ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
ロジスティクス・ビジネスはロジスティクス業界の専門雑誌です。
2003年5号
ケース
QVCジャパン――現場改善

*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。

衝動買いを誘うディレクター 千葉・幕張新都心の高層ビルの一階。
ここ に米国テレビ通販最大手「QVC」の日本法 人、QVCジャパンがテレビスタジオを構え ている。
朝八時から夜十一時までの十五時間、 延々と生放送が繰り返されるスタジオの様子 は一般のテレビ局とは明らかに異なっている。
ディレクターの仕事ぶりはテレビマンという よりもむしろ証券市場のディーラーを彷彿さ せる。
スタジオを訪れた時、番組ではジュエリー が紹介されていた。
女性モデルがすらっと長 く伸びた指にダイヤのリングをはめて、にっ こりと微笑んでいる。
確かに価格は見た目よ りも安い。
デザインも洒落ている。
「カメラ、もう少し商品に近寄ってくれ。
そ うそう。
ナビゲーターは商品名を繰り返して。
よしよし。
もう一息で完売になるぞ。
最後の 一押しは購入者の生の声でいこう。
コールセ ンター、電話をつなぐ準備はいいか?」 ディレクターの役目は番組を円滑に進める ことだけではない。
ブラウン管の向こう側で 煎餅を頬張りながら番組を視聴している主婦 たちを衝動買いに導かなければならない。
主 婦たちが食指を動かすにはどのような映像や コメントが効果的なのか。
それを念頭に置き ながら番組を進行していく必要がある。
ディレクターのデスクにはオンエアの様子 が映し出されるモニターのほかに二台のパソ MAY 2003 42 テレビ通販ブームで出荷量が急拡大 マテハン機器の活用で処理速度を向上 米テレビ通販最大手の日本法人。
ブーム到 来で出荷量が約20倍に膨れ上がった。
自社セ ンター内でのオペレーションは、これまでマ ンパワーが中心だったが、今年1月自動化に踏 み切った。
マテハン機器の活用で出荷処理の スピードを2倍に向上させた。
QVCジャパン ――現場改善 型が加わった。
インフォマーシャルとは情報 プラス広告を意味する。
商品の特徴を五〜三 〇分掛けてじっくりと説明するためのVTR を用意。
それを深夜帯などに放送して注文を 受け付ける。
筋肉質の外国人男性が運動器具 を動かしていたり、金髪女性が掃除機で部屋 をきれいにしている番組がそれだ。
腹筋を鍛 えるダイエット運動器具「アブトロニック」 はこの「インフォマーシャル」型番組で紹介 され、一昨年に大ヒットした。
そして、近年になって急速に勢力を拡大し つつあるのが「テレビショッピング」と呼ば れる形態だ。
衛星放送やケーブルテレビなど の専門チャンネルを通じて、商品を二四時間 日本のCATV(ケーブルテレビ)市場規模 日本の総世帯数=約4,700万世帯 CATV対象地域の世帯数 =約2,700万世帯 CATV接続世帯数=約1,300万世帯 (CATV経由TVを見ている全世帯) 有料・多チャンネル加入世帯 約400万世帯 43 MAY 2003 ともある。
視聴者に対していかに魅力的な番組を提供できるか。
一般のテレビ局のディレ クターとは異なり、当社のディレクターには マーケティングのセンスというものが欠かせ ない」とスタジオを案内してくれた社長室ア シスタントの今野あかね氏は説明する。
急成長するテレビ通販 ここ数年、テレビ通販が急成長を遂げてい る。
日本の通販マーケットの約四割を占める と言われるカタログ通販が伸び悩む一方で、 テレビ通販は年々シェアを 拡大しつつある。
現在の市 場規模はおよそ二〇〇〇億 円。
実に五年前の約四倍に まで膨らんでいる。
これまでテレビ通販と言 えば、テレビ番組の合間に 数十秒〜数分のコマーシャ ルを流す「スポットCM」 型が主流だった。
商品の特 徴を簡単に説明して値段を 提示。
最後にコールセンタ ーの電話番号や代金の支払 い方法を知らせる。
販売商 品としては「高枝切り鋏」 や「布団圧縮袋」などが有 名だ。
一〇年ほど前からはそれ に「インフォマーシャル」 コンが置かれている。
一つには商品在庫数と 購買状況のグラフが、そしてもう一つには商 品の受注状況やコールセンターに寄せられた 電話本数のグラフが表示されている。
これらデータはリアルタイムで更新される。
ディレクターはグラフの動きに注意を払いな がら、商品の売れ行きが好調なら短時間で番 組を打ち切る。
逆に伸び悩んでいるようであ れば、放映時間の延長を決定する。
「売れるかどうかは商品力で決まる。
しかし 商品の見せ方次第で売れ行きが違ってくるこ 千葉・幕張のテレビスタジオ 番組は1日に15時間生放送される た過剰な演出がある。
これに対して、テレビショッピングは番組のナビゲーターと、ゲス トに迎えたメーカーの担当者や生産者、デザ イナーが丁寧に商品を説明する自然な演出が 中心。
それが日本の国民性には合っており、 業績拡大に寄与しているのではないか」と今 野氏は分析する。
千葉県・佐倉に自社物流センター 一般にテレビ通販の物流は消費者から寄せ られる電話での注文をコールセンターで受け、 そのデータを物流センターに転送。
物流セン ターで商品をピッキング・梱包し、宅配便を 利用して配送するという仕組みになっている。
QVCジャパンも例外ではない。
ただし、コ ールセンター業務や物流センター業務を外部 に委託する企業も少なくない中で、QVCジ ャパンでは開局以来、配送を除く物流のオペ レーションをすべて自社で管理する体制を敷 いている。
アウトソーシングに踏み切らなかったのは 「購入された商品が顧客の元に届くまでの過 程に責任を持つため。
現場の生産性管理を徹 底すれば、外注化するよりもローコストでセ ンターを運営することも可能だから」と石原 收オペレーション本部商品センターディレク ターは説明する。
開局以来、同社は千葉県・佐倉市に物流 センターを設置している。
施設は延べ床面積 約一万四〇〇〇平方メートルの二階建て。
こ こでベンダーから直接配送される食品を除い た全商品の物流を処理する。
取扱アイテム数 は平均で一万SKU。
アパレル商品などの扱 いが増える時期には二万SKUに達するとい う。
もともとセンター内での作業はすべてマン パワーで処理してきた。
ピッキングリストを 基にピッカーがラックから商品をピッキング。
それをカゴ車に入れて梱包スペースに搬送す る。
次にパッカーが商品と納品書を箱詰め。
最後に方面別に仕分けして出荷するという手 順だった。
しかし今年一月、これを大幅に見直した。
ピッキングした商品の仮置きスペースから梱 包スペースまで、梱包スペースから仕分けス ペースまでの間にコンベアでつなぎ、商品搬 送を自動化。
さらに方面別仕分けの作業に新 たに自動仕分け機「ジェットサーフィンソー ター(J ―SUS)」(ダイフク製)を導入し た。
MAY 2003 44 紹介、販売し続ける。
こちらも「インフォマ ーシャル」型と同様、米国で生まれ、日本に 輸入された。
代表格は九六年に放映を開始し た住友商事系の「ジュピターショップチャン ネル」。
そして、もう一つが冒頭で紹介した 「QVCジャパン」だ。
QVCジャパンは米国テレビ通販最大手の 「QVC」と三井物産の合弁会社として設立 された。
番組の放映開始は二〇〇一年四月。
以来、多チャンネル化を背景に番組の配信世 帯数を拡大させてきた。
現在の配信世帯数は 衛星放送とケーブルテレビを合わせて約八六 五万世帯。
日本の総世帯数の五分の一をカバ ーしている計算になる。
同社の番組は一五時間が生放送、残りの九 時間がVTRで構成されている。
取扱商品カ テゴリーは「レジャー&ホビー」「ヘルス&ビ ューティ」「ファッション&アクセサリー」「ジ ュエリー」「ホーム」「フード」の六つ。
一時 間に六〜八品目、一日に平均で一五〇品目 を紹介している。
具体的な数字は非公開だが、配信世帯数の 拡がりとともに業績も急伸している。
そのス ピードは会社発足から一六年間で四三億ドル (二〇〇二年度)にまで売り上げを伸ばした 米国本社をはるかに凌ぐ。
設立当初に掲げた 数値目標である「二〇〇五年度に売上高二〇 〇億円」を前倒しで達成できる見通しだとい う。
「インフォマーシャルには拍手や笑いといっ 石原收オペレーション本部商品セ ンターディレクター 実は急激な業績の拡大に伴い、物流センタ ーの出荷量は開局当初の二〇倍にまで膨れ上 がってしまっていた。
そのため、当日出荷す べき商品を配送会社に引き渡す夕方までに作 業を終わらせることができなくなる可能性が 出てきた。
加えてセンターで働くパートタイ マーも増加する傾向にあった。
今回のマテハン導入はピッキングから方面 別仕分けまでの出荷作業時間を大幅に短縮す ることが目的だった。
実際、マンパワーで処理する部分を減らしたことで、出荷までの作 業時間を従来の二分の一に短縮することに成 功した。
今後、「出荷量が二〜四倍に増えて も対応できる処理能力を備えた」(石原收デ ィレクター)という。
二段階ピッキングを採用 視聴者から注文を受けて商品を出荷するま での流れはこうだ。
まず視聴者からの注文を幕張のコールセン ターで受け付ける。
オーダーは二四時間一バ ッチで処理する。
受注の締め切り時間は午前 零時。
コールセンターはその日のオーダーに 関するデータをまとめて、佐倉の物流センタ ーにあるWMS(倉庫管理システム)のサー バーに送信。
物流センターは翌朝、そのデー タを基にピッキングリスト、納品書、荷札な どの帳票類を作成する。
ピッキング開始は午前八時。
ピッキング作 業は大きく分けて二種類ある。
一つがシング ルと呼ばれる「一利用者一商品購入」用のピ ッキング。
もう一つがマルチと呼ばれる「一 利用者複数商品購入」用のピッキングだ。
い ずれもピッカーがリストを見ながらラックか ら商品を抜き取る方法(リストピッキング) で処理している。
シングルの場合、ピッキングされた商品は そのまま梱包スペースへ搬送される。
これに 対して、マルチの場合はトータルピッキング した商品をいったん専用のラックに種蒔きし た後、さらにそこから必要な商品をピッキン グし、商品を組み合わせてから梱包スペース に搬送するという二段階ピッキング方式を採 用している。
米国本社と比較すると、日本は圧倒的にマ ルチオーダーの数が多い。
それは二四時間以 内に注文すれば、複数商品の購入の場合でも、 送料を一回分(宅配便サイズの場合は全国一 律六〇〇円)しか徴収しないというサービス を提供しているからだ。
日本の利用者は送料 負担を軽くするため、商品をまとめ買いする 傾向が強いという。
ピッキングエリアから梱包スペースに搬送 された商品はパッカーによってハンディター ミナルで出荷前検品される。
問題がなければ、 パッカーは商品と納品書を箱詰めして荷札を 貼り付ける。
最後にパッキングした商品を自 動仕分け機につながるコンベアに流す。
梱包作業の部分で特徴的なのは「カートナ イゼーション」と呼ばれるシステムを導入し ている点だ。
このシステムは商品の組み合わ せに応じて、どのサイズの段ボールを使用す れば無駄のない梱包が可能になるかを提示し てくれる。
パッカーは複数商品を混載する際 にどの段ボールを選ぶべきか迷わなくて済む。
納品書の一部分に記載されている番号に従っ て段ボールを用意すればいい。
梱包スペースを出た商品は自動仕分け機に よって方面別に仕分けされる。
これで出荷作 45 MAY 2003 QVCジャパンの業務フロー 顧客ニーズ 顧 客 商 品 商品調達 QA ケーブル局 衛 星 直接受信 生放送 商品受注 商品配達 放送 番組編成 MAY 2003 46 業は終了する。
本来、方面別仕分け作業は配 送会社の仕事だが、QVCジャパンではこれ を物流センターで処理することによって、そ の分運賃を割り引いてもらっている。
商品の 全国配送を担当しているのはヤマト運輸と佐 川急便の二社だ。
ベンダーから商品の入荷は出荷作業の合間 に行われている。
品質管理部門が入荷検品し、 検査にパスした商品だけをラックに格納。
そ の時点で在庫として計上する。
商品は取引条 件によってメーカー委託在庫と買い取り在庫 とに分かれている。
事前に作業量を予測 前述した通り、テレビショッピングでは一 日に番組で紹介する商品アイテム数が限られ ている。
しかもコールセンターに寄せられる 注文の状況をリアルタイムで把握できる。
そ のため、翌日に物流センターでどのくらいの 作業量が発生するかを予測しやすい。
QVCジャパンではこうした特性をセンタ ー運営にうまく活用している。
番組編成やオ ーダー速報を基に、出荷前日にラックに一時 保管されている商品を移動しておく。
ピッカ ーの動線が短くなるよう商品のロケーション を変えておくことで、翌日の作業効率を高め ているのだ。
さらに作業量に応じてパートタ イマーの出勤時間を調整したり、出勤者数そ のものを削減するなど人員配置の最適化も図 っている。
ただし、テレビショッピングの物流にはテレビショッピングであるが ゆえの難しさもある。
そのうちの一 つが商品在庫のロケーション管理 だ。
カタログ通販の場合、例えば カタログが発刊される春、夏とい ったシーズンごとに物流センターの 商品を一気に入れ替えればいい。
こ れに対して、テレビショッピングの 場合は販売する商品が毎日変化す るため、それに応じて商品の入れ 替え作業も毎日行う必要がある。
限られた倉庫スペースの中で、商 品在庫のロケーションをどう割り 振っていくか。
それをマネジメント するのが非常に難しいという。
単 純に販売を終えた商品と同じ容積 の商品が翌日に入荷されるのであ れば、空いたロケーションにそのまま商品を 押し込めばいいが、現実にはそうはいかない からだ。
店舗を持たない通販では、いかに速く正確 に商品を届けるかで購入者のリピートが決ま るとも言われている。
現在、同社の受注から 配送までのリードタイムは三〜四日。
商品の 約九〇%は注文から三日以内で購入者の元に 届いている。
こうした物流レベルの高さが同 社の快進撃を陰で支えてきたといっても過言 ではない。
しかし、現行の物流レベルを今後も維持で きるという保証はない。
取扱アイテム数や出 荷量が増え続けていけば、むしろ物流センタ ーの生産性は低下する恐れがある。
出荷作業 が追いつかず、納品までのリードタイムが伸 びてしまえば、顧客はテレビ通販から離れ、 従来の店舗型販売へと戻っていってしまう。
「マンパワーによる作業生産性の向上には どうしても限界がある。
物流センターをマテ ハンで完全武装するつもりはないが、出荷能 力を高めるためにもう少し機械化を進めるつ もりだ」と石原ディレクターは早くも次のス テップを見据えている。
(刈屋大輔) 千葉・佐倉市の物流センター 食品を除く全商品を出荷する

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