ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
ロジスティクス・ビジネスはロジスティクス業界の専門雑誌です。
2003年4号
ケース
ソニーサプライチェーンソリューション――調達物流

*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。

オペレーション管理の一元化 「我々は今、物流事業者としての収入を減 らそうと、一生懸命になっている。
保管や輸 送、荷役などで稼ぐ収入をあてにするのは完 全に止めた。
こうした収入にこだわっていた らサプライチェーンの最適化などできない。
サプライチェーンという観点から言えば、す べて減らした方がいいものばかりだ」 ソニーの物流子会社であるソニーロジステ ィックス(以下、SLC)の長谷部忠勝社長 はこう言い放つ。
長谷部氏は今年四月一日付 けで発足するソニーサプライチェーンソリュ ーション(以下、SSCS)の社長に就任す ることが決まっている。
SSCSは、ソニー一〇〇%出資のSLC と、同じくソニー一〇〇%出資の調達子会社 であるソニートレーディングインターナショ ナル(以下、STIC)の合併によって誕生 する。
この合併は物流子会社の経営という観 点から興味深いだけでなく、ソニーのグルー プ戦略にとっても極めて重要な意味を持って いる。
ソニーが子会社二社の合併に踏み切った背 景には、グループを挙げて取り組んでいるサ プライチェーン改革がある。
部品の調達から 完成品の顧客配送にまで至るオペレーション を新会社で一元的に管理することで、全体最 適の実現を図ろうとしている。
これまでSLCは、ソニーの工場から出荷 APRIL 2003 36 物流子会社と部品調達会社を合併 サプライチェーン管理会社へ脱皮 ソニーのサプライチェーン戦略が具体化し てきた。
これまで主に完成品の物流を担当し てきたソニーロジスティックスと、部品の調 達物流を管理してきたソニートレーディング インターナショナルを4月1日付けで合併。
ソ ニーサプライチェーンソリューションとして 再出発する。
今後はグループのオペレーショ ン全般を新会社が一元的に担うことになる。
ソニーサプライチェーンソリューション ――調達物流 37 APRIL 2003 捗管理や、頻繁に変わる取引内容の調整などを手掛けてきた。
STICにとってSLCは、 同じソニーグループの一員とはいっても数あ る協力物流業者の一社に過ぎなかった。
ソニーの部品調達は極めてグローバルに展 開されている。
国内の工場で使っている部品 の約八割を海外から調達しており、海外工場 でも日本製をはじめとする輸入部品を大量に 利用している。
このためSTICは、ほとん どソニーグループの部品だけしか扱っていな いにもかかわらず、年商二二〇〇億円という 中堅商社並みの経営規模を持つ。
従来のソニーでは、SLCとSTICの分 業が成り立っていたため、完成品と部品のオ ペレーションがほぼ完全に分割されていた。
情報システムや倉庫などのインフラも別々の ものを使っていた。
このような管理形態は日 本企業としてはごく一般的だが、ソニーが推 進しているサプライチェーン改革にとっては 非常に都合の悪いものだった。
ビジネスモデルの抜本改革 現在、ソニーはビジネスの?スピードアッ プ〞に徹底的にこだわりながらサプライチェ ーン改革を進めている。
背景には近年、急加 速した商品寿命の短期化がある。
同社が得意 とするAV機器では、生産や販売の計画は一 年単位で考えていればよかった。
ところがパ ソコンや携帯電話など近年急増したデジタル 製品は、わずか三カ月から半年で世代交代し てしまう。
従来のソニーは、中間流通に大量の在庫を 抱え込むことで、川下の需要変動を飲み込ん できた。
ところが九〇年代後半にデジタル製 品に本腰を入れたことで、ソニーは短期化す る一方の商品寿命と、これによって発生する 在庫リスクの大きさを実感。
ビジネスモデル の抜本的な見直しを迫られることになった。
同社のこの戦略転換については、すでに本 誌二〇〇二年九月号のケーススタディで詳報 したが、改めて概略を繰り返しておく必要が あるだろう。
ソニーが高回転型のビジネスモ デルへの転換を決めた直接的な転機は、九七 年に「VAIO」ブランドでパソコン事業に 参入したことだった。
周知の通りパソコンの商品寿命は極端に短 い。
しかもパソコン業界にはSCMの先進企 業として名高い米デルコンピュータがいる。
さらに間接販売を基本とするソニーの場合は、 される完成品のオペレーションを主に担当し てきた。
販売会社の要望に応じて全国に中間 流通拠点を構え、製品を工場からこの物流セ ンターへと横持ちする。
そして販社の指示に 基づいて、ここから顧客へと製品を配送する。
一部の分野では調達物流も手掛けていたが、 物量はごくわずかだった。
一方、合併相手のSTICは、これまでソ ニーの国際的な調達物流を一手に管理してき た。
物流の実務は部品サプライヤーの指定す る物流会社や、STICと契約を結んでいる 物流会社に任せてきたものの、調達物流の進 ソニーのサプライチェーンと新会社の役割 工  場 販売会社 特約店 一般ユーザー サプライヤー サプライヤー サプライヤー サプライヤー サプライヤー 高速サプライチェーン オペレーションの実現 最短のリードタイム・最少の在庫 マーケット情報の共有 新会社が資材調達/物流、製品物流を担当 本 社 売上規模 資本金 従業員 拠点数 代表者 主な業務 神奈川県川崎市幸区 440億円 (02年度見込み) 10億円 約700人 106拠点 社長 長谷部忠勝 東京都港区港南 2,200億円 (02年度見込み) 5.5億円 約300人 9拠点 社長 田所晋 神奈川県川崎市幸区 (03年度計画)3,000億円 (04年度計画)4,000億円 15.5億円 約1,000人 115拠点 社長 長谷部忠勝 副社長 田所晋 ソニーロジスティックス (略称:SLC) ソニートレーディング インターナショナル (略称:STIC) ソニーサプライチェーン ソリューション (略称:SSCS) 会社名 ソニーグループの商 品物流に関するサー ビス全般 ソニーグループの部 品調達、および物流に 関するサービス全般 ソニーグループの部品、 商品の物流、および調達 におけるサービス全般と サプライチェーンの構築 子会社2社の合併で誕生する新会社の概要 ス)の機能を付加。
サプライチェーン の中核を担う組織 として位置づけた。
この新体制の下 で、各工場は互い に情報や技術を共 有し合うように変 わった。
そして 「EMCS構想」 のなかで物流は、 全体最適を実現す るための最上位概 念に据えられた。
こうして抜本的に ビジネスモデルを 見直すことで、ソ ニーはグループの 総力を挙げてデル やノキアといった グローバルメーカ ーとの?サプライ チェーン競争〞に 打って出る姿勢を明確にした。
実務面では、在庫リスクを回避する狙いで 流通在庫を極力、工場倉庫に置くよう変更し た。
全国の中間流通拠点に分散していた在庫 を引き上げて、工場が自ら販売データを見な がら在庫管理を行う。
各工場は従来のように 他部門の指示通りに生産するのではなく、在 庫状況と販売状況をにらみながら自律的に生 産量を制御する。
その後、ソニーは米国、欧州、アジア、中 国でも、日本国内でやったのと同様の「EM CS構想」を推進。
グローバルレベルでビジ ネスモデルを再構築した。
さらに二〇〇二年 四月には、それまで国内の各工場に分散して APRIL 2003 38 直販方式のデルと違って販売店に支払う手数 料の負担がある。
パソコン事業でソニーが成 功するためには、従来とはまったく異なるレ ベルで高回転、高効率のビジネスを実現する ことが不可欠の条件だった。
このときソニーは現社長の安藤国威氏の指 揮の下、販売店のPOS情報を活用して、工 場以外には流通在庫を持たない効率的なサプ ライチェーンを構築した。
結果、パソコン事 業は華々しい成功を収めた。
この成功体験を ベースに、安藤社長が二〇〇〇年三月に打ち 出した全社的なサプライチェーン改革のコン セプトが「EMCS構想」だった。
この構想は、製品別・事業部門別だった従 来のソニーの?縦型〞の組織を、機能別・プ ロセス別の?横型〞に組み替えることを基本 としている。
縦型に形成された従来の事業構 造のなかでは、国内に十数カ所あるソニーの 工場はそれぞれライバル関係にあった。
独立 法人である各工場が互いに競い合うことで生 産性を高め、ソニー全体の競争力を高めると いう構造だった。
そして物流部門は、各工場 や販売会社の下請け的な立場に甘んじていた。
これに対して二〇〇一年四月に発足したソ ニーEMCSでは、「EMCS構想」を具体 化し国内の製造拠点を水平統合した。
ソニー EMCS一社に製造拠点の経営を一元化し、 各工場はその傘下で並列の存在になった。
さ らにM(製造)の機能しか持っていなかった 製造拠点に、E(設計)とCS(顧客サービ ソニーの製品・部品のグローバル物流における取扱量 中国発:19,513トン 中国着:1,204トン アジア発:15,573トン アジア着:14,676トン 域内 2,400 1,200 2,313 1,204 2,473 10,576 16,431 20,666 3,400 日本発:52,295トン 日本着:5,486トン 北米・メキシコ発:1,000トン 北米・メキシコ着:34,066トン 欧州着 28,631トン 中南米着:15トン 7,400 6,000 8,400 物量:88,381トン (2002年度見込み) 3,400 1,400 1,618 1,478 13,700 3,400 1,100 13,500 1,867 7,055 700 7,300 欧州発:200FEU 欧州着:18,371FEU 北米・メキシコ発:5,100FEU 北米・メキシコ着:34,555FEU 中南米着:8,132FEU 中近東着 7,400FEU コンテナ数:92,053FEU (40フィート換算・2002年度見込み) Sydney Long Beach Iquique Manaus Montevideo オセアニア着 2,300FEU アジア発:46,432FEU アジア着:6,767FEU Singapore Barcelona Rotterdam Tokyo Hong Kong Yantian 8,200 中国発:25,378FEU 中国着:5,518FEU 6,100 3,571 日本発:14,943FEU 日本着:9,620FEU 7,332 Air出荷 Boat出荷 いた部品の調達戦略の権限をソニーEMCS のなかに集約。
ソニーグループの調達戦略を 一元的に策定できる体制を整えた。
こうした経緯があったため、SLCとST ICの合併でも、ソニーEMCSが中心的な 役割を担ってきた。
今年四月に発足するSS CSの副社長に就任する田所晋STIC社 長は、当初この合併構想をソニーEMCSで 調達部門の責任者を務める田谷善宏取締役 から打診されたと明かす。
その上で田所STIC社長は、新会社発足 の意義をこう強調する。
「ソニーには、需要 動向を調達側がリアルタイムに把握できるの がサプライチェーンだという我々なりの定義 がある。
ある型式のテレビが、いま、どこで、 どれだけ売れているのか。
こうした情報を基 に部品の調達戦略を立てていく。
いま我々が 入手できる情報で一番、実需に近いのは製品 倉庫における荷動きの情報だ。
だからこそ今 回の合併には大きな意味がある」 二極化する物流子会社の戦略 SSCSは初年度の二〇〇四年三月期に、 約三〇〇〇億円の売上規模になることを計画 している。
このうち約八割は部品ビジネスを 手掛ける調達部門の収入だ。
旧STICがそ うであったように、保管や輸送の管理ではな く商取引そのものの管理が中心になる。
合併 二社のうち存続会社こそSLCだが、新会社 は一般的な物流子会社とは異なる道を歩き始 めることになる。
事業規模を比較するとSSCSの発足は、 日立物流に匹敵する日本最大級の物流子会 社の誕生を意味する。
SSCSと日立物流は 同じ電機業界に所属し、かつて同じように親 会社の物流部門を母体としてスタートした。
しかし日立物流が親会社以外の外部荷主の獲 得によって自立を果たしたのに対して、SS CSは対照的な経営戦略をとろうとしている。
この点について長谷部SLC社長は「我々 の業界には二つの考え方がある。
日立物流さ んのように物流事業者として生きるというの が一つ。
そして我々のように一〇〇%親会社 のビジネスのために活動するというのがもう 一つの選択だ。
私は個人的には、その中間は ありえないと考えている」と説明する。
長谷部氏は昨年六月にSLCの社長に就 任してから、前任の水嶋康雅社長の進めてき た路線を大幅に転換した。
SLCの存在する 最大の目的がソニーの競争力強化にあるとい う点では両名とも一致している。
だが水嶋前 社長は「自分たちの事業の競争力を市場で測 る」という狙いもあって、ソニーグループ以 外への外販拡大も進めていた。
これに対して長谷部社長は、就任してから しばらくすると外販拡大のための努力を一切 止めてしまった。
今後もソニーの経営効率を 高めたり、環境問題に対応していくためには 他社の荷物を扱う可能性を否定しないが、「経 営資源を投入してまでして外販を拡大するつ もりはない」(長谷部SLC社長)と言い切 る。
そして冒頭で紹介したように、むしろ既 存の物流事業の収入を減らすことに熱心に取 り組んでいる。
SLCのこの方針転換は、もちろんソニー グループも承知していた。
もともと「EMC S構想」が具体的に進展すれば、これまでS LCが担ってきた中間流通業務が縮小するの は誰の目にも明らかだった。
それだけに長谷 部氏は昨年六月にSLCの社長に就任した当 初から、同社の将来を見据えた手を矢継ぎ早 に打ってきた。
とりわけ重要なポイントが、水嶋前社長時 代からの懸案でもあった、STICとの合併 による調達分野へのオペレーション領域の拡 大だった。
中間流通の効率化によって浮くイ ンフラや人材を、SLCがほとんど手掛けて こなかった国内の調達物流へと振り向ける。
そうやって部品調達から完成品配送に至るオ ペレーション機能を一元管理する。
これは物 流を最上位概念に置きながらサプライチェー ン改革に邁進するソニーの経営戦略にも合致 39 APRIL 2003 新会社の副社長に就任する田所 晋ソニートレーディングインタ ーナショナル社長 APRIL 2003 40 する。
長谷部SLC社長は、二〇〇二年五月ま で中国でソニー・チャイナの副董事長という 職にあった。
そして中国だけでなく東南アジ アの現地法人とも連携しながら、EMCSチ ャイナとEMCSアジアを立ち上げた実績を 持つ。
海外での実務経験が延べ一〇年になる だけに、部品や製品を国際的に動かすことの 重要性や、近い将来の中国関連ビジネスの可 能性を熟知している。
こうした経験から、長谷部SLC社長が今 後の有望分野として着目したのが国際物流だ った。
とりわけ重視しているのが中国だ。
「ソ ニーは中国で売上高一兆円を目指している。
今後、中国の物流は一気に増えるはずだ。
こ れをきちんと取り込めれば、たとえ日本国内 の取り扱いが減ることになっても、連結ベー スのSLCの売上高は減らない」(長谷部S LC社長)と読んでいる。
実際、ソニーは中国国内に国際物流のハブ 拠点を三カ所設ける計画を進めている。
すで に深 の拠点は昨年稼働した。
二カ所目の上 海についても、中国の法規制などの状況を見 ながら具体的な検討を進めている。
将来的に は華北にも拠点を設ける方針だ。
こうした拠 点に中国国内で作られる部品や製品を集め、 日本や第三国に供給する。
各拠点の運営は、当初は地場の部品ベンダ ーの開拓など技術面の折衝が欠かせないため 製造部門の担当者が手掛ける。
だが技術面の 課題を一通りクリアできれば、次はオペレーションの問題が浮上する。
そのときにはSS CSが運営を肩代わりしてグローバル・オペ レーションの一環として管理し、サプライチ ェーンの高度化を図っていく。
最大の課題は調達物流 もっとも四月に発足するSSCSにとって は、早期に合併効果を出すためにも、国内で の調達物流の取り込みが当面する最大の課題 になる。
これまでSTICが個別に協力物流 業者と交わしてきた契約は、いずれ原則とし て新会社に一本化される模様だ。
そして従来、 完成品の中間流通に使っていたグループ内の インフラや人材を活用できる業務については SSCSが自ら手掛けていく。
SLCの社内では、昨年九月に合併プロジ ェクトに着手したときから準備を進めてきた。
「部品ビジネスは本当に難しい。
特性が違う ためコード番号で呼ぶしかない上、設計の都 合でどんどん変更が発生する」(田所STI C社長)。
こうした現場作業をこなすスキル を身につけるため、STICの社員がカリキ ュラムを組み、SLCの社員を対象とする部 品物流の勉強会を繰り返してきた。
今年八月には、かねてSLCがソニーEM CSや販売会社と一緒に「統合ロジスティク ス改革プロジェクト」という名称で構築を進 めてきた新たな情報システムが本格稼働する。
WMSなど物流業務のコアとなる部分は決定 済みで、システム開発は最終段階にある。
こ れが本稼働すると、顧客との取引条件などの 都合で在庫を持たざるを得ないケース以外、 ソニーの中間流通は在庫型からクロスドック による通過型のオペレーションに変わる。
それによって空いたスペースを調達物流に 活用する準備も進行中だ。
STICが日常的 に取引している部品メーカーは、日本国内に 約六〇〇社ある。
合併プロジェクトでは過去 の取引実績を地図上に描き出し、SLCの既 存拠点を使って効率化する可能性を模索して きた。
四月以降は部品サプライヤーへの働き かけに本腰を入れることになるはずだ。
ただし、これまでサプライヤー任せだった 調達物流をSSCSに取り込むのは簡単では ない。
サプライヤーの立場では、すでに契約 済みの物流業者がいてソニー一社を別扱いに すると支障が生じる可能性がある。
サプライ ヤー自身が物流子会社を持っていて、ソニー の荷物がなければその会社の経営が立ち行か なくなるケースもあるだろう。
こうした事情 があったからこそ、メーカー系物流子会社の 多くが従来、調達物流に着手できなかった。
それでも、これまで手つかずだった調達物 流を上手くコントロールできれば、ソニーに とっては大きな成果を期待できる。
SSCS の最終的な狙いは、ITを駆使したソニー流 のSCMの実現だ。
そのためには調達物流の 一元管理が、最初の一里塚になる。
(岡山宏之) 41 APRIL 2003 ――ソニーはグループを挙げて調達改革に本腰を入 れていますね。
SCMというと、たいていの企業が完成品から入 ってしまう。
工場で作ったモノをどう動かすかから 着手する。
もちろん第一段階として、販売の最前線 のサプライチェーンを構築することは必要だ。
しか し、次の段階では調達分野が重要なポイントになる。
販売と調達の二つをつないで、しっかり管理でき なければ一貫したサプライチェーンは完成しない。
こ れを実現した上で、ロジスティクスのプラットフォ ーム上で部品から製品まですべてのモノを動かす。
そ れが今、我々の進めているプランだ。
――日本のエレクトロニクス業界では、あまり例の ない取り組みです。
確かに業界の集まりで話を聞いても、少なくとも 日本の電機業界で調達物流に本格的に取り組んでい る企業はない。
だが米国のコンピューター業界の企 業は、調達分野にもの凄く力を入れている。
調達業 務を徹底しないとサプライチェーン全体のスピード が出ないし、キャッシュフローも改善できないこと を彼らはよく理解している。
私は米国にいたとき、デルコンピュータにモニタ ーを納入していた経験がある。
だから彼らのやり方 がよく分かるし、嫌になるようなハード・ネゴシエ ーションも頻繁にやっていた。
――デルは取り引きのある部品サプライヤーに厳し いという話をよく聞きます。
厳しいですよ。
あるときなどは時差の関係で日本 は夜中だとわかっているのに、平気で私の自宅まで 電話してきた。
それで「あなたのところの生産にト ラブルがあって、うちの製造がストップした。
約束 の数字を達成していないからペナルティとして三〇 〇万ドルを支払ってくれ」とか言ってくる。
それは もう強烈だった。
そうやって彼らはサプライチェー ンを管理している。
人間に対するマネジメントも日本企業とは違う。
ス トックオプションのような形で大きな?ニンジ ン〞を目の前にぶら下げて徹底的にやらせる。
とく に米国の製造関係はこの傾向が強く、結果としてパ フォーマンスが悪ければ報酬が一発で下がってしま う。
それも日本のようにボーナスが何十万円下がる といった話ではなく、下手をしたら何千万円も違っ てくる。
だから担当者も必死でやる。
――ただし米国企業と同じことを日本でやるのは現実的とは思えません。
日本の社会にはちょっと馴染まない。
――となるとソニーは、デルとは異なる手法で同レベ ルか、より高い効率を追求することになるのですか。
その通り。
私はデル的なやり方をするつもりは一 切ない。
部品サプライヤーにもの凄い負担を強いる 彼らの手法は、私には健全とは思えない。
――にもかかわらず、あれだけシェアがあるとサプラ イヤーは従わざるを得ない。
ボリュームの魅力だけしかない。
とくに台湾系な どは皆、大きな工場を持っているため、工場を食わ せるために仕事を取らざるを得ない。
そういうメカ ニズムに追い込んでしまったというのも、あるいは デルの戦略の一つだったのかもしれない。
私は決して好きではないし、いいとも思わないが、 彼らの凄いところは徹底してやるところだ。
何と言 われようとデルのやり方を変えない。
あれだけ徹底 しているからこそ業績も伸びているのでしょう。
「デルモデルとは違う道を行く」 ソニーサプライチェーンソリューション社長長谷部忠勝 はせべ・ただかつ41年生まれ、64年ソニー入社、 98年執行役員常務、99年HNCディスプレイコン ポーネント&デバイスカンパニープレジデント、2000 年執行役員上席常務、01年ソニー・チャイナ・リミ テッド副董事長、同年ソニーのグループ役員、02年 6月ソニーロジスティックスの社長、03年4月ソニ ーサプライチェーンソリューションの社長

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