ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
ロジスティクス・ビジネスはロジスティクス業界の専門雑誌です。
2004年7号
特集
日本郵政公社の値段 郵政を迎え撃つ準備は整った

*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。

JULY 2004 18 設備投資の峠は越えた ――宅急便の拠点を全国五〇〇〇カ所に倍増するとい う投資計画に対する評価が、二つに割れています。
郵 政と戦うには必要な投資だと判断する声がある一方、 売り上げの拡大以上に固定費負担が増えてしまうと見 る向きも少なくない。
「拠点を増やすことによる効果は既に実証済みです。
実証できたからこそ投資を決断したんです。
拠点を増 やすということは、それだけお客様の近くで活動する ということです。
当社のセールスドライバーが営業所 から自分の担当するエリアまで行くのに、これまでは 三〇分かけて、しかも一日に何度も往復しているとい う地域があった。
つまり毎日数時間のロスがあった。
それがなくなれば当然、お客様にサービスする時間や セールスする時間が増える。
その結果は数字にハッキ リあらわれます。
新規に出店したエリアでは一割〜二 割は簡単に売り上げが伸びる」 「皆さんが予想されているほどネットワークの固定 費負担も増えません。
担当エリアの中心に営業所を置 くことで、集配車ではなく台車で集荷できるようにな る。
小規模店の家賃は月額でせいぜい数十万円です。
車両代金と比べれば、店舗費用のほうがむしろ安い。
加えて拠点の分散と同時に事務の集約を進めることで 管理費も抑えた。
事務の集約は二〇〇四年三月期ま でに全て終えました。
今後はネットワークを広げても システム費用はかからない。
設備投資の山は越えまし た。
これから当社の収益構造はどんどんよくなってい く」 ――ライバルとして想定しているのは、もはや民間の 宅配会社ではありませんね。
「ご存知のように既に日本通運さんはコンビニ窓口 の一部を郵政さんに開放しました。
数年前の拡大路 線からは完全に転換した。
一方の佐川急便さんは我々 とは元々狙っているマーケットが違う。
当社にとって 怖いのはやはり郵政公社です。
全国に五〇〇〇カ所の 集配局を持っている郵政が、本気で宅配便市場に乗 り出してくるのは怖い。
ただし郵政の五〇〇〇拠点は 宅配用に設計されたものではありません。
本格的に宅 配市場でネットワークを動かすには施設も車両も全て リニューアルする必要がある。
それが完成する前に当 社は手を打っておく必要があった。
それが拠点倍増計 画だったわけです」 ――市場で郵政と同じ荷主を取り合う場面は実際に増 えていますか。
「競合する場面は出てきています。
しかし今のとこ ろ郵政さんに負けるとすれば価格面だけです。
価格で 荷主をとられるのはしょうがない。
痛いことは痛いけ れども、今のやり方なら怖くはない」 ――しかし、昨年は西武百貨店とそごうのギフト品配 送が、ヤマトから郵政に移りました。
「当社ではとても呑めない価格でしたから仕方あり ません。
しかしお客様も価格だけで顧客を選定してい るわけではありません。
先日、別の百貨店の配送を新 たに当社が受注しました。
コンペには郵政さんも参加 されていて当社より安い料金を提示していたようです が、結局当社を選んでいただけました。
やはり品質を 評価いただいたのだと思います」 ――メール便では日通と佐川が郵政と提携したことで、 ヤマトは四面楚歌の状態に置かれています。
郵政の大 口割引を使えば、メール便の配送費は最安値で五〇 円程度です。
これは多分にヤマト潰しを意識した価格 設定です。
「価格攻勢で当社を潰しても、消費者の利便性が高ま 「郵政を迎え撃つ準備は整った」 郵政公社との提携を進める他の民間宅配会社の動きをよそに、 ヤマト運輸は郵政との全面対決の姿勢を全く崩していない。
現 在、郵政公社の集配局5000に対抗するため、2007年度をメドと した宅配便拠点の倍増に取り組んでいる。
あくまでも自社ネッ トワークにこだわる方針だ。
ヤマト運輸 上沼雄治 取締役営業担当 Interview 19 JULY 2004 るわけではないし、世の中のためには全くならない。
当社はあくまで独自の商品化で対抗していきます。
実 際、当社のメール便はA4サイズで八〇円。
しかも配 達は翌日で貨物追跡もできる。
商品力が違います。
事 実、数字はどんどん伸びている」 ――宅配便のマーケットには、まだ成長余地があるの でしょうか。
「既に見えているマーケットは飽和しています。
し かし、これまで手を着けていない市場はまだまだある。
例えば自家用自動車によるルート配送は誰も手を付け ていない。
そこにはまだ数兆円規模の市場が眠ってい ると見ています。
ネットワークを密にすることで新し い市場が開拓できます。
その一つとして当日配送も始 まっています。
東北エリアでは午前中に集荷したもの を当日の一七時までに届けている」 ――ただし、それは出荷元と配送先が同じベース店の エリア内にある場合だけでしょう。
「そうとは限りません。
山形から出た荷物を仙台に 運ぶ場合でも当日で間に合う。
卸売市場で早朝五時 に集荷した生鮮食料品を朝の一〇時までに配達する というサービスも始まっています。
これも今までなら、 自家用か貸し切りで運ぶしかなかった荷物です。
宅急 便を介して、これまで取引のなかった相手と商売する ようになったというお客様が増えている。
各地で自然 発生的に商品が生まれているんです」 ――そこでは決済サービスも活用されそうですね。
「もちろんです。
今年四月には『スプリットサービ ス』と名付けた新しい決済の仕組みも商品化しました。
このサービスを利用することで在庫を持たない商売が できるようになります。
従来の『コレクトサービス』 が販売店と配送先の一対一の取引を仲介するだけだ ったのに対して、『スプリットサービス』は当社が販 売店に代わって調達先メーカーから商品を集荷し、最 終顧客への配送・集金まで行います。
しかも集金した 代金を、当社が調達代金と販売店のマージンに分配 して、それぞれの口座に振り込む」 決済サービスのメニューを整備 ――決済サービスでは今後どのような展開を計画して いるのですか。
「現在の当社の決済サービスはいわゆる?代引き〞 の域を出ていません。
メニューの多様化が必要です」 ――多様化となると消費者向けのカード決済のほか、 法人向けでは与信の必要も出てきますね。
「法人の与信は、消費者向けよりもリスクは少ない と見ています。
宅急便も今や八割は法人顧客です。
我々は日本全国の法人と日頃から宅急便の取引を行 っています。
我々なりの与信の方法はある」 ――国際市場の展開についてはいかがですか。
現在、 国際インテグレーターが日本市場への参入を本格化させています。
これに対応する必要はありませんか。
「国際インテグレーターが日本市場を見たときには、 やはり当社のネットワークを利用するのが一番便利だ と思うはずです。
ご存知のようにUPSさんとの関係 も変わって、今の当社は外資系企業の誰とでも組める ようになった。
誰にでも当社のネットワークを利用し ていただける」 「確かに当社が海外展開を本格化すると言えば、株 式市場などからは評価されるのかも知れません。
しか し実際には海外に出ることではなく、海外で具体的に 何をやるのかが重要です。
中国市場に関しても、北京 や上海で宅配便をやるだけなら当社でなくてもできる。
それでは当社のやる意味がない。
海外展開の方法は、 じっくりと検討する必要があると考えています」 ●着々と進むヤマト運輸の拠点倍増計画 宅急便センターを2007 年度までに5000 カ所に倍増 2003年度 2004年度 2005年度 2006年度 2007年度 6000 5000 4000 3000 2000 1000 0 2545 2900 3500 4200 5000 販売店 ?配送 ?振込 ?集金 消費者 調達先 ベンダー ?振込 ?振込 販売店 ?配送 ?集金 スプリットサービス (分配) 消費者 ●従来のコレクトサービス ●宅急便コレクトスプリットサービス

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