ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
ロジスティクス・ビジネスはロジスティクス業界の専門雑誌です。
2004年10号
特集
花王の「物流力」 オペレーション――自動化より柔軟性

*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。

OCTOBER 2004 18 二ケタ成長続ける3PL子会社 チェーンストアの一括物流センターの運営を請け負 う、花王システム物流の事業規模が毎年二ケタの伸び 率で拡大を続けている。
現在の年商は約一二〇億円。
センターで扱う商品金額(通過額)は四〇〇〇億円 以上と推測される。
日雑卸最大手のあらたやパルタッ クに匹敵する規模だ(図1)。
花王システム物流は、花王が株式の一〇〇%を保 有するノンアセット系(拠点や車両などの資産を持た ない)3PL子会社だ。
現在、ドラッグストアや食品 スーパーなど全国四十数社のチェーンストアを荷主と して抱えている。
自らはチェーンストアに対する提案 営業活動とオペレーション設計に特化し、実際のセン ター運営はグループ会社の花王ロジスティクスが担当 している。
親会社の花王にとって、花王システム物流の3P L事業は自社製品をライバルのP&Gやライオンの製 品と一括してハンドリングする共配事業という位置付 けだ。
一九六三年に販社を設立して以降、花王は工 場出荷から店舗納品に至る全ての物流を自社専用の インフラで処理してきた。
しかし花王システム物流を 設立した九六年を機に、その方針を大きく転換させて いる。
チェーンストア業界に拡がる一括物流センター導入 の動きに対応するためだ。
チェーンストアが専用セン ターを設置することで、花王の納品先は店舗からセン ターに変わる。
末端の物流が花王の手から離れる。
こ れは花王にとって簡単には容認できない問題だった。
『一村を余すも、一戸を余すなかれ』――最前線の 営業マンに対して担当エリアに隈無く商品を供給する ことを命じた花王流の?水道哲学〞だ。
全国に張り 巡らせた独自の物流ネットワークによる安定した店舗 納品体制が、その営業活動を支えてきた。
メーカーの 主導による垂直統合は販社設立以来の同社の?社是〞 といえた。
チェーンストア専用センターへの納品を受け入れる ことで、それが崩れてしまう。
しかも納品方法の変更 に伴い、チェーンストアはメーカー側にセンターフィ ーの支払いを要求する。
従来の店舗別納品がセンター 納品に変わることでメーカー側の配送費は下がる。
そ れを還元しろという理屈だ。
しかし実際にはコスト低 減分を上回るフィーの支払いがメーカーには命じられ る。
結局、メーカーの物流コストは増加する。
「チェーンストアのセンターフィー問題に当社はど う対応すべきなのか。
社内では経営トップから現場社 員に至るまで、それこそ侃々諤々の議論があった。
し かし最終的には顧客のニーズには対応せざるを得ない という判断に至った」と、花王システム物流の社長を 兼務する尾田寛仁ロジスティクス部門開発グループ部 長は説明する。
ただし、単にセンター納品の要請を受け入れるだけ では、コスト効率が悪化するだけだ。
それまでの配送 ネットワークの完成度が高かっただけに、一部の取引 先が一括物流に移行することで全体の積載計画が大 きく狂う。
投資を繰り返して築き上げた重装備の物流 インフラの稼働率も下がってしまう。
これまでの同社 ?強み〞が?足かせ〞に変わる恐れがあった。
悩める花王に追い打ちをかけたのがイトーヨーカ堂 だった。
九六年、花王はヨーカ堂から全面的なセンタ ー納品への移行を打診された。
一カ月以内に正式な 返事をする必要があった。
追い詰められた花王の打ち 出した結論が、3PL子会社による共配事業だった。
「センター納品を承諾する代わりに、センター運営を オペレーション――自動化より柔軟性 過去10年の間に花王の物流現場は全く様変わりした。
96 年に同社は3PL子会社・花王システム物流を設立し、チェ ーンストアの一括物流センターの運営を請け負う共同配送 事業に進出。
これを機に、それまで培ってきた物流技術や ノウハウは全て捨て去った。
(大矢昌浩) 第3部 19 OCTOBER 2004 特集 任せて欲しい」とヨーカ堂に返答したのだ。
冒険だった。
物流技術には定評があるといっても、 これまで花王が扱ってきたのは自社製品一〇〇〇アイ テム余りのハンドリングに限られている。
それに対し て一括物流センターでは一万ものアイテムを処理する 必要がある。
単に量が増えるだけでなく、商品の形状 や取引条件などベンダーによって大きく違う。
過去の 蓄積は役に立たない。
しかも、センター稼働までに与 えられた時間はわずか一年。
「結局、全く白紙の状態からオペレーションを作り 上げるほかなかった。
それまでに当社が積み上げてき た物流技術は全て捨てることになった」と尾田部長は いう。
物流技術開発を担当する組織自体、一新され た。
従来の物流技術室を廃止。
新たにロジスティクス 部門に開発グループを設け、そこに尾田部長を始めと したマテハンの?素人〞を起用した。
尾田部長の前職は東北花王販売(当時)の社長。
経 歴的にはマテハン開発どころか物流業務自体に縁が薄 い。
ただし販社営業の最前線で顧客と直接交渉に当 たってきただけに、チェーンストアのニーズと市場環 境の変化は身に染みて分かっている。
その尾田社長の 目から見ると、共配事業への対応という事情を除いて も、それまでの花王の物流技術開発のやり方には限界 が来ていた。
実際、同社の誇る近代的な物流センター では開発に巨費を投じた各種の自動化機器が宝の持 ち腐れと化していた。
九〇年代初頭まで花王は業務効率を重視してアイ テム数を五〇〇前後に抑えてきた。
標準化された形状 の商品を大量に処理するには、高度な自動化機器が 上手く機能した。
しかしその後、コスト削減から付加 価値の創造へと経営の舵が切られたことで、アイテム 数は増加に転じた。
自動化技術を駆使したマテハン機器は変化への対 応には弱かった。
かつては業界の話題をさらった全自 動のピッキングロボットも、従来のボトル型シャンプ ーのほかに袋状の詰替用が発売されるようになって、 稼働率が大幅に下がった。
過剰適応による弊害があち らこちらで噴出していた。
技術開発方針を一八〇度転換 定常業務の自動化という従来のアプローチとは全く 違った角度から、物流のオペレーションを開発する必 要があった。
そのキーワードとして、ロジスティクス 部門統括の松本執行役員は「フレキシビリティ(柔軟 性)」というコンセプトを打ち出した。
顧客のニーズ や環境変化に素早く反応する物流技術の開発が新た なテーマになった。
開発グループでは試行錯誤が続いた。
新体制の下、 最初に建設したヨーカ堂向けセンターには、膨大なア イテム数を処理するために開発した大規模なケース用自動倉庫や、自動仕分け機などがふんだんに導入され ていた。
しかしその後、柔軟性を獲得するためにマテ ハン設備はどんどん取り払われていく。
その結果たど り着いた現在の同社の物流現場は、かつてとは全く様 変わりしている。
他の日雑卸の現場とも似ていない (本特集第四部参照)。
目立った設備もない現在の現場風景は殺風景でさ えある。
しかし、そこには約八年にわたる共配事業で 培った独自のノウハウが詰まっている。
実際、同社は 共配センターの運営技術に関してここ数年の間に夥し い数の特許を出願・取得している。
「一般の物流業者 が当社と同じレベルのサービスを行うには、倍のコス トがかかるはず」と尾田部長。
花王システム物流の業 績がその言葉を裏付けている。
花王システム物流の社長を兼務する 尾田寛仁花王ロジスティクス部門 開発グループ部長 図1 花王システム物流の業績推移 1999 2000 2001 2002 2003 2004 140 120 100 80 60 40 20 0 単位:億円 《売上高》

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