用対効果が社内でも認知 された。
現場から経営層へのボトムアップの 改善活動はその後、他の工場にも広がってい った。
この有間係長の「変われパレタイザー」 は、日本ロジスティクスシステム協会の「全 日本物流改善事例大会二〇〇二」でも発表さ れ、「物流合理化奨励賞」を受賞した。
その後も、白州工場では改善活動が続いて いる。
現在のターゲットはバーアイスのライン だ。
このラインでは、段ボールの高さを五ミリ ではなく八ミリ削る必要がある。
今までの改 善はサイズを変えたのは外箱である段ボール のみで、中味である商品の大きさを変える必 要はなかった。
しかし、商品の大きさにも手 を加えなければ、段ボールの高さを八ミリ削 ることはできない。
そこで有間係長は、アイスに差し込まれて いるバー(箸)の部分に着目した。
バーの長 さを変えるか、バーを三ミリ深くアイスに差 し込むことによって、商品全体の長さを縮小 しようというアイデアだ(写真8)。
この改善 活動は六月中にも完了する予定だ。
そして次。
有間係長は「『変われハンドパワ ー』を検討しています。
ミスターマリックで す」といって笑う。
現在、積み付けが完了した各パレットは、フ ォークリフトでパレタイザーから降ろしている。
これに対して新たな改善活動「変われハンド パワー」では、パレタイザーの前に据え付け 型のリフターを設置する。
リフターでパレット を降ろし、後の移動にハンドフォークを使う ことで、フォークがなくても作業を処理でき るようにすることが狙いだ。
というのもフォークリフトの運転には免許 が必要なため、ピーク時の人員の確保が難し い。
免許のいらないハンドフォークでフォーク リフトの代わりができれば、人員の確保も容 易になる。
ただし、この改善にはリフターを 購入する必要がある。
見積額は一台当たり一 九〇万円。
「思いのほか高額だったため、まだ 検討段階だが、既に具体的な方法については 練り上げている」と有間係長は自信を深めて いる。
(夏川朋子) 51 JULY 2002 写真4 改善のキッカケ となった中央のスペース 写真5 縦・横・高さを 5mmずつ縮めた改善後 写真6 チャックを抜くための空きスペース 写真7 改善前(左)と改善後のケーキライン用積み付け 写真8 改善にはあと3mmバーを短くする 必要がある

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