ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
ロジスティクス・ビジネスはロジスティクス業界の専門雑誌です。
2004年8号
特集
物流子会社のM&A エスビーエス&雪印物流

*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。

AUGUST 2004 14 お買い得な物流子会社 ジャスダック上場の物流ベンチャー、エスビーエス は今年五月、雪印乳業の物流子会社である雪印物流 を買収した。
雪印物流の株式の九〇・二二%を取得 して子会社化し、グループ傘下に収めた。
買収額は約 三〇億円。
株式公開で調達した資金や銀行からの借 入金で賄った。
エスビーエスは業界内で「とてもいい買い物をした」 と評価されている。
キリン物流の篠岡方長社長は「雪 印物流のような有力物流子会社のM&Aは滅多に出 ない案件。
当社はチルド分野を強化しており、話を持 ち掛けられたら前向きに検討していたと思う。
実はエ スビーエスへの売却が決まった後にキリンビールの本 社から『雪印側から打診があった』という話を聞かさ れた。
もう少し早く知りたかった。
非常に残念だ」と 唇をかむ。
エスビーエスは軽トラック運送事業を中心に、メー ル便事業、人材派遣事業、コールセンター事業などを 展開する総合物流サービス会社だ。
創業は一九八八 年。
佐川急便のセールスドライバー出身の鎌田正彦氏 (現エスビーエス社長)が独立して、軽トラ運送会社 「関東即配」を立ち上げたのが最初だった。
その後、総合物流システム(物流会社)、マーケテ ィングパートナー(マーケティング会社)、シーエス ネット(システム開発)、スタッフジャパン(人材派 遣会社)など物流および物流周辺業務を手掛ける関 連会社を相次いで設立した。
現在、グループ全体の売 上高は約一九三億円(二〇〇三年十二月期)に達す る。
ここ数年で急成長を遂げている物流会社だ。
エスビーエスは売り上げ一〇〇〇億円規模の企業 集団の形成を目指し、M&Aを積極化してきた。
今 回の雪印物流の買収もその一環だ。
エスビーエスの入 山賢一取締役管理本部長は「定温物流は当社に欠け ているビジネスドメインの一つだった。
この分野の物 流は今後の成長が見込まれている。
雪印物流が持って いる雪印グループのベースカーゴが魅力的だった」と 雪印物流の買収に踏み切った経緯を説明する。
雪印物流は九九年一〇月、雪印グループの物流会 社五社が合併して発足した。
定温物流会社としては 稀な全国ネットワークを有する会社で、主に雪印グル ープ向けに温度帯別の輸送、物流センター運営サービ スなどを提供してきた。
全国に五支社、四〇営業所 (子会社含む)を構えている。
トラックの稼働台数は 一日当たり二五〇〇台。
従業員は約二〇〇人。
年間 売上高は約三六五億円(二〇〇四年三月期)で、定 温物流会社としてはキユーソー流通システム、味の素 物流、名糖運輸に次ぐ規模を誇る。
定温分野の有力物流会社の一角として常に業界を リードしてきたが、雪印グループで発生した一連の不祥事のあおりを受けて、ここ数年は業績不振が続いて いた。
売上高は合併直後の約五〇〇億円をピークに 下降線を辿っている。
それでも「僅かな額ではあるが、 毎年きちんと利益を確保し続けており、雪印グループ 内では数少ない優良企業」(雪印グループ関係者)と いう評価を受けてきた。
親会社の雪印乳業が?孝行息子〞の放出を決めた のはおよそ二年前だ。
雪印乳業は過去の事件の影響 で財務基盤が弱体化していた。
雪印物流を売りに出 したのは、売却によって手にする資金で損失を穴埋め することが目的だった。
雪印乳業は当初、毎年黒字を確保している雪印物 流をそのままグループ内に確保しておくことも検討し た。
しかし、最終的には「苦しい台所事情の続く雪印 エスビーエス&雪印物流 ――独立系の有力定温物流会社が誕生 雪印乳業の物流子会社を買収したのを機に、軽トラベンチャ ーのエスビーエスは定温物流事業に本格参入する。
これまで同分 野で幅を利かせてきたのは食品メーカー系の物流子会社だった。
雪印の看板を外した独立系定温物流会社であることを武器に、共 同配送事業などを展開していく。
(刈屋大輔) 15 AUGUST 2004 グループ内にとどまっているかぎり、雪印物流は思い 切った投資ができない。
同業他社との競争上、不利な 環境に置かれてしまう可能性があった」(同)ため売 却を決めたという。
売却にあたっての雪印サイドの希望は商権と従業員 を現状のまま引き受けてもらうことだった。
しかし、 銀行やファンドなどの金融機関、食品メーカー、大手 物流会社など複数の企業に売却話を持ち掛けたもの の、足元を見られて売却額を値切られたり、商権だけ の売却を求められたり、なかなか折り合いがつかなか った。
そんな中、唯一条件を呑んでくれたのがエスビ ーエスだった。
雪印物流の社長として、親会社の担当者とともに 売却候補先との交渉にあたった横澤由喜朗氏(現フ ーズレック社長)は「引き受け先候補の多くは買収後、 従業員のリストラなど事業を縮小することを前提とし ていた。
これに対して、エスビーエスは事業の拡大を 目指していくというスタンスだった。
従業員たちの将 来を考え、上昇志向のある会社に受け入れをお願いす ることにした」とエスビーエスへの売却に至った経緯 を説明する。
一方、エスビーエス側は雪印物流を買収する際の条 件の一つとして、引き続き雪印グループが雪印物流に 物流業務を委託することを求めた。
そして雪印乳業は 従業員を引き受けてもらう代わりに、その要請に応え ることにした。
契約期間は明らかではないが、雪印物 流は当分の間、雪印グループの貨物をベースカーゴに しながら事業を展開できる。
雪印の看板を下ろす 今年七月、雪印物流は社名を「フーズレック」に変 更した。
フーズレックが雪印グループの物流子会社で はなく、独立系の定温物流会社として生まれ変わった ことを外部にアピールするのが目的だ。
現在、全国規 模でビジネスを展開している定温物流会社の多くはメ ーカー系の物流子会社で、独立系がほとんど存在しな い。
エスビーエスではフーズレックが独立系で、なお かつ全国を網羅している点が営業上の最大の武器にな ると見ている。
例えば、「食品メーカーは製品で競合するライバル の物流子会社に物流業務を委託することに消極的だ。
営業情報がライバルに漏えいしてしまう心配があるか らだ。
しかし雪印乳業の看板が外れるフーズレックは 今後、どんな食品メーカーとも取引が可能になる。
具 体的には複数の食品メーカーが参画する共同配送事 業などを展開していきたい」とエスビーエスの入山取 締役は説明する。
エスビーエスは今回の買収によって今期(二〇〇四 年十二月期)のグループ売上高が一気に六〇〇億円 を超える見通しだ。
その内訳はフーズレックが約四〇〇億円、エスビーエスの残りのグループ会社で計二〇 〇億円。
さらに翌年からはフーズレックが年三〇億円 ずつ増収を続け、他のエスビーエスグループ会社が年 一〇%ずつ売り上げを増やしていくことを見込んでい る。
並行して新たなM&Aにも取り組む。
それによっ て売り上げを上乗せし、三〜四年後には目標であるグ ループ売上高一〇〇〇億円を達成する計画だ(図参 照)。
年三〇億円の増収という課題を与えられたフーズレ ックは今後、雪印グループ向け業務以外で稼いでいく しかない。
ベースカーゴの拡大は期待できないからだ。
「雪印物流は過去に売り上げ五〇〇億円を達成してい る。
年三〇億円の増収は無理な数字ではない」と横 澤社長は自信を深めている。
エスビーエスのフーズレックの横澤社長 入山取締役

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