ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
ロジスティクス・ビジネスはロジスティクス業界の専門雑誌です。
2004年12号
特集
物流マンのIQ 3PLエキスパートの育成

*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。

DECEMBER 2004 12 3PLエキスパートの育成 ユニパート/センコー/日立物流/アルプス物流 解説 多くの物流企業が3PL事業の強化を経営目標に掲げている。
し かし、その担い手の育成に本腰を入れる企業は少ない。
3PLは担 当者の能力がモノを言うソリューションビジネスだ。
有力3PLに は例外なく人的資本の蓄積がある。
“ヒト”の問題を放置すれば 格差は開く一方だ。
(大矢昌浩) 英ユニパート社の?現場大学〞 英国最大のドラッグストアチェーン、ブーツは昨年 五月、有力3PLのユニパートと一〇年にわたるアウ トソーシング契約を結んだ。
ユニパートはノッティン ガムにあるブーツの中央流通センターの運営を請け負 うほか、同センターで働いていたブーツ社の従業員三 〇〇人の転籍も受け入れた。
この契約を受けて今年三月、ユニパートとブーツは 共同で中央流通センター内に「フロア分校(ファカル ティ・オン・ザ・フロア)」と呼ぶ学習センターをオ ープンさせた。
フロア分校はユニパートが九三年に設 立した企業内大学の一組織で、同社の主要な拠点の 全てに設置されている。
現場で課題に直面したスタッフは、センター内に設 置されたフロア分校で、イントラネットを介してデー タベースに蓄積された膨大な改善策を検索。
該当する ソリューションが見つかったら、そのまま自分の現場 に適用する。
スタッフの学習効果がほんの一時間後に はコスト削減や品質改善として業績に反映される仕組 みになっている。
データベースに適切なソリューションが見当たらな い場合は、それを新たなテーマとしてウェブ上に設定。
現場のビデオ映像などを使って、全社を挙げて改善策 を練る。
問題が解決すれば、それを新たなノウハウと して改めてデータベースに登録。
こうして蓄積したナ レッジ(知識)と継続的なコスト削減活動が、同社の 大きな武器になっている。
同社は一九八七年に英国の国営自動車メーカー、ブ リティッシュ・レイランドの部品部門に所属していた 従業員たちによるMBO(マネジメント・バイアウ ト:子会社経営陣による買収)によってロジスティク 13 DECEMBER 2004 ス企業として独立した。
独立当初は自動車部品や電 子部品の物流が事業の中心だった。
それが現在はブーツを始め川下の流通センター事業 に比重を移している。
今年六月には英大手ホームセン ターのホームベースと一〇年契約を締結。
同九月には 写真用品チェーンのジェソップとも五年契約を結んだ。
自動車業界の「リーン生産方式」のノウハウを川下の センターに転用するナレッジ・マネジメントによって 事業領域の拡大に成功した。
メーカー物流から川下物流へのシフトは日本の物流 業界でも近年のトレンドになっている。
旭化成や積水 ハウスなどの旧日本窒素グループに属するセンコーは、 もともと石油化学や住宅などのグループ会社向けメー カー物流をメーンとしていた。
売上高に占めるグルー プ向け事業の比率は六割を超えていた。
それが今日で は流通業者向けのセンター運営事業を中心に、売り 上げの過半数をグループ外事業から得ている。
同社東日本営業部の坂(ばん)直登3PL担当/ 教育担当部長は「ダイエーのセンター運営を皮切りに 当社は大手物流会社の中でも最も早い時期に川下物 流に乗り出した。
その後、他社も次々に川下に参入し てきたが、今でもホームセンターの物流では当社がナ ンバーワンのシェアを占めている。
そうした?外販〞 のほとんどは、理系出身者を中心とした3PL部隊が 開拓したものだ」という。
従来の運送業を脱して、コンサルティング・セール スを軸とした総合物流業に転換しなければならない。
そのためには社内にコンサルタントを養成する必要が ある――そんな事業戦略を前提として、センコーが理 系の大学新卒社員の採用に乗り出したのは一九七〇 年に遡る。
以降、同社は毎年一定の割合で理系の新 卒を採用してきた。
現在、その数は約一〇〇人を数え る。
その多くが3PL部門に配属されている。
同社は今期から改めてコンサルティング技能の社内 教育体制の整備に乗り出している。
これまでも新入社 員研修や管理職研修などの一般研修は行っていたが、 コンサルティング領域の専門教育はOJTが中心だっ た。
それを改め、全社員を対象にした社内の研修カリ キュラムにコンサルティングの基礎教育を組み込む。
「今や物流コンサルティングの知識は新入社員にも 必要になっている。
既に3PL部門で活躍している社 員もOJTだけでは知識が偏る。
『物流技術管理士』 などの資格取得も奨励してきたが、資格を取って終わ りでは困る。
環境はどんどん変化している。
常に最先 端の情報を吸収しないと時代に取り残される。
そこは 自分たちで直接鍛えるしかない」と坂担当部長は説明 する。
現在、物流子会社や物流専業者の多くが3PLへ の業態転換を経営目標に掲げている。
戦略自体は横 並びだ。
しかし、目標を達成できる企業は希だ。
掛け声だけでビジネスモデルは変革できない。
戦略を実現 するのは人材だ。
組織の中核となって業態転換を引っ 張るチェンジリーダーをどのように確保・育成するか。
それが3PLビジネスの競争条件になっている。
日立物流の?実践・3PL道場〞 日立物流では3PL営業部隊が事実上の「学校」の 役割を果たしている。
現在、同社は毎年五〇人前後 の新卒社員を採用している。
そのうち二〇人程度が理 系学部の出身者だ。
新卒で入社した社員は一週間の 新人研修の後、すぐに現場に配属される。
一般的な 階層別教育やテーマ別の専門研修などのプログラムも 設定しているが、「基本となるのはやはりOJT」(大 弥則行勤労部人事教育グループ部長補佐)という考 センコーの坂直登 東日本営業部 3PL担当/教育担当部長 ●英3PLのユニパートはナレッジ・マネジメントを武器にする 同社資料より DECEMBER 2004 14 え方だ。
3PLエキスパートの育成でも徒弟制度的なOJ Tに重きを置いている。
同社の3PL部門となってい るロジスティクスソリューション統括本部のシステム 事業開発本部には現在、最も多くの新卒社員が配属 される。
そこで3PLの実務を学んだ営業マンを?卒 業生〞として、全国各地の営業の最前線に投入して いる。
システム事業開発本部は案件ごとに四〜五人のチ ーム単位で活動する。
現在の定員は約七〇人。
そのう ち案件をとりまとめるチームリーダーが十二人いる。
チームリーダーの入社年次はバラバラだ。
優秀な社員 であれば入社三年でリーダーを務めることもある。
各 リーダーの下に三〜六人のスタッフが配属される形で 一つのチームを編成する。
このチームで3PLの全プロセスを処理する。
物流 コンペを勝ち抜いて受注したチームが、そのまま現場 の設計から運営まで担当する。
同じスタッフが一つの 仕事に少なくとも一年以上は張り付くことになる。
そ の経験が3PLエキスパートを育成する上で、格好の 修業の場となっている。
もっとも営業とオペレーションが一体になっている ため、一人が同時に扱うことのできる案件はせいぜい 二〜三件に過ぎない。
3PL事業の指揮を執る長谷 川伸也理事システム事業開発本部副本部長は「営業 と製造が完全に分離しているメーカーやコンサルティ ング会社などと比べると全く効率が悪い。
しかし日本 の3PLには、そうした体制が必要だと考えている」 という。
日本では欧米の3PLのように提案と運営を分離 することはできない。
時には一〇年以上にも及ぶ長期 的な関係を荷主と結ぶことになる3PLで、一定以 上の利益を得ることも許されない。
その点でスポット 的な色彩の強いコンサルティング事業や宅配事業のよ うな装置産業とはビジネスモデルが全く違う。
「3PLは基本的に儲からない。
儲けてはいけない。
楽して儲けているような仕事はいずれ他社にとって代 わられる。
3PLの荷主からは常に合理化要請を突き つけられる。
それに応えながら、自分たちの利益も捻 出していくためには、泥臭い改善を積み重ねていくし かない。
それが当社の考える日本型3PLだ」と長谷 川副本部長はいう。
人事評価制度も?日本型〞だ。
欧米の有力3PL のように飛び抜けた高給をとるスター社員は作らない。
部課長以上には業績を賞与に反映する制度を導入し ているものの、課長になるまでの待遇はほとんど横並 びだ。
課長に昇進するまでの期間は早くても入社一〇 年以降。
それまでは同期入社であれば年棒で数万円 程度の差しかつかない。
それでも成績優秀な?デキ る〞社員から不満が出たことはないという。
事実、社 員の定着率は極めて高い。
ナレッジを組織化する ただし課題は残されている。
長谷川副本部長は「3 PLの営業マンというのは一種の職人だ。
職人を作る には現場で実際に仕事をとって来させるしかない。
そ ういう発想でずっとやってきた。
しかし、ここへ来て OJT一辺倒への反省も出てきている」という。
最近、 新規案件の立ち上げ時に混乱が目立つようになってき た。
既に会社としては実績を積み上げてきた分野でも、 担当者自身にそのノウハウがあるとは限らない。
組織的な教育を放置してきたわけではない。
コンペ で利用した提案書はデータベースに蓄積し、必要に応 じて社内で閲覧できる仕組みを作った。
コンペの勝敗 分野 対象 日立物流では3PLの社内資格制度の創設を検討している 職   能   別   研   修 営業 国際 エンジニア・重量物 品質管理 3PL 入社時 係長クラス 課長クラス 商談技術 コース 物流システム コース 戦略的営業活動研修 顧客開発戦略向上コース 国際物流基礎講座 物流改善実践コース 物流改革   リーダー研修 包装総合コース 重量品輸送技術コース 輸送固縛設計者コース ソフト開発生産性向上コースコース 3PL基幹要員研修 重電輸送 管理者コース QAスタッフ 専門研修 所課長QA専門研修 管理職現場作業 QA研修 重電作業 立会者コース 3PL3級 3PL2級 3PL1級 日立物流の長谷川伸也理事 ロジスティクスソリューション 統括本部システム事業開発本部 副本部長 特集1 15 DECEMBER 2004 分析もチームリーダーの責任の下に報告を義務付け、 それを社内でオープンにしている。
半年に一回程度、 営業担当者を対象とした「ミニフォーラム」を開催。
案件の発表会も行っている。
それでも3PLのナレッジが現状では個人財産にな っていて共有化できていない。
ナレッジ・マネジメン トをテーマに三年ほど前から新たな仕組み作りを検討 しているが、今のところ有効な策には結びついていな い。
提案内容や見積書の作成も基本的に個人の裁量 に任したまま。
その間にも3PLの事業規模は急速に 拡大している。
もはや個人技だけでは対応できない。
そこで現在、3PLの社内資格制度の創設を検討 している。
「3PL一級」「二級」「三級」までの資格 を設定し、3PL部門以外の社員にも「三級」は必 ず取得するように義務付ける。
3PL部門は最低「二 級」。
3PL部門の課長クラス以上は、「一級」の取 得を前提条件にするというアイデアだ。
講師は社内で調達する。
一つ上の資格を持った社 員が順番に社内講師を務める。
人に教えることで講師 側もスキルアップさせる狙いがある。
テキストも「3 PLの見積書・提案書の作り方」、「3PL契約の方 法」、「立ち上げの準備」、「現場設計法」、「運営法」と いったように、実際の3PLビジネスの仕事の流れに 沿った形で、やはり社内で作成している。
研修カリキュラムは社外秘 同様にアルプス物流でも長迫令爾会長が自ら書き 下ろしたマニュアルを元に、新入社員に対して丸一年 をかけた社内研修を行っている。
四月に入社した社員 は、その年の十二月まで約九カ月間にわたって理論を 叩き込まれる。
その後、現場に配属されて実務を三カ 月間学ぶ。
それもOJTではなく、純粋な技能研修 だ。
晴れて仕事に就いた後も定期的に研修を行う。
同社では総合物流を構成する要素を機能別に?運 送、?倉庫、?輸出入、?情報システムの四つに分 けている。
その全てを学ぶには最低一〇年はかかると いう。
もともと同社は売り上げの大部分を親会社のア ルプス電気に依存する、どこにでもある物流子会社だ った。
それが現在は電子部品物流のプラットフォーム 企業として六〇%超の外販比率を誇る有力3PLに 変身を遂げている。
継続的な人的資本投資の蓄積が それを可能にした。
こうした社内研修用のマニュアルは、同社も日立物 流も、完全な社外秘にしている。
それが他社との重要 な差別化要因になっていると認識しているからだ。
も っとも同じカリキュラムを他社が踏襲しても成果を挙 げるのは難しいだろう。
人材開発と事業展開がリンク しないからだ。
同じ3PLでも日立物流とアルプス物流ではビジネ スモデルは全く異なる。
個別企業の環境に合致した最適な仕組み作りを目指す日立物流では、担当者に何 より構想力が求められる。
「荷主の話を聞いているう ちに、具体的な倉庫や輸送方法が自然と思い浮かぶ ようでならなくては一人前とは言えない」と同社の長 谷川副本部長はいう。
それに対して電子部品の共同 物流をベースとするアルプス物流では、業務の標準化 によるBPR(ビジネス・プロセス・リエンジニアリ ング)が重視される。
そのため電子部品業界の一般知 識に加え、荷主企業の業務プロセスを分析して適切な 情報システムを構築する能力が必須になる。
事業戦略の違いは人材の能力要件に反映される。
事 業戦略が曖昧では具体的な能力要件は設定できない。
そして実務に応用できなければ、教育投資はリターン を生まない。
業態転換は掛け声に終わる。
資料:慶應義塾大学総合政策学部 花田光世 教授    「コーポレートユニバーシティ研究調査報告書」2000年3月より コーポレートユニバーシティと従来型研修の違い 組織戦略 組織戦術 構造 主体 教育戦略 教育方法 予算のかけ方 個人の意識 評価方法 終身雇用を前提とした 教え込む教育 独立した部署/ 教育資源を適切に集中 自己責任で受けた教育 を成果に反映させる 投資に見合うかどうか を評価 組織戦略にリンク/ 外部教育機関の活用/ 統一カリキュラム 課業に密着した教育/ 社内で統一された伝統 的内容を使う スキルギャップを埋め る教育/一般的になっ たスキルとOJT コーポレート ユニバーシティ 日本従来型 研修センター・部門 米従来型 戦略的教育 全体最適 機能的に集中 投資 キャリア自律 業務の一環 特にしてこなかった キャリア自立 コスト コスト 構造的に集中 人事部主体 事業部ごとに教育 ラインに最適化 均質化・一体感 現場最適 部門目標に合った教育

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