ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
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2003年11号
ケース
相鉄ローゼン&菱食―― 一括物流

*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。

NOVEMBER 2003 26 見学者の絶えない物流センター 神奈川県厚木市の中心部から車で三〇分ほ ど走った相模川の河川敷沿いに、食品卸大手 の菱食が約四八億円を投じて建設した物流セ ンターがある。
敷地面積約二万平方メートル、 延べ床面積約一万九〇〇〇平方メートルの三 階建ての大規模センターは、神奈川県を中心 に六一店舗を展開する中堅食品スーパー・相 鉄ローゼン向けの一括物流センターだ。
昨年 十一月に稼働した。
この「相鉄ローゼン愛川物流センター」(愛 甲郡愛川町)には、本格稼働して以来、各界 からの見学者が後を絶たない。
本誌が取材し た日も財団法人流通経済研究所が十数人の物 流マンを引き連れて視察に訪れていた。
菱食 にとって愛川物流センターは「規模、投資額、 設備の面でSDC(Specialized Distribution Center =小売業向け一括物流センター)の 代表格といえる拠点」(勝間田政治センター 長)。
SDCの広告塔という位置付けでもあ るため、これまで見学者を積極的に受け入れ ているという。
愛川物流センターの 最大の特徴は加工食品 と日用雑貨を店舗に一 括で納品している点だ。
加工食品、菓子、酒類 などを「ドライ食品」 というカテゴリーでま 加工食品と日雑を集約した新拠点 稼働1年でオペレーションも軌道に 昨年11月、加工食品と日雑品を一緒に処理 する一括物流センターを新たに稼働させた。
三種類の自動倉庫を駆使して店別・陳列レイ アウト順納品を実施。
ノー検品や陳列業務の 簡素化など店舗側の物流作業負担を大幅に軽 減することに成功している。
複雑な現場のオ ペレーションも既に軌道に乗ったという。
相鉄ローゼン&菱食 ―― 一括物流 相鉄ローゼンの 吉田雅夫商品計画部長 27 NOVEMBER 2003 とめ、物流センターを一本化している小売業 は珍しくない。
ただし、それに日雑を加えて 「グロサリー」という大きな括りで管理して いるケースは稀だ。
日本では一部のコンビニ チェーンで実施されているものの、相鉄ロー ゼンのような中堅スーパーではほとんど例が ない。
商品の入荷から出荷までのフローはどうい う順番になっているのか。
どんなマテハン機 器を採り入れ、それをどのように活用してい るのか。
見学者たちのお目当ては先進的とさ れるグロサリーの一括物流が実際にどう動い ているのか。
現場のオペレーションの様子を 自分の目で確かめることにある。
これまで加食と日雑が一緒に処理されてこ なかったのは、取扱アイテム数が膨れ上がっ てオペレーションが複雑化してしまい、セン ター運営が容易ではないためだ。
菱食自身、 過去にはヨー クベニマルの 一括物流で失 敗した経験が ある。
しかし 今回の相鉄ロ ーゼンの場合、 センターが稼 働して以来、 特に大きな混 乱もなくオペ レーションで きているという。
秘訣とは何か。
センターの見学者は皆、それを探ろうとしている。
センターを訪れた物流マンの大半はオペレ ーションの完成度の高さに舌を巻いて帰って いく。
もっとも、中には「小売りの一括物流 センターでここまでマテハン武装する必要が 本当にあるのだろうか。
店舗への納品形態も 細かすぎるのではないかと指摘する見学者も いた」と相鉄ローゼンの吉田雅夫商品計画部 長はいう。
事実、センターには最新のマテハン設備が 随所に導入されている。
そのためセンター運 営を任されている菱食、そして相鉄ローゼン の双方が「同業他社にどんなに時間を与えて 見学してもらっても恐らく真似のできないく らい複雑な仕組みになっている」(勝間田セ ンター長)と口を揃える。
いったいどのよう な施設なのか。
実際にセンター内に足を踏み 入れる前に、まずは両社による一括物流の歴 史と、今回新たにセンターを建設することに なった経緯を簡単に説明しておこう(二〇〇 二年十一月号特集記事参照)。
窓口問屋制度の導入に苦労 相鉄ローゼンが一括物流に乗り出したのは 九〇年代初めだった。
物流機能の充実した卸 を店舗配送の窓口に指名して、その卸に同じ 商品カテゴリーを扱う他の卸の商品も含めて 一括で店舗納品させる「窓口問屋制度」導入 の一環として、一括物流センターの設置を決 断した。
ローゼンの打ち出した構想は、同制度で成 果を上げていたイトーヨーカ堂に倣って商品 カテゴリー、温度帯別に一括物流センターを 数カ所用意。
そこから店舗に商品を供給して いく、という内容。
そのパートナーとして選 んだ相手が菱食だった。
九三年、菱食は加工食品を対象にした相鉄 ローゼン専用センター「厚木グローサリーセ ンター」を立ち上げた。
これを皮切りに、翌 九四年には冷凍食品用の「立川低温物流セン ター」、さらに九五年には弁当など総菜品用 の「座間総菜センター」の運営をローゼンか ら受託している。
こうしてローゼンは菱食を中心的な委託先 として一括物流センターの設置を進めていっ たが、残念ながら肝心の「窓口問屋制度」導 入は失敗に終わった。
計画では一括物流セン ターを五〜六カ所に絞り込むはずだったが、 実際にはセンターの数は青果物用などを含め 一四カ所にまで膨れ上がってしまったのだ。
集約化に反対する既存の取引卸の抵抗を退け られなかったことがその原因だ。
一四カ所の一括物流センターが乱立してい る状況は明らかに非効率だった。
配送トラッ クの店着時間はバラバラ。
店舗では商品の荷 受け作業に多くの時間と人を投入せざるを得 ない。
販売業務に専念できないという状態が 続いていた。
一括物流の導入でノー検品の実 現や欠品率の改善に成功したものの、ローゼ 相鉄ローゼン愛川物流センター NOVEMBER 2003 28 ンとしては必ずしも満足のいくレベルとは言 い切れなかった。
この体制にメスを入れることが決まったの は二〇〇〇年に入ってから。
今度のプロジェ クトは前回よりもさらに一歩踏み込んで、一 括物流センターを温度帯別に三カ所に集約し てしまおうという内容だった。
その第一弾が 今回のグロサリーの一括物流である。
もともと一般食品で三カ所、酒と菓子がそ れぞれ一カ所ずつ、日用雑貨二カ所の計七カ 所に分散されていた常温商品の一括物流セン ターを「愛川物流センター」に一本化すると いうものだ。
狙いははっきりとしている。
店 舗業務の簡素化だ。
荷受け業務を簡素化する ことに加え、予めセンター側で店頭の棚レイ アウト順に商品を仕分けしておくことで、商 品陳列作業の迅速化を図る。
「物流センターで済ませられることはすべて センターで処理してしまう。
そうすることで 店舗側で発生する物流作業の負担を限りなく ゼロに近づける、というコンセプトだ。
それ を実現したためにフロント(店舗)を軽くし てバック(物流センター)を重くした分、重 装備なマテハン機器と複雑なオペレーション の仕組みが必要になった」と吉田部長は説明 する。
愛川物流センターの一日当たりの処理量は DC(在庫型)商品で二万二〇〇〇ケース、 TC(通過型)商品で五〇〇〇ケース。
その 量は極端に多いわけでもない。
しかし前述し た通り、同センターは商品を店舗別、通路別、棚別に仕分けてから店舗に納品しており、一 般的な小売り向け一括物流センターよりも細 かい作業が要求される。
現場のオペレーショ ンは容易ではない。
実際に同センターでは商品の入荷から出荷 までをどう処理しているのか。
以下で作業フ ローを追っていくことにしよう。
定番品の当日納品が可能に 入荷は毎日午前六時から正午までに行われ る。
まず各ベンダーから送られてくる商品を 無線スキャンを使って検品する。
その後、大 量出荷が見込まれるケース商品はフォークリ フトで「2連式プッシュバックラック」もし くは「3連式プッシュバックラック」に一時 保管する。
一般のケース出荷商品とバラ出荷 商品はパレット自動倉庫に格納する。
酒類・ 不定形商品の一時保管には「コンビネーショ ンラック」を利用している。
次に出荷作業。
大量出荷のケース商品は無 線端末を搭載したバッテリー車を使用する。
バッテリー車は「カートラック」と呼ぶ納品 用のカゴ車を二台牽引している。
ピッカーは 端末の指示に従ってカートラックにピッキン グした商品を積み付ける。
酒類・不定形商品 はカートラック一台と無線ハンディで処理す る。
続いてケース出荷商品。
パレット自動倉庫 で一時保管されているケース出荷商品は、最 初にケース用の自動倉庫「ファインストッカ ー」に送られる。
ファインストッカーを使っ てケースごとに店別・陳列レイアウト順に仕 分ける。
ここを通過した商品はオートラベラ ーでシールラベルを貼付後、コンベヤを経由 して各積み込みスペースへ。
作業員はシュー ターから降りてくる順番通りにカートラック に商品を積みつけていく。
菓子などバラ単位で出荷する商品はデジタ ルピッキングシステムを活用する。
ユニーク なのは移動式の検品台を導入している点だ。
場所を固定せず、必要な場所で検品すること ができる。
ピッカーの動線を短くするなど作 業の迅速化を図れるという。
オリコンに詰められたバラ商品はコンベア で「オリコン自動倉庫」に搬送する。
ここで ケース商品と同じように店別・陳列レイアウ ト順に仕分ける。
その後オリコンは、カート ラックにオリコンを自動的に積みつける「オ リコン自動積付機」へ移動する。
最後に、積 み付けが済んだカートラックを出荷スペース に運ぶ。
店舗への配送は一日二回。
定番品と特売品 とに分けている。
もともと定番品は受注日の 翌日に納品していたが、センター稼働後は午 前十一時四五分までに注文すれば、店舗は当 日の夕方五時半までには商品を受け取ること ができるようになった。
一方、特売品のリー ドタイムは一週間前後だったのを、四日にま で短縮した。
29 NOVEMBER 2003 センターの完成度はまだ七〇% このように複雑なオペレーションを展開し ているにもかかわらず、同センターはこれま で大きなトラブルを一度も発生させていない。
例えば、今年八月は「店舗からのクレームは たったの二件」(吉田部長)にすぎなかった。
その結果、稼働後一年で早くもコスト削減 効果が出ている。
愛川物流センターと同規模 (年間取扱高二四〇億円)の物流センターで 必要とされる運営コストを一〇〇とした場合、 現在の愛川物流センターの運営コストは九二 の水準にある。
さらに在庫は前年比三億円の 削減に成功した。
それでも、「特売品の需要予測精度を高めたり、毎日発注を隔日発注に切り替えていく といった課題がまだ残されている。
センター の完成度は現状で七〇%くらい」(吉田部長) と厳しく自己評価している。
実は愛川物流センターは運営形態が同業他 社の一括物流センターとは大きく異なってい る。
一般に小売業の多くが卸や3PL(サー ドパーティー・ロジスティクス)に一括物流 センターの運営を丸投げしているのに対して、 ローゼンはセンターで使用するマテハンの選 定、オペレーション方法など細部にまで口を 挟んできた。
センターの運営母体はあくまでもローゼン。
菱食はセンターオペ レーションの委託先 で、しかも卸という よりも3PLという 位置付けだ。
実際、 ローゼンがベンダー からセンターフィー を徴収し、それをベ ースに菱食にセンタ ー運営費を支払うと いうルールになって いる。
このような運営形 態を採り入れたのは 「常にセンター運営 の主導権を握ってお き、自分たちの思い通りに物流を展開する」 (吉田部長)ためだ。
ベンダーから徴収するフ ィーと菱食に支払い費用の差額を自分たちの 懐に入れて儲けるのが目的ではない。
ローゼ ンでは?泣かすベンダー、卸、小売りはなし〞 をモットーに、センター運営に掛かるコスト を一〇〇%開示することでセンターフィーに 対する不透明感を排除している。
最終的に物流改革を通じてローゼンが目指 しているのはパートタイマーだけで運営でき る店舗を作り上げることである。
そのために は汎用的な一括物流センターではなく、独自 性の強い?わがまま〞なセンターを用意する 必要があった。
そしてその要請に応えたのが 菱食だった。
菱食では三年後に愛川物流センターの単年 度黒字化を達成し、六年後には累損一掃。
さ らにローゼンとの契約期間である一〇年で施 設の償却を済ませる予定だ。
「これまでのとこ ろセンターの収支は計画通りに推移している。
帳合いの部分で折り合いをつけるのではなく、 物流事業として単独で収支が成り立っている」 と勝間田センター長は説明する。
センターの採算もさることながら、菱食に とって今回のプロジェクトを通じての一番の 収穫はローゼンとの結びつきが以前にも増し て強固になったことだ。
ローゼンが来年三月 をめどに開設を予定している「低温商品向け 一括物流センター」の運営委託先はすでに菱 食で決定しているという。
(刈屋大輔) ファインストッカーでケース商品を 店別・陳列レイアウト別に仕分ける 移動式検品台を活用したデジタル ピッキングシステム 店別・陳列レイアウト別に仕分け られたケース商品をカートラック に積み付ける オリコン自動積付機での積み付け が済んだカートラック 定番品は店舗当日納品している 愛川物流センターの オペレーション

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