ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
ロジスティクス・ビジネスはロジスティクス業界の専門雑誌です。
2002年6号
ビジネス戦記
日本に学ぶ米国

*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。

JUNE 2002 70 EXEテクノロジーズ 津村謙一 社長 サプライチェーンと3PL 米国ではロジスティクスの概念が一九八 〇年代後半に目覚しく変化を遂げた。
調達 物流、資材物流、製品物流、部品物流等が 統合管理されるようになり、従来の個別の 物流機能を統合したロジスティクスへ、管 理概念が進化した。
これによって顧客満足 度(Customer Satisfaction )は著しく改善 され、またトータル物流コストも大幅に低 減した。
さらにこれが九〇年代初頭には、ITの 革命的進歩によって、企業の枠を超え、サ プライヤーから顧客に至るロジスティク ス・パイプライン全体を統合管理するSC E(サプライチェーン実行系システム)に 昇華する。
部品メーカー、生産企業、流通 企業による協業(コラボレーション)と情 報の共有化によって、市場が求める製品を 効率良く供給するシステムが創造されたの である。
しかしながら、当初は試行錯誤も多く、 決して容易な道ではなかったのも事実であ る。
日本では当たり前であった、かんばん システム、ポカよけ、不良ゼロ、TQC (トータル・クオリティ・コントロール)、 多能工制度、ミルクラン、共同配送センタ ー等のコンセプトが、SCMの名の下、米 国で採用されていった。
今でもこれらのわ が国のコンセプトは、そのままの言葉で数 多くの米国企業で使用されている。
こうして従来の物流概念が劇的に進化し た八〇年代後半から九〇年代前半にかけて、 私はニューヨーク州で、GMロチェスター 事業部、DEC、ハネウエル、ゼロックス、 フォードといった米国を代表する企業から、 一連の日本発コンセプトに関してさまざま な問い合わせと指導の依頼を受けていた。
【第3回】 日本に学ぶ米国 八〇年代後半から九〇年代初頭にかけて、米国産業界は 深刻な構造不況に悩まされていた。
その波にもまれながら著 者は業績不振に喘いでいた日系物流企業を、3PLへの業 態転換によって再建しようと奮起した。
しかし、その目論見 はあえなく頓挫してしまった。
これを契機に筆者はビジネス の軸足を物流から、3PL&ITに移していく。
50% 40% 30% 20% 10% マージン率 (業 態) 単機能業者 専属契約 3PL インテグレーター ロジスティクス コンサルタント システム インテグレーター SCM/eコマース プロバイダー 付加価値 ビジネス・プロセス・ アウトソーシング (BPO)の進化 図1 アウトソーサーのマージンと付加価値 資料:アクセンチュア 71 JUNE 2002 とりわけ、GMの燃料系の部品製造部門 のロチェスター事業部、そしてスイッチ関 連とキーボード製品を生産していたハネウ エルのエルパソ工場には通算で何十回も訪 問した。
両社はともに?JITもどき〞の 導入に動いていた。
?もどき〞は失礼かも しれないが、振り返ってみると、そう言わ ざるを得ないレベルの取り組みであった。
それでも当時の 関係者は必死だっ た。
実際、GMロ チ ェ ス タ ー で は 、 こ の 取 り 組 み を 「カンバン・プロ ジェクト」と称し ていたし、ハネウ エルのエルパソで も「Ship to Stock P o i n t プロジェク ト」と命名して会 社を挙げて動いて いた。
具体的には 部品を工場に納品 す る ベ ン ダ ー が 、 生産ラインの受入 検査なしで生産計 画に合わせて納入 する仕組みを導入 しようというプロ ジェクトだった。
しかし、これは 今から思えば無茶 であった。
とりわけ米国のベンダーの納入 部品の品質の悪さにはびっくりさせられた。
JITは不良品ゼロと数時間単位の生産ラ インへの部品供給が大前提になるが、米国のベンダーは、これに全く対応できない。
とりあえず部品のライン供給を一日一回で 開始したが、とにかく不良品が多い。
各組 立作業員の横に置かれたダンボール箱は終 業時には不良品で一杯になってしまう。
ラ インストップの連続で、良品が切れた場合 は「特採」といってサービスキットを解体 して必要な部品を取り出すことまでやらざ るを得ないという状況だった。
当時の米国産業界では、製品開発時にお ける試作や量産試作の評価はとても厳しく、 時間も掛けるが、量産に移行するとまるで タガが外れたように品質を軽視する傾向が あった。
JITの前にメーカーとしての基 本に立ち返ってやるべきことが山積してい たのである。
フォードとコンパック 特に印象的だったのはフォードでの出来 事だ。
フォード自身は傘下のマツダの指導 もあって、さすがにJITについてよく理 解していた。
そのフォードが短納期の製品 開発、ベンダーとの開発コラボレーション、 ベンダーと一緒になっての不良率低減など を実施するため、JITに関して全ベンダ ーとミーティングを持つことになった。
フ ォードのデトロイトのエンジン開発部が、 全ベンダーをデアボーン事務所に召集し、 協力を求めたのだ。
ところがJITの具体的内容を聞く前に、 数社のベンダーが席を立ってしまった。
J ITなど興味もなければ、聞く必要もない というわけだ。
日本では考えられないこと である。
このような状況にあった米国の製 造業が、その後こぞってSCMを導入し、 今日の長期にわたる繁栄を実現したことは まったく驚嘆に値する。
フォードと同様に、コンピュータ・メー カーのコンパックも私にとっては大変思い 出深いクライアントの一つだ。
ハイテク産 業のSCMについて、日本ではデル・コンピ ュータが成功事例として取り上げられるこ とが多いが、ヒューストンを本拠とするコ ンパックがデル以前に様々なコンセプトを 導入していたことはあまり知られていない。
実際、コンパックはデル以前に、ベンダ ーとのコラボレーションによって、製品開 発期間を大幅に短縮することに成功してい た。
部品の購入単価がライバルのメーカー と比較してかなり高いという問題はあった が、それだけコンパックの要求品質は一桁 上であったのだ。
当時、私はシカゴに事務所を構えていた が、コンパックとのミーティングは週末に 行われることも珍しくなかった。
他メーカ ーの半分以下の工程で開発を進める、同社 のスピードに私は本当に驚かされた。
同時 にスペックの厳しさと要求品質の高さにつ いては、過剰品質だと何度も激論を交わし たことを記憶している。
図2 3PLの顧客満足度とサービス レベルの向上(2000年) 10% 5% 5% 3% 資料:アクセ ンチュア コスト 顧客満足度 サービスレベル システム開発とサポート Very Negative 15% 11% 8% 13% Negative 65% 59% 67% 35% No impact Positive Very Positive 2% 2% 11% 23% 21% 47% ― ― JUNE 2002 72 ただし、コンパックはその代価もしっか りと認める会社だった。
ヒューストン工場 のプロジェクトは多能工制度を導入し、部 品供給を周辺のベンダー倉庫からのJIT 対応に切り替えるという改革だったが、こ の時も慣れない多能工制度で従業員がスト レスを溜めないように、工場内ではBGM を流し、作業中の私語を奨励した。
そんな コンパックは私の最も好きな会社であった。
その名前がHPによる買収で消えてしまう のは少々寂しく感じる。
アウトソーシングの拡大 SCMシステムは基本的に計画系のSC P(Supply Chain Planning )とロジステ ィクスの発展型のSCE(Supply Chain Execution )で構成されている。
このうち SCEの特徴は以下のように列記できる。
?企業の経営効率アップとロジスティクス 全体コストの低減に対する即時効果 ?CRMと直結する顧客満足度の向上 ?在庫削減 ?SCPおよびERPに対する質の高いリ アルタイムのデータ供給 ?ROI(Return On Investment: 総資本 経常利益利率)の改善 ?株主価値(Share Holder Value )の改善 SCEは極めて重要な機能である。
しか し多くの企業にとってSCEはコア・コン ピタンスではない。
またSCEの優れた機 能やシステム構築・維持には、膨大なコス トが掛かる。
そのため物流からロジスティ クス、そしてSCEと進化するにつれて、 SCEをアウトソーシングする企業が増え てきた。
今日のキャッシュフロー経営においては、 資産効率が重要視される。
そして3PLの 起用によって資産オペレーションの効率は 大きく改善される。
つまり3PLの起用は ROIやEVA(Economic Value Added: 経済的付加価値)の改善に大きく貢献する のである。
同時に、変化の激しい今日の社会環境に おいては、企業に求められるSCEの機能 とプロセス、それを支えるITテクノロジ ーに、柔軟性と常なる見直しを迫られる。
これもまたアウトソーシングによってプロ セス、テクノロジーの高度専門スキルを獲 得することが可能となる。
このような背景から米国では3PL産業 が九〇年以降、急激に伸張してきた。
ただ し九〇年代前半までは、3PLサイドでも ユーザーサイドでも、Win ―Winの関 係を実感できるような、長期的パートナー シップの確立に至った例はあまり多くない。
これは3PLの能力が成熟していかなか ったということだけが原因ではない。
ユー ザーサイドにも多くの問題があった。
アウ トソースの目的、3PL企業の選択基準、 選択した3PL企業のパーフォマンス評価 があいまいな場合、また単なるコスト削減 を目的とした3PLの起用は、多くの場合、 残念な結果に終わっている。
もちろん3PLサイドにもユーザーのオ ペレーション、製品 特性を充分に理解し ないままのサービス 提供や、不充分なI T武装による情報共 有体制の不備、ユー ザーとの企業文化の 隔たり等で問題を起 こすケースが少なく なかった。
特にリテ ール産業を対象とし た3PL企業にこの傾向が強かった。
こうした課題を一つひとつ乗り越えなが ら、米国の3PLは発展していった。
それ が今日ではBPO(Business Process Outsourcing )、4PL(Fourth Party logistics )、JOM(Joint Operating Model ) といった新しいビジネスモデルを生みだし、ユーザーサイドの満足度を大幅に向上し、 また3PL企業サイドの収益性も伸張する に至っている。
結局、米国における3PL市場の規模は 九〇年代後半から飛躍的な成長を遂げるこ とになるのである。
PROFILE つむら・けんいち1946年、静 岡県生まれ。
71年、早稲田大学 政治経済学部卒。
同年、鈴与入 社。
79年、鈴与アメリカ副社長 就任。
フォワーディング業務、3 PL業務を展開。
84年、米シカ ゴにKRI社を設立し、社長に就任。
自動車ビック3、IBM、コンパッ クといった有力企業とのビジネ スを経験。
92年、富士ロジテッ クアメリカ社長に就任。
98年、 イーエックスイーテクノロジー ズの社長に就任。
現在に至る 図3 3PL利用による経営コスト削減 販売増加 4% ロジスティックス コスト削減 10% 運営資金効率 8% 固定資産削減 18% 資料:アクセンチュア

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