ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
ロジスティクス・ビジネスはロジスティクス業界の専門雑誌です。
2002年4号
ケース
NEC―― 共同化

*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。

APRIL 2002 38 トヨタ生産方式とNEC NECとトヨタ自動車の関係が深まってい る。
NECの西垣浩司社長がマスコミなどを 通じて公言しているように、同社はいま「ト ヨタ生産方式」を手本にサプライチェーンを 効率化しようと躍起になっている。
従来は生 産活動や情報システムに偏りがちだったサプ ライチェーン・マネジメント(SCM)の取 り組みを、物流を含めた本来の領域にまで広 げて業務プロセスを再構築しようとしている。
国内ハイテク企業の先頭グループを走るN ECと、日本一の収益力を誇るトヨタ――。
情 報機器と自動車という違いはあるものの、製 品の開発力という点ではいずれも日本を代表 するトップメーカーである。
しかし、サプライ チェーンの競争力という意味では、両社の実 力には大きな差がある。
情報システムに頼れ ない時代に「かんばん方式」という独自の情 報伝達手法を編み出し、ジャストインタイム (JIT)を追及してきたトヨタは、いわば元 祖SCM企業ともいうべき存在だ。
一方のNECは、九〇年代に米国で発展し たSCMで武装したデルコンピュータに事業 領域を脅かされ続けてきた。
日本市場におけ るNECのパソコン事業のシェアは既にかつ ての半分以下にまで落ちている。
同社とデル のコスト競争力の差は明らかで、そのことを 何よりもNEC自身が一番強く感じている。
もちろん、これまでただ手をこまぬいていた トヨタ系物流業者からノウハウ吸収し 生産主導のSCMを物流分野に拡大 NECがサプライチェーン・マネジメント (SCM)に本腰を入れている。
従来のように 生産やITに偏った取り組みではなく、「トヨ タ生産方式」の導入によって業務プロセスそ のものを再構築しようとしている。
物流面で の支援を求められたNECロジスティクスは、 トヨタの物流子会社、愛知陸運と提携を結ん でオペレーションの高度化を図った。
NEC ―― 共同化 入れている。
トヨタ生産方式の導入が、重要なポイントの一つとなっている。
このプロジェ クトには一人のコンサルタントの存在が大き な影響を及ぼしてきた。
トヨタ系の自動車時 計メーカー、ジェコー出身の岩城宏一氏であ る。
トヨタの張富士夫社長とも近い関係にある 岩城氏を、NECは九〇年代の後半に「生産 革新」活動のアドバイザーに迎え入れた。
こ れが契機になって、両社の関係はぐっと深ま った。
NECが二〇〇〇年一月に新設した経 営諮問委員会の一員として、学者やコンサル タントとともにトヨタの張社長が名を連ねた のも、こうした流れの中でのできごとだった。
もっとも、経営レベルでの交流がいくら盛 んになっても、トヨタ生産方式をNECの現 場に根付かせるのは簡単ではない。
トヨタの モノづくりの?思想〞ともいうべき同方式は、 それまでにNECが取り組んできた工場での 改善活動とは次元の異なるものだった。
部品 や資材を調達する取引メーカーまで巻き込ん で、業務プロセスそのものを変える必要があ った。
なにより、従来のNECに欠けていたのは 「物流」に対する認識だった。
トヨタの「かん ばん方式」のようなプル型の業務プロセスを 構築しようと思えば、生産の同期化はもちろ んだが、それ以上にモノの移動の同期化が欠 かせない。
トヨタ生産方式について多少なりとも知識 わけではない。
最先端のSCMソフトを導入 して需要予測の高度化に取り組み、これと連 動する生産活動の効率化を熱心に進めてきた。
しかし従来のNECの取り組みは、かつて社 内で?生産革新〞と呼ばれていたことからも 明らかなように、工場内に限定されたものだ った。
トヨタが系列の自動車部品メーカーを 巻き込んで、サプライチェーン全体の高度化 に邁進してきたのとは対照的だった。
欠けていた物流への認識 そんなNECが、ようやく三年ほど前から、 物流まで含むサプライチェーン改革に本腰を 39 APRIL 2002 のある人は、効率的 な生産活動には、そ れを支える正確な物 流が欠かせないと口 を揃える。
トヨタの 技術担当者が系列部 品メーカーの現場指 導に出向くときにも、 生産活動を支える物 流の効率化が常に改善活動に組み込まれてい るという。
こうした活動を下支えしているの がトヨタの物流部門であることは、言うまで もない。
これに対して、従来のNECの物流管理は、 トヨタのように生産と一体となったものとは いえなかった。
物流子会社のNECロジステ ィクス(NECロジ)が同社の物流管理の多 くを手掛けているが、その業務領域は生産工 場から先の販売物流が中心。
これまで調達分 野にはほとんどノータッチだった。
愛知陸運との業務提携 NECの社内での物流に対する認識は、S CMに本腰を入れるようになると徐々に変わ っていった。
九九年頃になると効率的なSC Mの実現には、物流が不可欠という認識が浸 透してきた。
これによって従来のように生産 偏重ではなく、業務プロセスそのものを組み 替えることでサプライチェーンを再構築しよ うという動きが盛り上がった。
NECの売上高と棚卸資産回転期間 45,000 40,000 35,000 30,000 25,000 20,000 0 2.0 1.8 1.6 1.4 1.2 1.0 0 《売 上 高》 《棚卸資産回転期間》 (億円) (カ月) 91 年3月 92 年3月 93 年3月 94 年3月 95 年3月 96 年3月 97 年3月 98 年3月 99 年3月 00 年3月 01 年3月 売上高(単体) 棚卸資産回転期間 NECロジスティクスの 五十嵐賢一LSP推進本部長 兼輸配送事業部長代理 APRIL 2002 40 そうは言っても、物流の見直しは一朝一夕 にできるものではない。
長年、JITを追求 してきたトヨタ生産方式には、生産ラインへ の?多回納入〞という特徴がある。
トヨタ系 の部品メーカーは一日に八便から一六便、時 間にすれば一〜二時間おきに、そのときの生 産に必要な分の部品だけを納品している。
工 場で足りなくなった部品の「かんばん」が外 れると、その分だけを必要に応じて補充する という仕組みだ。
トヨタは、この多回納入によって工場が抱 える資材や部品の在庫を極小化し、さらにこ うした取り組みを系列部品メーカーすべてに 拡大することによって、サプライチェーン上の 在庫の総量を減らそうと努めてきた。
この多 回納入の仕組みこそが、NECの調達物流と は大きく違う点だった。
これまでNECの調達物流は、基本的に取 引部品メーカーの物流機能に委ねられてきた。
物流管理も部品メーカーが行い、納品頻度は 物量に応じて変わる。
輸送コストは部品メー カーの負担のため、よほど物量が多かったり、かさばる製品でもなければ、工場への納品頻 度は一週間に数回が限界だった。
この調達物流の仕組みを変えない限り、ど んなに高度なITを導入してもNECのSC Mは前進しない。
こうして調達物流に目が向 けられるようになった結果、NECロジにも 声がかかった。
同社の五十嵐賢一LSP推進 本部長兼輸配送事業部長代理は、「それ以前は NECの社内でSCMの話があっても、当社 に話しがくることはほとんどなかった」と振り 返る。
それがトヨタ生産方式における物流管 理者と同様の役割を期待されるようになった のである。
ところが、前述した通り、NECロジには 調達分野での業務経験がほとんどなかった。
そ のため、NEC本体の生産革新に携わってい たコンサルタントとの関係もあって、物流面 ではトヨタとNECのそれぞれの物流子会社 が協力し合う関係を築いた。
具体的には、ト ヨタが六割以上の株式を保有する愛知陸運(愛 陸)と、NECロジが情報交換のための勉強 会を開くようになった。
九九年末には、NECロジと愛陸は正式に 業務提携を結んだ。
ただ、この提携の内容は かなりあいまいなものだった。
愛陸の樋渡啓 起常務も「基本的な考え方の部分での業務提 携と理解してもらった方がいい」と慎重な言 い回しで両社の関係を説明する。
同じくメーカー系の物流子会社と言っても、 基本的にノンアセットで親会社の物流管理会 社に近い性格を持つNECロジに対し、愛陸 は約一五〇〇の車両を持って現場のオペレー ション業務を手掛ける実運送会社だ。
このた め両社の業務領域はまったく違う。
そのうえ、NECロジは愛陸を通じてトヨ タ生産システムのノウハウを学びたいと考え、 愛陸はNECの協力物流業者として受託業務 を拡大することを狙っていた。
それでも両社 は勉強会を重ね、約一年後の二〇〇〇年の秋 に具体的な共同輸送に着手した。
思惑が外れた物流共同化 実は物流子会社同士の業務提携によって、N EC側ではノウハウの提供だけではなく、ト ヨタとの物流共同化も期待していた。
前述し た通り、NECでは生産工場への部品納入の 多頻度化を志向している。
トヨタ系の物流業 者が「かんばん方式」で運行している調達物 流のネットワークに、NECの部品調達業務 を相乗りできれば、一気に低コストな多頻度 納入の仕組みを実現できるのではないかと考 えたのである。
しかし、この思惑はあっけなく外れた。
「ト ヨタの部材調達は、非常にタイトなスケジュ ールで運用している。
ここに波動の大きいN ECの荷物を相乗りさせるのは難しく、受け 入れてもらえなかった」(NECロジの五十嵐 本部長)ためだ。
現状のNECの生産計画は、トヨタの生産 愛知陸運の樋渡啓起常務取締役 ラインのように三カ月前に平準化した生産計 画を立て、これを実需に応じて修正していく というスタイルではない。
このため取引部品 メーカーとのやりとりの波動も大きい。
将来 的にNECが定時・定量でモノを動かせるよ うになれば可能なのかもしれないが、現在の 物流管理レベルでは、トヨタの調達インフラ に相乗りすることは不可能だった。
結局、NECロジと愛陸の物流共同化は、愛 陸の業務のなかでも比較的、管理の緩い一部 の幹線輸送でしか実現していない。
具体的に は、東北方面に納品したトラックの帰り便でN ECロジの荷物を持ち帰ったり、一部の製品 物流を協力物流業者として請け負うといった 程度である。
物量的にもまだわずかなものだ。
それでもパートナーの愛陸は、この共同化 の取り組みを長い目で見守っていく方針だ。
「我々も営利企業だから、売り上げにつながる ことは期待している。
ただ現状ではNEC関 連のビジネスを年間いくらにするといった目 標は掲げていない。
今は互いに勉強をして、将 来的に大きく育てばいいという段階。
そうい う意味では、NECロジスティクスさんとの 関係は他の荷主のケースとは違う」(愛陸の樋 渡常務)。
車両の運行効率を二倍にする 愛陸との物流共同化こそ思惑通りには進ま なかったが、NECロジの物流効率化そのも のは確実に前進している。
同社は日頃、数百 社に上る協力物流業者と、多くの傭車を使って物流業務をこなしている。
ここ数年のNE Cロジは、取扱物量が横這いを続ける状況下 で傭車の台数を減らし続けてきた。
同社輸配送事業部の鎌田好郎部長代理によ ると、「九九年三月に約一二〇〇台あった傭車 が、物流共同化や積載効率の向上に取り組ん だ結果、一年後の二〇〇〇年度末には一〇〇 台減った。
さらに二〇〇一年度末には約一〇 〇〇台になっている。
二年間でだいたい一七% の車両を削減した計算になる」という。
NE Cロジとしては、将来的には六〇〇〜七〇〇 台ぐらいまで減らせると考えている。
鎌田部長代理が所属する輸配送事業部は、 昨年十二月に新設されたセクションである。
同 部は、NECロジの扱う日常の物流データを しっかりと管理することによって、共同化や 積み合わせを進める役割を担っている。
傭車の数を半減したいという目標設定から も分かるように、これまでのNECロジは積 載効率の向上には熱心とはいえなかった。
「お客様から納品時間の希望を言われれば、 それに機敏に応えるのが我々の仕事のやり方 だった。
だからこそ積載効率がどうのという 以前に、お客様の利便性をいかに高めるかと いう意識が強かった。
その結果、高くなって しまった物流コストを下げるため、今は複数 の工場を回ったり共同化などに取り組むこと によって運用効率を高めようとしている」と 同社の五十嵐本部長は説明する。
さらに、親会社のSCMの取り組みが物流 分野に拡大されたことを追い風にして、これ まではほとんど手掛けてこなかった調達分野 での業務も積極的に開拓している。
九九年の 時点でNECロジが調達分野で取り引きのあ った部品メーカーは八〇社に過ぎなかった。
そ れが現在では六〇〇社まで拡大している。
従 来は部品メーカー任せだった物流を、NEC ロジが共同集荷便などを仕立てることによっ て取り込んできた結果である。
現時点でNECが資材調達をしている取引 ベンダーは約六五〇〇社ある。
これを三割削 減して四五〇〇社にする活動を進めている最 中だが、いずれにしてもNECロジと取引関 係のある六〇〇社というのは、ごく一部でし かない。
まだまだ取り込める余地は大きい。
仮 に傭車の数を半減しつつ、こうした分野の開 拓にも成功すれば、NECロジの生産性は飛 躍的に高まる。
将来的に物流専業者と競争し ていくためにも、これは同社にとっての至上 命題でもある。
(岡山宏之) 41 APRIL 2002 NECロジスティクスの鎌田好郎 輸配送事業部長代理

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