ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
ロジスティクス・ビジネスはロジスティクス業界の専門雑誌です。
2003年3号
ケース
赤帽(全国赤帽軽自動車運送協同組合連合会)――情報システム

*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。

縦割り組織で取りこぼし 赤帽(全国赤帽軽自動車運送協同組合連 合会)に加盟する軽トラの個人事業主、いわ ゆる?一人親方〞たちは基本的に自分自身で 荷主を開拓しなければならない。
ただし、加 盟歴が浅く営業ノウハウを持たない新人組合 員や、ベテランであっても既存荷主に契約を 打ち切られ仕事量が減ってしまった組合員は 例外だ。
運賃の一〇%を上限に一定の割合を マージンとして支払えば、所属する支部が仕 事を斡旋してくれる仕組みになっている。
仕事を希望する組合員は毎朝、支部の配 車センターや営業所に出向く。
すると配車担 当者がその日の業務内容が細かく記された紙 (配車表)を手渡してくれる。
あとは配車表 に従って動けばいい。
与えられる仕事は「午 前中は引越」、「午後は渋谷〜世田谷間の往 復輸送」といった具合に、一日中車両が稼働 するようにきちんとスケジュール化されてい る。
配車センターではこうしたレギュラー業務 のほかに「急送」と呼ばれるスポット業務も 提供している。
ただし、この急送は突発的に 発生する仕事であるため、窓口では車両を手 配できない。
配車は無線や電話を通じて行わ れる。
配車センターがGPSで輸送の発地近 くで待機している車両を見つけて、仕事を引 き受けることが可能かどうかを打診する。
条 件が折り合えば、組合員をすぐに現場に向か MARCH 2003 36 組織活性化と実車率向上目指し 携帯使った配車システムを導入 昨年11月、インターネットを活用した新配 車システムを稼働させた。
顧客からの輸送依 頼情報を専用サイトに掲載。
組合員は携帯電 話を使ってサイトにアクセスすれば、配送業 務を受注できる。
同業他社への貨物の流出を 防ぎ、組合員に提供する仕事量を増やすこと で、さらなる組織の拡大を図ろうとしている。
赤帽(全国赤帽軽自動車運送協同組合連合会) ――情報システム 37 MARCH 2003 を抱える巨大組織だ。
本来、この戦力規模からすると、仕事の担い手が見つからないはず がない。
しかし、現実には配車がうまく機能 していないのは、荷主からの依頼と車両のマ ッチングの処理を支部単位で完結させている ことが、一つの理由になっている。
現在、赤帽の支部は基本的に独立して運 営されている。
支部同士の横の連携はほとん どない。
そのため、各支部は傘下の車両から のみ輸送の担い手を探さなければならない。
しかし、一支部当たりの車両の持ち玉は限ら れており、最終的に担い手を探せなかった場 合には依頼主に泣く泣く配車を断ってきたと いう。
当然、その仕事は同業他社に流れてし まっていた。
国土交通省によると、二〇〇二年三月末時 点の軽トラ事業者登録数は約十三万社に上る。
事業者数は年に五〇〇〇〜七〇〇〇社のペ ースで増加を続けており、市場での競争は 年々激しさを増している。
ただでさえ仕事を 確保することが難しくなってきているこのご 時世に、荷主からのせっかくの依頼を断って しまうのは、どう考えても得策ではない。
「赤帽の組合員、支部は互いに競争意識が 強い。
これは組織の活性化という意味では悪 いことではないと思う。
ただし、同じ赤帽の 看板を掲げている以上、協力できる部分は協 力していくべきだ。
仕事を断り続ければ、い ずれ荷主さんは赤帽から離れていってしまう」 と赤帽首都圏軽自動車運送協同組合の新藤 わせるという流れだ。
現場で働く組合員たちにとって、支部によ る配車はまさに至れり尽くせりのサービスだ。
しかしその一方で、手配する側の支部にとっ ては神経をすり減らす仕事となっている。
特 にスポット業務は厄介だ。
引越などのレギュ ラー業務は基本的に前日までに輸送依頼が入 っているため、スムーズ、かつ効率的な配車 が可能であるのにに対して、スポット業務は 当日の発生する仕事ということもあって、輸 送を担当してくれる組合員がなかなか見つか らないこともあるからだ。
赤帽は全国約一八〇の支部の下に組合員 一万八〇〇〇人、車両台数二万二〇〇〇台 鉄郎理事は危惧する。
赤帽の配車の仕組みにはこのほかにも問題 点があった。
例えば、輸送依頼の情報は支部 から組合員に向かって一方通行で流れていて、 組合員は自らで仕事を選ぶことができない。
組合員は支部から打診された仕事に対してイ エスかノーかで答えるだけ。
完全に受け身の 状態となっている。
ある組合員は「支部は組合員に均等に仕事 を割り振っていると説明する。
しかし、配車 担当者も所詮人間だ。
贔屓にしている組合員 がいれば、まずはそういう組合員に仕事を提 供してあげようという気持ちが働くのは当然 だ。
スポット業務では先に連絡を受ける組合 員のほうが有利なのは明らか。
不公平感をな くすためにも、現行の配車の仕組みを改める べきだ」と不満を漏らす。
首都圏対象に新配車システム そこで昨年十一月、赤帽は首都圏を対象に 携帯電話を活用した配車システムを試験導入 した。
この配車システムは顧客から支部に寄 せられる輸送依頼の情報を専用サイトに掲載。
組合員は携帯電話でサイトにアクセスすれば、 好きな仕事を自由に選択できるというものだ。
しかも、これまでのような支部という枠組み での縛りもない。
首都圏の一都三県(東京、 千葉、埼玉、神奈川)の支部に所属している 組合員であれば、誰でも首都圏内で発生する 配送業務を受注できるというルールになって 新配車システムの管理者用画面 MARCH 2003 38 木場に設けられている首都圏本部の物流センター(集中配車センター)で行われている。
ただし、各支部の配車センターでもマッチン グは可能だ。
現在、物流センターで五人、各 支部で一〜二人がその作業にあたっている。
新配車システムに対する組合員の評価は 上々だ。
やる気さえあれば今まで以上に仕事 を受注できる。
実車率を上げれば当然、収入 を増やすことも可能だからだ。
「新システム が浸透すると、荷主さんからの輸送依頼を断 ることなく、きちんと処理できる体制が確立 される。
赤帽ブランドに対する信用度を高め ることができる」と新藤理事は期待する。
もっとも新配車システム上でやり取りされ ている情報の量はまだまだ少ない。
昨年十一 月から今年一月末までの取引実績は約一〇〇 〇件だった。
一日に一〇本程度しかマッチン グできていない計算になる。
現在、新配車シ ステムで処理されている業務はスポットが中 心だが、赤帽ではいずれ首都圏のすべての配 車業務を携帯電話を通じて処理する体制に移 行させる予定だ。
今は試験運用の段階という こともあって、システムに載せる情報量を意 識的にセーブしているという。
赤帽離れに歯止めをかける 実は今回配車の仕組みにメスを入れたのに は、ここ数年で加速している「赤帽離れ」を 抑止したいという狙いも込められている。
赤帽は日本初の軽貨物自動車運送事業者 として一九七五年に発足して以来、軽トラ一 台で運送業を営む個人事業主たちを協同組合 方式で組織化するという手法で徐々に勢力を 伸ばしてきた。
運輸業の規制緩和策として物流二法が施行された九〇年には組合員数一万 五〇〇〇人、車両台数一万九〇〇〇台を突 破。
その後も順調に組織を拡大させ、前述し た通り、現在では組合員数一万八〇〇〇人、 車両台数二万二〇〇〇台を傘下に収めている。
ところが、近年は組合への新規加盟は着実 に増えているものの、既存組合員の脱退が後 を絶たない。
その結果、組合員と車両の全体 数が頭打ちの状態にあるという。
組合員数が伸び悩んでいるのは赤帽加盟へ の訴求力が低下しているからにほかならない。
つまり、組合員たちが赤帽の本部や支部から 斡旋される仕事の質や量に対して不満を持っ ている。
今回、携帯電話を使った配車システ ムを稼働させたのは、他社に流出している貨 いる。
システムの開発費用はすべて赤帽本部で負 担した。
組合員が用意するのはインターネッ トに接続できる携帯電話(機種はNTTドコ モのiモードに限定)だけ。
あとは情報料と して月額一〇〇〇円を支払えば、いつでも配 車システムを利用することができる。
受注時 に支部に支払う斡旋手数料は従来と同様、運 賃の一〇%が上限だ。
業務を受注するまでの手順、そして携帯電 話の操作は極めてシンプルだ。
組合員はまず iモードで赤帽の配車用サイトのトップペー ジを立ち上げる。
続いてユーザー名とIDパ スワードを入力して、顧客からの輸送依頼情 報が一覧掲載されているページにアクセスす る。
「発地」「着地」「貨物引取時間」「業務内 容」などの条件を見ながら、好きな仕事を選 び、受注ボタンを押す。
最後に支部から取引 条件などが細かく記載された配車表が電子メ ールで送られてきて受注が完了する。
検索機能も有している。
組合員が希望す る「業務内容」、「輸送日時」、「保有している 軽トラの車種」などの情報を入力すると、そ の条件に該当する仕事が提示される仕組み になっている。
これまで組合員は支部から提 示された仕事を引き受けるかどうか決めるだ けだった。
それがこの機能によって支部〜組 合員の双方向での配車のやり取りができるよ うになった。
ちなみにマッチングの作業は主に東京・新 携帯電話は機械に弱い高齢者ドライバーで も簡単に操作できる構造にした 物をつなぎ止めることで、組合員たちに提供 する仕事の量を増そうという狙いがある。
仕 事が増えれば、結果として組合からの脱退者 も少なくなっていくだろうと赤帽では見てい る。
ネット通販の浸透などで個人向け宅配の需 要は拡大を続けている。
商業貨物の小口化も 進んでいる。
既存のトラックに比べ小回りの 利く軽トラが活躍する機会が増えるのは確実 だ。
長引く不況でトラック運送市場全体が縮 小均衡にある中で、軽トラは唯一今後の成長 が見込まれている。
赤帽もそのことを十分認識しており、二〇 〇一年にスタートさせた「ニュー赤帽ビジョ ン 21 」構想では「組合員三万人、車両台数三 万五〇〇〇台の達成」という目標を掲げてい る。
全国津々浦々にまで赤と白を基調にした 軽トラックを張り巡らせることで、赤帽ブラ ンドを一般社会に浸透させる。
それによって ヤマト、佐川、日通など既存の宅配便業者や 軽トラの新興勢力に対抗するのが狙いだ。
そのため赤帽では配車システムの改善のほかにも、組合員確保に向けた様々な対策を打 ち出している。
その一つとして二〇〇〇年二 月には新たに「シャトル便」事業を立ち上げ た。
「シャトル便」とはドア・ツー・ドアの宅 配便サービスだ。
もともと赤帽では大手宅配便業者の下請け として末端の配達業務を肩代わりするかたち で宅配便事業に参画してきた。
これに対して 「シャトル便」は完全な自社ブランド商品だ。
幹線輸送の部分こそ路線業者に委託している が、個人宅や企業への集荷と配達の部分はす べて赤帽の各組合員が担当している。
現状では「シャトル便の二〇〇二年度の取 扱個数は大手宅配便業者の足元にも及ばな い数字」(新藤理事)にとどまっているが、全 国一律九八〇円など既存の宅配便に比べ割 安な料金設定や自宅集荷などのサービスが好 評で、徐々にブランドも浸透してきていると いう。
本部でも引越や急送などに次ぐ新たな 事業の柱の一つとして成長することを期待し ている。
こうした新商品、新サービスの開発と並行 して、これまで組合員や各支部に委ねてきた 営業体制の抜本的な見直しにも着手する方針 だ。
現在、新たに株式会社形態の営業専門会 社を設立することも検討している。
新会社が 大口荷主の開拓など営業活動に特化し、末端 の組合員は極力輸配送など現業部分に専念さ せるという構想だ。
こちらも「シャトル便」同様、その目的は 取り扱い貨物量を増やすことにある。
赤帽は 大手宅配便業者と比べても遜色のない末端の 配送ネットワークを持っていながら、これま で組合員や各支部にほとんど営業を委ねてき たため、それを活かすことができなかった。
しかし専門の営業部隊を用意すれば、この問 題も解消できる。
荷主にとってはこれまで支 部ごとにバラバラだった営業窓口が新会社に 一本化され、利便性が高まるというメリット もある。
これまで赤帽は常に受け身の姿勢に終始し ていた。
荷主から依頼があるまで動かないと いう体質が染みついている。
しかし、このま までは同業他社との競争に勝ち抜いていくこ とはできない。
「攻めの営業に転じることで 荷主を開拓し貨物を集める。
そして、営業で 獲得した貨物を傘下の組合員たちにどんどん 提供していく。
そうなれば自然と組合員数、 車両台数も増えていくはずだ」と首都圏協同 組合の片岡一博理事長は説明する。
「シャトル便」の投入、新配車システムの 開発、そして営業専門会社の設立――。
軽ト ラの一人親方たちの単なる寄せ集めにすぎな かった赤帽がようやく重い腰を上げ、貨物獲 得に向けたサービスの拡充や組織の見直しに 動き始めた。
「赤帽=下請け業者」的なイメー ジを払拭し、物流の主要プレーヤーとして名 乗りを上げることができるか。
今後の動向が 注目される。
(刈屋大輔) 39 MARCH 2003 首都圏協同組合の片岡一博理事長

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