ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
ロジスティクス・ビジネスはロジスティクス業界の専門雑誌です。
2004年10号
3PL活用術
3PLの基礎知識

*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。

OCTOBER 2004 50 3PLは新業態ではない 日本の物流業界にはSCM(サプライチェ ーンマネジメント)や3PL(サードパーテ ィ・ロジスティクス)といった外来語が溢れて いる。
日本人は昔から「舶来」モノが好きだ った。
外国の優れた技術や概念を積極的に取 り入れることで、日本は世界有数の経済大国 に成長しており、外来語の多用は決して悪い ことではない。
ただし、外来語にその原語から逸脱した意 味を勝手に付け加えてしまう癖はよくない。
S CMや3PLもその解釈が使う人によって大 きく異なる。
言葉が完全に一人歩きしてしま っている感がある。
3PLは米国で誕生した言葉で、これまで にない新しい物流の業態だと言われてきた。
し かしそれは大きな誤りだ。
英国の大手物流企 業GIST社(旧BOC社)は3PLのビジ ネスで三〇年の歴史を持っている。
海外のみならず、日本でも3PLは古くか ら存在していた。
例えば中堅物流会社のカン ダコーポレーションは一九七〇年、小売業の 長崎屋からセンター運営や店舗配送などすべ ての物流業務を一括で受託している。
なお、こ こでは輸配送や保管など単一業務の提供者は 3PLとは言わない。
3PLとは受注・荷受 け・流通加工・出荷までの物流センター内の 業務を受託するものを言う。
3PL発祥地は英国だという説もある。
と ころが、これも定かではない。
米国である可能 性が高い。
いまから三〇年以上前に米国の婦 人アパレルチェーンのピートリー社はギルバー トソンという物流業者に物流センターの運営 を委託していたからだ。
また、ちょうど同じ頃、 クレジットカードのアメリカンエキスプレス社 では同社の通販の物流業務を外部の物流業者 に委託していた。
もちろん当時はまだ3PLという言葉その ものが存在しなかった。
しかし言葉がなかった だけでサービス自体は存在していた。
つまり3 PLとは決して新しい業態ではない。
むしろ 新しい時代に3PLという言葉で甦った、昔 からある物流のコンセプトといっていいだろう。
3PLという言葉は一九八九年、全米ロジ スティクス管理協議会(Council of Logistics Management:CLM )の研究発表で初めて登 場したとされている。
論文によると、3PL 3PLの基礎知識 ウォルマート、テスコ、マークス&スペンサーといった欧 米の有力小売業が3PLをどのように活用しているのか。
ケ ーススタディ形式でそのノウハウを探るのがこの連載の狙い だ。
連載第一回目は3PLの基礎知識をおさらいする。
二回 目以降から各社の事例を紹介していく。
短期集中連載 サン物流開発 鈴木準 代表 第1回 51 OCTOBER 2004 は一九八〇年のディレギュレーション(運送 業の規制緩和)後、米国で注目されるように なり、その後急速に広まっていったという。
日本に上陸したのは九〇年代初め。
繰り返 しになるが、3PLは新しい言葉ではあるが、 新しい業態ではない。
それでもこの新語は響 きがいいためか、日本でも徐々に活用される ようになっていった。
国土交通省や経済産業 省など?お上〞もこの言葉に目をつけ、九七 年に閣議決定した「総合物流施策大綱」には 「3PLは多様化・高度化する物流ニーズに対 処して育成されるべき業務・サービスである」 という一文を盛り込んでいる。
規制緩和で3PLが進展 話を戻そう。
米国で3PLが注目されるよ うになった背景は次の通りである。
?規制緩和で競争が激化したのを受けて、物 流業者が3PLを新たな収益チャンスとし て捉えるようになった ?コスト削減とコアビジネスへの経営資源の 集中を進めるため、荷主企業が物流業務を 外注化するようになった ?固定費として位置付けられていた物流費を 変動費化しようという動きが見られるように なった 英国では一九七〇年にトラック運送業の事 業免許に基づく参入規制が完全撤廃され、運 賃も自由化された。
その結果、競争が激化し、 新たな収益を求めて3PLの取り組みが始ま ったと言われている。
そして米国でも八〇年 代に英国とまったく同じ現象が起こった。
米国の州際トラック輸送業(州と州をまたぐ 輸送)の規制緩和は、カーター大統領が就任 した七七年から徐々に進展し、八〇年の自動 車運送事業法(Motor Carriers Act of 1980 ) 制定で大きく前進した。
これによって参入が 容易になり、さらに厳格な規制が敷かれてい た運賃に関しても事実上、運送事業者が自由 に設定できるようになった。
その結果、州際トラック輸送業者は急増し、 八六年には八〇年のほぼ二倍、九三年には同 三倍にまで膨れ上がった。
一方で競争激化に よる運賃下落の影響で、州際トラック輸送業 者の倒産が相次いだ。
七〇年代から続く不況から脱出するため、米 国では八〇年代に大掛かりなリストラクチャ リングやリエンジニアリング(BPR)が実施 された。
多くの企業が非効率な部門の見直し や本業以外の業務の外注化を進め、人・設備・ 資金といった経営資源をコアビジネスに集中 させた。
本業とは無関係なロジスティクス業 務は当然、外部委託の対象となった。
競争激化に頭を悩ませ、新たなビジネスチ ャンスを模索していた輸送業者。
ロジスティ クスのアウトソーシングを進める荷主企業。
両 社のニーズがマッチしたことで3PLが発展 する土壌が生まれた。
4PLは?水屋〞にすぎない その後、米国では3PLの次に4PLとい う言葉が出現した。
米国は情報発信基地で、創 造力豊かな国であるが、言葉そのものも商品 化してしまう国でもある。
最初に4PLとい う言葉を使い始めたのはコンサルティングファ ームのアンダーセンコンサルティング(現アク センチュア)である。
同社はこの言葉を商標 登録している。
同社によると、4PLとはノンアセット型 の3PLを指す。
4PLは複数の3PLをコ ントロール(管理)することで、顧客企業に とって最適なロジスティクスサービスを提供す る。
つまり4PLは3PLの指揮官という立 場にあるのだという。
私は米国のFedEx Logistics (旧ガリバーロ ジスティクス)が4PLという業態を展開し 英国では1970年、米国では80年の規制緩和 が3PL台頭のきっかけとなった。
OCTOBER 2004 52 ていると聞き、同社を訪問し、担当者から話 を聞いた。
確かにFedEx Logistics はまるで顧 客企業の物流部門のスタッフであるかのよう に振る舞っていた。
荷主と物流企業という関 係を超越しており、FedEx Logistics の4PL サービスは確かに日本では見られない業態で あった。
しかしその業務内容を細かく見ていくと、日 本で「水屋(みずや)」と呼ばれる運送ブロー カーと何ら変わりはないという印象を受けた。
水屋は空いているトラックと運び手のいない 荷物をマッチングするサービスである。
日本の 水屋は電話やファクスを使う。
これに対して 米国の水屋、つまり4PLはコンピュータを 駆使していた。
その姿を目の当たりにして以 来、私は4PLを「コンピュータ水屋」と呼 んでいる。
3PL利用のメリット、デメリット 日本では総合物流施策大綱で3PLを「荷 主に対して物流改革を提案し、包括的に物流 サービスを受託する業務」と定義している。
し かしこの定義には多少無理がある。
第一に「荷 主に対して物流改革を提案し」とあるが、3 PLが荷主に提案できる領域は限られている。
3PLは顧客企業が展開しているビジネスに ついての専門家ではないからだ。
また、「荷主 企業に対して物流改革を提案」してコスト削 減に貢献することは、自分たちの収益の減少 につながりかねない。
第二に「包括的に物流サービスを受託する 業務」とあるが、輸送・保管・荷役・包装・ 流通加工・情報といった物流機能の全てを一 社でカバーできる能力を持っている物流業者 は少ない。
しかも荷主サイドからすると、包括 的に委託することが必ずしも適切な判断であ るとは限らない。
輸送が得意な業者もいれば、 流通加工を得意とする業者も存在する。
業務 をそれぞれ別の業者に任せたほうが効率的な 場合もあるからだ。
日本では3PLのアウトソーシングの対象 を大きく「物流センター内の業務」と「運送」 の二つに分けている。
このうち運送は誰でも、 いつでも利用できる社会インフラ的なサービス であるため、運送を提供すること自体は他社 との差別化要因にはならない。
実際、すでに 荷主企業の八割が運送をアウトソーシングし ているという調査結果も出ている。
したがって3PLの業務は入庫から出荷ま での庫内作業が中心となる。
しかし、この庫 内作業をすべて3PL一社にアウトソーシン グしてしまうことには一長一短がある。
まず競 争原理が働かなくなる。
さらに荷主は自社の 物流ノウハウを失い、3PLに物流の主導権 を完全に握られてしまう。
その結果、価格の 硬直化やサービスの低下を招いてしまう恐れ もある。
このように実際には3PLにも課題が少な くない。
物流業者が3PL事業に着手するメ リットとデメリット、荷主企業が3PLに業 務を委託することのメリットとデメリットを 図 1 に示した。
3PLはロジスティクスに関連 する諸問題をすべて解決してくれるわけではな い。
そのことを常に念頭に置いておくべきだ。
3PL普及で脱・マテハン進む 荷主が3PLを利用するのは「コストダウ ン」を図るためである。
3PL業者はそのニ ーズに応えるため、物流のオペレーションに 様々な工夫を凝らしている。
例えば3PLの 図1 3PL利用の長短 ●長期契約による収益の安定 ●荷主が大企業の場合、3PLのステ ータスになり、営業がやりやすい ●業容拡大 ●賃金格差によるコストダウン ●労務管理の手間が掛からない ●労働条件格差によるサービス向上 ●物流スタッフの削減 ●物流投資の軽減 ●物流コストが明確になる ●フレキシビリティ ●在庫管理の精度向上 ●多額の投資 ●倒産・合併のリスク ●料金硬直化の恐れ ●荷主の内部干渉 ●物流ノウハウの喪失 ●物流コストが世間相場に対し適正 かどうか不明確になる ●物流関係情報の流出 ●外注化による余剰人員の処理 3PL業者 荷   主 メリット デメリット 53 OCTOBER 2004 物流センターではマテハン機器の導入を極力 抑え、マンパワー中心のオペレーションに切り 替えている。
ウォルマートのドイツ物流センターは Tibbette & Britten という3PL業者、英国 のマークス&スペンサーのセンターはGIST 社、テスコのセンターはExel社、米国のリ ーバイストラウスのセンターはGENCO社 がそれぞれ運営しているが、いずれのセンター でも導入されているマテハン機器はラックとフ ォークリフト程度である。
自動仕分け機のよ うな大掛かりなマテハン機器はどこにも見当 たらない。
これに対して荷主が自社でオペレーション しているセンター、例えばドイツのオットー社 の物流センター、英国のブーツ社の物流セン ターでは大規模なマテハン投資が実施されて いる。
オットーのセンターでは一二〇万ケース を収容できる自動倉庫と、計六台の大型自動 仕分機が稼働中。
一方、ブーツのセンターで は一万ケース規模の自動倉庫やAフレーム、ロ ボットパレットタイザーが活躍していた。
全日本トラック協 会の3PL調査レポ ート「アウトソーシン グ及びサードパーティ に係わるトラック運送 事業者から荷主に対 するアプローチのあり 方に関する調査研究 報告書」によると、荷 主企業のうち「物流 業務を一括して外部 委託している業者」は 全体(回答企業数一 八 七 社 ) の 十 二 ・ 三%だった。
さらに今後の意向 については「一括して 外部委託する意向が あ る 」 が 二 十 一 ・ 三%。
「意向はあるが信頼できる業者がいない」 「現在、意向はないが条件次第」という外部委 託に前向きな企業は三五%に達していること が分かった。
このように日本で3PLが進展する可能性 は極めて高いと言える。
これを受けて現在、運 送会社や倉庫会社、総合商社や卸売会社が3 PLの事業化に食指を動かしている。
3PL を展開する物流業者、そして3PLを利用す る側の荷主企業がそれぞれメリットを享受す るためには何が欠かせないのか。
この連載では 日本よりも一〇年、二〇年前から普及が始ま っている欧米での事例を参考にすることで、3 PLの成功の秘訣を探っていきたい。
2003年の売上高 市場のシェア 2003〜2005の成長 国 名 (Tibbett&Britten社提供:原典不明) ■ 欧州の3PLマーケット ドイツ 165億EUR 28% 9% イギリス 134億 40% 6% フランス 124億 31% 8% ベネルクス3国 69億 42% 9% イタリア 35億 15% 9% スペイン 25億 22% 9% スウェーデン 13億 23% 7% その他ヨーロッパ 32億 43% 5% ヨーロッパ全体 600億 30% 8% ■ 荷主・3PLの注意点 ●全てをアウトソーシングしない ●3PLに適正な利益を与える ●契約にボーナス&ペナルティを明確に ●3PLに対し償却期間の長い投資の保障 ●リスクのある投資は自社で ●3PLを下請けと見下さない ●3PL従業員の教育に配慮 ●荷主の業界に精通すること ●荷主の情報を把握すること ●荷主の担当者との信頼関係・清廉潔白 ●物流テクノロジーの向上 ●荷主とのコミュニケーション強化 ●情報公開 ●初期トラブルなし失敗の無いスタート 荷 主 3PL業者 すずき・じゅん58年東京経済大学 卒業、62年セーラー万年筆に入社。
70年長崎屋入社、物流部長、電算部 長、物流子会社社長などを歴任。
92 年に独立し、物流コンサルティング 会社のサン物流開発を設立した。
小 売業を中心に物流センター構築など のプロジェクトに数多く参画する。
欧米の物流センターに詳しいコンサ ルタントとして知られている。

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