ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
ロジスティクス・ビジネスはロジスティクス業界の専門雑誌です。
2005年4号
特集
実録!中国物流 フットワークエクスプレス

*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。

APRIL 2005 16 銀行マンから物流マンに転身 フットワークエクスプレスの上海駐在員である高田 真人にとって、中国への赴任は十年越しの夢だった。
学生時代の二度の旅行を通じて中国のスケールの大き さにすっかり魅了されてしまった。
「将来は中国で仕 事をしてみたい」という思いがあったが、これまでは 実現する機会に恵まれなかった。
今回ようやく念願が 叶った。
憧れの中国で充実した毎日を過ごしている。
「上海に派遣されて間もなく一年が経過しますが、よ うやく仕事や生活にも慣れてきました。
仕事の成果で すか? 私の費用分はきちんと賄えているはずです。
赴任当初、駐在員は私ひとりでしたが、年明けからは アシスタントをつけてもらっています。
戦力を増やし てもらった分、もっと稼がないといけませんね」 高田は九二年に慶応大学を卒業後、東京銀行(現・ 東京三菱銀行)に入行した。
他の金融機関や総合商 社などからの誘いを蹴って、同行を選んだのはほかで もない。
外国為替専門の東京銀行なら、いずれ中国に 関連した業務を手掛けるチャンスが巡ってくるのでは ないかと考えたからだ。
しかし入行後、いつまで経ってもその機会は訪れな かった。
「香港経済における中国の不可分性について」 というタイトルの論文を書き上げ、行内の懸賞論文コ ンテストに応募した。
見事、最優秀賞に輝いたが、中 国赴任の切符を手に入れることができなかった。
どうしても中国で仕事がしてみたい。
日増しにその 思いが強くなっていった高田は、思い切って銀行を辞 めることにした。
中国に留学して中国語をマスターす るためだ。
中国語が話せれば、中国で働ける会社はい くらでも見つかる。
そう考えたのである。
日中友好協 会の試験を見事パスして奨学金を手にし、九八年から 約一年間、北京語言文化大学に留学した。
日本に帰国後、米系金融情報会社ブルームバーグ を経て、二〇〇〇年にオリックスに入社した。
しかし ここでも中国ビジネスとはほとんど接点がなかった。
配属されたのは投資銀行本部という部署で、任された のは不動産の証券化や企業再生といった業務。
やりが いのある仕事だったが、せっかくマスターした中国語 は活かせない。
オリックスには台湾への語学留学制度 があり、それに応募したものの、一度中国への留学経 験があることを理由に、落選してしまった。
ようやく中国ビジネスに携わるチャンスが巡ってき たのはオリックスに入社して三年が経過した二〇〇三 年だった。
中国語を使いこなせるというキャリアが海 外事業部の目に留まり、台湾関係の投資の仕事を任 されるようになった。
勤務地は日本のままだったが、 この仕事で中国に一歩近づいた。
しばらくすると再び転機が訪れた。
「フットワーク という会社で中国の営業責任者を募集している。
やっ てみないか?」と投資銀行本部の上司である嶺英俊 氏に声を掛けられたのである。
二〇〇四年一月、フッ トワークはオリックス傘下で経営再建をスタートさせ た。
フットワークの会長を兼務していた嶺氏から誘い があったのはその直後。
中堅の特積み業者から「アジ アで活躍する3PL」への転身を目指すフットワーク が、荷主企業の進出が相次ぐ中国に営業拠点を用意 するという話だった。
中国赴任という言葉に惹かれた 高田に迷いはなかった。
二〇〇四年の三月末にオリッ クスを退社し、フットワーク入社を決めた。
「正直なところ、フットワークという会社について はほとんど知識がありませんでした。
二〇〇一年に経 営破たんする少し前に、フットワークは『運送料債権 の証券化』に着手しているのですが、そのニュースを フットワークエクスプレス―― 金融ノウハウで勝負する物流マン 中国で仕事がしたい――。
その夢を実現するためフッ トワークに転職した。
銀行出身の元金融マンは、これ までの物流会社とは違う切り口で、中国市場の開拓に 成功している。
武器は金融のノウハウと物流を組み合 わせた商品だ。
(刈屋大輔) 第2部 現地駐在員たちの悪戦苦闘 17 APRIL 2005 特 集 聞いて『面白いことをする会社があるんだな』と社名 を知っていた程度です。
しかし物流会社への転職に不 安はありませんでした。
不安よりも中国で仕事ができ ることが何よりも嬉しかった」 物流の知識がなくても太刀打ちできる 大学を卒業してからおよそ一〇年間、金融業界を 渡り歩いてきた。
物流ビジネスの経験はゼロ。
自他と もに認める物流の素人である。
そんな高田が現在、百 戦錬磨の日系物流企業に中国でどうやって太刀打ち しているのだろうか。
しかもたった一人で。
「SCMや3PLといった言葉は覚えましたが、物 流の細かい部分についての知識はまだまだ勉強中です。
しかしそういう細かい部分は昔から物流に携わってい る人たちに任せればいい、と割り切っています。
すで に中国に進出している日系物流企業と互角に渡り合 っていくためには、彼らが提供しているサービスと差 別化できるものが必要です。
私のセールスポイントは 何か。
それは金融のノウハウです。
金融の知識を含め た物流の総合的な提案で勝負することにしました」 昨年五月に上海に赴任してから約一年間、元・金 融マンであることを最大限に生かして中国の物流市場 を開拓してきた。
その結果、この一年で数件の新規案 件を受注している。
このうちの一つは顧客企業に対し て中国における会計処理方法をアドバイスしたことが きっかけで物流業務の受注に漕ぎ着けたという。
企業 の財務、税務、会計といった金融のノウハウが豊富な 物流マンは日本、そして中国でも珍しい。
それだけに 重宝されている。
「SCMは単なる物流の話ではないと思っています。
SCMに取り組むことで企業の収益やキャッシュフロ ーがどのように改善されるのか。
経営者はそこに注目 しています。
物流会社の営業マンは物流の個々の業務 についての改善スキルは持っています。
しかし管理会 計など金融の知識に乏しい。
これに対して、私は金融 の話などを含めた大局的な提案が可能です。
金融を切 り口にした物流提案に『おたくは面白い物流会社だ ね』と言ってくれる企業も増えています」 現在、高田には今後の拡販に大きな期待を寄せて いるサービスがある。
トレードロジスティクス――。
簡単に言えば、貿易代行と物流をパッケージ化したサ ービスだ。
このサービスを利用すれば、わざわざ中国 に現地法人を立ち上げたり、中国の貿易会社と取引 しなくても、誰でも簡単に日本から持ち込んだ商品を 中国国内で販売できるようになるという。
フットワークが中国側に現地企業一〇〇%出資の 貿易会社を用意する。
ただしこの会社は貿易ライセン スを保有するだけのペーパーカンパニーだ。
日系企業 はこの会社を通じて中国に自社製品を送り込む。
その 後、フットワークの提携先である中国の物流会社「S T―ANDA」のネットワークを使って中国各地に製 品を供給していく、という仕組みだ。
「従来、中国でモノを売ろうとする企業にとって、一 番のネックは日本から製品を輸入する場合、中国の貿 易会社を経由しなければならないという点でした。
中 国の貿易会社と取引すれば、その分マージンを取られ ます。
これに対して、トレードロジスティクスではペ ーパーカンパニーを経由するため、日本企業側が主導 権を握って中国に製品を輸入できます。
もちろん手数 料はいただきますが、中国の貿易会社との取引で発生 するコストよりも格段に安く済みます」 金融のノウハウを武器に中国の物流市場に挑む。
上 海駐在二年目に突入する高田の営業活動がいよいよ 本格化する。
(=文中敬称略) ●フットワークは提携先の「ST-ANDA」の拠点網を  利用することで中国1075都市をカバーしている リードタイム 都市カバー率 24時間以内 29.2% 24〜48時間 43.7% 72時間以上 9.5% 48〜72時間 17.6% フットワークエクスプレス 高田真人 営業開発部 ヴァイスプレジデント

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