ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
ロジスティクス・ビジネスはロジスティクス業界の専門雑誌です。
2002年3号
ケース
雪印アクセス―― 拠点政策

*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。

MARCH 2002 52 相次ぐ不祥事で親離れ宣言 スノーブランドを奈落の底に突き落とした 雪印グループの一連の不祥事は、雪印アクセ スにとっても当然、他人事ではない。
偽装牛 肉事件を引き起こした雪印食品との取引額は 全体の一%にも満たないという。
しかし、雪 印乳業などを含めた雪印ブランド全体では実 に二五%に達する。
それでも、雪印アクセスは「仮に小売りの 店舗の棚から雪印ブランドがすべて消えたと しても生き残れる」(流通業界関係者)と言わ れている。
実際、雪印アクセスの後藤征一取締役営業 本部流通政策部長は「同じスノーマークを冠 する企業としてイメージダウンは避けられない。
ただし、当社は雪印ブランドの商品のみを扱 っているわけではない。
取引メーカーは現在 約四〇〇〇社を数える。
一連の不祥事の影響 は他のグループ会社に比べ小さいほうだと思 う」という。
一昨年の雪印乳業による集団食中毒事件以 降、雪印グループ各社は苦境に立たされてき た。
とりわけ他社製品も含めた定温商品の一 括物流を柱としている雪印アクセスにとって、 もともと特定メーカーの冠は必ずしもプラス にだけ働いていたわけではなかった。
業績を 維持するためにも、一刻も早く雪印の看板を 外したい、というのが雪印アクセスの本音だ ったに違いない。
合併に伴う物流拠点の統廃合を終え 和日配品の全国物流ネット構築へ 不祥事相次ぐ雪印グループの中の数少ない 優良企業。
チルド食品卸としてダントツの売 上高6600億円を誇る。
93年の5社合併後に進め てきた物流拠点の統廃合にメドが立ち、現在、 次のステップとして和日配品の全国物流網の 整備に乗り出している。
雪印アクセス ―― 拠点政策 業が当社に追いつくのは無理だろう」(後藤取締役)という自信があるからだ。
売上高六六〇〇億円、物流拠点一八五カ所、 冷蔵施設の延べ床面積一〇万平方メートル― ―実際、同社はチルド、冷凍食品を中心に扱 う食品卸としてダントツの売り上げ実績があ り、なおかつ強大な物流インフラを持ってい る。
全国一八五の物流拠点 現在、雪印アクセスの物流ネットワークは 大きく分けて?地域の中堅食品スーパーや零 細小売店までをカバーする物流機能を持った 支店・営業所、?特定の小売業向け一括物流 センターであるMD(マーチャンダイジング) センター――の二つの機能で構成されている。
拠点の数は支店・営業所一一〇カ所、MDセ ンター七五カ所という内訳になっている。
九三年に島屋商事、雪印商事、仁木島商事、 雪印物産、東京雪印販売の五社が合併して会 社が発足した当時、支店・営業所の数は、約 一八〇カ所あった。
それを同社は九年間掛け て七〇カ所減らしてきた。
同じ営業地域で重 複している拠点を統合して、新たに大型拠点 を建設する。
スクラップアンドビルド方式で 拠点の統廃合を進めてきた。
それでも現行の支店・営業所のネットワー クは完成型とは言えないという。
「事務処理な ど間接コストを削減するためにも、この数は まだまだ減らしていく必要があるだろう。
ただ しかし、雪印乳業が五一%の株式を保有す る子会社である以上、そのことを口外するの は、これまでタブーとされてきた。
ところが、 雪印食品による偽装牛肉事件が発覚して以来、 風向きは変化している。
雪印アクセスの経営 トップ自ら雪印の看板が足かせになっている ことを指摘、親離れしたい意思を表明するよ うになった。
雪印アクセスがそこまで強気な姿勢を貫け るのは「これから当社と同レベルの物流ネッ トワークを張り巡らそうというのは非現実な 話だ。
合従連衡でもしないかぎりライバル企 53 MARCH 2002 し、数を減らしすぎると今度は全国均一のサ ービスを提供できなくなる恐れもある。
地域 性も考慮したうえで適正な数を見極めたい。
ま た、一つの拠点でドライ、チルド、フローズン の三温度帯をカバーしているケースもあり、今 後は集約と並行して温度帯別に機能を特化さ せた拠点を増やしていく」と後藤取締役は説 明する。
一方、MDセンターは五社合併以降、増加 の一途を辿っている。
小売り側の一括物流に 対するニーズを受けて、雪印アクセスでは特 定小売り向けセンターを全国各地に用意して きた。
現在、MDセンター七五カ所に対して、 業務受注企業数は一一九。
コンビニエンスス トアが一五社で、残りはGMSを含めた食品 スーパーが対象となっている。
「小売り自身が一括物流センターを建設する という時期もあったが、徐々にアウトソーシ ングが進んできた。
こうした流れを受けて、当 社のMDセンターの数は増えてきたし、今後 も増えていくことが予想される。
帳合いの部 後藤征一取締役営業本部流通政策部長 雪印アクセスの埼玉支店 MARCH 2002 54 分で小売りとの関係を深めるという意味でも、 その数を増やしていきたいという気持ちがあ る」と後藤取締役は説明する。
中間流通業は売り上げ規模は大きいが、利 益は僅かしか残らない商売だと言われている。
それは直近の雪印アクセスの業績を見ても明 らかで、二〇〇一年三月期(連結)は売上高 六六三八億四八〇〇万円に対して、経常利益 三一億四七〇〇万円、経常利益率は〇・五% だった。
それでも九三年の合併以降、雪印アクセス は、多い年には五〇億円、少ない年でもコン スタントに二五億円の物流設備投資を続けて、 ネットワークの整備を進めてきた。
チルド、冷 凍食品の分野で全国物流網を持った企業は皆 無に等しく、多少無理をしてでも物流網を整 備しておけば、それが武器となってビジネスを 拡大できるチャンスが訪れると判断したから だ。
結果として、その選択は間違っていなかっ た。
実際、チルド、冷凍の物流ネットワーク の緻密さで雪印アクセスの右に出る企業は見 当たらない。
しかし、雪印アクセス自身は現状に満足し ておらず、前述した通り、物流ネットワーク はまだまだ完成型とは言い切れないとしてい る。
引き続き、積極的な物流関連投資を続け て、支店・営業所とMDセンターを中心とし たネットワークの拡充に取り組んでいく方針 だという。
業界初の和日配全国物流網これと並行するかたちで、現在、雪印アク セスでは「和日配品」向けの物流網の整備に 力を注いでいる。
納豆、練り物、佃煮、漬け 物といった和日配品を全国各地から調達して、 全国各地の小売りに提供するための物流ネッ トワークづくりを進めている。
この取り組みは 業界初という。
高齢化社会を迎えるにあたって、和日配品 は今後需要が拡大する有望分野と目されてい る。
既にその兆候は見られており、雪印アク セスでは二〇〇二年三月期、和日配事業で売 上高五六〇億円(前年同期比一七%増)を達 成する見通しだ。
さらに、二〇〇四年度には これを一〇〇〇億円にまで拡大するという目 標を掲げている。
和日配品はこれまで、賞味期限が短かった り、中小零細メーカーが多く販路が開拓され ていないために、地域ごとに需給が完結して いた。
極端な言い方をすれば、青森で販売さ れている豆腐を東京の消費者が口にすること はほとんどなかったのだ。
ところが、最近の地域特産品ブームの影響 で、「地域限定の和日配品を食べてみたいとい う消費者が増えてきた。
これを受けて、小売 り側も販促の目玉として変わり種の和日配品 が欲しいというようになってきた」(中井忍流 通政策部流通政策課長)。
こうしたニーズを満 たそうというのが、和日配品の全国物流網の 整備に乗り出す動機となっている。
雪印アクセスが打ち出していた具体的なネ ットワーク構想はこうだ。
まず、全国の六支 社(東北、関東、中部、近畿、中四国、九州) に「マザーデポ」と呼ばれる日配品専用の物 流センターを設置する。
ここで各地域の特産 和日配品を一括在庫して、オーダーを受けた らそれぞれのマザーデポに横持ち輸送をかけ る。
マザーデポから各支店・営業所、MDセ ンターを経由して、和日配品を得意先(小売 店舗、または雪印アクセスが担当していない、 他の卸が運営する小売りの一括物流センター) に供給する、という仕組みだ。
既に昨年十一月からマザーデポの設置を進 めており、現在までに関東、中部、近畿、中 四国の四カ所の稼働を済ませた。
今年四月に は東北、今年中には九州の拠点が立ち上がる 計画だ。
北海道については、業務提携先であ る杉野雪印アクセスがマザーデポを用意する 2000年度食品部門売上高ランキング ?雪印アクセス ?菱食 ?国分 ?加藤産業 ?伊藤忠食品 ?旭食品 ?明治屋 ?三友小網 ?西野商事 ?ナックスナカムラ 6,432 6,242 5,733 3,686 3,456 2,888 2,588 2,196 2,023 1,713 社 名  食品部門売上高 出典:雪印アクセスホームページ (単位:億円) という。
「当社が和日配品を仲介することで、中小零 細のメーカーは販路拡大につながる。
一方、小 売り側は当社を通じてどんな和日配品が売れ 筋なのか、死に筋なのかといった商品情報を 入手することができるようになる。
また、これ まで和日配品はメーカーごとに直接店舗や一 括物流センターに納品されていたが、これを 当社による一括納品という体制に改めれば、発 注、荷受けの作業が楽になるはずだ」と中井課長はその狙いを説明する。
ただし、この和日配品の全国展開には不安 材料も残されている。
品揃えを充実させたか らといって、必ずしも小売りが雪印アクセス 経由での仕入れに切り替えるとは限らない、と いう点だ。
これまで和日配品の取引に卸はほとんど介 在してこなかった。
メーカーと小売りの直取引が主流だった。
それだけ両者の 結びつきは強く、 これを切り崩す のは雪印アクセ スといえども容 易なことではな いと見られてい る。
「地域スーパ ーには和日配品 メーカーと二人 三脚で会社を大 きくしてきたと いう意識がある し、付き合いも 古い。
そう簡単 には食い込めな い」(中井課長) と雪印アクセス でも厳しい戦い になることを覚 悟している。
残るは生鮮ネットワーク 今回、雪印アクセスが和日配品の物流ネッ トワークの整備に乗り出したのは、ドライ系 の有力食品卸が相次いでチルド、冷凍の分野 に進出していることも背景にある。
冒頭にも 述べたように、雪印アクセスの物流機能はこ の分野では群を抜いている。
後発組がそのレ ベルにまで追いつくにはかなりの時間を要す るが、同じ商品群を扱う競合が増えることで、 これまでの雪印アクセスの優位性が揺らいで くるのは間違いない。
ただし、今まで誰も手をつけてこなかった 和日配品の全国物流網構築で成功を収めれば、 小売りに対するサービスの差別化という意味 で、また一歩前に出ることができる。
実際、雪 印アクセスはそれを狙っている。
「和日配品ま でを含めた食品のフルライン化を実現できる 卸は当社しかいない」(後藤取締役)と自信を 深めている。
雪印アクセスにとって、チルド、冷凍食品 の分野で手つかずなのは生鮮品だけとなった。
「和日配品の次は生鮮品。
とりわけ青果物の物 流をどうするかが今後の課題だ。
実際、一部 地域では青果物の扱いも始めている」(後藤取 締役)という。
チルド、冷凍食品の完全フルライン化に向 けた雪印アクセスの挑戦は、これから本番を 迎える。
(刈屋大輔) 55 MARCH 2002 本社 支社 支店  東京近郊 (東京・千葉・埼玉・神奈川)  大阪近郊 (大阪・京都・兵庫・和歌山・奈良) 雪印アクセスの物流ネットワーク(営業所、MDセンターは除く)

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