ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
ロジスティクス・ビジネスはロジスティクス業界の専門雑誌です。
2003年8号
SCMの常識
目標と指標(KPI)の設定

*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。

SCMの常識 講 座 ▼講師 理論編・実践編とも 杉山成正 ベリングポイント ディレクター AUGUST 2003 78 今回は、SCMで最も重要となる指標(K PI)の「スループット」と、そのバックボー ンとなっている「TOC」の考え方を紹介しま す。
■■スループットとは 自社のビジネスモデルを明確にすること。
そ れがSCMの第一ステップでした。
次のステッ プでは、いかに効率的に利益を生み出す仕組み を構築するか。
つまりサプライチェーン上に無 駄な在庫を作らず、投入した資金をいかに早く 売り上げに結びつけるか、について考えること になります。
そこで重要になるのが「スループット」とい う考え方です。
スループットとは「一定時間あ たりの処理量」を意味します。
SCMでは「一 定期間あたりの物流量」、「一定期間での売り上 げ」あるいは「一定期間に生み出されるキャッ シュフロー」を意味することになります。
このスループットに基づく管理会計の手法が スループット会計です。
これまでの管理会計で は経費削減、コストダウンばかりに目が向けら れてきました。
しかし原材料費、固定費を下げ ることだけが利益向上のための施策ではありま せん。
実際、スループットという指標を使うこ とで、これまでとは違った様々な施策が考えら れるようになります。
■■スループット会計の考え方 スループット会計では、スループットおよび 利益を以下のように定義します。
スループット=売り上げ―原材料費 利益=スループット―固定的経費 右の式は、売り上げから原材料費を差し引い たスループットを増大させることこそが、会社 の利益を増大させることだという考え方をあら わしています。
この考え方に従うと販売価格が 原材料費を下回らない限り、空いている生産設 備や人は有効活用して売り上げを得たほうが得 策だということになります。
これは当たり前のように聞こえますが、実際 にこのスループットの考え方に立ってサプライ チェーンを管理するには、これまでの利益のと らえ方を大きく変える必要があります。
例を示 しましょう。
A社とB社という二つの顧客から注文があっ たとします。
しかし現在の生産設備と要員では、 いずれか一方の注文にしか対応できません。
A 社からの注文は、X 01 という商品八〇個、売上 単価は三〇〇円で、一個あたりの原材料費が 一〇〇円、標準製造原価が二八〇円です。
一 方、B社の注文は、X 02 という商品一〇〇個、 売上単価は二七〇円で、一個あたりの原材料 費が一五〇円、標準製造原価が二五〇円です。
果たして、A社とB社、どちらの注文を受け るべきでしょうか。
従来の粗利益の計算にした がうと、図1 ― 1のとおりB社の注文を受けた ほうが得と考えられます。
しかし、スループッ トの考え方に立つと、原材料費の安いA社の注 文を取ったほうが利益は大きくなるという判断 になるのです(図1 ― 2)。
こうしたスループットの考え方に対しては、 目標と指標(KPI)の設定 ? 理論編 図1 注文 A社 B社 商品 X01 X02 個数 80 100 単価 300 270 売上 24000 27000 原材料費 100 150 製造原価 280 250 図1−1 製造原価に基づく粗利益の計算      =(単価−製造原価)×個数 注文 A社 B社 商品 X01 X02 単価−製造原価 300−280 270−250 個数 80 100 粗利益 1600 2000 図1−2 スループットの計算      =(単価−原材料費)×個数 注文 A社 B社 商品 X01 X02 個数 80 100 スループット 16000 12000 単価−原材料費 300−100 270−150 〈第3回〉 79 AUGUST 2003 色々な反論もあります。
実際には生産増による 経費増はゼロとはいえない。
あるいは、いった ん値引きをして受注すると、その後も安く受注 せざるをえなくなり、長期的には経営を圧迫す る、といった批判です。
必ずしも間違った指摘とは言えません。
しか し、過去の実績をベースに製造原価を設定し、 利益を計算する従来の方法が、価格政策を含 めた市場需要の激しい変化に素早く対応するの には不向きであることは否定できません。
これに対してスループット会計は、キャッシ ュを生み出すスピードに着目しています。
スル ープットは限られた経営資源を使って利益を最 大化するための指標です。
今日、企業が置かれ ている環境の下で、サプライチェーンを正しく 機能させていくためには、まさしく重要な指標 であると言えます。
■■TOC(制約条件の理論)とは それでは、サプライチェーンのスループット は、何によって決まるのかを考えてみましょう。
どのようなサプライチェーンにも、生産や物 流上の能力の限界があります。
供給能力が限ら れていて、需要の変動に柔軟に対応することが 難しいオペレーションや工程が、サプライチェ ーン上に必ず存在しています。
これを「制約 (ボトルネック)」と呼びます。
この「制約」が実はサプライチェーン全体の スループットを決めてしまうのです。
そして 「制約」に着目したマネジメント理論が、エリ ヤフ・ゴールドラット博士の提唱する「TOC ( Theory Of Constraints: 制約条件の理論)」 です。
博士の著書「ザ・ゴール」(ダイヤモンド社)が出版されて以来、TOCは日本でも広 く知られるようになりました。
本誌の読者の中 にも読まれた方は多いかと思います。
TOCでは「ボトルネック」を有効活用する ために、以下の五つのステップを実行します。
ステップ1 「ボトルネック」を見つける ステップ2 「ボトルネック」を最大限活用する ステップ3 それ以外のオペレーションを 「ボトルネック」の都合に合わせる ステップ4 「ボトルネック」の能力を向上する ステップ5 継続的に「ボトルネック」に注意 しながら、ステップ1に戻る さらに「生産や物流のボトルネック工程のス ループットを最大化し、ひいてはサプライチェ ーン全体のスループットを最大にする」ことを 目指した具体的なスケジューリング手法として、 「DBR(ドラム・バッファ・ロープ)」があり ます。
前出の「ザ・ゴール」にその基本的な考 え方が紹介されていますので、一読されること をお勧めします。
■■思考プロセス ここまで、スループットがSCMの評価指標 として有効であることを述べてきました。
しか し、実際のプロジェクトにおいて、サプライチ ェーンにかかわるすべての部門、関係会社が一 体となって正しい方向に進んでいくためには、 指標を設定しただけでは充分とは言えません。
サプライチェーンには、利害と立場の異なる 多くの関係者が存在します。
彼らの理解と協力 を得るのは並大抵のことではありません。
プロ ジェクトリーダーは、「今回の改革がサプライ チェーン上の様々な問題を解決するものであり、 そのためには各社、各部門、各人がどのような 方針・指標に基づいて行動すればよいのか」を 明確に示さなければなりません。
そこで科学的かつ包括的な問題解決手法が 必要となります。
その手法として筆者はTOC のソリューションの一つである「思考プロセス」 が、極めて有効だと考えています。
「思考プロ セス」は、科学的な手法にしたがいながら、相 互に絡み合った複雑な問題の根本的解決(ブレ ークスルー)を実現します。
「思考プロセス」の各ステップと使用される 科学的手法(思考のためのツール)を簡単に紹介しましょう。
1 「何を変えるか」:現状問題構造を分析し、 どこを変えれば、現状の好ましくない状況を かえることができるかを把握します。
(使用されるツール:現状問題構造ツリー) 2 「何に変わるか」:現状の好ましくない状 況を引き起こしている中核問題を解消するた めのアイデアを出します。
(使用されるツール:対立解消図) 3 アイデアの検証:アイデアを実行すること で現状の問題が解消するかを確認します。
(使用されるツール:未来問題構造ツリー) 4 「どのように変わるか」:アイデアを実行す る上で想定される障害を洗い出し、それをク リアするために中間目標を設定します。
AUGUST 2003 80 様々な部門からメンバーを集めたワークショ ップ形式で、SCM改革の議論は続きます。
現 状の課題の確認が進んでくると、一つひとつの 課題がお互い複雑に絡み合っていることがはっ きりしてきます。
こちらの課題を解決しようと すると、あちらで問題が発生するといった具合 です。
営業部門「会社が利益を上げるためには、売り 上げを伸ばさなければならない。
そのためには、 販売機会損失がないように在庫を多めにもって おきたい」 物流部門「いや、利益を確保するには在庫を圧 縮して、在庫経費や在庫の評価損を抑えること が必要だ」 両者の主張はいずれも間違ってはいませんが、 全く正反対の意見になっています。
この場合、 あなたが需給担当者だったらどうしますか。
あ る時はリスクを感じながらも多めに商品を仕入 れ、あるときは販売計画に疑いを持ち、仕入れ を抑えることになるでしょう。
しかし、経験とノウハウを駆使して、日頃は うまく仕入れと在庫をコントロールしていたと しても、ひとたび問題が起きれば責任を追及さ れます。
あなたは内心、この仕事にうんざりせ ざるを得ません。
こんな話も出てきます。
生産部門「会社の利益目標を達成するために、 生産部門では生産性一〇%向上による製造原 価低減に取り組んでいる。
生産計画を頻繁に見 直すのは良いが、生産性が落ちれば利益が確保 できなくなる。
ある程度は計画的にまとめ生産 をしないと」 営業部門「まとめ生産をするとどうしても在庫 が増えてしまう。
しかも、人気商品の入庫が月 に二回しかないとは、心もとない」 生産部門も営業部門も、そして物流部門も、 それぞれの予算を達成し、会社の利益目標達成 に貢献しようとしているのです。
しかし、実際 には各部門の行動はちぐはぐになり、会社全体 としては思うような効果が出ない。
まさに、S 部分最適の罠 改革の現場から 実践編 講座SCMの常識 (使用されるツール:前提条件ツリー) 5 実行計画の立案:中間目標を達成するた めのアクションを考えます。
(使用されるツール:移行ツリー) この手法の優れた点は、現状問題構造を分 析整理する過程で、現在抱えている問題の多くが、間違った評価指標や経営方針・ポリシーに 起因していることが明らかになることです。
そ れによって、正しい意思決定と正しい行動(オ ペレーション)を行なうためには、どのような 評価指標や経営方針・ポリシーを設定すればよ いかと発想するようになるのです。
CMとは正反対の?部分最適〞の罠に陥ってい るのです。
これはどうしてなのでしょうか。
その一因は、 全社の利益目標を各部門の予算に切り分け、そ の達成手段を各部門の権限と責任において検討 する、という従来の予算編成のやり方にありま す。
各部門に与えられた評価指標自体が、部分 最適を助長しているのです。
たとえば生産性という指標は、スループット を増大するということから考えると、正しい指標とは言えません。
生産部門全体の効率をいく らあげても、ボトルネックが有効活用できてい なければスループットは増大しないからです。
このような根本的な問題を科学的な手法に沿 ってあきらかにしていくのが、理論編の中で解 説したTOCの「思考プロセス」です。
「思考 プロセス」の手順に則って課題を分析していく ことで、「こちら立てれば、あちら立たず」の問 題構造が浮かび上がってきます。
そこから部門(組織)の壁を越えた解決策、 ブレークスルーの必要性を皆が明確に理解でき るようになるのです。
しかし、これもまた容易 な話ではありません。
次回は「組織の壁」がい かに高いか、どのように壁を越えていけばよい のかをご紹介します。

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