ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
ロジスティクス・ビジネスはロジスティクス業界の専門雑誌です。
2003年10号
現場改善
地域酒類卸H社の配送網刷新

*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。

事例で学ぶ 現場改善 日本ロジファクトリー 取締役 中根治 OCTOBER 2003 68 全国卸の参入でピンチに 創業五五年の歴史を誇る酒類卸のH社は?地 域に密着した酒類・食品サービスの創造〞を旗 印に、主に酒販店、業務用卸向けにサービスを 展開している。
地元で人情家として知られ人望 の厚い創業者の力で、ピーク時には売上高八〇 億円、社員数五〇人という規模を得るに至った。
ところが一九九八年の酒販免許の規制緩和で 大手の加工食品卸、酒類卸が自社商圏に次々と 参入。
競争激化で一気にH社の採算は悪化した。
かつてはライバルだった近県の同業者は倒産、H 社も創業者が体調を崩すなど、経営は危機に瀕 していた。
創業者の息子である専務S氏は、三〇代前半 という若さながら、二代目の社長に就任すると 経営改革を一気に進めた。
特に生産性向上と粗 利率改善に注力。
仕入れ・支払い条件の見直し と配送拠点の集約、これに伴う土地と人員の整 理を行った。
その結果、減収ながら増益を達成 することができた。
弊社へのコンサルティング依 頼が来たのは、改善成果もほぼ確定した、二代 目の就任から二年目の決算月のことだった。
「物流コストを削減したいが、どのように着手し ていいのか悩んでいる」 もとよりS氏は勉強熱心であり、改善のセオ リーや知識に不足はなかった。
しかも自社の経 営環境・状況についての問題意識も十分に持ち 合わせていた。
実際、それまで迅速に採算改善 への道筋をつけてきた。
しかし、そんなS氏が 取り組むべき課題として当初から着目していた にもかかわらず、最後まで手をつけることのでき なかった部分が「得意先との取引条件見直し」 と「物流」であった。
創業時代からH社はビールメーカーA社の特 約店として基盤を築いてきた。
自社で構築した 手厚い配送サービスを売り物に、街の酒販店か ら、レストラン・居酒屋・スナックなどの飲食 店まで、業態を選ばないマーケティングで売上 規模を伸ばし、顧客の信頼を得てきた。
しかし、時代の流れと共に、街の酒販店はコ ンビニエンスストアに様変わりし、地場の飲食 店は全国チェーンの格安居酒屋に侵食されるよ うになってきた。
さらに酒類ディスカウントスト アの台頭、スーパーなど量販店の酒類取り扱い 拡大などで、従来のH社のビジネスモデルは急 速に陳腐化していった。
チェーン本部、あるいは自社のPOSデータ を基に発注する大口の得意先に、H社の営業提 案は全く必要とされなかった。
しかも、そうし た大口得意先は売価一五〇円以下の缶チューハ イでも必要な分だけバラで発注し、納品時間、条 件指定の要請も年々厳しくなっていく。
これに 対して全国規模の大手卸が営業攻勢を仕掛けた。
第10回 今年九月一日、酒類の小売規制が緩和になった。
コンビニや量販店などが一 斉に参入を開始している。
これまで酒・米穀類の小売店への配送は白ナンバー の請負ドライバーの利用が圧倒的だった。
しかし法律の改正を機に、酒類の物 流のありかたも大きく変化しようとしている。
酒販卸H社の改善事例を通して、 その一端を紹介する。
地域酒類卸H社の配送網刷新 69 OCTOBER 2003 その結果、大口得意先は根こそぎ大手に奪われ てしまった。
地場の酒屋、飲食店でも大手の攻勢に押され ているところは「自分で取りに行くから、その 分仕入代金をまけてくれ」というC&C(キャ ッシュ&キャリー)を申し出るところが徐々に 増えてきた。
その一方、古くからの得意先は従 来通りの「御用聞き」的な営業と物流サービス を求めている。
H社ではこれらの環境変化を前 にして困惑するしかなかった。
配送体制やルー トなどを変更することもなかった。
裏目に出た物流改革 S氏は社長就任早々、物流の問題点を?売上 高に対して高止まりしている〞コストの問題と 捉えた。
もともとH社では、いわゆる白ナンバ ーの請負作業者に配送を任せていたが、実質的 には社員と同様だった。
そこでまず、「がんばっ た人に報いる」というH社の経営方針に基づき、 ドライバーの給与を歩合制にした。
そしてドライバーの評価に公正を期すため、特 定のドライバーが同じルートばかりを担当しな いようにシフトを再編成した。
各ルートをロー テーションさせるようにしたわけだ。
同時に配 送拠点の集約と一部のドライバーの整理を行っ た。
これで物流費は効果的に削減できるはずであ った。
しかし、コストは下がるどころかほとんど 変わらなかった。
それどころか歩合制を導入し てドライバー同士の競争心をあおろうとしたこ とが裏目に出た。
無断欠勤や得意先からのクレ ームなどのトラブルが頻発するようになったのだ。
ドライバーのローテーションも、逆に得意先か らドライバーの指名をされるようになり、以前 よりもルートが固定化されるようになってしまっ た。
このような背景によって、かつては顧客から 高い評価を得ていたH社の物流サービスが、最 近では「今ではH社が一番悪い」と言われるほ ど評判が落ちてしまったのである。
サービスの 悪化によって他の卸に帳合いが流れたり、得意 先がC&Cを希望するようになるという事態ま で招いていた。
S氏は頭を抱えた。
?会社全体を良くしようと 現在の経営環境や利益の大事さ、施策の必要性 を全社員に訴えてきたつもりだ。
ところが物流 部門だけは得意先と結託して非効率な仕事を続 けているに違いない〞表面には出さないが、物 流部門に対する不信感が募った。
他の部門は皆、痛みを感じながらも成果を出 している。
物流だけ何の施策も打たないという わけにはいかない。
結局、「今年は一律五%の給 与カットを物流部門にお願いしました」とS氏。
経営者として苦悩の末の選択だった。
このような現状を打破する方策を出して欲し い、というのが当社への依頼である。
私たちは 早速、調査・分析に入ることにした。
具体的に は物流と商流の紐付けを目的とした?配送パタ ーン分析〞を中心に、?得意先別商品別ABC 分析〞、?月中物流波動傾向〞、?業務フロー・コ スト分析〞を実施した。
これらの分析に必要となるデータが、H社に は全く存在しなかった。
もしくは、そのままでは 活用できないものが大半だった。
結局、ほぼ全 図1 原因把握の考え方(イメージ) 物流コスト (見えている問題) 改善対象(物流)業務 問題は平面ではない 立体的に捉える ↓ 顧客特性の把握 (問題に重大な影 響を与え、対応が 困難な条件) 物流コスト (見えている問題) 使用可能資源 (人・モノ・金・情報) (問題解決に使用 可能な経営資源) 残された時間 (改善の優先順位 と投入資源配分を 決定する要素) 商品特性の把握 (問題点を決定付 けるが、変更が困 難な条件) 生産性 (見えないが問題 と密接に関わる業 務) 商慣習・旧来からの取引条件 (問題点の難さと大きさを決定) 問題点の原因把握 (展開)  
伴劼硫善ではS氏が「頑張る人に報いる」とい う切り口で物流コスト(≒人件費)を削減しようと したが、現場からの無言の抵抗に合い、得意先をも 失いそうになる。
 物流コストはビジネスの一面を示しているに過ぎず、 これらの関係性の確認なきままに“コスト削減”を 目指しても現場からの反発を買うばかりである。
物 流コストをキーに、自社のビジネスはどのような関 係性で成り立っているのかを把握することで、現場 を巻き込んだ改善の実施が可能になるのである。
OCTOBER 2003 70 てのデータを新しく入手するしかない。
調査に はかなりの時間を必要とした。
分析を行った結果、H社の売上構成には非常 に偏りがあることが分かった。
商品アイテムで 見た場合、売上の上位五%のアイテムで総額の 八〇%を稼ぎ出していた。
同じく得意先では売 上上位一七%で総額の八〇%を稼ぎ出していた。
しかも、この上位一七%の得意先の大半は同一 市内に存在していた。
近隣四市を含める売上の 九〇%が同一市内という状況であった。
配送体制は、この狭いエリアを十二人のドラ イバーが一日三便運行で行うことを基本として いた。
といっても過去からの習慣でそうしてい ただけで、配送効率に対する考慮や、営業戦略 上から決定したサービスではなかった。
実際、三 便目の荷物はほとんどが当日受注品で、内容も みりん一本など、売上に貢献できるような内容 の配送はごくわずかだった。
ドライバーのモラールも低下 また車両への積み込み・荷下ろしの方法は、ド ライバー各人の判断に任されていた。
しかもベ テランほど、大口で近所の得意先への配送を受 け持ち、若手ほど遠方で小口の配送を行ってい た。
一日の配送件数、配送効率について、全体 としては取り立てて問題のある指標は見られな いものの、ドライバーの収入を確保するためと 思われる配車上の配慮が見られた。
若手ドライ バーにそのしわ寄せが集まっていることが推測 できた。
業務フローを分析したところ、さらに次のよ うな状況が明らかになった。
前日までの受注デ ータを当日の朝六:〇〇からピッ キングするのが基本的なフローだ が、実際には車両が出発する直前 まで、電話注文による当日納品を 受け付けていた。
そのため車両の 出発時間が遅れることが日常的に 起こり、クレームの原因になって いた。
配車ルートはドライバーが自分 で決めていた。
ほとんどのドライ バーが遠方の得意先から配送を始 めるようにしていた。
これによっ て近隣にある上得意先への配送が 遅れがちになっていた。
倉庫内作業を見ると、以前に在 庫差異が多発した経緯から、毎日 の循環棚卸が義務付けられていた。
定時に業務を終らせるために、毎 日一四:〇〇にはシステムを締め、 終業(一八:〇〇)まで棚卸を行 っていた。
このため一四:〇〇以 降は庫内での出荷作業ができなか った。
翌日の出荷を準備する?宵 積み〞のできない状態であった。
これらに加え、度重なる給与条 件の悪化に呼応する形で無断欠勤 など、ドライバーの勤怠状況が悪 化していた。
代わりの人員を手当 てすることもできないため事実上、 野放し状態だった。
ドライバー内 の不公平感も増していた。
私たちは物流コスト分析の結果 0 20 40 60 80 100 120 140 07:00 08:00 09:00 10:00 11:00 12:00 13:00 14:00 15:00 16:00 17:00 18:00 19:00 不明 図2 時間帯別配送地域分布 A市 C市 E市 G市 I市 K市 M市 O市 Q市 空白 B市 D市 F市 H市 J市 L市 N市 P市 #REF市 図で見られるように、最も上得意客が集中し、顧客存在密度も高いA市への配送が 二便目、三便目へと後回しになっていることがわかる。
クレームの大半もこれらA 市の顧客からによるものであった。
C市は以前配送拠点が近隣にあった関係から、 現在の物流拠点から離れているにも関わらず厳しい時間指定が残っている。
3 2 6 14 19 24 35 52 63 48 32 4 9 2 17 14 13 6 7 33 8 10 6 4 2 22 3 30 33 20 11 9 3 2 2 22 6 2 8 25 2 3 45 31 24 21 表記のない数字は すべて『1』 71 OCTOBER 2003 から、こうしたドライバーのモラール低下も「無 理も無い」と実感するに至った。
H社の物流コ スト構成は人件費が八〇%を占めていた。
これ 以上のコスト削減のためにはドライバー数の削 減か、個人の給与の削減以外にないと、全員が 分かっていた。
営業は旧態依然とした活動を続けており、非 効率で採算の合わない注文を取ってくる。
拠点 の数も減った。
ドライバーは今までより広範な エリアをより少ない人数でカバーしなければなら ない。
以前より仕事の負荷は増している。
しか し自分たちの給料には何の見返りもない。
むし ろ下がり続けている。
ドライバーへのヒアリングを行っても、ほとん どのドライバーが愚痴さえ口にしなかった。
私 たちからの非効率な業務に対しての質問に対し ては「その通りです」という言葉が返ってくる。
現場にいる全員が非効率と気付いていながら、過 去に取り決められた業務ルールを変えずにいる ことで、自己防衛をしていたのである。
請負ドライバーはH社と一蓮托生の関係であ る。
不況の今、彼らはH社の仕事にしがみつく しかない。
注文を受けたら誰かが商品を運ばな ければならない。
「儲からない」と感じていても、 配送を断ることなどできない。
そして社員でも ない自分たちが改善のアイデアを出しても、や ぶへびになるのは目に見えている。
このようにH 社の物流は、「モチベーションの低下によって改 革の芽が出てこない状況」になっていた。
戦略のない物流改善を行った場合の現場レベ ルでの副作用として、次の改善の手が打てなく なることが挙げられる。
現場の人間は「現実的 でない掛け声」には乗らない。
仕組みの裏付け を欠いた目先のコスト削減に走ると、現場の業 務はどんどん窮屈になっていく。
「より良くする」 のではなく「何もしない」ことがコスト削減とい う空気が現場に染みついてしまう。
好業績のとき、業績悪化のとき、いずれ場合 においても改革にはスピードが必要である。
特 にH社のように徐々に報酬が減る「交渉による コスト削減」は現場にとって逆効果であり、い まこそ抜本的な物流プロセスの改善が求められ ていた。
それは配送の質の改善であり、営業活 動とリンクした生産性の高い物流を実施するこ とである。
あえて商物一体も採用 具体的には次のような改善提案を行った。
?システム更新時間の変更による日中作業時間 の確保 ?勤務体制の二シフト化による受注処理業務の 簡素化 ?循環棚卸の簡素化 OCTOBER 2003 72 ?受注、配車の工夫による一日三便体制→二便 体制への変更 ?業態別配送コスト把握と物流サービスレベル の見直し ?配送業務エリア制→アウトソーシングの実施 ?不採算得意先のデリバリー方法の見直し(契 約社員によるサービス実施) ?物流新商品の開発(宅配サービス) 基本的なアプローチとして、まず商品積み込 み前の時間ロスや段取りをスムーズにし、十分 な配送時間を確保し、その上で一日の配送回数 を二便体制に変更(総車輌数二〇%削減)する という方針を立てた。
さらに納品先の業態別の 物流採算を確認し、そこから「対応業態+配送 エリア」ごとに配車を決定する仕組みを導入し た。
配送をエリア制にすることでドライバー同士 の工夫が生まれるようにした。
既存の配車担当 は配置転換をし、勤怠状況の悪いドライバーは 話し合いをし、継続の意思確認を行った。
不採算のエリアは営業と相談の上、サービス レベルを落とし定期配送とするか、あるいは営 業マン自らがデリバリーする「商物一体」への 変更を営業部隊に提案した。
あえて「商物一体 の営業」を進めた理由の一つは、急激な業績低 下で営業マンによる得意先への訪問頻度が鈍っ ていたことが分かったからだ。
営業マンが得意 先を訪問する理由を作るために「物流」を使っ たのである。
得意先に呼ばれないと営業マンが訪問しない のでは、結局いつも御用聞きになってしまう。
後 手後手の対応では、得意先の言いなりの商品、言 いなりの価格になる。
それほどまで得意先の危 機感は高まり、要求は厳しさを増していた。
このH社のケースは現在、まだ配送エリア制 を試行し始めたばかりという段階である。
それ でも物流コストの削減は初年度で五〇〇万円程 度を得た。
粗利率の高いプライベートブランド 焼酎の営業も伸びている。
徐々にH社の採算は 上向きつつある。
今後はコスト削減だけでなく、 ドライバーのレベルを上げていきたいと、S氏は 話している。
いわゆる白ナンバーだけではなく、緑ナンバー の運送会社も一部のルートに利用するようにな った。
H社に依存せざるをえない「請負物流」 のデメリットに気付いたS氏は、物流に「企業 対企業」の関係を求めた。
専属的に特定事業者 の物流を行う点で、白ナンバーの請負作業者に よる物流は実質的に自社員が行う物流と変わり ない。
それをアウトソーシングしたわけだ。
白ナンバー VS 緑ナンバー H社ならずとも配送を外注化するかどうかは、 当事者にとって悩ましい課題である。
請負業を 使用するメリットとしては、?物流事業者では 割高になるような条件でも、社員と同じ感覚で 業務を依頼できる、?商習慣を熟知しているた め、物流+αの業務をお願いしやすい、?商品・ あるいは流通自体に暗黙知や機密性が求められ たりする場合の対応が可能、などがある。
しかし、デメリットとして?コストが固定化 する、?設備投資やノウハウ蓄積などがしづら く、作業の効率化に限界がある、?今回のケー スのように、場合によっては合理的な判断によ る業務改善がしづらい…などがあり、メリット とデメリットの判断がつかずに現状維持のまま でいる企業も多いと思う。
私の知る限り、物流を内製化している企業の 多くが、業務を現場担当者に「丸投げ」して本 部ではほとんど関心を持たないでいる。
逆に外 注化している場合は、やみくもにコスト削減ば かりを追及する傾向がある。
しかし根拠のない値下げ要請によってしわ寄 せが来るのは何より顧客満足と作業品質であり、 また安全管理であることを委託者は重々承知し ておく必要がある。
大半の物流事業者、あるい は請負作業者の運賃は競争原理で下がるという よりも、断ることができないため追い詰められて 下げざるを得ないというのが実情だ。
的確な現状認識をもとに管理をし、合理的な 契約を結んでおくことが、利益に貢献する物流 体制構築の決め手となる。
環境対応・速度規制 など、物流に求められる社会的側面の重要性も 増している。
真の業務効率化を協調して果たし、 お互いにメリットある取引へと是正していく時 代が到来しているのである。

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