ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
ロジスティクス・ビジネスはロジスティクス業界の専門雑誌です。
2004年10号
ケース
アサヒ飲料――SCM

*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。

OCTOBER 2004 36 役割分担が阻む全体最適 アサヒ飲料のサプライチェーン・マネジメ ント(SCM)の構築は、二〇〇一年の組織 改革から始まった。
この年、同社はSCM本 部を発足。
同本部の中にSCM部を新設して、 需要予測から資材の調達、生産・在庫計画 立案など商品供給にかかわる機能をすべてこ こに統合した。
従来の同社では、需要予測や諸計画の立案 は営業部・購買部・生産部・物流部がそれ ぞれに分担していた。
まず営業部が販売計画 を立て、これをもとに生産部が工場の生産計 画を決定する。
生産計画に基づいて購買部が 必要な原料や資材を調達し、物流部が各地の 配送拠点への在庫補充計画を作成する――と いう流れになっていた。
しかし、この機能分担のもとで効率のいい 供給体制を作るのには限界があった。
営業部 の立案する販売計画にはどうしても思惑が入 り、市場動向が正しく反映されない。
また生 産の側も、製造原価を下げるために、あくま で生産効率を優先して計画を立案しようとし てきた。
しかも市場の変動によってしばしば 計画が変更されるため、そうした場合にも生 産に支障をきたさないよう購買部が多めに原 料や資材を発注する傾向もあった。
各部門の機能分担と言えば聞こえはいいが、 実際にはそれぞれの思惑のもとで調達や生産、 物流が行われていて、部門間の調整もスムー 組織統合し予測から計画まで一元化 モーダルシフトもからめ在庫2割減 3年前からSCMの構築に取り組んできた。
組織改革によって調達・生産・物流の機 能を統合し、需要予測から生産・在庫・ 補充計画の立案までの業務を一元化。
続 いて予測値から最適な計画を立案するシ ステムも導入した。
さらに今年は運用の 対象を委託工場やサプライヤーにまで広 げて、SCMシステムの本格活用をめざす。
アサヒ飲料 ――SCM 37 OCTOBER 2004 ズではなかった。
その結果として製品も原材 料も在庫が過剰気味になり、廃棄ロスが発生 するなど多くの無駄が生じていた。
清涼飲料業界は毎年一〇〇〇アイテムもの 新製品が市場に出回るが、ロングセラー商品 となるのはせいぜい二、三アイテムと言われ ている。
中身や容器の多様化が進む一方で、 商品のライフサイクルはどんどん短くなって きた。
にもかかわらず、小売り店頭での販売 価格は低迷が続く。
そんな中でアサヒ飲料がキャッシュフロー を改善するためには、市場の動きを的確にと らえて過剰在庫を避ける、無駄のない生産・ 物流態勢の確立が欠かせなかった。
同社は組 織の見直しから改革に着手して、SCMシス テムの構築に乗り出した。
一つの数字で各機能を動かす アサヒ飲料では、まず組織改革によって生 産・購買・物流部門をSCM本部の管轄下 に入れ、改めてSCM部と生産技術部という 二つの部に再編した。
それまで三つの部門に 分かれていた機能をSCM部に統合するとと もに、ここに営業部が担当していた需要予測 の機能までも集約した。
発足当初のSCM部は「SCM企画」、「需 給」、「原材料」、「物流」の四グループで構成 されていた。
「需給グループ」が、商品の需要予測から エリア別の在庫計画の立案、工場別の製造計 画の立案、さらに全国の在庫拠点への補充計画の立案までを担当。
この計画にもとづいて 原料や資材を調達するために「原材料グルー プ」が調達先の決定や単価交渉、新資材の開 発を行う。
「物流グループ」は物流効率化の ための計画立案や輸送手段の選定、運賃管理 などを担う。
そして「SCM企画グループ」 では、中長期的ビジョンのもとに調達・生 産・物流までのSCMモデルの構築や見直し を行う。
この役割分担からも明らかなように、新体 制のもとでは供給計画の立案はすべて「需給 グループ」に一元化された。
これによって従 来のように、各部門から複数の計画値が出て くるということがなくなり、「需給グループ」 がはじき出した需要予測値という一つの数字 に基づいて調達・生産・物流が行われるよう になった。
計画立案に各部門の思惑が入り込 む余地を排除して、予測から計画立案までを 迅速にこなす体制が整った。
その後、「原材料部グループ」がSCM部 から独立して「原料部」となり、「物流グル ープ」は「SCM企画グループ」に吸収され、 現在では図1のような組織になった。
ただし 業務プロセスそのものは、SCM本部が発足 した頃から基本的に変わっていない。
新たな組織体制のもとでSCM部は、需要 予測から計画立案まで「需給グループ」に一 元化された業務プロセスをコンピュータで処 理することを目指して、システムの構築に着 手した。
まず二〇〇二年の秋に「需要予測シ ステム」を導入。
小売りチェーンの販促計画 サイクルに合わせて、一カ月を四週に分けて、 週次で三カ月先までの需要予測を行う体制を 整えた。
システム化する以前、この業務は「需給グ ループ」の担当者が、過去の出荷データから 図1 SCM本部の組織図(2004年6月現在) SCM企画 品質グループ グループ 需要グループ 明石工場 総務部 工場物流 北陸工場 総務部 工場物流 富士山工場 総務部 工場物流 柏工場 総務部 工場物流 生産技術部 設備グループ SCM部 購買グループ 原材料部 SCM本部 開発グループ 東日本物流部 管 理 需 給 受注センター 管 理 需 給 受注センター 西日本物流部 商品保管・出荷 商品保管・出荷 商品保管・出荷 商品保管・出荷 全品目を統計的に予測していた。
そのため、 どうしても業務負荷が大きくなっていたのだ が、システムを導入したことで一変した。
ま ずコンピュータが算出した数字に、小売チェ ーンなどの実販データや天候などの条件を加 味する。
そこから需要予測値を作成するとい うかたちに切り替わり、予測業務を大幅に簡 素化することができた。
続いて二〇〇三年の夏には、この予測値を もとに生産計画を立案して、各工場へ製造数 量を割り振る「供給計画システム」を稼働。
同時に、工場で製造した製品を日付別に管理 して、各ブロックの物流拠点に自動的に供給 していく「自動補充システム」もスタートさ せた。
一般に飲料メーカーは、協力工場に生産を 委託している比率が高い。
アサヒ飲料の場合 も、柏(千葉県)、富士山(静岡県)、北陸 (富山県)、明石(兵庫県)に四つの自社工場 を構えているが、この他にかなりの量を協力 工場に委託して生産している。
こうした自社 工場や協力工場に対して、製造数量などを割 り当てていく仕組みが「供給計画システム」 である。
「SCM企画グループ」が年初に自社工場 と協力工場の生産比率や優先順序などについ ての?ガイドライン〞を決定し、これに則っ て「需給グループ」がシステムを運用してい る。
具体的には、自社工場の操業経費・人件 費、協力工場への委託加工費や運送費などを 考慮して、最小コストで商品を供給できるように工場別に品目・製造数量の割り当てを行 うのである。
自社生産の比率を六割に このガイドラインの仕組みを導入するに当 たってアサヒ飲料は、生産体制の見直しも行 った。
SCMの構築をスタートした時点で、 自社工場による生産比率は五割を切っていた。
このとき同社は、自社生産比率をもっと高め ることで製造原価を下げ、供給のトータルコ ストを低減していく考え方をサプライチェー ン改革の基本においた。
実際、すでに二〇〇一年に富士山工場が竣 工し、主力の明石工場をはじめ既存工場でも 生産ラインの増強を終えていたため、工場の 生産能力には余裕があった。
ただし、商品を製造して顧客に届けるまで の供給コストには、製造原価だけでなく輸送 コストも含まれる。
同社は輸送費を最小に抑 えるために全国を六つのブロックに分けて管 理している。
各ブロックに自社工場や協力工 場を配置し、生産計画を立案する際にはブロ ック内需給を重視して製造品目や数量を決定 する。
この状況に対して自社工場の生産比率 を上げるということは、ブロック外への供給 が増えることを意味し、輸送費の上昇は避け られない。
だがアサヒ飲料は、たとえ輸送費が上がっ ても、自社工場の稼働率を上げることによっ てそれを上回る製造原価の低減を実現できれ ばトータルコストを下げられると考えた。
シ ミュレーションをもとにこの仮説を検証した SCM部が、これを実行に移した。
さらにブ ロック外の輸送手段に鉄道や船を使うことで、 OCTOBER 2004 38 図2 アサヒ飲料が考えるサプライチェーン管理システム 得意先 データ 【実販DATA】 CVS GMS 自販機 卸 需要予測 生産計画 自社工場 協力工場 NDC(自社工場) FDC CRP CRP CRP TC 在庫計画 各サプライヤー 物流O/L システム 原価計算 システム 原材料受払 システム 物流O/L システム 運搬費分析支援 システム 自販機売上 システム 実販売上 システム DP DEMAND PLANNING SCP SUPPLY CHAIN PLANNING SRM SUPPLIER RELATIONSHIP MANEGEMENT WEB-EDI WEB-EDI CRS WEB-EDI 補充計画 納入 得意先 CRP WEB-EDI 得意先 CRP WEB-EDI 得意先 WEB-EDI WEB-EDI 調 達 39 OCTOBER 2004 コストの上昇を抑えた。
二〇〇二年度に四八%だった自社生産比 率を、二〇〇三年度は五九%へ一気に十一ポ イントも引き上げている。
これによって明石 工場や北陸工場から関東や東北地区に運ぶ遠 距離輸送が増えたが、こうしたブロック外へ の輸送の三割を鉄道などにシフトして輸送費 を抑制した。
今年度は自社生産比率六〇%を 目標にしており、ブロック外輸送の比率は五 割を超える見込みだ。
このため鉄道コンテナ 輸送を増やし、モーダルシフト率も三五%に 上げることを計画している。
製品在庫が二割減り原材料は半減 需要予測システムに続いて、供給計画シス テム・補充システムが完成したことで、SC Mシステムは本格稼動した。
それから一年経ったが、SCMの構築に乗り出した三年半前 と比べると、製品の廃棄損は一〇分の一に、 原材料の廃棄損も二分の一に減った。
在庫削 減の効果も大きかった。
製品在庫はおよそ二 割減り、原材料は半減したという。
とりわけ、原材料のロスが大幅に縮小して いるが、これについて藤原慎二SCM部SC M企画グループリーダーは、「調達・生産・ 物流が(需要予測値という)ワンナンバーで 動く仕組みができたことによって、調達部門 での数字に対する信頼性が格段に高まった。
そのことがこれだけの成果につながった」と 分析する。
同社はこのSCMシステムの運用を、今年 十一月からはサプライヤーや協力工場にも拡 大していく予定だ。
市場からの値下げ要求が 強まるなか、単独での製造原価低減には限界 がある。
「取引先とのシステム連携でコラボ レーションを進め、サプライチェーン全体の キャッシュフローを高めながらコストダウン を図っていく必要がある。
それがSCMの本 来の目的だ」と藤原グループリーダーは強調 する。
協力工場との間ではまず、アサヒ飲料がW EB ―EDIで生産計画を提供し、これに対 して協力工場から回答をもらうためのシステ ムを立ち上げる計画だ。
製造の一カ月前に、 日別に細分化した四週分の仮の製造計画を、 協力工場に対する「製造予約」(仮発注)の かたちで提供する。
協力工場ではWEB画面 上でこの仮計画への回答を行う。
修正がある OCTOBER 2004 40 場合には双方でデータのやり取りを行い、製 造の一週間前までに計画を確定する。
次にサプライヤーとの間でも、インターネ ット経由で生産計画や在庫情報を交換する。
まずアサヒ飲料がSCMシステムで作成した 仮の生産計画から、サプライヤーの製造ロッ ト単位で必要な原料・資材の使用量をMRP ( Material Requirements Planning =資材所 要量計画)システムによって算出。
この数値 をサプライヤーに提供し、仮計画に対する供 給回答をもらう際にはサプライヤーの在庫情 報も開示してもらう。
飲料は製品によっては二〇種類の原料を使 っているものもあり、一つ欠けても製造がで きなくなる。
このシステムでは必要量を自動 的に計算して、在庫情報をもとに不足のおそ れのある原材料のアラームリストを作成する。
これを購買部が見てサプライヤーと調整を行 い、「供給可能」の回答を受けた時点で生産 計画を確定。
自社工場と協力工場に対しても 計画を開示する。
アサヒ飲料にとっては、サプライヤーの在庫をチェックしながら計画を立案することが できるため計画の精度が上がる。
サプライヤ ーも早期にアサヒ飲料の計画を入手できるた め、余裕を持って生産・出荷計画を立てられ る。
「取引先も我々も、なるべく無駄な在庫 を持ちたくないという思いは同じ。
そのため には不確実な要素を眼に見える情報に変えて、 互いに共有していくことが重要だ」と藤原グ ループリーダーは言う。
今年は新商品の需要予測の精度を上げるた め、小売チェーンの実売データや在庫データ を直接、予測に反映できるようにシステムの 改良も行う。
年々、新商品のウエートが高ま るにつれて、製品のライフサイクルは短縮化 してきた。
SCMシステムの起点となる需要 予測に実需の動きを取り込むことで、ロスを 未然に防止することを狙っている。
在庫拠点減らしてTCを新設 一連のSCMシステムの構築に合わせて、 アサヒ飲料は物流態勢の見直しも進めてきた。
前述したように同社は六ブロックでの管理 体制をとっている。
自社の四工場または協力 工場でつくった製品は、四工場に併設した倉 庫や、ブロックごとに配置した比較的規模の 大きい飲料専用のセンター「RDC」に、在 庫計画に従って配分し、補充計画システムに よる自動補充を行っている。
これらの拠点は 各ブロックの需要に合わせて品揃えを行う在 庫基地の役割を果たしている。
このほかに、グループ会社であるアサヒビ ールの配送センターなどを活用した「FDC」 がある。
この「FDC」とは「RDC」の保 管・配送機能を補う拠点だ。
ただし、「RD C」へはSCM企画グループが作成するガイ ドラインに沿って計画を立てプッシュ型で補 充するのに対して、「FDC」へは実需に応 じてプル型で補充している。
同社では、SCM構築による在庫圧縮とと もに、FDCを中心に八カ所の拠点を集約し てきた。
一方で、今年に入って新たに金沢・ 郡山・新潟・高松・松山の五カ所に在庫を 持たない通過型のTCを設けてクロスドック を行っている。
たとえば北陸三県へは従来、名古屋のRD Cから配送していたが、今年の五月からは明 石工場から金沢TCを経由して直送している。
明石工場から北陸地区までは輸送距離が三八 〇キロもあり、これまでなら在庫型のセンタ ーを配置するケースだったが、クロスドック 方式によってサービスレベルを落とさず無在 庫で対応できるようになった。
さらに現在で は他の飲料メーカーや食品メーカーとの共同 配送も実施している。
委託生産が多く需給管理の条件も複雑な飲 料業界で、SCMシステムの構築を先駆けた 同社は、拠点政策でも新たな展開に出ようと している。
(フリージャーナリスト・内田三知代) 藤原慎二SCM企画グループリ ーダー

購読案内広告案内