ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
ロジスティクス・ビジネスはロジスティクス業界の専門雑誌です。
2002年1号
特集
世界水準のロジスティクス 中央集権型のSCMは機能しない

*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。

JANUARY 2002 20 米国同時多発テロの教訓 ――米国でのテロが、企業のSCMに与えた影響につ いてどうお考えですか。
いくつかの影響が考えられます。
まず、輸送手段へ の影響です。
一つの輸送方法が機能しなくなった場合 のために、商品を顧客に届ける方法を複数形成する必 要性が出てきました。
企業が気付いた二つ目の点は、 誰がどこで何を扱っているかといった、サプライチェ ーンにおけるトラッキングの重要性です。
テロからそ れほど時間が経っていないため、まだシステムに大き く手を入れる余裕はありませんが、多くの企業がサプ ライチェーンのセキュリティ向上の研究を進めるとと もに危機管理の向上を図っています。
――なぜトラッキングが重要なのですか。
いかに商品を安全に顧客に提供するかについて、こ れまで以上に注意深くする必要が出てきたからです。
原料の時点から商品がリアルタイムでどこにあるのか といった全ての情報をトラッキングすることによって、 問題が起こった際、その問題がどの時点でどのように して起こったのか、それが品質の問題なのか、通常の 商品に関する問題なのか、はたまた第三者によって、 例えば食品や飲料に何かが加えられたために起こった 問題なのか把握できます。
問題が起こった時点を明 確にして、チャネルに手を加えることも可能になりま す。
――在庫のロケーションに関する影響は? 倉庫やロジスティクス・オペレーションのセキュリ ティを向上させる必要があると思われます。
これまで は「ただの倉庫だから、誰もテロなどの標的にはしな いだろう」と考えられていましたが、例えば野球場へ の運搬物に爆弾をしかけられるなどといった可能性も 出てきました。
誰がいつどのように犠牲者になり得る のか、またテロの道具に利用され得るのかどうかを、 多くの企業は意識しています。
――テロの前には突然のITスランプがありました。
あのような大きな変化を予測できなかったことへの反 省から、米国ではアダプティブというコンセプトに注 目が集まっているようですか。
当社も現在、「アダプティド・インベントリー・マ ネジメント(AIM)」というコンセプトでサービス を展開しています。
もともと当社の欧州のエンジニア たちが軍隊のために開発したものなのですが、例えば 嵐や建物の問題などにより、一つの倉庫が機能しない 状況でも、残りの倉庫のみで機能させるというアイデ アです。
構 造 上 こ れ は 「 流 通 す る ソ リ ュ ー シ ョ ン ( Distributed Solution )」と言えます。
分散している ソフトウェアのエージェントが互いに連動することに よって、在庫がネットワークのどこに位置しているの かという情報がリアルタイムで保たれ、商品の物流 をベストな状態にします。
つまり、失敗の中心点が ない。
ただし、確認しておきたいのですが、我々は悪いニ ュースを利用しようとしているわけではありません。
当社はこのテクノロジーを一年以上前から開発してき ました。
中央集権型のシステムは機能しないという認 識のもと、我々は(テロの起きた)「9/ 11 」以前か らこのアプローチの価値を認めていました。
したがっ て、9/ 11 が理由ではありません。
しかしながら9/ 11 以降、人々がシステムというものがどれほど脆いも のなのか気づいたことによって、アダプティブ・アプ ローチの価値がもっと理解されるようになったとはい えるでしょう。
「中央集権型のSCMは機能しない」 テロによって、米国では商品のステータスをリアル タイムで管理できるトラッキング・システムの必要性 が再認識されている。
同時に従来の中央主権型のサプ ライチェーンに対して、揺り戻しが起こっている。
EXEテクノロジーズレイモンド・フッド社長兼CEO 第3 部予測できない変化に適応する 21 JANUARY 2002 ――それは、これまでのネットワークが中央集権型だ ったことに対する揺り戻しなのでしょうか。
私は従来のネットワークの全てが中央集権型だった とは考えていません。
実際、中央集権型ではないもの も少なくありませんでした。
基本的にサプライチェー ンがシンプルな構造であるのなら、中央集権型は機能 します。
しかし、多くの量販店や顧客が関わる複雑な サプライ・ネットワークでは、早急な状況変化に対応 し得る中央集権型モデルは実現不可能か、もしくは非 常に困難です。
エージェント理論を活用 ――判断を分散させても全体として機能できる理由を 説明して下さい。
AIMの基本的なアイデアはネットワークでインテ リジェントを流通させることであり、各部分を機能さ せることです。
これは「Emergent Behavior 」と呼ば れるコンセプトで、システムが個々のプレーヤーの非 常にシンプルなルールに則った行動によって作動して いる場合、コントロール機関がない状況においても機 能することを指します。
渡り鳥がV字の連隊を組んで飛ぶのはその一例です。
どの鳥がリーダーか。
リーダーはいないんですね。
先 頭を飛ぶ鳥はいます。
しかし、その鳥が常に先頭を飛 んでいるかと言ったら違う。
他の鳥と交代するんです。
しかし、V字の形は崩されることはない。
魚の群につ いても同様の事が言えます。
蟻の巣についても然りで す。
蟻の巣は非常にシンプルな仕組みになっているの ですが、蟻の行動はとても複雑に見えます。
AIMは非常にシンプルなソフトウェア・エージェ ントによって保たれています。
その一つひとつは、倉 庫とそこに集まるオーダーのモニタリングを始めとし、 倉庫のステータス、ドアが正常に機能しているか、道 路状況は大丈夫か、鉄道貨物に問題はないかなどと いったことを管理するシンプルなソフトウェアなので す。
そして、他のエージェントと「この商品があるが、 そちらで必要か」、「電気系統の故障で閉鎖しているた め、他のエージェントを利用してくれ」といった簡単 なコミュニケーションを取ることで、在庫移動の中で の「Emergent Behavior 」を可能にします。
この連 動に人間の頭脳は必要とされません。
しかも例え一部 分が欠如したとしても、残りの部分は機能し続けるの です。
――現場の実行系に「アダプティド・テクノロジー」 を導入した場合、中央の計画業務は必要なくなるので しょうか。
計画もまだ重要な役割を担っています。
しかし、そ れはあくまで長期的な役割です。
例えばサプライチェ ーンを設計するときに、どこに倉庫を建てるか、また商品の循環路、トラックを何台調達しなければならな いか、などといった、長期的ビジョンが必要とされる、 一年や数カ月といったタイムフレームにおいては非常 に有効です。
これに対して実行における決断は、分、 時間、日単位で下されます。
こう言うと計画は短期的には機能しないのかと思わ れるかも知れませんが、計画は機能しないというより、 在庫管理においての短期的な役割がないのです。
まあ、 計画ソフトを作っている人たちは、自分たちは短期的 役割も担っていると言っていますが、実際にはやって いませんね。
――それはショートタームの計画が当たらなかったと いう反省からきているのでしょうか。
そうです。

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