ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
ロジスティクス・ビジネスはロジスティクス業界の専門雑誌です。
2004年10号
keyperson
大須賀正孝 ハマキョウレックス 社長

*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。

1 OCTOBER 2004 KEYPERSON ?アンカー〞が欲しかった ――同じ静岡県に本社を置く特積み 業者の近鉄物流を買収することにな りました。
「近鉄物流の親会社である近畿日本 鉄道の取引銀行から話を持ち掛けら れたのきっかけです。
コンタクトがあ ったのは数カ月前。
それから財務状 況などの調査を始めて、『これはいけ る』ということでゴーサインを出しま した。
近鉄と詳細を詰めて大筋で合 意に達したのは八月くらいだったか な。
買収することで正式に合意した のは九月上旬でした」 ――買収額は? 「約三〇億円です。
近畿日本鉄道や そのほかの近鉄グループが保有して いる株式を買い取るかたちでグルー ちんと利益を出している。
前期は経 常利益が七億円でした。
二〇〇一年 三月期、二〇〇二年三月期は赤字決 算を余儀なくされたが、累損はすで に消えている。
借金(負債)の額も それほど大きくない」 「資産も魅力的でした。
近鉄物流は 現在、全国約一四〇カ所に拠点を構 えています。
ハマキョウではこれまで 新しい仕事を受注するたびに新しい センターを用意してきましたが、今 後は近鉄物流の拠点を活用できるよ うになるため、センター投資を抑え ることができます」 ――ハマキョウは一般(区域)事業 と物流センター事業を中心にビジネ スを展開してきました。
新たに特積 み会社をグループの傘下に収める目 的とは? 「一言でいえば、『物流のアンカー』 が欲しかった。
物流のサービスを駅 伝に例えると、物流センターでピッ キングや仕分けといった庫内作業を 担当するのが第一走者とか第二走者。
そしてお客さんに荷物を届ける最後 の配送業務を担当するのがアンカー になります。
駅伝ではいくら第一、第 二走者が頑張って走っても、アンカ ーがこけてしまったら、試合に負け てしまう。
実は物流サービスもまっ たく同じで、最後に走るアンカー、つ まり配送がきちんとしていないと、ど んなにピッキングや仕分けでいい仕 事をしても、すべてが台無しになっ てしまいます」 「お客さんは荷物がきちんと指示し た通りに届いたかどうかという結果 のみで物流業者を評価します。
お客 さんにとって届くまでの過程なんて どうでもいいこと。
『物流センターから出荷するまでの仕事は完璧でした が、配送を委託した業者がミスを犯 してしまったため、荷物が届きませ んでした』という言い訳まったくは通 用しません」 「これまで当社では自社便でカバー できないエリア向けの配送を特積み 業者に委託してきました。
しかし残 念なことに特積み業者のサービスは 必ずしも満足できる品質であるとは プ内に組み込みます。
買収後も株式 の数%は近鉄サイドに残りますが、経 営権は当社が握る格好となります」 ――近畿日本鉄道が近鉄物流を手放 す理由は? 「詳しいことは近鉄サイドに聞いて もらいたいのですが、リストラの一環 という説明を受けています。
プロ野 球球団の近鉄バッファローズをオリ ックスの球団と合併させる問題もそ うですが、近鉄はここ数年、グルー プ会社の売却などリストラ策を急ピ ッチで進めている。
近鉄物流も売却 候補の一つに含まれていたようです」 ――買収の決め手となったのは? 「営業、財務状況ともにそんなに悪 くないという点です。
近鉄物流の売 上高はピーク時の八〇〇億円から五 〇〇億円に目減りしていますが、き 大須賀正孝 ハマキョウレックス 社長 THEME 近鉄物流を買収して特積み事業に参入する ハマキョウレックスは中堅特別積み合わせ業者の近鉄物流を買収する。
近鉄物流の親会社である近畿日本鉄道から株式を譲り受けて子会社化し、 グループ傘下に収める。
今回の買収を機にハマキョウは特積み事業への 本格参入を果たし、同事業を3PL事業と並ぶ新たな収益の柱として育 成する。
近鉄物流の年商は約五〇〇億円。
買収によってハマキョウの連 結売上高は一気に八〇〇億円超となる。
(聞き手・構成 刈屋大輔) OCTOBER 2004 2 言えなかった。
つまり当社にとって 特積み業者は優秀なアンカーではな かった。
今回の買収は近鉄物流の輸 配送ネットワークを手に入れること で、物流サービスのアンカーの部分 である配送を強化するのが狙いです。
お客さんに配送で迷惑を掛けないよ うにするためには特積みの部分も自 分たちでやっていくしかないと考える ようになりました」 ――ハマキョウは中堅トラック運送会 社の全国ネットワーク組織であるJ TPロジスティックスに参画してい ます。
JTPの機能を活用すれば、全 国配送のニーズにも対応できるはず です。
「JTPは複数の運送会社でネット ワークを形成しています。
そのため物 流の品質を一定のレベルに保つのが 難しい。
これに対して、特積み会社 の物流品質は決して満足できる水準 ではないけれど、一社でネットワーク を動かしている以上、一定のレベル にはなっている」 特積みはまだまだ伸びる ――九〇年代以降、特積み各社は業 績不振に苦しんできました。
フット ワークエクスプレスのように経営破 たんに追い込まれた企業も少なくな い。
特積み事業から撤退したり、路 線を一部廃止する企業も相次いでい る。
このタイミングで特積み事業に 本格参入するのは正しい選択なので しょうか。
世の中の動きと逆行して いるような気がしてなりません。
「特積みが衰退しているという見方 は間違っています。
西濃運輸や福山 通運といった老舗特積み業者の業績 は頭打ちの状態にあり、専門家たち はそれをもとに『特積み事業は縮小 傾向にある』と判断している。
まっ たく逆です。
特積み事業は伸び続け てきたし、今後も大いに成長が期待 できます」 「佐川急便やヤマト運輸を見れば、 そのことは明らかです。
この二社は 順調に業績を伸ばしている。
私は特 積みマーケットの現状をこう分析し ています。
老舗業者は特積み貨物の 既存のパイを佐川とヤマトに奪われ 続けてきた。
さらに物流の多頻度小 ロット化が進んで新たに生まれた特 積みの需要もこの二社にほとんど取 られてしまっているのが実情なのでは ないか、と」 「物流の多頻度小ロット化が進んで いくのは確実です。
実際、当社が運 営する物流センターでもロットがま とまらないため専用のトラックを仕 立てられず、特積みを利用する機会 が増えています。
特積みは今後も絶 対になくならない。
むしろこれからま すます成長していく事業領域だと見 ています」 ――特積み事業での勝算は? 「もちろんあります。
中堅クラスの 特積み業者の多くはある特定のエリ アに集中して拠点を展開している。
こ れに対して近鉄物流の場合は九州な ど手薄な地域も一部ありますが、基 本的には全国をカバーしている。
ネ ットワークのバランスがいい。
それが 今後一番の強みとなりそうです」 「当たり前のことですが、既存の特 積み業者よりもいかに品質のいいサ ービスを低価格で提供できるかが成 功のカギとなるでしょう。
高い運賃 を収受して品質の高いサービスを提 供する『高かろう良かろう』は誰で もできる。
当社が目指すのはあくま でも『安かろう良かろう』の特積み サービスです。
だからといってダンピ ングして荷物を取りにいくわけでは ない。
物流センター事業と同様、収 支をきちんと管理しながら、お客さ んからは適正な運賃・料金をいただ いていくつもりです」 ハマキョウ流を強要しない ――買収後、まず何から手をつけるつ もりですか? 「全国の営業所に足を運び、現場で 働く社員たちと酒でも飲みながらい ろいろと話がしたい。
そして近鉄物 流の良い面、悪い面について遠慮な く語ってもらう。
しばらくは現場の 社員とのコミュニケーションに時間 を割いていくつもりです。
近鉄物流 は伝統のある会社です。
いきなり最 初からハマキョウ流のやり方を強要 するのはよくない。
相手の企業風土 おおすか・まさたか1941年静岡 県浜北市生まれ。
56年北浜中卒、ヤ マハ発動機入社。
青果仲介業などを 経て、71年に浜松協同運送を設立。
92年に現社名の「ハマキョウレック ス」に商号変更した。
2003年3月 に東証一部上場。
主要顧客はイトー ヨーカ堂、平和堂、ファミリーマー トなど。
流通の川下分野の物流に強 い。
大須賀氏は現在、静岡県トラッ ク協会副会長、中堅トラック企業の 全国ネットワーク組織であるJTPロ ジスティックスの社長も務めている。
KEYPERSON 3 OCTOBER 2004 を尊重しながら、じっくりと時間を かけて少しずつハマキョウのノウハウ を移植していくつもりです」 ――近鉄物流のテコ入れには社長自 ら陣頭指揮を執る? 「私と近鉄物流の名倉義明社長はと もに現在、静岡県トラック協会の副 会長を務めている。
お互いのことを よく知っています。
名倉社長からア ドバイスをもらいながら、二人三脚 で会社をいい方向にもっていきたい」 ――新会社の社名は? 「近鉄グループから外れるため、近 鉄という名前は使えない。
ハマキョ ウ物流やハマキョウネットワークなど、 いろいろとアイデアはありますが、最 終的には近鉄物流の社員たちに意見 を聞いて決めたいと思っています。
近 鉄物流の社員が自分たちで新しい社 名を決めたほうが仕事に対してやる 気が湧いてくるでしょうから」 ――昨年あたりから運送会社の買収 を積極化しています。
「自分から進んで、というよりも金 融機関や企業のオーナーに頭を下げ られて引き受けているケースがほとん どです。
例えば、茨城県に本社を置 く高塚運送を子会社化したのも、同 社の社長から要請があったからです。
通常、企業買収というのは業績のい い会社や将来の成長が見込める会社 が対象になりますが、当社の場合は ちょっと違う。
企業再建の請け負い が多い」 「ちなみに高塚運送は前期が八〇〇 〇万円の赤字でした。
当社から社員 を二人派遣してコスト削減のやり方 を教えたら、すぐに業績の回復に成 功しました。
今期は四〇〇〇万円の 利益を確保できる見通しです」 ――今回の近鉄物流の買収によって ハマキョウの連結売上高は八〇〇億 円を突破します。
当面の目標であっ た売上高一〇〇〇億円を前倒しで達 成することになりそうです。
「地道に売り上げを伸ばしていくというやり方だけだったら、一〇〇〇 億円の達成はだいぶ先になっていた はずです。
会社は大きければいいと いうものでもない。
ただし、企業規 模が大きいからできる仕事もある。
規 模の追求は悪いことではない。
いい 案件があれば、これからも積極的に 物流会社の買収を検討していくつも りです」 ――具現化しそうな案件がほかにもあ りますか? 「現段階ではありません」 ――最後に中長期的な目標を聞かせ てください? 「これは何度も口にしていることで すが、日本一の物流企業になること です。
売上規模ではなくて、物流品 質の高さで日本一を目指すという意 味です。
日本一の物流品質を実現で きれば、自然と売り上げも日本一に 近づいていくはずです」 ハマキョウ流は通用するのか ハマキョウの特積み事業への参入を市場 関係者は高く評価している。
課題とされて きた配送機能が強化されることで、主力の 物流センター事業の新規受注に弾みがつく と見ているからだ。
荷主企業も、もともと 物流品質の高さに定評のあるハマキョウが 提供する特積みサービスに大きな期待を寄 せている。
もっとも、懸念材料がないわけではない。
一つは回復基調に転じているとはいえ、ハ マキョウにとって近鉄物流の業績は決して 楽観視できる状況にはないという点だ。
近 鉄物流の営業利益率は約二%(二〇〇四 年三月期)と、同業他社に比べ相対的に低 い水準にとどまっている。
これに対してハマキョウの営業利益率は 約八%(同)。
業界トップクラスの水準に あるが、近鉄物流に足を引っ張られるかた ちでグループ全体としての利益率が落ち込 めば、同社の評価を下げることにもつなが りかねない。
そういう意味で今回の買収劇 はリスクを伴っている。
買収後にハマキョウが取り掛かるのは近 鉄物流の現場にコスト意識を植えつけるこ とだ。
収入と支出を日次で計算する「収支 日計表」や、仕事量に合わせて柔軟に作業員を配置する「アコーディオン方式」とい ったハマキョウ独自のコスト管理ノウハウ を現場に浸透させることで、近鉄物流の利 益率改善を目指す。
ハマキョウには特積み事業の経験がない。
業界内にはそのことを危惧する声をもある。
近鉄物流を有力特積み業者の一角に育成す ることができるか。
典型的な運送会社から 3PLへの転身に成功したハマキョウの新 たな挑戦に注目が集まっている。
*「やらまいか!物流通業 ハマキョウ流・運 送屋繁盛記」はお休みします 近鉄物流の過去5年間の業績推移 60,000 50,000 40,000 30,000 20,000 10,000 600 500 400 300 200 100 0 -100 -200 -300 -400 -500 -600 2001.3 2002.3 2003.3 2004.3 55,474 54 −571 −314 203 273 55,013 54,493 50,039 49,606 2000.3 売上高(百万円) (決算期) 当期利益(百万円) 近鉄物流の会社概要 ハマキョウレックスの会社概要 本  社  静岡県浜松市 設  立  1971年2月 資本金  17億2550万円 年  商  約236億円(連結) 社  長  大須賀正孝 主要株主  大須賀正孝、日本トラスティ信託 従業員  約580人(連結) 拠  点  全国約30カ所 本  社  静岡県駿東郡清水町 設  立  1950年5月 資本金  8億円 年  商  約496億円 社  長  名倉義明 主要株主  近畿日本鉄道、近鉄保険サービス、近畿工業 従業員  約2600人 拠  点  全国約140カ所 解 説

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