ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
ロジスティクス・ビジネスはロジスティクス業界の専門雑誌です。
2004年7号
特集
日本郵政公社の値段 市場は民営化を待ってくれない

*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。

JULY 2004 14 郵便は物流事業だ ――日本郵政公社の初の決算は予想以上の黒字でした。
とくに郵便事業の最終損益は平成一四年度の二二五 億円の赤字から二七六億円という大幅な黒字に転換 している。
営業利益の黒字幅は五八九億円にも上って います。
この数字を、どう自己評価していますか。
「以前のように漫然と経営していたら、一二〇〇億 円ぐらいの赤字が出ていたでしょう。
その意味で今回 の決算は公社が改革の第一歩を踏み出すことができた という成果を示したものと言えると思います。
しかし、 これで黒字構造に転換したという意識は全くありませ ん。
物量のトレンドを考えれば今後も減収は避けられ ません。
より筋肉質の経営を目指さなければ黒字構造 には転換できません」 ――公社化によって職員の意識は変わりましたか? 「相当の変化はありました。
しかし残念ながら、ま だ皆さんに感じ取っていただけるほどの変化にはなっ ていない。
郵政のカルチャーとはまさに『官』そのも のだと思います。
そうした職員の意識やカルチャー、 仕事の仕方そのものを変えることが、公社の最大のチ ャレンジです。
『官』が見えなくなった時に郵政事業 改革は達成される」 ――「官」を、どう変えようとしているのですか。
「『郵便は物流という大きな社会的枠組みの中の小さ な一角を占めているに過ぎない。
物流事業をやってい るという立場から、これまでの在り方を見直せ』とい うのが生田総裁のメッセージです。
郵便は物流だとい うことです。
しかし郵便事業は非常に神聖な、社会貢 献的な事業であるという考え方が社内には根強い。
事 実そうだと思います。
それを『物流』という一般名詞 で呼ばれて納得するのか、反発があるのではと心配し ていましたが、今のところ杞憂に終わっています」 ――なぜ反発が少なかったのでしょうか。
「ある意味では簡単です。
自分たちの置かれた環境 がどれだけ厳しいかに気が付き、それに基づいた行動 を始めざるを得なかったということです。
実際、郵便 の扱う物量はこのところ毎年二〜三%ずつ減っている。
今回の公社の決算でも、売り上げで見ると前年と比 較して約六八〇億円の減収です。
およそ一万人分の 職場が失われた計算になります。
これは大変なことで す。
こんなことが続いたら事業がもたない。
選択の余 地なく変わらざるを得ないのです」 ――コスト削減と並行して増収策も必要ですね。
「そのために今年度は投資経費をかなり使うつもり です。
郵便の情報システムは民間企業と比較して圧倒 的に遅れています。
そこで現在、『次期郵便情報シス テム』と題して、ゼロベースでシステムの再構築に取 り組んでいます。
アクションプランでは二年間で八〇 〇億円の投資をうたっていますが、そのうちのかなり の部分を情報投資に充てることになります」 ――情報投資は大手宅配会社で数百億円規模ですか ら、公社の規模を考えると八〇〇億円でも足りないぐ らいでは。
「世界最大手のUPSの情報投資が一〇億ドル規模 と聞いています。
UPSに比べれば我々はだいぶ規模 が小さいですから。
それでも国内の大手宅配会社並み の投資は覚悟しなければならないでしょう」 ――拠点ネットワークへの投資は? 郵政のネットワ ークは基本的に封書やハガキを輸送するためのもので あって、大量の小包を集配するようにはできていませ ん。
小包を増やすには強化が必要なのでは。
「そこは現在も議論している最中ですが、基本的に 拠点の数自体は今のままで充分だと考えています。
た 「市場は民営化を待ってくれない」 郵便事業のコスト削減は着実に進んでいる。
ヤマト運輸との 競争にも自信を深めている。
次の課題はUPSやフェデックス、ド イツポストなどの国際インテグレーターとの競争だ。
しかし現在 の郵政公社は国際展開の手足を縛られている。
このまま市場参 入が遅れれば取り返しのつかないことになる。
日本郵政公社 本保芳明 理事常務執行役員 Interview 15 JULY 2004 だしヤマト運輸さんなどは激戦区となっている首都圏 のビジネス街に集荷センターを作って、非常にキメの 細かい集配ネットワークを敷いている。
そうしたエリ アの競争に対応するためにどうするかは考えています」 「最終的には二つのネットワークを作るという形も あると思います。
通常の郵便に求められているスピー ドと、小包に求められているスピードは違います。
そ うである以上、二つネットワークを持たざるを得ない。
具体的には小包については、ハブ的な拠点を機能的に 強化すると同時に、拠点数自体は少なくして、全体の スピードを高める」 ――小包部分は民間とのアライアンスも選択肢では? 「いや。
小包や郵便のデリバリーに関しては、我々 のコア・コンピタンスだと考えています。
従って自力 でやりたい。
自分でデリバリーできなければ、物流業 者として生き残れないという認識です」 ――ドイツポストのように民間企業を買収するという 選択肢は? 「国内のデリバリーに関しては、ないでしょう」 ――となると、買収先としては? 「デリバリー以外の分野です。
ただし現時点で公社 が投資を許されているのは、輸送に関わる情報システ ムの会社と発送代行業の二つの分野だけです。
現状で は制度上の制約が極めて大きい。
今のしばりのままで 二年も三年も経ってしまうと、我々は時期を逸してし まう。
何もできなくなると懸念しています」 ――そこで危惧されているのは国内企業との競争より、 海外のインテグレーターとの競争ですね。
「その通りです。
国際市場の競争は、国内市場より も格段にスピードが速い。
ご存知のように現在、日本 国内の物流市場に外資がどんどん深く入ってきている。
実際、これまでなかったような物流分野のM&Aが日 本国内でさえ進んでいる。
以前は無風状態に近かった ものが、ここ一〜二年で大きく動いてきた。
この動き は今後、加速することはあっても減速することはない でしょう」 「実際、国際郵便の分野では、外資系企業にどんど ん荷物を取られています。
エクスプレスはもちろん、 恐らく通常の国際メールもやられている。
現在の日本 国内の国際エクスプレス市場で公社が占めるシェアは、 三分の一ぐらいと推測していますが、このままのペー スでいけば一〇%近くまで、すぐに落ち込んでしまう と考えています」 五年先では手遅れに ――国際郵便は現在の市場規模はそれほど大きくあり ませんが、今後も伸びる市場ですね。
「そうです。
日本郵政公社に限らず郵便事業をやっ ているところならどこでもそうですが、いわゆるメー ル、書状の世界は公社にとって一番の収益源であり、またやりようによっては一番儲かるところでもある。
ただし市場自体は縮小傾向にある。
このため、固定費 負担が大きくなる傾向にある。
それを前提に今、多く のポスタルオペレーターが新しい収益源を求めて国際 分野やロジスティクス分野などに事業範囲を拡大させ ているわけです。
我々も全く同じ環境にあります」 ――しかし現在の政局の様子では民営化は五年〜一〇 年先という声も出ています。
「五年、一〇年も経ったら既に勢力地図はすっかり 固まっているでしょう。
そうなったら、完全に手遅れ です。
そうなれば郵政公社だけの問題ではなく、国民 にとっても大きな損失であるはずです。
売り上げ規模 が減って、配達ネットワークの固定費が上がるという ことは郵便料金が上がるということです。
国民の生活 郵便事業のアクションプランの概要 ■アクションプランとは  日本郵政公社の2006年度をメドとした中期経営計画を達成するために 作成した2003年度と2004年度の行動計画 ■収益目標(2003年度と2004年度の合計) 売上高 3兆8894億円 費 用 3兆8680億円 当期利益 214億円 ■事 業戦略 ■コスト削減 人件費 2年間で職員数1万2000人削減 調達費 2年間で約3100億円削減 一般小包 2002年度5.7%(1.7億個)だったマーケットシェアを 2005年度までにシェア10%(3.1億個)に向上 通常郵便 法人向け営業、集荷体制の強化など 生産性向上 トヨタ生産方式(JPS)を全国の郵便局に展開 投資計画 ネットワークと情報システム整備に2年間で800億円を 投資。
営業職員1万人体制の構築、サービスドライバー の増員など JULY 2004 16 に大きな影響を与えてしまう。
さらに旧国鉄のように 郵政が赤字体質に陥れば、最後は税金で処理しなけ ればならなくなる。
そうしないためには、民営化まで の助走期間中に我々に多少のフリーハンドを与えても らいたい」 ――国際事業を具体的にどう展開しますか。
「今の法的な枠組みでは、我々は国境を一歩も出ら れません。
サービスの範囲も極めて限られている。
そ の一方で、従来から手掛けてきた国際郵便自体につい ても、これまでの郵政は何のテコ入れもしてこなかっ た。
逆に言えば充分なことをしていないのに、それに もかかわらず、まだ三分の一のシェアを保っている。
それも今は個人ユーザーがほとんどですので、開拓の 余地はある」 「また国際郵便もエンド・トウ・エンドのサービス ですので、送り先側との協力が必要になる。
それを従 来は万国郵便連合のもとで改善を進めてきたわけです が、それではもはや追いつかない。
マルチ協定は継続 していくものの、主だった相手国とは二社間の相互協 定で片づけていきたい。
そのため現在、中国の郵政局 との話し合いを進めています」 ――中国の郵政側には、国内市場を荒らされるのでは ないかという警戒心もあるようですが。
「我々にとっても中国の郵政にとっても、お互いの 市場が相手国として一番大事だという認識では共通 している。
それも当然と言えば当然で、他の市場は既 に国際インテグレーターに大きなシェアを取られてし まっている」 ――郵政自体が国際インテグレーターになるという方 向性はありませんか。
「現状では何もするな、何も考えるなと言われてい る状態ですからね(笑)。
とはいえ、そもそも日本国 内のエクスプレス市場はせいぜい一〇〇〇億円規模で す。
そこでいくらシェアをとっても知れている。
そこ で終わっていたら国際的な物流企業としては認知され ない。
ある程度の規模を実現しないと、国際物流市場 の一角には入れない。
それをどういう形で実現するの かということが、公社にとっての戦略的な課題である ことは事実です」 ――国内の大手宅配会社との競争については? 資料 を見ると、ゆうパックの取次所はどんどん減っていま す。
その一方で受付窓口として、コンビニの活用を積 極化している。
これはどう考えれば良いのですか。
「一言で説明すると、これまでは取次所をちゃんと 使えていなかったんです。
民間宅配会社はコンビニ店 で一日三〜四個取り扱っている。
つまり年間で一〇 〇〇個です。
これに対して郵政の取次所は看板だけで ほとんど機能していないところも少なくなかった。
他 人任せで集荷するための努力をしていなかった。
そこ で取次所の数を絞り込みました。
どうしたら取扱量が 増やせるのか。
ようやく真剣に目を向け始めるように なったということです」 ――コンビニの活用では、これまで日本通運が縄張り としてきたデイリーヤマザキとエーエム・ピーエム・ ジャパンを、郵政との共同活用に切り替えるという取 り組みも始まりました。
今後、小包部門では郵政と日 通は一体化していく方向にあるのですか。
「そこは是々非々だと思います」 ――しかし実質的に日通は自分の窓口を郵政に明け渡 したことになります。
郵政のエックスパックは日通の 宅配便より値段が安い。
当然、消費者は郵政を選ぶ ことになる。
「具体的な店頭でのオペレーション等はこれから詰 めるところですが、両コンビニでは、あくまで郵政と 国際エクスプレスマーケットの成長予測 10億$ 2002予 2012予 2002―2012 期待成長率 地域別マーケットシェアの変化予測 その他 3% その他 3% 北米 北米 31% 40% 北米 ―欧州 9% 北米―欧州 10% 欧州 26% 欧州 28% 欧州―アジア 5% 各種資料より野村証券公共法人部制作 欧州―アジア 7% アジア域内 9% アジア域内 5% アジア―北米 10% アジア―北米 14% 北米 16.0 23.7 4% 北米―欧州 3.8 7.5 7% 欧州 11.3 20.2 6% 欧州―アジア 2.2 5.2 9% アジア域内 2.2 6.8 11% アジア―北米 4.0 10.4 10% その他の地域 1.3 2.6 7%  合  計 40.8 76.4 2002年 2012年 17 JULY 2004 日通の両方の商品を扱っていただくことになっていま す。
相乗効果で取扱全体が増えることを期待しており、 その方向で進んでいます」 ――電話で依頼すると郵便局員が集荷に来るというサ ービスも本格化させているようですね。
かつては郵便 局に電話をしても集荷を断られることがあった。
「公社化以前にも集荷活動は行っていましたが、方 針がきちんと定まっていなかったんです。
しかし公社 化後は一直線に進んでいます。
全国どこでも電話をい ただければ集荷に伺う。
課題はそのスピードです。
ま た電話窓口の問題もある。
そのため現在、集荷や再配 達専用のコールセンターを作る計画で動いています。
ただし公社の小包の取扱は年間一億八〇〇〇万個程 度。
ヤマト運輸の一〇億個とは大きな開きがあります。
小包の扱い個数が少ないのにネットワークだけは大き いため、そうした投資でも一個当たりのコストがとて も高くついてしまう。
頭の痛いところです」 シェアは絶対に必要 ――やはりシェアが重要になってくる。
「ネットワークの商売である以上、シェアは絶対に 必要です。
公社の場合はベースに郵便のネットワーク があるから、追加的に小包を扱うことでカバーしてい るというのが現状です」 ――その意味では郵便と小包を両方やっていることに よる相乗効果は決して小さくはない。
「もちろん相乗効果はあります。
とくに小包は相乗 効果で動いているし、そうするしかないのが現状です。
ただし郵便のデメリットもある。
我々は信書を扱うオ ペレーターとして、ユニバーサルサービスという前提 を持っています。
そのためのコストはとても大きい。
実際、僻地に手紙を届けるときは、相当のコストがか かりますが、それを八〇円ないしは五〇円で届けてい る。
これに対して民間業者は、ユニバーサルサービス の前提を持たないまま、儲かるところだけやる。
とり わけ民間宅配会社のメール便は、クリームスキミング になっていることは否定できないと思います。
競争す るのであれば、同じ条件にしていただきたい」 ――信書便法で定められた参入障壁に、民間宅配会 社は強く反発しています。
実際、今のところ一般信書 便には誰も参入していない。
「やはり民間企業でも参入する以上、義務は負うべ きだと思います。
この問題は世界中で議論になってい るところです。
国内を考えると現状で簡単に参入条件 をクリアできるのは我々とヤマト運輸だけでしょう。
相当の物量と大規模なネットワークがなければ参入す ることはできないから参入規制を課す必要はないとい う考え方も全く理解できないというわけではありませ ん。
しかし、現実には法律があり、それに従って多数 の特定信書便事業者が事業を行っているわけです。
その中で、多数のアクティブな集荷ポイントを持ってい て、その気になれば一般信書便事業に参入できる企業 が、考え方の違いだけを理由として、あいまいな形で メール便事業を展開するとすれば、それはどうかと思 います」 ――しかし昔と違って現在の公社は郵便法の脱法行為 を直接取り締まる立場にはありません。
「その通りですし、そのつもりもありません。
メール 便によって我々が収入面でダメージを受けていること は事実です。
しかし、それによってマーケットのニー ズがどこにあるかを教えられているのも事実ですし、 消費者の利益にもなっているのも事実です。
競争を通 じて互いに向上することは消費者の利益になる。
それ だけに公正な競争を期待したいと思います」

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