ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
ロジスティクス・ビジネスはロジスティクス業界の専門雑誌です。
2003年12号
SCMの常識
グローバルロジスティクス?

*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。

SCMの常識 講 座 ▼講師 理論編 坂本欣昭 ベリングポイント シニアコンサルタント      実践編 杉山成正 ベリングポイント ディレクター DECEMBER 2003 70 今回から二回にわたり、グローバル・ロジス ティクスについて解説します。
サプライチェーン・マネジメントの対象範囲 が一つの国にとどまらず、多国間にまたがる場 合、ロジスティクスにはいろいろな制約条件や 課題が発生します。
距離や時間の問題に加え、 その国の商慣習や法律、規制、インフラなどの 影響が避けられないからです。
グローバル・ロジスティクスの実務も、まず はその対象範囲を定め、現状調査を行うこと から始まります。
次に現状調査の結果を受け て、あるべき(To ―be)ロジスティクスにつ いての戦略を策定します。
そしてTo ―beモデ ルを実現するための障害や制約条件、課題を 明確にし、それを一つひとつ検討/解決してい くのです。
このうち今回は現状調査がテーマです。
■■コスト構造の検討 ご存知のように国際物流は近年、市場のグ ローバル化や情報化、規制緩和などにより大 きく変革しています。
多くの製造業者や流通 業者が、SCMの一つの機能としてグローバ ル・ロジスティクスを位置付け、その高度化 に取り組んできました。
同業他社との差別化、 そして過剰な在庫の削減とキャッシュフロー の最大化が目的です。
しかし、その成果を十分に享受できている 日本企業は多くはありません。
期待していた 効果を、獲得することができないのはなぜなの か。
製造業者を例に、話を進めてみましょう。
製造業者は、工場などの生産拠点を所有し、 雇われた作業員が材料を加工して製品を作っ ています。
このとき、土地や建物、そこで働 く方々の人件費などの固定費が発生します。
その製品を作るための材料費も必要です。
そ して全ての企業が固定費や原材料の削減に取 り組んでいます。
損益分岐点を引き下げるこ とで、利益を増加させようとしているのです。
そのために多くの製造業者が近年、アジア や東欧などへ進出しています。
しかし、結果 はご存知の通りです。
生産コストは予定通り 削減できても、トータルコストは減っていな い。
現地生産された製品を最終消費地へ輸送 するために、高額な輸送コストが発生し、当 初の効果が獲得できない、もしくは半減して いる場合が少なくありません。
拠点や部門がグローバルに点在している場 合の全体最適は容易ではありません。
多国間 取引の場合、FOB、CIFなどの契約条件 (仕切り)が異なるため、当事者間でも相手の 物流コストが見えなくなることがたびたびあ ります。
ましてやグローバルに複数の拠点間で取引している場合、全体の現状を把握し、 正しく意志決定するのは至難の業です。
結局、 トータルコストを上手くコントロールできな い状態になってしまうのです。
コスト構造の全体を把握しない限り、グロ ーバル・ロジスティクスを管理することはで きません。
そのためにはグローバル・ロジス ティクスを構成する要因を一つひとつ整理し て実態を調べ、制約条件を明らかにする必要 があります。
この現状調査でよく発見される 制約条件、つまり多くの企業が陥りやすいグ ローバル・ロジスティクスの課題を以下に紹 介します。
■■物理的な制約 ITの進化は国際間取引に大きな影響を与 グローバルロジスティクス? 理論編 〈第7回〉 71 DECEMBER 2003 えました。
Webや電子メールの普及により、 ボーダーレス化、タイムレス化など国際拠点間 の距離は短縮されました。
しかし実際に物を動 かすロジスティクスの領域は、今でも物理的な 制約、すなわち拠点間の地理的な距離や、輸送 手段の物理的なスピードという制約を抱えてい ます。
例えば物流インフラが整備されていない中国 内陸部の場合、上海などの港湾地区からの輸 送手段は限られてきます。
トラック便で一〇〇 〇?以上を輸送することも珍しくありません。
未舗装道路が多い当地での輸送には、リードタ イムが長いだけではなく、交通事故や車輌故障 など多くのリスクが潜在しています。
予定通り に輸送できないのです。
また昨年は北米西海岸を中心に港湾ストが 長期化しました。
その回避策としてカナダやメ キシコ、北米の東海岸からの迂回輸送や航空輸 送への振り替えが行われましたが、輸送できる 量には限りがあります。
結果として多くの企業 が納期や手間、物流コストへの影響を避けられ ませんでした。
こうした地域的な問題だけでなく、企業が在 庫削減を進めた結果、オーダーの急激な変化や、 品質不良の発生などの突発的な事象に対応で きず、航空輸送での緊急輸送が頻繁に行われる ようになってしまったというケースも見られま す。
このような物理的な制約は、リスク・マネジ メントという視点から検討する必要があります。
グローバル・ロジスティクスを構築する場合、 取り扱う商品によってどの程度リスクを盛り 込み、計画を立てるべきか、そのバランスが重要になってくるのです。
■■ 情報システム面の制約 グローバル・ロジスティクスを支える重要 な機能として、情報システムがあります。
S CMは、売り上げのタイミングと生産のタイ ミングを一致させるよう努力し、在庫投資を 最小限に抑え、商品回転率を上げるところに、 その本来の目的があります。
そのためには情 報システムの活用が必要不可欠です。
しかし グローバルにSCMシステムを展開していく 場合には、さまざまな阻害要因が発生してき ます。
もっとも多く見られるのは、コード体系や マスター管理などの問題です。
システムをグ ローバルに運用していくための共通ルールが 構築されていないのです。
それまで各地の拠 点では、それぞれ独自のコードやマスター体 系に基づいてシステムを運用してきました。
そ のルールをグローバルに標準化するには、シ ステムの数だけシステムや業務プロセスを変 更する必要があります。
それを実施していくプロセスでは、コード の桁数の増加によってシステムへの負荷が増 大することから、新たな情報化投資を迫られ たり、なかにはコードの桁数や管理している マスター情報自体の制限などにより、グロー バルには統一できないケースなどが出てきま す。
管理すべき情報処理のタイミングの問題も あります。
グローバルにロジスティクスを展 開する場合には、受発注処理や在庫引当て、 そして在庫照会などの処理をリアルタイムで 行わなければならないケースが少なくありま グローバル・ロジスティクス構築のためのステップ グローバル・ロジスティクス構築の一般的なステップは、以下の通りである。
このPDCAサイクルを繰り返し、物流QDCのレベルを高めていく。
グローバルな SCMの範囲を 設定 現状(As-is)の 把握業務 あるべき姿 (To-beモデル)の 構想策定 現状調査 モデル構築の ための課題/ 制約条件の抽出 現行業務/ プロセスの改革 To-beモデルの 修正 新To-beモデルの 構築/実現 グローバルロジスティクス構築における一般的な課題、制約条件 ? 物理的な制約  e.g. 地理的形状、多国間における距離、時間、物流インフラ、リスク管理 ? 情報システム面の制約  e.g. コード体系、マスター管理、更新のタイミング、システム間の互換性、 運用ルール ? 輸出入業務における課題  e.g. 輸出入通関の処理方法、関税・法令の変更による価格への影響 DECEMBER 2003 72 ここまで、SCMに関係する各部門がワー クショップを通じて、新しいサプライチェー ン導入のコンセンサスをいかに形成していく かを紹介してきました。
そこには一筋縄では いかない組織間あるいは立場の違いによる葛 藤がありました。
さらに、この新しいサプラ イチェーンを本当に実現できるのか? とい う点について、メンバーの多くはまだ半信半 疑です。
販売部門 「週次で生産計画を見直しするメリ せん。
二四時間常に取引が行われているため です。
もちろんこれは取り扱いを行っている業種 や商品の特性、受発注方法によっても異なり、 決められたタイミングでのバッチ処理や、そ の処理回数を増やすことで対応できるケース もあります。
しかし、その場合でもバッチ処 理が情報システム面での重要な制約条件にな ることを認識する必要性があります。
■■輸出入業務における課題 最後の重要なポイントとして、輸出入業務 における制約条件があります。
特に大きなも のは、輸出入時に発生する通関処理と、法律や法令などの改正です。
輸出入時の通関処理 は、各国によってその処理方法や処理時間な どが異なります。
いつも同じリードタイム(日 数)で、通関処理ができるという保証もあり ません。
これらはSCMにおけるリードタイ ムなどの計画に影響を与えます。
各国の政策、自国産業の保護を目的とした 関税改正や輸出入量の制限などの影響も免れ ません。
全体の方向性としてはEUやアセア ンなどの地域共同体やFTAなどによる、関 税や規制の撤廃や緩和が進んでいますが、そ の国の政策次第では、海外での生産や販売が 撤退/縮小に追い込まれる可能性も否定でき ません。
以上のように、グローバル・ロジスティク スにおける制約条件や課題は、一国内での取 引と比較して格段に複雑で多様です。
これら のポイントに留意して現状調査を行うことが、 グローバルなSCMを構築していくうえでの 重要なファクターになるのです。
ットは分かったけれど、本当にその計画通り に生産・出荷できないと販売店の信頼を失う ことになる。
その点は絶対に生産計画を守る と約束して欲しい」 生産・物流部門 「いや絶対とはいえない。
現 場では、日々いろんなトラブルが起こる。
設 備の故障や、不良品もゼロとはいかない。
特 に新商品で、開発が遅れて生産準備の時間が 不足している場合は、生産を始めてから工程 上の問題が出てくるから現場も大変だ」 販売部門 「それでは、販売店に情報提供など の協力をお願いしておいて、サービスは良く なるどころか在庫切れを起こすかもしれない ということか」 生産や物流の現場で、一〇〇%計画通りに うまくいくことなど考えられません。
どこかで 思わぬ障害が発生するものであり、それに迅 速に対応するのが生産・物流部門を管理する 人間の役割でもあります。
しかし、実際に現場でどのような問題がど 〜計画と実行の壁〜 改革の現場から 実践編 73 DECEMBER 2003 講座SCMの常識 のくらいの頻度で発生し、それにいかに迅速に 対応し、影響を最小限に食い止められるかは、 その企業、その工場、その商品センターの管 理およびオペレーションの品質によって大きく 異なります。
そもそも営業部門や経営層からの無理難題 や例外的対応の要求が、現場での混乱の原因 になっている場合が少なくありません。
営業部 門から責められれば、生産・物流部門は当然、 反論します。
結果はいつもの泥仕合です。
生産・物流部門 「在庫切れを起こさないよう に最大限の努力はする。
しかし、営業部門に も現場を混乱させないように考えて欲しい。
あ ちこちの営業担当が業務ルールを無視して、生 産計画を変更しろだの、今日中に出荷しろだ の、毎日のように言ってくる。
どこかで無理を とおせば、どこかにその影響がでる。
もぐらた たきをしているようなものだ」 販売部門 「それは、最初の計画通りに出荷で きなくなるからだ。
代わりの商品で対応したり、 こっちは販売店との調整で大変だ」 ワークショップの最後では、「自分たちの実 力を正しく認識する」ことが求められます。
需 要の変化に瞬時に対応することが理想であっ ても、実際には、営業にも物流にも生産にも 自分たちの努力の限界というものがあります。
すぐに改善できない根の深い問題があります。
生産管理レベルと作業者のスキルのアップ をいくら重ねても生産計画を一〇〇%守るの は至難の業です。
また営業部門にしても長年 続けてきた顧客との取引慣習や特別なサービ スを、明日からきっぱりやめるとはいきませ ん。
計画は実行可能なものでなければ意味が ありません。
部門の立場を超えた発想が不可 欠です。
「計画を立て、みんなで共有する以上、この 計画をやり遂げないといけない。
計画が守ら れないと、顧客からも、社内からも信用を失 ってしまう」 「計画は実行可能なものでないといけない。
半年先にチャレンジして達成できる姿を描こ う」 「それに、計画とそれを運用するルールをみん なが守らないといけない。
自分の成績・評価 だけを考えてルールを無視する人が一握りで もいれば、みんなが迷惑する」 ITは魔法の杖ではありません。
ITは計 画立案のスピードアップとその計画情報の共 有には大きく貢献してくれます。
しかし実際 にオペレーションを行うのは、ITではなく 現場です。
この計画と実行の間にあるギャッ プを放置してしまうと、現実には何も変わら ないことになってしまいます。
それどころか、 計画変更が頻繁に行われる分、現場の混乱は ひどくなる。
そんなことがよくあります。
現場の実力を見極めて、実行可能なサプラ イチェーン計画のレベルを決めること。
その 計画を遵守するためのルールを定めること。
そ れを当事者が冷静に判断するのは容易ではあ りません。
むしろ第三者である我々のような SCMコンサルタントが腕を揮うべきところ と言えるのかも知れません。
さかもと・よしあき大手物流会社にて国内物流 機能の企画、渉外活動に従事。
その後、海外にて 主に日系企業を中心に、現地ロジスティクス業務 の企画、業務設計、立上げに参画。
現在は、 ERP導入に伴う倉庫、輸送、梱包、貿易などの ロジスティクス業務設計を中心に、グローバル SCM構築のコンサルタントとして活躍。
PROFILE すぎやま・しげまさ機械電子メーカー、日系シ ンクタンクを経て、2002年にべリングポイント 入社。
SCM戦略の策定と推進、SCMシステムの 導入のコンサルティングに従事。
現在、同社ディ レクター。
著書に「図解サプライチェーンマネジ メント」(日本実業出版社・共著)、「ERP〜 SAP R/3〜によるSCMシステム構築技法」 (ソフトリサーチセンター・編著)、「図解でわか るビジネスモデル特許」(日本能率協会マネジメ ント・共著)。
中小企業診断士。
AGI認定TO Cコンサルタント“Jonah” PROFILE

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