ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
ロジスティクス・ビジネスはロジスティクス業界の専門雑誌です。
2002年3号
特集
その後の物流ベンチャー ベンチャー企業の次のステップ

*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。

横文字嫌いのアナタのための アングロサクソン経営入門《第12回》 MARCH 2002 38 物流子会社を買収する ――今回はベンチャー企業の特集です。
入江 ベンチャーで思い出したけれど「マネーの虎」 という深夜番組を知っていますか。
ベンチャー企業の 成功者たちが、起業家のタマゴの事業計画を評価して 実際に投資するという番組です。
私はよく見るんです が、なかなか面白い。
なかでもアダルトビデオを制作 しているソフト・オン・デマンドの高橋がなり社長は イイ。
彼はクリエイターとしての自分を捨てて、経営 者に専念したから会社が成功したと自分を分析してい る。
全く正論です。
――物流ベンチャーの起業家たちに話を聞いてみても、 最初は社長自身の馬力でどんどん成長するけれど、売 上高で一〇〇億円程度まで達する頃に一つの壁にぶつ かるようです。
その段階で本格的に株式公開に着手す るパターンが多い。
入江 そうみたいですね。
弊社の調査でも同じ結果が 出ています。
物流ビジネスはそもそも一つの案件当た りの取引サイズが、せいぜい数億円ですから、数十億 円から一〇〇億円という規模が第一ステップになる。
――起業家が自分で営業に回って管理できる限界が一 〇〇億円ということになるのかな。
入江 一人の起業家でできるのはそのレベルまでだと 思います。
それを超えるサイズとなると組織力が必要 になる。
物流マーケットのサイズ、オポチュニティ (機会)から考えても、一〇〇億円を超えるサイズの 物流会社は一人で管理できるほど簡単ではない。
実は 当社もそのクラスの物流会社を、どうやって組織化し てレベルアップさせるかということをターゲットの一 つにしています。
――一つ上のクラスとなると一気に一〇〇〇億円規模 になりますね。
日本の物流業界全体の中で見ても二〇 位以内に入るトップクラスの物流企業ということにな ります。
入江 そのクラスになると、供給側の能力を整備すれ ば達成できるという話ではなくなる。
需要のほうも押 さえないと実現できない。
――いくら供給能力があっても具体的な荷主を掴まな いと成長できないということですね。
そのための具体 的な方法の一つが既存の物流子会社の買収です。
ベン チャー企業が今、株式公開を目指すのも、そうした子 会社の買収資金を調達するという狙いがあるようです。
入江 当然の判断でしょうね。
ただし、物流子会社の 買収で重要なのは荷主として親会社、つまり需要がつ いてくることです。
買収後にも引き続き業務を委託し てもらえるように親会社に保証してもらう必要がある。
その場合の具体的な契約期間としては、七年が理想 的だと言われています。
もっとも、親会社のほうでは 二〜三年しか認めようとしないので結局、三〜五年程 度に落ち着くケースが多いようです。
――親会社の仕事がついてこない物流子会社を買収す るのはキツイ? 入江 キツイですね。
――また例え親会社の仕事がついて来ても、あまりに 制約の多い業界の物流子会社では変革が難しい。
その 意味では買収対象として有望なのは、自動車業界と 電機業界の物流子会社だと思います。
入江 全く同感です。
日用雑貨品のように色々と入 り乱れた業界の物流子会社は、そう簡単には手を出せ ない。
メーカー主導の物流にもなっていない。
投資を 回収するのに時間がかかり過ぎる。
――ちなみに、投資家といわれる人たちは企業買収に よってどの程度のリターンを期待しているのでしょう。
入江仁之 キャップジェミニ・アーンスト&ヤング副社長VS 本誌編集部 ベンチャー企業の次のステップ ITバブルの崩壊を生き残ったベンチャー企業は株式の公 開で調達した資金を物流子会社の買収に充てようとして いる。
買収された物流子会社は組織の「トランスフォーメ ーション」を経て、サプライチェーン統合の経済モデルに 適応したモデルに組み替えられる。
39 MARCH 2002 特集その後の物流ベンチャー 入江 ベンチャーキャピタルやプライベート・ファイ ナンスがベンチャー企業に投資する場合、ターゲット とする運用利回りは二〇〜三〇%と言われていますね。
――それは新規株式公開が前提になるのですか。
入江 ベンチャーキャピタルであれば最低、店頭公開 が前提になりますね。
そこでキャピタルゲインを得て、 トータルで見たときに投資額に対して年率で二〇〜三 〇%の利回りになるように設計する。
――ただし、ベンチャーの場合はリスクが大きいので、 宝くじを買うように、たくさんのベンチャーに投資し て、そのうちいくつかが当たって全体で利回りを確保 する。
一方、既にできあがった物流子会社を買う場合 はリスクも少ないが、一つの案件当たりのリターンも 少ない。
入江 そういう形になりますね。
組織を変革する三ステップ ――しかし、日本でも本当にそうした話が当たり前に なってきましたね。
入江 当社を含め大手のコンサルティングファームは 今、ビジネスの軸足をそっちの分野に移しています。
―― コンサルティング会社が? 私の持っているコン サルタントのイメージとは違うな。
クライアントに報 告書を出して大金をもらうけれど、自分では何もしな いというのがコンサルタントでしょう。
とくに外資系 の。
入江 恐らくアナタが考えているタイプのコンサルテ ィングの仕事は今後、なくなっていきます。
従来型の コンサルティングは、どんどん減ってきている。
――そんなことはないでしょう。
いまだにマッキンゼ ーやボストンといった戦略系のコンサルタントは存在 します。
入江 しかし、規模は大きくならない。
実際、かつて は戦略系と言われていた大手の多くが既にベンチャー キャピタルにシフトしています。
少なくとも当社は従 来型のコンサルティングから転換している。
当社キャ ップジェミニの場合、もはや従来の意味でのコンサル タントではなく、アウトソーシング・ビジネスの会社 という位置付けです。
ちなみにアクセンチュアやIB Mも同じ方向を目指している。
実際、各社ともプライ ベート・エクイティに近い機能を持つようになってい る。
つまり、JOM(ジョイント・オペレーティン グ・モデル:本誌二〇〇一年四月号参照)のモデル になっているんです。
コンサルティングではなく、オ ペレーションのジョイントを企画し、移行運用する会 社です。
――コンサルティングは止めたのですか。
入江 もちろんコンサルティング機能も残っているけ れど、それはアウトソーシング・ビジネスの三つのス テップの最初の一つに過ぎない。
すなわち、「コンサルティング」から入って、組織を「トランスフォーメ ーション」して、「オペレーション」するという三つの ビジネスラインの一つです。
――三つのビジネスライン? 入江 まず「コンサルティング」のステップで目指す べきビジネスモデルを設計する。
それに従って変革を 実行するのが「トランスフォーメーション」。
具体的 にはシステム導入、組織改革と業務改革です。
そして 改革後の運用が「オペレーション」ということになり ます。
コンサルティングからトランスフォーメーションま でも実施する点で、単なる業務委託のアウトソーシン グとも全く異なります。
「JOMプロバイダー」と呼 ぶのが最も実態に近いかな。
MARCH 2002 40 ――でも、コンサルティング会社が自分でオペレーシ ョンに手を出したら、クライアントと競合することに なるはずです。
入江 競合しないところでやる。
――そんなことが可能ですか。
入江 もはやコア・コンピタンスを明確に定義しない 会社は当社のクライアントではあり得ません。
何でも やる、という会社は今の経営環境では成功しない。
あ らゆる企業が何にフォーカスするかという課題に直面 している。
限られたリソースを有効に活用して、会社 の価値を高めていくことが今日の企業に与えられてい る前提条件ですから、特化するところが自ずと決まっ てくる。
となれば、クライアントの特化した部分と当 社とが、かぶらないように一緒に連携していくという のは当然のなりゆきです。
コンサルティングの終わり ――提案書一本で数億円という形のコンサルティング はもはや通用しない? 入江 そもそも、こうしなくてはいけないという「べ き論」が時代的になくなってしまっている。
――どうすべきかは、誰の目からも既に明らかになっ ているということですか。
入江 この連載で繰り返し説明しているように、マネ ジメントのベースになっている経済モデルの変化とい うのがあるわけです。
そうした変化は普遍的なもので あって、それを改めて調査して確認するというコンサ ルティングはもはや価値を持たない。
――しかし、そうした大きなトレンドを個別企業の処 方箋に落とし込むところにコンサルタントの仕事があ るわけでしょ。
入江 確かにそうです。
だから環境の変化に適応する ために企業をトランスフォーメーションして、最終的 にオペレーションするという改革の一部としてのコン サルティングなら今でも意味がある。
しかし、コンサ ルティングの部分だけを言いっ放しにして終わるとい うビジネスは成り立たない。
勝手なこと言って、実際 のビジネスに着地できないのなら意味がない。
――しかし、着地する部分までコンサルタントに頼る ようでは、そもそもその会社の存在意義が問われるの では。
組織としての意志がない。
入江 だからこそ、今日の組織は自社のドメインを明 確に定義して、そこに集中するわけでしょ。
それが組 織としての意志です。
その結果として自分のドメイン の外側が残る。
すると今度は、それを誰にアウトソー シングするのかという問題が出てくる。
その外と中を 決めるだけのコンサルティングというのは価値がない。
境界線を決めたら、それをどうやって実現するのかま でやらないとダメなんです。
かつてのコンサルティングは、クライアント企業が 全て自分の責任で実現するという前提だった。
だから コンサルティングだけ、提案書だけでも意味を持って いた。
やることさえ決まれば後は社内で済んだからね。
実際、かつて大企業は全ての機能を社内に持っていた。
極端な例では旅行代理店までグループ内に抱えていた わけです。
そこでのコンサルティングというのは、何らかの改 革をして効率を追求するとか、新しいビジネスを展開 するということがテーマだった。
コンサルタントは報 告書を提出するだけで、実現するのはクライアント自 身だったわけです。
ところが今は全く環境が違う。
改革のターゲットと なっているのは既存組織の効率の追求や新規事業では なく、自分のコアとなる部分は何かという問題を明確 コンサルティングからJOMプロバイダーへ JOM コンサルティング コンサルタント クライアント 実行責任 経済モデル クライアント 規 模の経済性 JOMプロバイダー サプライ チェーン統合の経済性 クライアント・バリューチェーン アウトソーシング トランスフォーメーション コンサルティング コンサルタント JOMプロバイダー 41 MARCH 2002 に定義して会社全体を専業化させるところです。
そし て、専業化した中で効率を追求する。
一方、専業化した以外のところは外部と連携する。
経済社会全体のネットワークの中で一つのモデルを運 用するわけです。
そうなると、「境界線を決めて、そ れで終わり」ではクライアントは提案を実現できない。
実現性のない報告書を出してもしょうがない。
――分からないなあ。
だって社内で全てのプロセスを 持っている場合でも、それは同じでしょう。
完璧な報 告書をコンサルタントに作らせても、それが実現でき なかったという話はいくらでもある。
入江 ふう。
いいですか。
社内で完結するコンサルテ ィングは境界線を決めることがテーマではなく、どう いうモデルにするかという議論が中心です。
その後、 実際にモデルを作っていく段階でも社内が相手です。
だから最終的に成功するか、しないかは別にして、実 行はできる。
ところが今日のサプライチェーン統合の経済モデル では、ビジョンを描いても、外と連携する部分が社内 では実現できない。
ビジョンを描いても、実現性がな くなってしまったわけです。
本業はトランスフォーメーション ――むしろ社内で準備する必要がないので実現しやす くなったと言えるのでは。
入江 ビジョンを実現するためには、連携する相手を 外部から連れてくる必要がある。
連携する相手がいな かったら、ビジョンは「絵に描いた餅」に終わってし まう。
――そうか。
やっと分かってきました。
連携するプレ ーヤーが、企業として特定できないと意味がないわけ ですね。
入江 そうです。
そこで例えば物流の部分であれば、 当社のような企業が当事者として入って全体のモデル を実現して運営するという形があり得る。
――連携するために適当なプレーヤーがいない場合に は、コンサルティング会社が当事者になるわけですね。
もしくは、新しく会社を作ってしまうということにな る。
入江 作る必要がある場合も多いでしょうね。
――それはクライアントが自分で作るのではなく、そ れこそ資本を投資会社が出して、マネジメントをコン サルタント、オペレーションを物流会社といったプレ ーヤーから集めて新しい組織を作る。
入江 それがジョイント・オペレーティング・モデル です。
当社は、既に世界各地にオペレーションを担う 組織を設けています。
そこでクライアントが「外」と 判断した部門を、人も含めて引き取る。
分野としては ITだったり経理部門だったり、物流もその対象にな る。
その後、当社はその部門のオペレーションの効率を最適化させるためにトランスレーションし、、ビジ ネスとして成り立たせる。
――そういう会社を日本にも設置しているのですか。
入江 当社の場合、現在はシンガポール法人の出先 機関という位置づけですが近々、日本法人を立ち上げ る予定です。
アジアでは別に中国にも設置している。
――その場合にコンサルティング会社の収入になるの はコンサルティング・フィーではないですね。
入江 全然違う。
そうしたオペレーション子会社の運 営収益がベースになる。
責任を負ってリスクと利益を 共有する。
もうコンサルティングではありません。
要 は組織をトランスフォーメーションするところが、当 社の本業になってきた。
そういう時代なんです。
――コンサルも楽じゃないね。
入江仁之(いり え・ひろゆき) キャップジェミ ニ・アーンス ト&ヤング副社 長。
製造・ハイ テク自動車産業 統括責任者。
公認会計士合格後、 約20年にわたり経営コンサル ティングを行う。
とりわけサプ ライチェーン・マネジメント分 野では国内屈指のスペシャリス トして評価が高い。
ハーバード 大学留学を経て、都立科学技術 大学大学院、早稲田大学大学院 などで客員講師をつとめる。
著 書訳書多数。
プロフィール 特集その後の物流ベンチャー

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