ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
ロジスティクス・ビジネスはロジスティクス業界の専門雑誌です。
2004年7号
特集
パッケージングで勝つ ロジスティクスに潜む宝の山

*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。

JULY 2004 24 日本で理解されていない包装の重要性 ロジスティクスにとって包装が大きなテーマだと考 えている物流関係者は、どれだけいるだろうか。
決し て多くないように思える。
だが、この認識は改めたほ うがよさそうだ。
効率的なサプライチェーンの運営や、 物流コストの構造に、包装は甚大な影響を及ぼす。
過 去に乾いたぞうきんを絞るようなコスト削減に取り組 んできた物流部門でも、包装を切り口にすれば新たな 突破口の見えてくる可能性がある。
これまで日本で物流関係者が包装を軽視してきた 理由もそれなりに分かる。
周知のように物流活動の要 素には、輸送、保管、包装、荷役などがあるが、諸活 動のなかで包装コストが物流コストの総額に占める割 合は、一般的なメーカーで五〜七%程度に過ぎない。
しかも包装に関連する業務のなかで物流部門がコント ロールできる業務は、ごく一部分だけだ。
包装に関連する日本語があいまいなことも誤解を招 いてきた。
「包装」、「パッケージ」、「梱包」――これら の言葉は本来ほぼ同義なのだが、受け手によってかな り異なるイメージを抱かせる。
たとえば「包装」から は百貨店の包み紙を連想する。
「パッケージ」は加工 食品などの容器のイメージが強い。
「梱包」という言 葉からは荷造り作 業を思い浮かべる 人が多い、といっ た具合だ。
しかし、言葉の 持つイメージに囚 われすぎると本質 が見えなくなって しまう。
包装を意 味する「パッケージング(Packaging )」という英単 語には、包装、荷造り、容器などが広く含まれている。
この特集で「包装」というときも、「パッケージング」 と同様に広い概念を指す。
まずは包装に対する先入観 を取り払うことが、この分野におけるロジスティクス の可能性を探る第一歩になる。
米国では包装は、産業としても学問としても一つの 独立した領域を確立している。
ロジスティクスの研究 で有名なミシガン州立大学にはSchool of Packaging (包装大学院)という包装の専門コースがある。
MB Aのロジスティクス専攻コースとはまったく別の、包 装だけを学問的に研究するセクションである(囲み記 事参照)。
このコースには日本からも多くの包装関係 者が参加してきた実績がある。
日本包装技術協会の定義によると、包装は三つの 基本機能からなる。
?内容物の保護、?取扱の利便 性、?情報の提供だ。
商品が生産されてから利用され るまで内容物を守り、運搬や処理の利便を高め、デザ インや文字によって内容物についての情報を与える。
こうした包装単独の機能とは別に、ロジスティクス や物流のなかでの包装は、輸送や保管といった活動と 互いに影響し合う関係にある。
包装を変えることが輸 送や保管の効率に直接的に連動し、物流コストを変 動させる。
つまり、これまで物流分野で注目度の低か った包装を見直すことは、新たなコスト削減のネタ探 しにつながる可能性が高い。
サプライチェーン改革と包材の調達 近年のSCMブームには、ロジスティクスと包装の 関係を改めてクローズアップするという効果があった。
一般的な加工食品を市場に供給するときには包装容 器に封入して出荷する。
こうしたサプライチェーンで ロジスティクスに潜む宝の山 これまで日本では「包装」=「パッケージング」が軽視 されてきた。
包装とロジスティクスの接点ともいうべきユ ニットロードの現状を見ていくと、そのことがよく分かる。
しかし標準化すらままならない状況にあるからこそ、コス ト削減や工夫の余地もまた大きい。
(岡山宏之) 第1部解説 輸送費 52% その他 12% 保管費 20% 物流管理費 9% 包 装 7% 日系メーカーの物流コストの内訳 特集2 パッケージングで勝つ 25 JULY 2004 は、原料の調達とともに、容器(包材)をタイムリー に調達できるか否かが重要な意味を持つ。
「一般的な飲料メーカーの調達業務で、原材料が切 れてしまうことは滅多にない。
それよりも包材が切れ る可能性の方がはるかに高い」(加食メーカーのロジ スティクス担当者)。
そもそも包材は、原料と違って 常に食品メーカーが大量の在庫を抱えるようなもので はない。
生産計画に応じて包材メーカーから小刻みに 供給を受ける。
包材メーカーにしても、そうそう作り 貯めはしないし、当面の需要を大幅に上回る能力の生 産ラインも持ちたがらない。
サントリーが今年三月に新発売した緑茶「伊右衛 門」は、爆発的なヒットによって正式発売からわずか 四日目に販売の一時休止に追い込まれた。
理由はい くつかあった。
予想を遙かに上回る出荷量が求められ たこと、従来とはまったく異なる製造設備を必要とし たこと、発売時に十分に余力のある生産能力を確保 できなかったこと――。
ただし、このとき欠品したのは五〇〇ミリリットル 入りのペットボトル(竹筒型ボトル)だけだった。
缶 や紙パックといった他の包材を使った「伊右衛門」は 欠品していない。
主力容器としてテレビCMなどで 大々的に宣伝された竹筒型ボトルだけが品切れになっ た。
他商品にない奇抜な包材を採用した結果、店頭 で消費者の目に止まりやすいというマーケティング効 果を発揮した一方で、急な増産に対応できないという 事態に陥ってしまったのである。
サントリーほどのブランドと資本力があったからこ そ、今回の欠品騒ぎは同社にとって致命傷とはならな かった。
だが仮に経営体力のないメーカーが、今回の ように大手コンビニエンスストアまで巻き込んで商品 キャンペーンを行った製品を、発売から数日で欠品さ ――ミシガン州立大学のマーケティング学部の中に はパッケージング学科があります。
そこではどのよ うな授業が行われているのですか? 「学生たちは輸出梱包、食品包装、医薬品包装、 玩具包装などパッケージング全般について学んでい ます。
具体的には、製品の包装や梱包の仕方をどの ように改善すれば、物流センターでの作業の生産性 がどれだけ向上するか、といった研究に取り組んで います。
パソコンやテレビを実際に床に落としてみ て、どのくらいの衝撃が加わると破損するのか強度 を調べたり、そのデータを基にどのような梱包を施 せば破損を回避できるのかといったことも重要な研 究テーマです」 ――学科としての歴史も古いそうですね。
「昔はどちらかというとロジスティクス寄りの学科 でした。
輸出梱包に関する研究に力を入れていまし たからね。
しかし最近では、消費財の包装の分野に まで対象を拡げています。
梱包から包装へ。
サプラ イチェーンでいえば、より川上の部分までカバーす るようになったと言えます」 ――卒業生たちの進路は? 「卒業生たち はメーカーや 3PL企業な どあらゆる領 域で活躍して います。
中に はパッケージ ングとはまっ たく無関係な部署で働いている卒業生もいますが、 多くは大学で学んだ経験を生かして、社会人になっ てからもパッケージングに深く関わっています」 ――米国の企業では大学で学んだパッケージングの プロはどう評価されているのでしょう。
「非常に高く評価されています。
例えば、卒業生 たちの初任給は年収ベースで四万五〇〇〇ドルに達 し、明らかに他の学科出身者よりも厚遇されていま す。
彼らは高給取りですよ」 ――米国では製品のパッケージングを検討する段階 から、ロジスティクスの観点がきちんと加味されて いるのですか。
「マーケティングではProduct (製品)、Price (価 格)、Promotion (販促)、Place ( =distribution 、流 通)という四つの?P〞が重要だと言われています。
しかし我々のパッケージング学科では、これにもう 一つのP、すなわちPackaging (包装)を加えて五 つのPが揃わなければ、マーケティングはうまくい かないと教えています。
つまりロジスティクスとパ ッケージングは、常にセットにして考える必要があ るのです」 「では米国企業の現実はどうなのか。
残念ながら まだそこまではできていません。
製品を開発した後 で、その製品の包装形態を決めています。
配送網と かロジスティクスを組み上げるのは、さらにその後 の話です。
ロジスティクスとパッケージングの検討 が同期化されていない結果、『ロジスティクスのこ とを考えれば、パッケージングをこうしておけばよ かった』と後悔している。
それが実情です」 「米国では包装のプロが高く評価されている」 ミシガン州立大学 包装大学院(School of Packaging ) ダイアナ・トゥエド 助教授 JULY 2004 26 せたらどうだろう。
今回、サントリーの「伊右衛門」が欠品したのは、 需要予測を大幅に上回るヒットになったためだ。
需要 の読めない新製品で、大ヒットに対応できる生産設備 を新たに用意すべきだったかどうかは、もはや経営判 断の範疇に属する。
しかし、仮に汎用的なペットボト ルを使っていれば、このようなリスクを回避できた可 能性もある。
個性的な容器によるマーケティング効果と、合理性 のバランスをとるのは難しい判断だ。
それでもロジス ティクスの担当者は、包材切れがサプライチェーンに 与える影響を適切に念願に置く必要がある。
そうした 場面で、生産部門や営業部門に対して合理的なアド バイスをできるかどうかで、ロジスティクス部門に対 する社内の見方も変わってくるはずだ。
パッケージング戦略を欠く日本 包装に対する意識は、日本に比べると欧米の方がず っと高い。
なかでも欧州は米国と比べても先行してい る。
欧州で盛んなユニットロードに関する取り組みを 検証すると、日本との違いがよく分かる。
ユニットロ ードとは複数の品物を一個の大型貨物にユニット化し て、機械荷役に適するようにした包装である。
いわば、 効率的なロジスティクスやSCMを実現するためのル ールである。
欧州では一九六〇年代から、消費財荷物の基準寸 法としての包装モジュールは六〇〇ミリ×四〇〇ミリ と定められている。
ここから標準パレット(八〇〇ミ リ×一二〇〇ミリ)のサイズや、包装モジュールのあ り方などが決まり、さらにパレットに積む段ボール箱 や、その中に収めるカートン、ビンや缶といった個別 商品の容器までが基準に沿って設計されている。
日本でもユニットロードを推進することを狙ってT 11 と呼ばれる標準パレット(一一〇〇ミリ×一一〇 〇ミリ)が定められている。
しかし、この標準が決ま った経緯は欧州のそれとは驚くほど違う。
T 11 という サイズの根拠はJRコンテナのサイズだ。
つまり、欧 州での基準の大元が六〇〇ミリ×四〇〇ミリという ?数値〞なのに対し、日本ではいつ変わってもおかし くない特定の輸送インフラが大元になっている。
現に六〇年代にトンキロベースで三割以上あった鉄 道貨物の輸送分担率は、いまや約一〇分の一に過ぎ ない。
にもかかわらず標準パレットのサイズだけが独 り歩きしている。
日本パレット協会などT 11 による標 準化を推進する勢力は、後智恵のように一一〇〇ミ リ×一一〇〇ミリというサイズの利便性を訴えるが、 その説得力は乏しいと言わざるをえない。
日本のユニットロードの問題点は、ビール業界の取 り組みからも垣間見ることができる。
この業界では9 型と呼ばれる九〇〇ミリ×一一〇〇ミリのパレットが 業界標準になって久しい。
このサイズの根拠になった のはプラスチック製通い箱(P箱)だった。
ビール業 界では古くからビールビン十二本を入れるP箱が流通 の基準単位になっていた。
このP箱を隙間なく積むと ――ロジスティクスと包装の関係を、どう整理すれ ばいいのでしょうか。
「包装とロジスティクスを関連づけるうえで一番 いい事例がユニットロードです。
日本はいま標準パ レットとしてT 11 (一一〇〇ミリ×一一〇〇ミリ) を使っていますが、世界の主流はコンシューマーグ ッズについては八〇〇ミリ×一二〇〇ミリです。
中 でもヨーロッパは完全にこのサイズに統一している。
このパレットに載せる段ボール箱やケースも八〇〇× 六〇〇とか四〇〇×三〇〇でパレットに隙間なく積 「日本の包装も変わりつつある」 パッケージング・ストラテジー 日本代表 有田俊雄(技術士・包装管理士) 27 JULY 2004 いう狙いで、9型パレットのサイズも決まった。
日本でT 11 パレットへの標準化が叫ばれたとき、す でにビール業界では9型による業界標準がほぼ完成し ていた。
わざわざT 11 にするはずもなく、この時点で 日本には二つの標準が併存するという妙な状況になっ た。
過去にまったくバラバラのパレットが氾濫し、千 数百種類のサイズがあったことを思えば進歩と言えな いこともないが、こうした取り組みには欧州流のユニ ットロードとの彼我の差を感じる。
ビール業界の標準パレットには、こんなエピソード もある。
七〇年代以降の日本のビールの容器は猛烈な 勢いでビンからアルミ缶へとシフトした。
その結果、 過去にユニットロードの基準だったP箱が大量に不要 になった。
折りしも木製パレットからプラスチック製 パレットへの移行が進められていたため、ビールメー カー各社は渡りに船とばかりにP箱を9型パレットに 作りかえた。
つまりJRコンテナから生まれたT 11 パレットと同様、ビールの9型パレットもサイズの根拠となったP 箱は既に激減している。
そしてビンに変わって主流に なった缶ビールのサイズは、もともと米国で流通して いたアルミ缶に準じたサイズを日本の単位に置き換え たものだ。
もちろん整合性は図られているが、現存す る9型パレットと缶ビールのサイズには何ら関連がな い。
一見、日本で最も高度なユニットロードが完成し ているようにみえるビール業界ですら、実体はその程 度なのだ。
日本では包装が場当たり的に扱われてきた。
もっと も標準化すらままならない状況だからこそ、ロジステ ィクスの担当者は計算高く包装と付き合っていく必要 がある。
混乱のなかで有利な仕組みを構築できれば、 そこで手にできる成果も大きいはずだ。
特集2 パッケージングで勝つ めるサイズになっています」 「これは一九七〇年代の話になりますが、スウェー デンで『角砂糖一個の大きさとパレットのサイズに は共通点がある』などという言い方をしているのを 聞いた経験があります。
つまり角砂糖を詰め合わせ て一つのカートンにし、このカートンを何個か詰め て段ボール箱に入れ、この段ボール箱を積み合わせ るとパレットにぴたりと収まる。
こういう思想がヨ ーロッパには当時からあって、現在に至るまで活か されています」 ――加工食品の缶とかビンも標準化されていますね。
「その通りです。
スーパーの棚も規格にそったサイズ になっています。
輸送に使う段ボール箱がすっと収 まるサイズになっているため、箱の上部をとって棚 に入れ、そのまま店頭で展示トレーに使うといった ことが可能なんです」 ――著書のなかで日本の包装産業に国際化せよと訴 えています。
「日本の包装企業は完全にドメスティックな産業で す。
包装の需要は六〇%以上が食品なのですが、日 本では食品産業がドメスティックだから、包装産業 もそうなってしまっている。
しかし最近では、P& Gやネスレなどワールドワイドの食品メーカーが日 本で活動していることで日本のパッケージも相当か わってきています」 「一例をあげると、これまで日本の菓子メーカーは 高価だから使えないといっていた包材を、P&Gは 使うわけです。
彼らは店頭効 果を知ってい て、店頭で差 別化する、勝 負するという ことを食品メ ーカーの意志 でやっています。
包材メーカーに頼りがちの日本の食品メーカーとの 大きな違いです」 ――サプライチェーンの効率化を考えるときに、包 装にどれだけ配慮するかでも日本と欧米では事情が異なるようですね。
「日本でもコンビニはきちんとやってますよ。
セブン ―イレブンは三井物産が調整しながらビールメーカー とか菓子メーカーなどと一体でやっているし、ロー ソンも三菱商事パッケージングがぴたりと一緒にな ってやっています」 「コンビニは、たとえば今年の夏のお弁当をどうしよ うかと企画するわけですが、この計画が固まるのは シーズンの一カ月前くらいです。
つまり包装の原材 料を調達したり作る期間は一カ月くらいしかない。
従来の日本の流通のように、上流の会社に順繰りに 情報を伝えていくのでは間に合いません。
だから彼 らは、ヨーイドンで同時にスタートしている。
もち ろん、そこでは三菱商事パッケージングのような会 社がコーディネートするわけですがね」 「なぜコンビニがそういうことをできるかというと、 それはSPA(製造小売業)的な業態だからです。
コンビニのお弁当というのは、材料の調達まですべ てコンビニがやっていますから、まさにユニクロのよ うなSPAなんです。
これが問屋物流の世界だと、 小売りが問屋に要望を出し、問屋が食品メーカーに 伝え、また食品メーカーが包材メーカーに言うなん てことになるから、物理的に間に合いません。
こう いった面では日本の包装も変わりつつあります」 ありた・としお1956年 東京大学工学部応用化学科 を卒業後、日本パルプ工業 (現王子製紙)入社、76年 ダイヤパッケージング(現 三菱商事パッケージング)、 9 7 年米国の包装専門誌 「パッケージング・ストラ テジー」日本代表、日本包 装管理士会元会長、著書に 『包装“国際化”宣言』

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