ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
ロジスティクス・ビジネスはロジスティクス業界の専門雑誌です。
2003年8号
CLO
店からの発想で流通を再構築する

*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。

AUGUST 2003 58 ーの在庫管理はすべてメーカーの責任 で行う。
日本では九七年に平和堂が導 入したことで有名になったCRP(Continuous Replenishment Program: 商品の連続自動補充)の原型ともいう べき取り組みである。
この仕組みは、ウォルマートの店舗 納品の効率化という意味では確かに有 効だった。
だがサプライチェーン全体 として見ると、メーカー側の負担ばか りが増す構造になっていた。
しかもウ ォルマートは九〇年代に食品分野への 進出を本格化していく。
その結果、中 間流通を管理するメーカーの負担は膨 大なものになってしまった。
この状況に悲鳴を上げた大手メーカ ーは、九三年頃からウォルマートに対 して中間流通の再構築を働きかけるこ とになる。
私がこうした事実を理解し エリア内でのドミナント制を徹底する ことで物流を効率化し、EDLP(エ ブリデー・ロー・プライス)を実現し ている。
こうした基本戦略は八〇年代 から現在に至るまで一貫しているが、 そのための具体的な物流システムは過 去一〇年間で大きく変化してきた。
九四年以前のウォルマートは、原則 として物流を自社の施設でまかなって いた。
それまでのウォルマートの主な 関心事は、店舗への納品業務を効率化 し、中間流通における管理コストを低 減することにあった。
そのために自ら 物流センターを設置し、強い販売力を 背景に、センターに置く商品の在庫管 理をベンダー(メーカーや卸)に一任 していた。
店頭のPOS情報をウォルマートが メーカーに開示する代わりに、センタ 米ウォルマートをはじめとする小売 業者の躍進は、あらゆる関係者に多大 な影響を及ぼした。
メーカー優位だっ た従来の流通構造は根底から覆され、 小売業者がサプライチェーンのあり方 を主導するのが当たり前になった。
こ のとき中間流通の担い手として名乗り を上げたのが、サードパーティ・ロジ スティクス(3PL)業者だった。
ウォルマートの流通戦略 メーカーの持つべきロジスティクス の機能は一様ではない。
顧客である卸 や小売業者から何を求められるかで、 メーカーのロジスティクスは変わる。
同様に中間流通におけるメーカーと流 通業者の役割分担も、進化し続ける取 引先とともに変わらざるを得ない。
顧客の変化に対応してこそロジステ ィクス、というのは本連載で何度も繰 り返してきたことだが、単に顧客の要 望に振り回されているだけでは非効率 に陥ってしまう。
そうした事態を避け るには、メーカーといえども?店から の発想〞で流通を考えなければならな い。
そうすることで初めて、メーカー が本当に持つべきロジスティクスの機 能が見えてくる。
では?店からの発想〞で考えるとは、 具体的にはどういうことなのか。
これ を理解するには、米ウォルマートの物 流システムが九〇年代にどのように変 化したかを振り返ると手っ取り早い。
周知の通りウォルマートは、市場を 店舗ごとの?点〞ではなく、複数の店 舗による?面〞で抑えるという明確な 販売戦略をとっている。
さらに一定の 味の素ゼネラルフーヅ 常勤監査役 川島孝夫 店からの発想で流通を再構築する 《第9回》 59 AUGUST 2003 たのはごく最近の話だが、味の素ゼネ ラルフーヅの親会社であるクラフトで の活動や、そこで知り合った人たちと の対話を通じて、ウォルマートの中間 流通の変遷を知ることができた。
3PLプロバイダーの役割 ウォルマートにとって先行事例とな ったのはヨーロッパの動向だった。
九 〇年代初頭のヨーロッパは、米国より はるかに流通業者の寡占化が進んでい た。
既に八〇年代には英テスコや仏カ ルフールなどの大手小売り業者がかな りのシェアを握っており、この状況に 対抗する意味合いもあってメーカーの 寡占化も世界に先駆けて進んだ。
当時はクラフトが所属するフィリッ プモリス・グループも、ヨーロッパで の食品メーカーの買収を積極展開した。
そしてグループの食品事業の中核であ るクラフトと、買収した企業の経営を 統合することによって、グループ全体 の経営効率を高めようとした。
ただしクラフトが経営統合した食品 メーカーの中には、すでに独自の物流 ネットワークを構築済みの企業が少な からずあった。
このため八〇年代末に なるとクラフトの欧州の物流拠点は百 数十カ所にまで膨れあがってしまった。
そこでクラフトは非効率になった物流 ネットワークの再構築に取り組んだ。
このとき大きな役割を担ったのが、 英国に本社を置くサードパーティ・ロ ジスティクス(3PL)業者のエクセ ルだった。
エクセルは元々はイギリス の国営物流会社だ。
それが八〇年代の サッチャー政権の民営化政策で自由競 争にさらされることになり、以降は主 に流通分野で実績を積んだ。
現在では 年商約九〇〇〇億円を誇る欧州を代表 する3PLの一社となっている。
このエクセルが英国以外の地域で飛 躍するきっかけになったのが、九〇年 代初めのクラフトとの取り引きだった。
ヨーロッパに一〇〇カ所以上の物流拠 点を抱えてしまったクラフトは、これ を集約する3PLパートナーとしてエ クセルを迎え入れた。
そして両者は一 〇〇カ所以上の拠点を、二〇カ所まで 激減させることに成功した。
このときクラフトがエクセルをパー トナーに選んだ理由は明白だった。
エ クセルの出身国のイギリスでは当時、 流通分野の寡占化がヨーロッパのなか でも特に進んでいた。
すでに九〇年頃 には上位五、六社の小売り業者が、市 場の過半を抑えるに至っていた。
つまりイギリスでは、小売り業者と メーカーが中間流通を効率化できる環 境が早くから整っていた。
そして店頭 での売れ行きの変化をメーカーの生産 工程にまで連動させる取り組みを早く から実践していた。
その際に中間流通 を任されていたのが、エクセルをはじ めとする3PL業者だったのである。
流通が寡占化されてしまうと、必然 的にサプライチェーンの構成メンバー は皆が店頭を考えて行動するようにな る。
そして最も効率を高めるために一 カ所だけ設置する中間流通の管理は、 小売りにもメーカーにも属さない物流 の専門家に委ねられる。
具体的には、 サプライチェーンの構成者すべてが店 頭の情報をEDIで共有し、そこで下 された意志決定に基づいて、3PL業 者が中間流通を管理する効率的な仕組 みが生まれる。
だからこそイギリスでは世界で最も 早く3PL事業が誕生し、そして発展 した。
なかでもエクセルは流通分野に おける3PLの第一人者であり、豊富 な実績を誇っていた。
クラフトが同社 を3PLパートナーに迎え入れた背景 には、そうした理由があった。
食品事業への本格参入が転機にその後、流通業の寡占化は、米国で も急速に進むことになる。
九〇年の時 Exel D/C メーカー工場 メーカー工場 メーカー工場 Wal*Mart店 Wal*Mart店 Wal*Mart店 1994年まで  自社保有DCにメーカー所有の商品を在庫 94年〜96年  エクセルと中間流通の効率化プロジェクトを展開 97年以降  複数の3PL事業者をエクセルに集約・全米に展開 米ウォルマートの物流システムの変遷 AUGUST 2003 60 点で米クラフトの取引先は、上位二五 社の小売り業者のシェアを合計しても 総売り上げの二割弱に過ぎなかった。
それが現在では、ウォルマート一社で 約二割を販売してもらっている。
まさ に隔世の感のある差だ。
九〇年代のウォルマートは、あらゆ る面で急速に進歩した。
相次ぐ買収で 売上規模を急拡大する一方で、メーカ ーに対するロジスティクスの要求水準 もどんどん高度化していった。
このと きメーカーに最も深刻な影響を与えた のが、食品分野への本格参入だった。
日本人にとってウォルマートは、圧 倒的な安さを誇るディスカウントスト アというイメージが強い。
確かに現在 でもそういう面はあるが、いま彼らが 主力業態として展開しているのは食品 売り場を併設した「スーパーセンター」 だ。
ウォルマートはこの業態を九〇年 代を通じて育ててきた。
そして、この 業態で成功を収めるたために食品分野 に本腰を入れたことが、同社の中間流 通を大きく変えることになった。
前掲の通り、それ以前のウォルマー トは、自前の物流センターを構えて、 そこに取引メーカーの在庫を置かせて 店頭への商品補充をまかなっていた。
これだけでも取引メーカーにとっては かなりの負担だったのだが、ウォルマ ートが市場を?面〞で抑え、強い販売 力を持っていたため、メーカーにとっ ては取り引きの採算は合った。
ところがウォルマートが食品分野に 本格参入したことで、メーカーの管理 負担は飛躍的に増大してしまった。
例 えばクラフトは、乳製品やゼリーなど 温度や日付の管理を必要とする加工食 品を数多く取り扱っている。
基本的に 温度管理や日付管理の不要な雑貨や衣 料と違って、こうした加工食品には三 週間とか六〇日といった賞味期限が必 ずある。
単に商品を店頭に過不足なく補充す るだけでなく、日付や温度の管理まで 求められることになった加工食品メー カーの負担は膨大なものだった。
しか もメーカーは需給管理を読み違えて廃 棄ロスを出せば、すべてメーカー自身 の負担で処理しなければならない。
この状況に危機感を抱いたクラフト は、九四年に、中間流通に在庫を抱え なくてもいい流通システムへの転換を ウォルマートに働きかけた。
すでにヨ ーロッパで信頼関係を構築済みだった エクセルと組んで、従来は?在庫型〞 だった中間流通を?クロスドッキング〞による通過型に変えるように訴えたの である。
考えてみれば当然の話ではあった。
すでに一〇兆円近い売上規模になって いたウォルマートは、店頭の実需をメ ーカーの生産計画にまで連動できる規 模を持っていた。
にもかかわらず当時 のウォルマートは、店頭のPOS情報 こそ全面的に公開していたものの、あ とはメーカー任せだった。
このことが メーカーに耐え難いほど大きな負担を 生み出してしまった。
カギは中間流通の効率化 クラフトがウォルマートに働きかけ た新たな仕組みでは、店頭の情報を流 通全体を効率化するために使う。
そこ では中間流通を管理する情報システム には、エクセルがウォルマート向けに 開発したクロスドッキングのEDIシ ステムを用い、中間流通のための物流 拠点にもエクセルの施設を使う。
それまで物流を自社で管理してきた ウォルマートにとっては大きな方針転 換だったが、こうした流通効率化の効 果が大きいことは、実はウォルマート 自身もよく分かっていたと思われる。
ウォルマートは九〇年に、マクレー ンという食品分野に強いディストリビ ューター(物流機能に秀でた卸売業者) を買収している。
このマクレーンとい う会社は、九一年に米国でセブン ―イ レブンを展開するサウスランド社が経 営危機に陥ったとき、日本のセブン ― イレブン・ジャパンが支援に乗り出し、 その再建の目玉として、従来の自社物 流を全面的にシフトした委託先の卸と して知られている。
私はたまたま九三年にこのマクレー ンの物流センターを見学する機会に恵 まれたのだが、その時点ですでに彼ら は理想的な中間流通を実現していた。
店舗面積の狭いコンビニへの納品業務 を効率化するため、ドライ、チルド、 フローズンの三温度帯の商品配送を、 情報システムを駆使しながら完璧に一 回でこなしていた。
当時、彼らが?ワ 61 AUGUST 2003 ンストップ・ワンデリバリー〞と呼ん でいたこのやり方は、後に世界中の先 進的な小売り業者が目指すことになる 最先端のものだった。
九〇年にウォルマートがマクレーン を買収したときから、こうした仕組み を自社の中間流通にも取り込もうと考 えていたかどうかまでは分からない。
だが、その後のサウスランド社の立ち 直りぶりを見れば、それが極めて有効 な中間流通の管理手法であることは自 覚していたはずだ。
だからこそ九四年 にクラフトなどの大手メーカーが働き かけた中間流通の効率化に対しても同 意したのではないか。
少なくとも、私 はそう理解している。
結局、ウォルマートは九四年から約 二年間をかけて、クロスドッキングに よる新しい中間流通の仕組みを検証し た。
ここでエクセルの実力を高く評価 したウォルマートは、この仕組みを全 米に展開することを決定。
従来は七社 あった3PL業者をエクセル一社に集 約し、同社がウォルマート向けに構築 した「TOPEX」というEDIシス テムを全米で利用しはじめた。
このと きエクセルは、米クラフトの3PLパ ートナーとしての立場も同時に確固た るものにした。
最近、エクセルは米カリフォルニア 州に倉庫面積が二八万八〇〇〇平方メ ートル(五棟合計)にも及ぶ、恐らく 世界最大の物流センターを稼働した。
ウォルマートの輸入物流を担う専用セ ンターで、全米三五カ所のDCへの商 品補充を担っている。
輸入コンテナの 取り扱いは一週間に約四〇〇本(四〇 フィートコンテナ換算)にも上る。
エクセルによるこうした大規模投資 は、ウォルマートの中間流通が完成の域に達しつつあることを窺わせる。
先 頃、ウォルマートはマクレーンの売却 を決めたが、もはや彼らを必要としな い物流管理にメドをつけたあらわれと 見て差し支えないだろう。
寡占化が遅れている日本で、いつ欧 米と同じような状況が生まれるかは分 からない。
少なくとも、それまでは有 力な卸売業者が中間流通で大きな役割 を担うことになるはずだ。
だが将来的 には、日本でも中間流通の担い手とし て3PLが主役に躍り出る可能性も否 定できない。
ただし、そのためには、 まず?店からの発想〞で考えることが 絶対条件になる。
( か わ し ま ・ た か お ) 66年 大 阪 外 語 大 学 ペ ル シ ャ 語 学科卒業・米ゼネラルフーヅ(GF)に入社し人事部 配属、73年GF日本法人に味の素が50%を出資し合弁 会社「味の素ゼネラルフーヅ(AGF)」が発足、76 年AGF人事課長、78年情報システム部課長、86年情 報物流部長、88年情報流通部長、90年インフォメー ション・ロジスティクス部長、95年理事、2002年常 勤監査役に就任し、現在に至る。
日本ロジスティク スシステム協会(JILS)が主催する資格講座の講師 や敬愛大学経済学部講師などを多数こなし、業界の 論客として定評がある。
戦略的アウトソーシングの定義 コンサルティング アウトソーシング 人材派遣 外注・代行・ 業務委託 内部 外部 内部 外部 業務の設計・企画 業務の運営 花田光世慶應大学教授の定義より 米クラフトが3PL業者を選択する際の基準 Management (管理能力) Price (コスト競争力) Organization (組織力) Experience (経験) Quality (品質) Compatibility (互換性) ※6番 目の「互換性」に注目していただきたい。
いつ でも他の3PL業者で代替できるように標準化された オペレーションが選択基準の1つになっている。
通常、 クラフトは1〜3年の短期契約しか交わさない。

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