ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
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2002年6号
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商船三井

*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。

JUNE 2002 66 一九六四年といえば、東京オリンピック開 催の年として記憶している読者の方も多いだ ろうが、この年は海運業界にとっても節目の 年であった。
「海運再建整備に関する臨時措 置法」が施行され、大阪商船と三井船舶が 合併して大阪商船三井船舶が誕生した年で もあるからだ。
その後も度重なる海運不況の影響で業界 再編は続き、八九年には山下新日本汽船と ジャパンラインが合併し、ナビックスライン が発足。
さらに、その一〇年後の九九年には 大阪商船三井船舶とナビックスラインが合併 し、現在の商船三井が誕生したという経緯が ある。
その間、海運業界では海外企業とのアライ アンスが積極的に進められてきた。
商船三井 も例外ではなく、九四年以降、様々な海外 企業とパートナー関係を構築した。
現在では 韓 国 の 現 代 商 船 、 シ ン ガ ポ ー ル の NOL ―APLとともに「TNWA(The New World Alliance )」を形成している。
商船三井の歴史をあえて振り返ったのは、 景況が厳しい中でも連結営業利益で五〇〇 億円超を確保できるようになったことが、こ うした合従連衡戦略と密接に関係しているか らにほかならない。
業績のV字回復を達成 厳しいグローバル競争が続く中で、どうや って生き残りを図るべきか。
その対応策につ いての考え方は、五月号で記述した日本郵船 とほとんど変わらない。
少なくともこの二社 が良きライバル関係を築きながら、ともに世 界トップレベルのコスト競争力を保つことが できているのは何故か。
改めて比較検討して みる必要があるだろう。
商船三井の企業カルチャーは、標語として 掲げている「Leave no stone unturned (あ らゆる手段を尽くす)」に示されている。
九 四 年 に ス タ ー ト し た 中 期 経 営 計 画 「 MOCAR90's: MOL's Creative & Aggressive Redesigning 90's 」では、創造 的改革と銘打って、国際競争力の強化のた めに、営業力強化やコスト削減施策を実施し た。
続く九六年からの「MORE 21 : Mitsui O.S.K.Lines'Redesigning for 21」では、グ ループ全体の利益極大化を図るべくグループ 企業ごとに経営計画を策定し、主にコスト削 減策に取り組んだ。
そして、九九年からの 「 M O S T 21 : M i t s u i O . S . K . L i n e s ' Strategy Towards 21」では、ナビックスラ インとの合併効果を極大化させるべく、あら ゆる部門で経営資源の再配分に注力した。
M OST 21 計画時の業績目標は、連結売上高 八八〇〇億円、経常利益三七〇億円の達成 だった。
こうした企業努力の結果、同社の業績は 急速に回復に向かった。
九四年三月期、九 五年三月期と、二期連続で連結経常利益が 第15回 商 船 三 井 商船三井の業績は九六年度を境に急速に回復している。
海外企業との アライアンス戦略やリストラ策が奏功した格好だ。
同社は九九年のナビッ クスラインとの合併でLNG船分野では世界一の船体数を誇る船会社とな った。
世界有数のメガキャリアとしての地位は盤石だ。
ただし、課題も少 なくない。
不定期船や自動車船などの分野に関しては、収益力の改善など の対策が求められている。
北見聡 野村証券金融研究所 運輸担当アナリスト 67 JUNE 2002 赤字、翌九六年三月期もわずか八億円弱の 経常利益を確保するにとどまっていたのが、 九八年三月期には一〇〇億円台、九九年三 月期には二〇〇億円台、そして二〇〇一年 三月期には五〇〇億円台の経常利益を達成 した。
?緻密な経営計画・目標を掲げ、?経営 者が強いリーダーシップを発揮し、?執行役 員制度や役員に対するストックオプション制 度の導入で、責任に対して報いることによる モチベーションの向上を図ったこと――が業 績回復に寄与した。
LNG船部門を強化 二〇〇一年度からは新たに中期経営計画 「MOL next : MitsuiO.S.K.Lines, new expansion Target 」をスタートさせた。
この 計画は最終年度の二〇〇三年度に連結売上 高一兆円、経常利益六六〇億円、当期利益 三四〇億円の達成を数値目標に掲げている。
一方、経営戦略としては、?事業セグメン トの選択と経営資源の集中を通じての成長、 ?コストと品質両面でのグローバルな比較優 位の確保と収益力の向上、?グループコーポ レートガバナンスの強化――を目指している。
ライバルの日本郵船がスケール・シナジー といった戦略の拡がりを検討しているのに対 して、商船三井は特化・深堀り型の戦略を 志向しながら、コーポレートガバナンスとい った経営機能の強化施策を重視している。
過 去の経緯の中で、グループ企業のビジネスポ ートフォリオの違い、財務力の違いなどが、 両社の方向性の差異を生み出しているのだろ う。
事業別に見た場合の二社の相違点は、商 船三井のほうがタンカーやLNG船などエネ ルギー船部門への注力度合いが大きいという 点であろう。
LNG船キャリアとしては世界 最大の船体数を誇る。
タンカー部門全体とし て見た場合でも、ナビックスラインの合併に よって世界第二位の船体数を保有する船社 となった。
今後も、同社はLNGに関して新興成長 市場での営業強化などを進める計画だ。
得意 分野に焦点を絞り、経営資源を集中していく という戦略は大いに期待が持てる。
ただし、定期コンテナ船部門は他社と同様 に厳しい状況に置かれている。
この部門でも ベーシックな合理化施策の追求とアライアン ス戦略に対するフレキシブルな対応が求めら れるだろう。
また、不定期船部門では船腹量に対しての 収益力に改善の余地が見られること、自動車 船部門の将来に対する不透明感が拭えないな ど課題も少なくない。
加えて、財務体質の改 善にも取り組むが必要があるだろう。
同社の株価はかつてほど下落リスクは少な くなっているように思われる。
過去数年間と 比較して、業績のボトムラインが切り上がっ てきたからだ。
しかし、世界的な業界再編が 進んだ場合、現在の時価総額三〇〇〇億円 強という水準は、必ずしも安心できるレベル であるとは言い切れない。
株式市場は今、「M OL next」の実現可能性に最大の関心 を示している。
きたみ さとし 一橋大学 経済学部卒。
八八年野村 証券入社。
九四年野村総 合研究所出向。
九七年野 村証券金融研究所企業調 査部運輸セクター担当。
社団法人日本証券アナリ スト協会検定会員。
プロフィール 商船三井の過去5年間の株価推移 (円) (出来高)

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