ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
ロジスティクス・ビジネスはロジスティクス業界の専門雑誌です。
2003年5号
特集
調達が変わる 商品価格と物流費を分離しろ

*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。

MAY 2003 8 調達物流の管理は、これまで日本市場では必要な かった。
商品価格には納品のための物流費が始めから 含まれている。
納品条件によって価格が変わることは ない。
購買側は最も都合のいいように納品を指示する だけ。
後の物流管理は調達先の責任だ。
調達先の販 売物流として納品は管理される。
そんな日本の商慣習 に変化が訪れている。
流通の川上では現在、「ベンダー主導型在庫管理 (VMI:Vendor Managed Inventory )」が、ベン ダーではなく、購買側の組み立てメーカー主導で拡が っている。
組み立てメーカーが、それまで工場に隣接 して構えていた部品倉庫を閉鎖する代わりに、調達先 の部品メーカー各社が共同で倉庫を設置する。
そして 組み立てメーカーが自分で処理していた部品在庫の管 理からライン納品までの業務をベンダー側に移管する。
これによって組み立てメーカーの部品在庫はゼロに なる。
構内物流の管理も不要になる。
割りを喰うのは ベンダーだ。
在庫リスクを押しつけられた上、新たな 物流費の支払いまで強いられる。
共同部品倉庫の運 用は3PLが担っている。
その支払いがベンダーに回 る。
その分を商品価格に上乗せして組み立てメーカー に請求できるわけではない。
ベンダーの持ち出しとな っているのが実情だ。
一方、流通の川下ではチェーンストアによる専用物 流センターの設置が相次いでいる。
日本のチェーンス トアはこれまで、店舗への納品を調達先卸やメーカー などの各ベンダーに任せていた。
これを改め、チェー ンストアの専用センターにいったん商品を集め、店舗 に一括して納品するという体制に切り替える動きが拡 商品価格と物流費を分離しろ 調達物流改革に名を借りた買い叩きが横行している。
商品価格 は物流費込み。
そんな日本の商慣習に目を付けた大手企業が、購 買力にモノを言わせて調達先に物流費相当分の商品値下げを強要 している。
流通の全体最適化と逆行する無益な駆け引きを避ける には、商品価格と物流費を分離する取引条件の刷新が必要だ。
(本誌・大矢昌浩) 解説 がっている。
一括物流と呼ばれる。
VMIで組み立てメーカーが自分で抱えていた物流 管理をベンダー側に押しつけたのとは対照的に、チェ ーンストアはベンダーに任せてきた物流管理を自社に 取り込もうとしている。
双方に共通するのは、いずれ も取引の買い手側が改革の主導権を握っている点だ。
売り手側の販売物流チャネルが、買い手側の調達物 流改革によって塗り替えられている。
歴史を振り返ると、大量生産した製品を全国あまね く供給することが、これまではサプライチェーンの基本 的な役割だった。
そこでは起点となるメーカーが主導 権を握っていた。
これに対して今日求められているの は、市場で必要とされる商品を、必要な時に必要なだ け調達する物流だ。
サプライチェーンの起点は流通の 川上から川下にシフトした。
これに伴い、ロジスティ クス管理の対象も販売から調達へ「回れ右」を始めた。
もともと欧米を始めとする日本以外の市場では、買 い手側が売り手側の軒先まで商品を取りに行く形の 取引が常識的に行われてきた。
そのため欧米では調達 物流が当初から販売物流と並ぶロジスティクス管理の 柱となっている。
日本だけが異質だった。
しかし、そんな日本でも調達物流が始まった。
ロジ スティクス管理の国際標準に遅ればせながら足並みを 揃えた格好だ。
ところが「商品価格は物流費込み」と いう商慣習は依然として変わっていない。
そのことが 全体最適化を目指すロジスティクス管理のコンセプト とは相容れない、非合理な調達改革を横行させる結 果を招いている。
チェーンストアの一括物流では、「センターフィー 〈特集1〉調達が変わる 9 MAY 2003 問題」が深刻になっている。
チェーンストアは一括物 流センターの新設に当たり、その運用費をベンダー側 からセンターフィーという形で徴収する。
一括物流の 導入によってベンダーは、従来の店舗別の納品が、専 用センター一カ所への納品で済むようになる。
それだ けコストは低下する。
それをセンターフィーとして還 元しろというわけだ。
センターフィーは通常、そのベンダーとの商品取引 金額に一定のパーセンテージを掛けて計算される。
当 然ながら一括物流によるコスト削減効果はベンダーに よって違う。
しかし実際にはチェーンストア側の判断 で、商品分野別に一律でセンターフィーの割合を決め ているケースが多い。
センターフィーの決済は商品取 引額と相殺される。
実質的にベンダーはセンターフィ ーの分だけ売り上げが減る。
そして、物流コストは減 らない。
確かに、そのチェーンストアに納品するトラ ック台数だけを見れば減る。
しかし、顧客は他にもい る。
ベンダー側は全ての顧客に納品するためにルート 配送を組んでいる。
特定のチェーンストアが一括物流 を始めることでそれが崩れてしまう。
VMIも同様だ。
組み立てメーカーは、ベンダーに 部品在庫の管理を委ねることで、サプライチェーン全 体の効率化が実現できると主張する。
しかしベンダー に押しつけた在庫リスクと管理コストの対価は認めな い。
新しい取引条件を採り入れながらも、物流費は商 品価格に含まれているという古い商慣習は利用する。
ベンダーの販売物流と納品先の調達物流は本来、同 じものだ。
最適な在庫管理や輸送方法は、両者の思 惑とは無関係に、商品ごとの取引量や頻度に応じて 決まる。
ところが実際には、力関係で強い立場にある 企業が一方的に自分の都合を取引先に押しつける「個 別最適」が横行している。
日本企業の調達物流改革は、そのほとんどが合理 性を欠いたパワーゲームに陥っている。
商品価格に紛 れ込み、グレーゾーンとなっている物流費が、駆け引 きの格好の道具となっている。
正論の通用しない、サ プライチェーン上の権力闘争に、ロジスティクスを担 当するマネジャーは、否応なく巻き込まれる。
それを避けるには、商品価格と物流費の分離が必 要だ。
営業戦略の重要な柱となる取引条件の改革を、 ロジスティクス部門から切り出し、それを断行するの は容易ではない。
しかし、取引条件別の物流コストを 数値で示すことはできる。
それによってグレーゾーン はグレーではなくなる。
ところが現実には、多くのロジスティクス部門が取 引条件の違いによるコスト・シミュレーションを処理 できないでいる。
チェーンストアはセンターフィーの レートを決めるに当たって通常、ベンダー側に現状の 物流コストについてヒアリングする。
これに対して明 確な回答が得られないケースが少なくないという。
反対に、優れたコスト・シミュレーション能力を持 ったロジスティクス部門を抱えるメーカーは、チェー ンストアからの一方的なセンターフィーの要請に、デ ータに基づいた反論を行っている。
明確な数字を示さ れれば、チェーンストアも無理強いはできない。
結果 として、取引条件にベンダーによる違いが生まれる。
それはそのまま収益力の差として業績に反映される。
取引先とのパワーゲームを脱した時、初めてSCM は動き出す。
そこでは売り手側、買い手側という立場 の違いとは無関係に、双方のロジスティクス部門が主 役になる。
しかし、今はまだ厚い壁が立ちふさがって いる。
商品価格から物流費を引きはがし、グレーゾー ンに光を当てることが、日本市場におけるSCMの最 初の一歩になる。
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