ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
ロジスティクス・ビジネスはロジスティクス業界の専門雑誌です。
2003年5号
ケース
ヤマハ発動機――国際物流

*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。

補修部品の厄介な物流管理 世界第二位の二輪車メーカーであるヤマハ 発動機は、世界一五〇カ国に営業を展開する 日本有数のグローバル企業だ。
同社の事業は 主に、総売上の五割を越す二輪車事業、同じ く二割強のマリン事業、二割弱の特機事業 (スノーモービルなど)からなる。
さらに製品 を購入してくれた顧客に補修部品(アフター サービス・パーツ)や関連用品を販売する 「部品事業部」でも約一〇〇〇億円を売り上 げている。
こうした事業を推進するためにヤマハ発動 機の社内では、「製品物流」、「調達物流」、「補 修部品物流」の三分野に分けて物流を管理し ている。
製品物流は本社内の「ロジスティク スセンター」と呼ばれる組織の担当だ。
工場 の生産ラインで使う部品の調達は、商流と物 流の両面から生産部門が管理している。
そして補修部品や関連用品を全世界の販売 店に供給する「部品事業部」は、他部門とも 一部では連携している ものの、基本的に独自 の物流管理を行ってい る。
本稿では、この部品 事業部が過去二〇年近 く取り組んできた世界 規模のロジスティクス改 革について紹介する。
部品事業部の取扱品 MAY 2003 30 補修部品50万アイテムの管理にメス 95年比で年間コストを40億円削減 ヤマハ発動機の部品事業部が10年越しで取 り組んできたロジスティクス改革にメドがつ いた。
80年代後半に進んだ生産の海外移転に 伴い、複雑化の一途をたどった補修部品の物 流ネットワークを抜本的に再構築。
2005年に は世界6拠点体制による部品供給網を完成する。
完成後には95年比で年間40億円の物流コスト 削減を見込む。
ヤマハ発動機 ――国際物流 ヤマハ発動機の部品事業部でロ ジスティクス改革を主導してき た大江一義ITセンター長 目は、本社内の「パーツセンター」で扱って いるアイテムの数が三〇万点。
全世界で扱っ ている連結ベースのアイテム数となると五〇 万点にも上る。
ヤマハ発動機の販売する製品 がバラエティに富むだけに莫大な数だ。
しか も製品のモデルチェンジが進めば、補修部品 はどんどん点数が増えていく宿命にある。
アイテムごとの荷姿も多様だ。
二輪車やマ リン製品向けの大きな部品から、補修パーツ のネジや歯車などの小さな部品。
さらには関 連用品として販売している物品はヘルメット や革製ジャケット、モーターオイルなど多岐 にわたる。
ボートやスノーモービルを乗用車 で牽引するためのトレーラーのような?物流 泣かせ〞の大型品も少なくない。
しかも部品事業には、製品分野とはまた違 31 MAY 2003 う意味で細かい在庫管理が欠かせない。
アフターサービス・パーツは需要が発生する場所 も、求められる部品も、多くは突発的だ。
に もかかわらず顧客サービスレベルに直結する 行為のため、欠品や極端に長いリードタイム は許されない。
かといって五〇万アイテムも の在庫を、世界各地の物流拠点で厚めに持つ のはコスト面から現実的ではない。
多くの課題を抱える部品事業部のロジステ ィクス改革を、ヤマハ発動機の大江一義主管 は一九八〇年代半ばから牽引してきた。
今年 四月一日付けで同社のITセンター長として 部品事業部から転出し、部品物流の現場から は離れたものの、いま同事業部が推進してい る改革の青写真は、ほぼ大江氏が描いたとい っても過言ではない。
大江主管は「部品ビジネスのグローバルな サプライチェーンを構築しようとすると二〇 年くらいはかかる。
しかし、すでにシステム の九五%以上ができあがった。
あとは中国と 中南米に設立予定の地域統括センターを、二 〇〇五年までに稼働しさえすれば完成する」 と、部品事業部のロジスティクス改革にメド がついたことを強調する。
プラザ合意で国際展開を本格化 ヤマハ発動機の部品事業部がグローバル・ ロジスティクスの再構築に着手した直接的な きっかけは、八五年の「プラザ合意」だった。
このとき先進国首脳が行き過ぎたドル安の是 正で合意したことを受けて、当時一ドル=二 四〇円だった為替レートが一気に動きはじめ た。
その後はじわじわとドル安が進み、八七 年初頭には一五〇円台にまでなった。
輸出依存度の高かった日系メーカーの多く は、たまらず海外への生産移転を開始。
製品 や部品を供給するロジスティクスは世界規模 での見直しを余儀なくされた。
そうした状況 下でヤマハ発動機は、早くも八六年に米国で 製造工場を稼働。
アジアや欧州での現地生産 体制も矢継ぎ早に拡充していった。
当時からヤマハ発動機の製品は世界中で広 く販売されていたが、八五年以前の流通シス テムは単純だった。
日本で集中生産した製品 や部品を、放射線上に世界各地に輸出する 「日本集中型」でよかった。
ところが生産の 海外移転を進めた結果、製品はもちろん部品 の流通システムも「海外分散型」へとシフト せざるを得なくなった。
当然、物流管理の煩 雑さは一気に増大してしまった。
このように環境が激変していたさなかの八 六年に、前出の大江氏は、ヤマハ発動機の社 内の管理職登用のための論文で、部品事業部 のグローバル流通システムに関する将来構想 を描いた。
実はこのときの論文の内容が、部 品事業部の現在のサプライチェーンの原型に なっている。
海外への生産移転に伴って部品流通の拠点 を世界四カ所に新設し、本社への一極集中型 から分散型へと移行する。
さらに分散させた 30万アイテムを扱うヤマハ発動機の本社パーツセンター。
物流泣かせの大型品も少なくない 品を全世界の販売店に遅滞なく供給するためには、効率的なサ プライチェーンが欠かせない。
このことを充分に理解していた からこそ、部品事業部はロジス ティクスをコア業務とみなし経 営資源を投入してきた。
「(部品事業部が)ロジスティ クス改革に取り組むことは、確 実に事業の体質改善につながる。
この分野の改善効果は、よほど 大きな変化がない限りずっと享 受できる。
ただしロジスティク ス改革は複数の技術要素を集め なければ進められない。
システ ム技術、ロジスティクス・エン ジニアリング、包装・梱包デザ インへの精通、輸送・保管技術 ――。
この四つの技術を同期化 できなければ、改革も実現でき ない」(大江主管)。
なかでもカギになったのがシ ステム技術だ。
部品事業部はビ ジネス面での成功と、ヤマハ発動機の製品を 取り扱う販売店の満足度を高めることの両方 を常に問われている。
単に顧客満足度を高め るだけであれば、世界各地に手厚く在庫を持 てばいい。
しかし、それでは収益性は望めな くなってしまう。
世界規模で在庫水準を適正 化するには、グローバルな管理体制を実現で きる情報システムの構築が欠かせなかった。
構想を描いた八六年当時、世界を一元管理 できる情報ネットワークは国際VAN、共同 VANと呼ばれるものしかなかった。
コスト 面や技術面から部品事業部の構想を実現する のは困難だった。
ところがその後、パソコン やインターネットの普及など、情報通信技術 MAY 2003 32 物流拠点の在庫水準を世界規模で適正化す るため、情報は本社でグローバルに一元管理 する――。
四カ所という拠点数こそ現在では 六カ所に改め、活用する情報ネットワークも 当時の「国際VAN」からインターネットに 変わった。
だが大枠では当初の構想をそのま ま具体化してきた。
もっとも、これだけ大がかりなロジスティ クス改革ともなると、さまざまな面でのイン フラ整備や業務改善が必要だ。
このため部品 事業部は改革を三段階に分けて進めてきた。
第一段階で部品流通の拠点を各地に分散 させ、それぞれの拠点単位で情報も管理する ようにする。
第二段階で物流的には分散処理 だが、情報は世界的に一元管理できるように システムを統合する。
そして現在進行中の第 三段階では、世界を六地域に分けてエリアご とに「地域統括センター」と呼ぶ拠点を設置。
これによって本社で一元的に情報を管理する 一方で、実際のマネジメントは地域単位で完 結できる体制を作り上げる(図1)。
エリアによって改革の進捗状況が異なるた め、各段階に取り組む時期は重複してきた。
しかし、とりわけカギになるインフラのグロ ーバル情報システムを昨年末に稼働したこと によって、大がかりなロジスティクス改革の ゴールが見えてきた。
情報システムの基盤整備を完了 五〇万点にも上る膨大な補修部品と関連用 MC 日本集中生産型 (星形流通システム) MC 海外分散生産型 (情報分散システム) 殆どの製品を日本から輸出 流通システムとしては非常にシンプル(星形) プラザ合意後の大幅円高により、グローバル生産体制 へ移行。
同時に部品流通も日本集中型から、海外分散 型(ローカライズ)へシフト MC 海外分散生産型 (情報集中システム) (情報集中システム) 日本・米州・欧州・アジア中近東・中国・中南米 6統括センターによる地域マネジメント体制を展開 2003年アジア中近東、2005年までに中国・中南 米を完成予定 MC 地域統括センター型 図1 グローバル・サプライチェーン構築の3ステップ 過去の生産・流通体型 第1段階 1989〜2001年 第2段階 1998〜2002年 第3段階 2003〜2005年完成 ローカライズ完成後の代段階として情報を中央に集中 させる情報集中型(セントライズ)への移行 が急激に発展したことで、当初の構想を具体 化する環境が整ってきた。
部品事業部にとって構想実現の大きな山場 は、二〇〇二年一二月の「G ―FAST 21 」 という基幹システムの稼働だった。
需要予測 から在庫計画、そしてサプライヤーへの発注 量の計算に至るまで、部品ビジネスの全領域 を管理できるシステムだ。
元々は本社で使っ ていたシステムを、基本部分を変えずに世界 中の拠点に横展開することで世界共通の情報 プラットフォームとしたのである。
同じ時期に「FAST ―Web」と呼ぶ世 界規模の部品データベースも稼働した。
これ は連結で五〇万点ある部品のすべてを一元管 理するインターネット利用のシステムで、「部 品原簿」、「部品表」、「受注ファイル」などか らなる。
世界各地の顧客からの注文を二四時 間、三六五日受け付けると共に、受注した情 報を最適なサプライヤーに配信するところま でをカバーしている。
世界共通のシステムを導入する以前、部品 事業部の各拠点ではそれぞれに個別の基幹シ ステムを使っていた。
在庫計画も各エリア内 の最適化だけを考えて独自に作っていた。
そ の結果、各地の在庫を積算したグローバルの 連結在庫が、常に過剰になりがちという事態 を招いていた。
部品事業部の事業企画室で流通戦略の策 定を担当する大川達実システム・流通企画グ ループリーダーは、「本来であれば、各エリア で持っているカスタマーからの発注情報をすべて一体化して、ヤマハ発動機としての在庫 水準を計算すべきだった。
しかし各地で個別 のシステムを使っていたため、在庫計画を一 元的にコントロールするのが難しかった」と 従来の体制の問題点を説明する。
この長年の課題を「G ―FAST 21 」と「F AST ―Web」の稼働によってインフラ的 にはクリアできた。
問題は実際の運用だ。
両 システムの稼働に先立つ昨年一〇月、部品事 業部は「GCI(グローバル連結在庫計画)」 と呼ぶプロジェクトを発足させた。
その名の 通り、世界規模で在庫水準を適正化すること を目的とする部内組織である。
GCIは、各地の在庫水準を個別に決めて いた従来のやり方を根本的に改めた。
世界共 通の情報システムを介して本社に集まってく るカスタマーの発注情報などを基に、最初に 本社で連結在庫の総量を決めてしまう。
そし て各地に配分する在庫量は、この総量の枠内 で割り振るようにした。
業務を本社で集中的 に処理するため、拠点ごとに配置していた在 庫管理担当者は不要になった。
その仕組み自体は極めてシンプルだ。
しか し、実際に各地の在庫量を引き下げるのは、 大きなリスクと背中合わせだ。
一歩間違えば、 本社主導の在庫削減が各地で欠品を引き起こ し、サービスレベルの低下を招きかねない。
万一そのような事態に陥れば、本社からの緊 急出荷が相次ぐことになり、部品事業の収益 性を追求するどころではなくなってしまう。
こうした事態を避けるため、GICプロジ ェクトでは十数の施策を一体的に進めること で在庫計画の適正化を進めてきた。
事前に総 在庫量を決める「純所用量計算(NRP)」 と並行して、その際の予測値を適正化するた めに、新製品に関する需要予測の精度を高め る、部品の登録年数による需要の減衰を理論 的に算出する、といった裏付け作業を進めた。
すでに米国と欧州の現地拠点の在庫水準は、 従来より三割以上減った。
二〇〇五年にはこ れを半減までもっていく計画だ。
プロセスカットで生産性改善 部品事業部にとっては、パーツセンターで の現場作業の高度化もロジスティクス改革に 欠かせない要件だった。
本社内にある延べ床 面積二万七七九九平方メートルの「パーツセ ンター」では、前述した通り約三〇万種類の 商品を保管している。
ここから国内約二万の 販売店と、海外一五〇カ国・約三〇〇社の 輸入業者に向けた出荷業務を行っている。
サプライヤーからの一日あたりの入荷件数 は一五〇〇件。
出荷件数は顧客の規模によっ て異なるためまちまちだが、出荷のための作 業量は一日あたり約一万五〇〇〇ラインだ。
庫内作業そのものは地場の物流業者に委託し ており、配送実務は製品物流を管理する「ロ ジスティクスセンター」に相乗りするかたち で協力物流業者に委ねている。
33 MAY 2003 MAY 2003 34 庫内作業を外部の事業者に任せているとは いえ、実態としては作業人員の派遣と、現場 での労務管理を委託しているに過ぎない。
そ れ以外の管理は、物流センターの業務改善は もちろん、日常的な生産性の管理までヤマハ 発動機自身が手掛けている。
これは部品事業 部にとって物流がコア業務であるという認識 があるからに他ならない。
実際、パーツセンターではこれまでに数々 の物流改善を積み上げてきた。
なかでも特筆 すべきは、九六年に業務プロセスを見直した 取り組みだろう。
このとき同社は「各プロセ スのなかでだけ改善を進めてもドラスチック な改革は望めない」(大川達実グループリー ダー)と考え、業務プロセスの統合や中抜き によるプロセス改革に取り組んだ。
それ以前のパーツセンターの業務は、「受 け入れ」た部品を「保管」し、オーダーに基 づいて「出庫」して海上コンテナに「バンニ ング」するまで、おおむね九つのプロセスを 経て処理していた。
これを九六年にWRP ( Warehouse Process Reengineering )と呼 ぶ庫内管理システムを導入し、マテハン機器 や庫内オペレーションのあり方を見直すこと で大幅に短縮。
五年後には全物量の四〇%に 相当する業務処理のプロセスを、九工程から 四工程に減らすことに成功した(図2)。
このプロセスカットにとりわけ威力を発揮 したのが、リターナブルの折り畳みコンテナ (折りコン)の導入だった。
庫内で作業を行 う容器と出荷容器を同一にすることで、詰め替えの手間を省いた。
加えて従来はあらかじ め部品単位で総量ピッキングをしてから再度、 顧客別に仕分けていたのを、最初から顧客別 にピッキングするように変更。
こうした改善 を積み上げることで六工程に分かれていたプ ロセスを「ピック&パック(出庫&梱包)」と 呼ぶ一工程に統合した。
このとき樹脂製の折りコンを採用すると同 時に、返却時の輸送効率まで考えた特注のリ ターナブル・パレットも新たに導入した。
こ のパレットは上記の折りコンが二四個、ピタ リと乗るサイズで、四〇フィート海上コンテ ナにちょうど四〇パレットを積める。
九六年 以降のコンベヤラインでは、方面別に二四個 の折りコンが溜まるまで一時待機させ、これ が満杯になると一気に放出してパレット上に 自動で積み付けられるようにしてある。
さらにバンニング作業(海上コンテナへの 積み込み)を港から工場内に移管するなどし て、残されたプロセスも質的に変化させた結 果、パーツセンターの生産性は九六年から二 〇〇〇年の第一段階だけで四〇%以上も高ま った。
この取り組みは日本ロジスティクスシ ステム協会(JILS)から九八年度のロジ スティクス大賞激励賞も受賞している。
その後も同社はプロセスカットに取り組み 続けている。
昨年一〇月には、全物量の四 〇%だった四工程による処理を、システムの 見直しなどで七〇%まで高めた。
そして今年 四月からは、サプライヤーに指定折りコンで 納品してもらうことでパーツセンターでのプ ロセスを二工程に減らす?クロスドック〞も 全体の一〇%に適用した。
また、国際航空宅 配を使って、オーダーから四八時間で海外販 売店に直送するサービスも導入している。
部品棚の配置を数学的に合理化 センター内作業の個別プロセスを改善する 取り組みも重ねてきた。
昨年一〇月に実施し た中小物のバラピッキング・エリアのレイア ウト(棚割)の変更がとりわけ興味深い。
このエリアには在庫回転率の異なる一〇万 改善前 受入・包装 格 納 出庫(Pick ) 受入・包装 格 納 出庫&梱包 ( Pick&Pack ) オーダー まとめ チェック 一次梱包 二次梱包 発送 港バニング 工場バニング 国内外拠点 国内外拠点 販売店 販売店 改善後 通常出荷のプロセスカット 第1ステップ(96年9月〜) 全体物量の40%に適用 第2ステップ(02年10月〜) 全体物量の70% ? ? ? ? ? ? ? ? ? ? 受入・包装 クロスドック 工場バニング 国内外拠点 販売店 クロスドック型※プロセスカット (03年4月〜)全体物量の10%に適用 ※クロスドック:納入された部品が保管棚に格納されずに、出荷場から即出荷される形態の物流 ? ? ? ? ? ? ? 受入・包装 販売店 海外販売店直送型プロセスカット (03年4月〜)全体物量の3%に適用 ? 格 納 出庫&梱包 ( Pick&Pack ) 図2 業務プロセスを大幅にカットして改善を進めた アイテム以上の部品があり、一日当たり七〇 〇〇ライン弱のピッキング作業を行っている。
本社パーツセンターのなかでも作業負担の大 きいエリアで、作業者はかなり長距離を移動 する必要がある。
だが従来、このエリアのレイアウトは?勘 と経験〞で決めており、数値的な裏付けがあ ったわけではなかった。
これを昨年一〇月の レイアウト変更では、部品事業部の社員が独 自開発したソフトを使って数値的に最適化した。
部品ごとのピッキング頻度と、棚の間口 数や通路の関係をシミュレーションして最適 レイアウトを実現した。
いかにもメーカーの 物流部門らしい緻密な改善といえるだろう。
こうして作業者の動線を整理したうえで、 ピッキング作業の効率をさらに高めるために 「ピッキングシャトル」と呼ぶ?半自動〞の AGV(自動搬送台車)を十一台導入した。
AGVでありながら、移動の ための指示は作業者がボタン 操作で行うようにして導入コ ストを抑制するという工夫を 施した。
これによって大型ピ ッキング台車を人力で動かす 必要がほとんどなくなるとと もに、処理スピードは大幅に 向上。
作業の生産性を一段と 高めることができた。
こうして本社パーツセンタ ーで会得した改善の成果を、 海外の拠点にもどんどん移管 している。
そもそも本社パー ツセンターの仕組み自体が、 九三年にヨーロッパで稼働し たセンターのノウハウを下敷 きにしたものだ。
そして本社 で磨きをかけられた技術は、 その後、米国拠点などに活か されてきた。
いわゆる?スパ 35 MAY 2003 イラル・アップ〞による改善活動が、同社の 物流管理には根付いている。
部品事業部では 九五年比ですでに四〇%以上高まっているパ ーツセンターの生産性を、今期中にさらに三 〇%高めることを目指している。
部品事業部は既存の日米欧の三カ所の拠点 に加えて、二〇〇五年までにアジア、中国、 中南米を合わせた計六カ所に「地域統括セン ター」を設置する計画を進めている。
すでに シンガポールの新会社は今年四月に稼働済み で、来年のセンター稼働に向けて準備を進め ている最中だ。
中国と中南米の具体的な要件 設定はこれからだが、稼働当初から生産性の 高い拠点になることは間違いなさそうだ。
計画通り二〇〇五年に世界六センター体制 が整えば、ヤマハ発動機が長年進めてきた部 品事業のグローバルな物流ネットワークが完 成する。
そのときには各地の地域統括センタ ーで持っている在庫水準は九五年比で半減す る見込みだ。
物流コストも九五年比で年間四 〇億近く削減できると期待している。
ただ完成形とはいっても、グローバル経済 の力学は近年の中国の台頭からも明らかなよ うに急速な変化を続けている。
「世界六カ所 の地域統括センターと一口でいっても、各セ ンターの役割は違う。
シンガポールの話はす でに走り出しているが、中国と中南米のセン ターの具体的な計画はこれから詰める。
これ を成功させることが当面の課題」と大川リー ダーの表情に慢心はない。
(岡山宏之) ?折りコン7個を同時に処理するピッ キングシャトル ?作業者が無線端末の指示に従って部 品をピッキングしていく ?「ピッキング&パック」を終えた折 りコンはコンベヤで次の工程へ ?折りコン24個を自動で専用パレット に積み分ける

購読案内広告案内