ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
ロジスティクス・ビジネスはロジスティクス業界の専門雑誌です。
2003年7号
特集
物流子会社の不安 総合商社と競い国際物流事業を拡大

*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。

JULY 2003 18 国内だけでは生き残れない ――住電装ロジネット(SDL)は九四年に会社を設 立した当初から国際物流を経営の柱の一つにしていま すね。
「当社が国際物流に取り組んでいるのは、そうしな い限り生き残っていけないからです。
当社の親会社、 住友電装はワイヤーハーネスという自動車部品のメー カーです。
ご存知のように自動車業界はグローバル競 争の最も厳しい産業の一つです。
日系メーカーの海外 生産比率も高い。
日系自動車メーカーの海外生産比 率は全体平均で既に四〇%以上に達しています。
過 去一〇年で二〇ポイント近く上がりました」 「住友電装の海外生産比率はそれ以上に増加していま す。
九二年時点で二六%だったものが二〇〇一年に は六二%です。
ワイヤーハーネスの生産には手作業が 必要です。
そのため住友電装は他の部品や組み立てメ ーカー以上に割安な人件費を求めて海外シフトを進め ざるを得なかったんです。
その子会社である当社にと って国際物流は当初から、それなしには生き残れない、 マストといえるビジネスでした」 ――国際物流事業がSDLの売上高に占める比率も 年々、高くなっています。
「当社の国際物流事業の売り上げ比率は現在、約三 五%です。
二年後には五〇%にしたいと考えています。
それでも親会社に比べればまだ低い。
実際、今後数年 以内に住友電装の海外生産比率は八〇%近くに達す るはずです。
実は昨年、住友電装は海外事業部門を 廃止しました。
もちろん海外事業が縮小したわけでは なく、その反対で、どの事業部でも海外で仕事をする ことが当たり前になったからです。
これと並行して昨 年からは世界最適調達を目指した調達本部体制も始 「総合商社と競い国際物流事業を拡大」 国際物流事業への進出を目指す物流子会社にとって、大きな障 壁となるのが総合商社の存在だ。
実際、日本の大手メーカーの国際 物流は、これまで総合商社の縄張りだった。
住友電装の子会社、住 電装ロジネットは“商社外し”を自ら仕掛けることで国際物流事業 の拡大を成し遂げている。
後藤泰三 住電装ロジネット社長 まりました」 「そうやって親会社がグローバルに競争しているの に、ロジスティクスは国内だけというわけにはいきま せん。
当社もまたグローバルな物流ネットワークを確 立する必要がある。
世界中のどの国でも、どのメーカ ーに対しても、指定された時間・場所に安全に納入で きる体制を作る必要があると考えています」 「そのために今後は世界を日本、アジア、米州、欧 州の四つのブロックに分け、点と点を結ぶだけではな く面で地域密着型のサービスを提供できる体制を目指 していきます。
米州エリアでは現在、米国からメキシ コの内陸部へと生産拠点が移っている。
人件費のコス トが合わなくなってきているからです。
欧州では東欧 へのシフトが起こっている。
こうした動きに当社も具 体的に対応していく」 ――物流子会社としては珍しいケースだと思います。
物流子会社の多くは国際物流に進出したくとも親会 社からお声がかからない状況にあるようです。
「それは当社も同じでした。
一〇年前、住友電気工 業から赴任する形で私が住友電装のロジスティクスを 担当するようになった当時、住友電装に物流子会社 はありませんでした。
本社に物流管理部がありました が、管理の対象は国内物流だけ。
海外物流はブラジル を除いて全くタッチしていないという状態でした。
他 の地域はどうしていたかと言えば、だいたいが総合商 社に任せていた」 ――となると、SDLが国際物流を拡大する上でライ バルになったのも、物流専業者ではなく総合商社だっ たわけですか? 「その通りです。
実は住友電工時代に私はイランの プラントビジネスに携わった経験あります。
このプロ ジェクトの物流も当初は総合商社に任せていました。
19 JULY 2003 ところが、その商社の担当者が社内で社長表彰を受け たことが分かった。
これを聞いた当時の電工のトップ は大激怒しました。
商社に物流でどれだけ儲けさせる 気だ!というわけです。
そこから自分で物流をやれと いうトップ命令が出て、業務部にいた私が急遽、イラ ンに派遣されることになったんです」 ――役目は?商社外し〞ですね。
「といっても、当時の私には国際物流の経験など全 くない。
私が来たことを、面白くないと考える人もい て、色々と風当たりも強かった。
苦労しました。
しか し苦労して分かったのは、実際に国際物流のオペレー ションを動かしているのは総合商社ではなく、フォワ ーダーや港湾業者などの物流業者だということです。
つまり物流業者と直接、パートナーシップを組むこと ができれば総合商社を頼る必要はない。
商社抜きでも 物流はできることに気づきました。
まあ、意地になっ ていたということもありますがね」 ――その経験をSDLに活かしたということですか。
「そうです。
会社の設立時点で『親会社のグローバ ル展開をサポートする世界第一級の品質・コスト・サ ービスの提供』を基本方針に掲げました。
もっとも、 社内には国際物流の経験者などいません。
新たに社内 で国際物流マンを育成しようとすれば一〇年かかりま す。
そこまで待てないので、まずは外部から人材を補 強しました。
現在、当社の国際部門には約一〇人の 物流マンが在籍していますが、そのうち一人を除いた 九人は全て船会社や通関会社、フォワーダーといった 物流会社の第一線で活躍していた人材を引き抜いて きた転職組の専門家たちです」 親会社の海外現法に出資 ――しかし、人を集めたからといって、すぐに国際物 流の仕事がとれるわけではないでしょう。
「そのために当社は住友電装の海外の工場や販社に 積極的に出資をしていきました。
それによって、親会 社と子会社双方に、海外法人であっても自分たちの 会社だという意識が生まれる。
本社と一緒に出資する ことでグローバル展開の最初の段階から物流会社とし て深くアクセスできると考えたのです」 「また海外展開には初期段階から参加しないと、後 からでは修正が利かないことが多い。
現地工場の立地 選定でも生産の人間は物流の具体的なアクセスまで考 慮する余裕がない。
梱包の仕方でもそうです。
最初の 段階でパレットやコンテナのサイズに合わせてモジュ ール化しておけば、その後のコストやハンドリングに 大きな差が出てくる」 ――今後の課題は? 「やはり教育ですね。
そのために日本ロジスティク スシステム協会や学会など外部の教育研究機関を積 極的に活用しています。
それに加えて親会社の海外製造子会社に人件費当社持ちで人を送るようにしていま す。
現地法人から当社のスタッフを一人寄こしてくれ と依頼されたら当社は二人出す。
もちろん現地法人に 迷惑はかけられないので、一人分は完全に当社持ちに する。
それで人が育つ。
事実上の研修費です」 ――先行投資になりますね。
「教育だけでなくネットワーク整備や、とくに情報 システムには、これまでかなり思い切った先行投資を してきました。
もちろんリスクはあります。
しかしリ スクをとらない限り、当社のような四日市の田舎会 社がグローバル・ロジスティクスを成功させることな ど、とても望めない。
社員の意識も変わらない。
社員 が自信を持てるようでなくては飛躍もないと考えてい ます」 特集 95 年 3 月期 96 年 97 年 98 年 99 年 00 年 01 年 02 年 03 年 住電装ロジネットの業績推移 180 160 140 120 100 80 60 40 20 0 450 400 350 300 250 100 150 100 50 0 売上高 当期利益 当期利益(単位・百万円) 売上高(単位・億円)

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