ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
ロジスティクス・ビジネスはロジスティクス業界の専門雑誌です。
2003年5号
現場改善
投資ゼロで物流コスト10%削減

*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。

事例で学ぶ 現場改善 日本ロジファクトリー 取締役 吉原和彦 MAY 2003 68 商物分離後に物流費が上昇 私たち日本ロジファクトリーの面々が、医療 関連メーカーであるS社の物流センターを初め て訪問したのは二年前の残暑の厳しい初秋だっ た。
稼働して一年余りというその物流センター はさすがに真新しく、そして立派だった。
このセンターを設立するまで、S社は全国九 カ所の営業所で在庫を持っていた。
営業マンが 取引先の卸や病院に自分で納品するという体制 だ。
これを改め、東西に物流センターを新設す ることで、営業マンを物流業務から解放する?商 物分離〞を図った。
同時に物流管理面では、?拠点を集約するこ とで在庫の削減を図ること、そして?業務を集 約することで効率化とコストダウンを実現する ことを狙った。
ところが、いざセンターが稼動すると、在庫 の削減こそある程度進んだものの、予想以上に 物流コストが上昇してしまった。
稼動から約一 年が経ってもセンター業務は一向に効率化され ない。
いたずらに物流コストが上昇し続けてい たのである。
コストが上昇している最大の要因は人件費だ った。
センター要員の残業が恒常化していた。
そ の結果として、コストアップはもちろんのこと、 当日の集配時間までに出荷が追いつかないとい う事態も何度か発生していた。
コスト以前にセ ンター業務の正常化が最優先課題となっていた のだ。
S社はある分野の医療機器メーカーとしては 国内トップのシェアを持っている。
その売上規 模は世界でもトップ3に入る大手だ。
全社が掲 げる目標として「世界 No. 1」を目指しており、物 流が足かせとなって日本市場のシェアを下げる ことはなんとしても避けたかった。
S社の日本法人のトップは物流担当部長であ る立石氏に対して次の二つのミッションを与え ていた。
?センター業務を効率化して、納期厳守の物流 体制を構築すること ?物流コストを削減すること。
コストダウン目 標は1年間で5% 最新機器で武装したハイテクセンター 「このセンター、どう思われます?」 私たちがセンターの作業現場に入ると、初対 面の挨拶もそこそこに立石部長は投げかけてき た。
ざっと見た限り、センター要員は二〇人ほ ど。
それほど多くは見えない。
しかも自動倉庫 や自動回転ラック、デジタルピッキングシステ ムなど、最新の物流システムが随所に導入され ている。
ケース出荷の製品は自動立体倉庫から吐き出 第5回 物流効率化のために東西に物流センターを構えた医療関連メーカ ー。
稼動から一年が経過していたが、予想に反して物流コストは上 昇の一途をたどっていた。
それからさらに一年。
現場で働くヒトの動 きに着目し、徹底したムダの排除と出荷頻度に対応した在庫ロケー ションの設定によって、物流コストの一〇%削減を実現した。
投資ゼロで物流コスト 10 %削減 ――大手外資系医療関連メーカーS社 69 MAY 2003 される。
バラ出荷の製品は自動回転ラックから ピッカーが出荷トータル数量を取り出す仕組み になっている。
トータルピッキングを行った製品 はローラーで、バラピッキングのエリアに入る。
バラピッキングにはデジタル・アソート・シス テムを使う。
作業員は自動回転ラックからロー ラーに乗って流れてきた製品のバーコードを据 付のスキャナーで読み取る。
これを合図にフロ ーラックに取り付けられた表示器が点滅、数量 を表示する。
後は表示器の指示に従って、オリ コンの中に製品を投入することで仕分け作業が 終了する(図1)。
一部の商品にはピッカーが中量ラックから製 品をピッキングしていくオーダーピッキングを採 用していた。
しかし、システム化されていない作 業はそれだけ。
他は何もかもが当時の最新型で あり、設備に関しては全く問題がないと言って よかった。
それどころかハイテクセンターとして 見学させるのにも十分なマテハン設備が整って いた。
「整理の行き届いた、いいセンターですね。
マ テハン機器も最新のものが導入されている」。
私 たちはお世辞抜きで、そう感想を述べた。
しか し、立石部長の表情は冴えない。
「これだけの設 備を整えたのですが、昨年の稼動以来なかなか うまくいかなくて。
毎日残業が続き、期待して いたほどの効果が出てこないのです」 S社がコスト面で特に問題視していたのが、こ の残業問題だった。
立石部長はトップから「一 年間で残業を半分にしろ」と言われていた。
私 たちは、もう少し詳しくセンターの様子を見る ことにした。
S社の案件に限らず、私たちが物流改善を請 け負う際に、現場作業で最も注目しているのは、 そこで働くヒトの動きである。
最新鋭のマテハ ン設備が導入されている現場においてもそれは 変わらない。
無人倉庫でもない限り、必ずヒト の動きに関する問題は存在しているものである。
もっとも、これまで私たちがヒトの動きに着 目して現場改善を行ってきた背景には、当社の 顧客構成に起因するところも大きい。
当社は投 資を行うほどの資金的余裕のない中小企業を対 象にした現場改善を数多く請け負ってきた。
そ のため、「初年度は投資なしで物流コストを削減 し、次年度で削減できた金額を投資に回してよ り多くの効果を得る」ことを基本的なスタンス とせざるを得なかった。
そうした中小企業と、今回のS社では事情が 違う。
S社のような大企業であれば、必要性さ え認められれば数億円単位の設備投資も可能だ ろう。
しかし、それでは当社がコンサルティング を請け負った意味も半減する。
そこでS社でも 私たちはそれまで同様、ヒトの動きを中心に視 察を進めることにした。
つまり、なるべく投資 をしないでコストを下げようと狙ったのだ。
バラ出荷の作業フローを分析 S社の物流の九〇%近くはバラで出荷される 製品であった。
残業の発生もバラで出荷される 作業の遅れが原因だった。
バラ出荷の作業フロ ーを大まかに整理すると、これほどシステム化 されたセンターであっても、ピッキングから梱包 までに、ヒトの介在する作業が二〇項目も発生 していた。
これらの作業の中に改善すべきとこ 図1 出荷作業フロー 業 務 マテハン等 投入人員 オーダーピッキング 台 車 中量ラック 20人 搬送 台 車 トータルピッキング 自動回転ラック 自動立体倉庫 8人 搬送 ローラー(自動) 20人 納品先別仕分 デジタルアソート システム 12人 梱 包 マニュアル作業 搬送 出 荷 プラッター等 8人 MAY 2003 70 ろが必ずあるはずだ。
そう目星を付けた。
1 自動回転ラック ?トータルピッキングリストに印字されている バーコードをハンディターミナルで読み取 る ?自動回転ラックが回転し、目的の製品の棚 で停止したら、棚に表示されている数だけ 製品を取り出す ?製品と数量、製造ロットを確認し、トータ ルピッキングリストにチェックを入れる ?取り出した製品をトレーに入れる ?次の製品をピッキングする ?トレーがある程度溜まったら自動搬送式の ローラーに置く 2 デジタルアソートシステム ?流れてきたトレーを拾い上げる ?トータルピッキングリストに印字されている バーコードをスキャナーで読み取る ?フローラックの表示器に表示されている場 所に置かれたオリコンに製品を入れる ?次のトレーを拾い上げる ?フローラックのオリコンが一杯になったら、 ラック横においてあるオリコンを取りに行 く ?取ってきたオリコンをフローラックの前面か ら入れる 3 梱包 ?デジタルアソートシステムでの仕分けが終 了したら、配送先別にフローラック背面か らオリコンを取り出す ?オリコン内の製品の物量を見て、適当なダ ンボールサイズを判断して取りに行く ?フローラック背面の梱包作業机に戻る ?オリコン内の製品をダンボールに移し替え る ?ダンボールへの1配送先分の製品を入れ終えたら、予め配送先別のオリコンにセット された納品伝票とガムテープで封印する ?同様に予めセットされた送り状をダンボー ルに貼り付ける ?フローラック背面から次の配送先のオリコ ンを取り出す ?梱包済のダンボールがある程度溜まったら ダンボールを出荷場に移動する まずピッキングの段階では、センター内の約 二〇人のパート社員が、?自動回転ラックから のトータルピッキング作業を担当するグループ と、?デジタル・アソート・システムで仕分け 作業を行うグループの二つに分かれていた。
詳 しく調べると、?仕分け作業グループよりも、や や早く?トータルピッキングのグループが作業 を終了している。
?トータルピッキングのグループは、作業が 終了すると仕分けを終えた配送先の梱包作業を 開始する。
その後、?仕分け作業のグループも 仕分け作業を終了したパート社員から順次、梱 包作業に移る。
しかし、?仕分け作業担当が梱 包作業に参加するのは、トータルピッキングの グループが梱包を開始してから三〇分近く経過 してからであった。
結果として梱包作業に全員 が参加できたのは午後六時頃だった。
十二時三 〇分に開始したピッキング作業から既に五時間 半が経過していた。
さらに梱包作業を始めたパート社員の動きを 観察していて、それまでのトータルピッキングや 仕分け作業とは明らかな相違点に気が付いた。
移 動が多いのだ。
配送先別の出荷量に見合った梱 包用ダンボールを資材置き場まで取りに行くた めだった。
梱包ラインは横一列に約三〇メートル。
ダン ボールの置き場所は梱包ラインに平行して等間 隔に三カ所設置されていた。
パート社員がダン ボールを取りに行くには、一回につき最長一〇 メートルの距離を往復しなければならない。
ま た作業に熟練していないパート社員はダンボー ルに製品を詰めては、また別のダンボールを取 りに行き、製品を詰め替えるという作業を頻繁 に行っていた。
そこでダンボールへの詰め替えを行っていたパート社員に訊ねてみた。
「なぜもっと近くにダンボールを置かないので すか」 「さぁ。
一年前からあそこまで取りに行くこと になっていますから」 どうやらセンターの稼動当初からダンボール 置き場は変わっていないらしい。
さらにそのパー ト社員に訊ねた。
「さっきは製品の詰め替えをしていましたけど、 詰め替えは多いのですか?」 「ダンボールの大きさがまちまちで、大きさが 合わないことが多いし、どのダンボールを取った らいいのか、悩むことが多いんです」 置き場には五つのサイズの段ボールが用意さ 71 MAY 2003 れていた。
腕時計で測ってみると、そのパート 社員が適当な大きさのダンボールを探す時間に は三〇秒以上も要することがあった。
秒単位の作業改善が大きな効果 ここまで分かれば、梱包作業の改善施策を打 ち出すことは比較的簡単であった。
段ボールの 検索時間と移動を短縮すればいい。
具体的には 以下のような改善を実施した。
?梱包中に作業担当者が振り向いたらそこに段 ボールがあるように、段ボールの配置を換えた。
→段ボール置き場までの歩行時間を平均約四 〇秒削減した ?ダンボールサイズの種類を五種類から三種類 に集約した。
→適切な段ボールを探す時間を 平均で約五秒削減した ?デジタル・アソート・システムと平行に並べ られた梱包作業用の机を九〇度動かした。
→ 梱包済みダンボールの出荷場まで移動する時 間を平均約一〇秒削減した こうして一秒単位での作業時間の削減を積み 重ねることで、それまで一梱包当り二七〇秒を 要としていた梱包作業が一九〇秒で済むように なった。
二〇人のパート社員が五〇〇ケースの 梱包を行うために要していた一一〇分強の時間 が八〇分弱になり、最終的には梱包作業時間を 三〇分以上短縮することができた。
とはいえ、この程度の時間短縮では依然とし て残業はなくならない。
残業を完全に撲滅する には、梱包の前作業を効率化し、梱包作業のス タート時間そのものを前倒しする必要があった。
梱包の直前の作業となるデジタル・アソート・ システムの作業では、スキャナーによるバーコー ドの読み取りに着目した。
仕分け担当者はロー ラーで流されてきた製品のバーコードを読み取 るために、ローラーからトレーを拾い上げ、トー タルピッキングリストに印字されているバーコー ドをスキャナーで読み取る作業を繰り返す。
具体的には以下のような作業を行う。
?バーコードスキャナーを手に取る ?スキャナーの読み取りスイッチを押す ?バーコードを読み取る ?バーコードスキャナーを元の位置に戻す この動作に平均二秒を要していた。
ここで行ったのは、スキャナーの読み取りス イッチを常時オンにした状態にし、スキャナー を机に固定する。
それだけだ。
これによってパー ト社員はトータルピッキングリストをスキャナー の前にかざすだけでバーコードを読み込むことが できる。
実に簡単な装置の変更であった。
しか し、これが驚くほどの改善効果をもたらした。
平均二秒のバーコード読み取り時間が一秒も かからなくなった。
読み取り作業は一日で一人 当たり平均四〇〇〇回ある。
合計すると一時間 以上もの時間短縮となった。
一回当り一秒余り の時間短縮であっても、繰り返し作業の多い物 流現場では大きな効果をもたらすものである。
間違っていた出荷分析 次に実行したのは在庫ロケーションの改善で ある。
三カ月以上出荷実績のない滞留在庫製品 の処理と、製品の保管位置を出荷頻度別に並べ 替えたのだ。
S社の場合、滞留製品は全取扱ア イテム数の三〇%近くに上っていた。
滞留製品 だからといって物流部門の判断で製品を廃棄す ることなどできない。
しかしロケーションを工夫 することで滞留在庫が物流作業に与える影響を 極力、抑えることはできる。
過去三カ月以上出荷実績がない在庫を、通常 のピッキングエリアとは全く別のロケーションで 保管することにした。
通常のロケーションで保 管するアイテム数を削減することで、保管エリ アに余裕を持たせることが狙いだ。
同時にピッ キング時に選ぶ対象を少なくすることで作業効 率を高めた。
一方、出荷頻度(回数)別のロケーション設 定は、オーダーピッキングのエリアで大きな効 果が認められた。
製品のロケーションを設定す る際、「よく出る物を取り出しやすい位置に」と いうセオリーは、今や多くの企業で実施されて いる常識といっていい。
しかし「よく出る」を 「出荷数量が多い」と勘違いしている企業が意外 に多いのもまた事実だ。
中には売上金額でロケ ーションを決定しているセンターを見かけること さえある。
それまでS社では、製品の出荷数量に応じて ABCランクに分類した上で、各製品のロケー ションを設定していた。
ところが出荷数量がA ランクだからといって、出荷頻度もAランクに なるとは限らない。
表1をご覧いただきたい。
S社のセンターで 管理していた製品は一万三六五一アイテムであ り、そのうち出荷数量がAランクでありながら、 出荷頻度ではCランクとなる製品が十一アイテ ムあった。
反対に出荷数量がCランクでありな がら出荷頻度ではAランクとなる製品は、四四 MAY 2003 72 二アイテムも存在して いた。
この出荷数量Cラン ク、出荷頻度Aランク の製品のロケーション は作業の効率化に大き く影響する。
これらの 製品を「あまり出ない から」と、ピッキングエ リアの奥の方にロケー ションを設定してしま うとどうなるか。
「なぜ だかわからないけど、い つ見てもピッカーが奥の方まで製品を取りに行 っている」状況が発生する。
S社もこの間違っ たABC分析によってピッキングを効率化する ことができずにいた。
出荷頻度別のロケーション設定は、オーダー ピッキングエリアの他に、自動立体倉庫と自動 回転ラックエリアにも適用した。
特に自動回転 ラックでは、トータルピッキングのスタート開始 から出荷頻度の高い製品をピッキングすること によって、作業開始時点では手待ちが発生して いた仕分け作業をフル回転させることができる ようになった。
製品ロケーションを決定するABC分析のキ ーを数量から頻度に変えるだけで、作業効率は 最終的には三〇%以上も向上した。
一連の改善の結果、S社は当日の出荷予定製 品を完全に出荷する体制を整えることができた。
最大の要因は出荷作業効率が向上したことにあ る。
作業効率を前年との同月データと比較する と、オーダーピッキング、トータルピッキング、 仕分け、梱包のどの作業についても大幅に時間 当たりの処理件数が増加する結果となった。
同時に一七・六億円であった年間の物流コス トが一五・七億円までに減少した。
設備投資等 は一切行わず、にである(表2)。
残業時間は半 減どころか年二回程度の繁忙期を除いてほとん ど解消した。
実を言うと、大幅な生産性の向上はムダ取り や出荷頻度に合わせたロケーション設定の効果 だけではなかった。
センター内で数々の改善を 進めていくうちに、パート社員の改善意欲が刺 激されたのか、様々な改善提案がパート社員か ら出てくるようになっていった。
現在ではS社 もパートの改善提案を奨励しており、最も現場 で採用された提案件数が多かったパート社員に は報奨金を支給する制度を設けている。
*本文の個人名は仮名です 表1 出荷数量と出荷頻度ABC分析の結果 表2 物流改善結果 頻度 数 量 A B C 計 データ 年 度 売 上 物流コスト 平成12年度 886 23 11 920 533 151 63 747 442 846 10,696 11,984 1,861 1,020 10,770 13,651 341億円 17.63億円 平成13年度 344億円 15.71億円 業務生産性 (1時間当たり処理件数平成12年度を100%とした場合の比較) トータルピッキング (自動立体倉庫) オーダーピッキング トータルピッキング (自動回転ラック) 仕分 (デジタルアソートシステム) 梱包 平成12年度 100% 100% 100% 100% 100% 平成13年度 136.3% 193.9% 131.8% 128.3% 134.5% A B C D 年 度 よしはら・かずひこ1966年生まれ。
関西大学経済学部経済学科卒。
88年、大 手食品卸に入社。
98年、同社ロジスティ クス本部の設立メンバーとして本社に配属。
その後、日本ロジファクトリーに入社。
前 職の経験を生かし、現場に密着した業務改 善指導を目指す。
2001年、取締役に就 任。
現在に至る。
yoshihara@nlf.co.jp

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