ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
ロジスティクス・ビジネスはロジスティクス業界の専門雑誌です。
2004年8号
特集
物流子会社のM&A アルプス物流&TDK物流

*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。

AUGUST 2004 16 国内の貨物減に危機感 昨年十二月、アルプス物流とTDK物流は今年一 〇月に合併することで合意した。
存続会社はアルプス 物流で、合併比率はアルプス物流が一に対してTD K物流が〇・八二。
合併会社の資本金は二三億四九 〇〇万円、総資産は三三四億九六〇〇万円となる。
社 長にはアルプス物流の安間洋一社長がそのまま就任す ることが決まっている。
アルプス物流はアルプス電気の物流子会社で、横浜 市に本社を置く。
従業員は約一九〇〇人。
電子部品 に特化した総合物流サービスを国内外で展開している。
年商は連結で約四三〇億円。
物流子会社だが親会社 への依存度は低く、外販比率はおよそ七割。
自立した 物流子会社として知られている。
一方、被合併会社のTDK物流はTDKの物流子 会社として一九八一年に設立された。
千葉県松戸市 に本社を置き、従業員は約二四〇人。
アルプス物流 と同様、電子部品の総合物流サービスを提供している。
ただし、サービスの対象地域は日本国内のみ。
アルプ ス物流とは対照的に、親会社への依存度が高く、外 販比率は数%にすぎない。
年商は六〇億円弱とアルプ ス物流の七分の一程度の規模だ。
電子部品の供給先であるエレクトロニクス関連のメ ーカーは中国など海外への生産シフトを加速している。
それに伴い、電子部品の日本国内の輸送量は減少傾 向にある。
さらに、もともと荷扱いに特別なノウハウ が必要なため、電子部品の物流を請け負う会社は限 られていたが、最近ではこの分野に食指を動かす物流 会社が増えているなど両社を取り巻く環境は年々厳し くなる一方だ。
今後、電子部品物流のマーケットでは経営基盤の 強い会社しか生き残れない――。
両社の認識は一致し ていた。
「親会社の貨物というベースカーゴがあった ため、これまで比較的順調に業績を伸ばすことができ た。
しかしそのベースカーゴも減少に転じる。
将来に 備えて経営基盤の安定化や事業の効率化を進めてお くべきだという危機感が両社を結びつけた」と安間社 長は説明する(次ページ囲み記事参照)。
両社はともに電子部品メーカーの物流子会社として 歩んできたが、ビジネスで競合する場面はほとんどな かった。
同じ電子部品でもアルプス電気はモジュール 系の部品、TDKは素材系の部品を主力製品として いるためだ。
むしろ互いに手薄な地域の輸送を委託し 合うなど昔から交流があった。
合併話が浮上したのは昨年夏だった。
その後、約半 年かけて合併の詳細を詰めていった。
当初は業務提携 や合弁会社の設立なども検討したが、より成果を高め るため、最終的には合併という形態を選択した。
合併 は、?ベースカーゴの拡大、?輸送効率や保管効率の向上、?管理コストの削減、?外販の拡大――などが 狙いだ。
重複した拠点を統廃合 一〇月以降、アルプス物流は輸配送ネットワークの 見直しに取り掛かる。
両社の配送先は九割以上が重 複している。
両社の貨物を一台のトラックで一緒に運 ぶようにすることで積載率を高めるとともに、運行便 の数を大幅に削減する。
物量増を活かしてローコスト オペレーション体制の確立を図る。
拠点の統廃合にも着手する。
現在、日本国内にア ルプス物流は一七カ所、TDK物流は一〇カ所の拠 点を構えている。
両社で重複している地域では拠点を 二カ所から一カ所に削減し、反対に手薄な地域には アルプス物流&TDK物流 ――電子部品物流のプラットフォームを目指す 今年10月、アルプス物流を存続会社に合併する。
両社の 配送先は9割以上が重複しており、拠点の統廃合などを進 めることでコスト競争力を高めるのが狙いだ。
今後は親会 社など顧客企業の進出に合わせて、海外への拠点展開も積 極化していく。
(刈屋大輔) 17 AUGUST 2004 新たな拠点を設置していく計画だ。
例えば、両社はそれぞれ成田空港近くに倉庫を確 保しているが、新たに輸出入貨物を扱う物流センター を建設して一カ所に集約する。
新センターは延べ床面 積約二万二〇〇〇平方メートルの五階建てで、投資 額は二二億円。
今年六月に着工した。
オープンは来 年三月。
主に日本〜中国間を行き来する電子部品を 扱う予定だ。
新生・アルプス物流にとって営業面での課題は、外 部に流出しているTDK本体の海外物流の仕事をき ちんと取り込んでいくことだ。
ただし今後も、受注は あくまでも他社との競争で決まる。
合併を機に無条件 でその部分を任せてもらえるわけではない。
旧アルプ ス物流が中国などで蓄積した海外物流のノウハウをT DKにアピールし、受注に漕ぎ着けたい考えだ。
合併後の業績(連結)は二〇〇五年三月期に売上 高四六五億円(前年同期比七・九%増)、翌二〇〇六 年三月期に売上高五二〇億円(二〇〇四年三月期実績比二〇・六%増)を見込む。
二年間で上乗せする 約九〇億円のうち、七〇億円が合併による増収分だ。
一方、営業利益は合併費用の発生などで二〇〇五年 三月期に前期比四億円減の四二億円となるが、翌年 には四七億円まで回復できる見通しだという。
合併は市場関係者からも一定の評価を受けている。
三菱証券の土谷康仁アナリストは「異なるフィールド で活躍する物流会社同士による合併ではなく、電子 部品の物流を得意とする会社同士の合併のため、大 きなシナジー効果が期待できる。
それだけにアルプス 物流自身が発表した業績予想はやや保守的に感じる。
数字には合併に伴う費用増だけで、合理化によるコス ト削減効果が織り込まれていない。
最終的にはもう少 しいい決算を迎えられるはずだ」と見ている。
――合併のきっかけは? 「電子部品の物流は中国への生産シフトの影 響をもろに受けています。
日本国内向けの 業務は今後の成長が期待できません。
事業 環境が厳しくなる前に経営基盤を安定化さ せておくべきだと判断しました」 ――TDK物流という相手を選んだ理由は? 「両社の親会社はともに電子部品メーカーで すが、磁気ヘッド以外ではまったく競合して いません。
それが大きかった。
親会社同士が ライバル関係だったら、情報漏えいへの懸 念などもあって、合併は実現できなかったと 思います。
配送先の九割以上が重複してお り、合併効果も見込みやすかった」 ――なぜ合併だったのですか。
経営規模の 違いからすると、買収という選択肢もあっ たはずです。
「合併のほかにも買収による子会社化や合弁 会社の設立など事業統合には色々な形態が あります。
その中から今回われわれが合併を 選んだのは、お互いのいい部分を出し合おう という発想があったからです。
例えば、買収 には買った側の色が強く出過ぎてしまうとい う欠点があります。
合併による本格的な事 業統合のほうが効果も大きいのではないかと 考えました」 ――合併によって電子部品物流のマーケッ トにおけるシェアが高まります。
「具体的な数字は掴んでいませんが、かな り高い占有率になることは間違いないでしょ うね」 ――物流子会社同士の合併には特有の難し さもあるのでは? 「両社に信頼関係がなかったり、どちらか 一方にメリットをもたらすような合併では成 功しません。
そして親会社の理解も大切で す。
今回は子会社同士が話し合ってから、親 会社にお伺いを立てたわけですが、両社の 親会社はわれわれの提案をすんなりと受け 入れてくれました」 ――合併後、海外展開を積極化していく方 針です。
「まずはTDKの海外での物流をきちんと 取り込みたい。
海外での外販の開拓はそれ が終わった後になります。
ただし、海外で闇 雲に拠点を設けるつもりはありません。
両社 の親会社がどこに進出するかで拠点の設置 は決まっていくと思います」 「競合しない相手だからうまくいく」 アルプス物流 安間洋一 社長 PROFILE やすま・よういち1942年生 まれ、66年アルプス電気入社、 93年高周波事業部長、96年取 締役、2002年アルプス物流の 社長に就任

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