ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
ロジスティクス・ビジネスはロジスティクス業界の専門雑誌です。
2004年7号
やらまいか
社長の役目は雑用係

*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。

JULY 2004 58 3PLは下水道工事屋さん 最近、皆さんも3PLという言葉を耳にす ると思う。
3PLっていったい何だ。
とても 難しい言葉だけど、簡単に言ってしまえば、「流 れ」をよくすることだ。
詰まっている部分を取 り除いてあげる。
下水道屋さんと同じ。
それ こそが3PLの仕事だ。
詰まった部分を情報システムを用いて取り 除くのか。
それとも人手によって取り除くのか。
やり方は色々とあると思うが、「流れ」をよく するための色々なアイデアを出してあげるのが 3PLの役目だ。
3PLの仕事は、きちんとやれば確実に儲 かる。
しかしそのためには作業にどれだけのコ ストが掛かっているのかを常に把握しておく必 要がある。
当たり前だけど八〇円で受けた仕 事に一〇〇円のコストを掛けてしまったら、二 〇円の赤字になる。
儲かっているはずの仕事 が実は赤字だった。
そんな事態を避けるため にも、数字には強くなったほうがいい。
儲けたい会社には日々決算(日次決算)の 導入をオススメしたい。
週次でも月次でもな く、日次だ。
ただし、あまり難しく考えなくて もいい。
決算はあくまでも概算で、感触を掴 めるくらいの完成度で十分だ。
月次の決算に 直結するようなデータを日次決算でも揃えよ うとすると、とてつもなく時間と費用が掛かる。
コストダウンを実現するための日次決算が逆 にコストアップの要因になってしまう。
日次決算を行うのは、社員に毎日の目標を 持たせるためでもある。
目標があるのとないの とでは仕事に対する姿勢が違ってくる。
社員 だけではなく、パートさん一人ひとりにも作業 上の目標をきちんと持たせるべきだ。
パートさんに、パートさんの時給に見合うよ うな仕事しか与えていない物流センターがある。
それはよくない。
社員であろうが、パートさんであろうが、同じ仕事を与えるようにすべきだ。
会議の中身もすべてパートさんたちに教えたほ うがいい。
そうやって社員とパートさんの垣根 をなくせば、そのうちパートさんだけでも物流 センターを運営できるようになる。
「使えるパートさんがいないからセンターが うまく回らない」とこぼす社員がいる。
そんな 時にはこう言ってやったほうがいい。
「あなた は社員かもしれないが、優秀かどうかの話は 別。
パートさんだから優秀じゃないと見下すの は大きな間違いだ。
そもそもパートさんが理解 できるように作業の進め方を教えてあげるのが 社員である、あなたの仕事だ。
それができない 第16回「 社 長 の 役 目 は 雑 用 係 」 日本ロジスティクスシステム協会(JILS)に頼まれて 講演することになった。
ロジスティクスの団体がどうして運 送屋のオレに講演を依頼するんだ? そういえばウチの会社 は3PL(サードパーティ・ロジスティクス)だったな。
無 関係ではないようだ。
講演のテーマは「物流事業経営の意識 改革」。
この連載で説明してきたことをもう一度おさらいす るつもりで目を通してほしい。
大須賀正孝ハマキョウレックス社長 ――ハマキョウ流・運送屋繁盛記 《前回までのあらすじ》 小中学生の頃、実家の商売 の手伝いでうどん売りを始めた。
自転車を引いて近所 を回り、毎日一二〇玉販売した。
同じ頃、自動車の運 転も覚えた。
うどん売りの経験と自動車の運転技術を 習得したことはその後の商売にとても役立った。
59 JULY 2004 あなたは優秀ではない」 パートさんの賃金を保証 ウチの会社ではコストを抑えるために「アコ ーディオン方式」を採り入れている。
これは伸 び縮みするアコーディオンのように、仕事量の ボリュームに応じて柔軟に作業員を配置しよ うという取り組みだ。
パートさんは午後五時まで働きたい。
しか し仕事量が少ない日には午後三時であがって もらうようにする。
どうやってパートさんを説 得して勤務体系を流動的なものにするか。
答 えは簡単だ。
パートさんの最低賃金を保証し てあげればいい。
パートさんは旦那さんの扶養の関係で年間 収入が一〇〇万円を超えられない。
そこで会 社はパートさんに一〇〇万円の支払いを先に 約束する。
そしてその一〇〇万円の範囲内で 仕事をお願いすればいい。
忙しい時には残業 してもらい、暇な時には早く帰ってもらう。
そ ういうルールを決めておけば、パートさんは流 動的な勤務体系でも不満を漏らさない。
パートさんは賃金そのものよりも、仕事のや りがいを重視している。
毎日気分よく働きた いと願っている。
上司から嫌味を言われたり 馬鹿にされたり…。
誰だってそんな職場では 働きたくない。
パートさんが働きやすい環境を 用意することがセンター運営を成功させる秘 訣だ。
パートさんとのコミュニケーションも大切に すべき。
先日、私はパートさんたちと食事会 を開いた。
そこにパートさんの旦那さんたちも 招待した。
旦那さんを呼んだのは、パートさん たちが一生懸命働いてくれていることに対し て、お礼を言いたかったからだ。
ところが、お礼を述べる前に、ある旦那さ んから反対にお礼を言われてしまった。
「妻が センターで働くようになってから夫婦の会話が 増えた」そうだ。
それまでの夫婦の会話といえ ば、奥さんがその日の出来事、例えば隣の家 の奥さんがどうしたとかを一方的に話し、旦 那さんが相槌を打っている、という程度だっ た。
それが「仕事」という共通の話題ができた ことで会話が成り立つようになったという。
お 互いに仕事についての悩みなどを打ち明けあ って、改善策などのアイデアを出し合っている そうだ。
目標数字はできるだけ小さく 毎年、ウチの会社では正月の四日に拝賀式 を行っている。
この日は全国の管理職が本社 に集まり、新年の挨拶を行う。
その後、食事 して一杯やるわけだが、管理職がほろ酔いで ご機嫌になってきたのを見計らって、彼らに 「夢と今年の計画」について宣言してもらうよ うにしている。
酔った勢いで管理職たちはついつい大きな 目標数字を発表してしまう。
実はそれが狙い だ。
一度約束した数字は取り消せないから、何 とか目標を達成しようとその一年頑張って働 くようになるからだ。
誰がどんな「夢と今年の 計画」を話したか。
きちんとメモを取って、証 拠として残しておく。
そうすれば言い訳ができ なくなる。
最近、どうしても通期で一〇〇〇万円の赤 字になりそうだというセンター長から電話があ った。
そのセンター長には新しく稼働したセン ターを任せていた。
彼の話は、軌道に乗るま でもう少し時間が掛かりそうだから、正月に 交わした約束を水に流してほしい、という内 容だった。
このままだと一〇〇〇万円の赤字になるの が確実であるなら、売り上げを増やすことより も一〇〇〇万円のコストダウンを考えるべき だ。
そして一〇〇〇万円のコスト削減はそん なに難しいことではない。
一年間で一〇〇〇 万円削減するためには一日に約三万円ずつ削 「パートさんの給与を保証すれば流動的な勤務体系 でも納得してもらえる」 会社は社長の私有物ではない。
会社はみん なのものだ。
だから社員全員で会社を運営し ていくべきだ。
作業員が毎日交代で現場の班 長を務める「日替わり班長制度」を導入して いるのも社員全員で会社を盛り立てていくことを狙っている。
社員のみんなで会社を運営していくにはコ ミュニケーションが大切だ。
そのコミュニケー ションとは何かというと、相手の話をきちんと 聞いてあげることだ。
部下に何かを指示する ことがコミュニケーションだと勘違いしている 管理職もいるが、一方通行な会話はコミュニ ケーションとは言えない。
私は毎日、布団に入って眠る前にその日一 日の言動を反省するようにしている。
「あの社 員には少しキツイことを言い過ぎてしまった。
傷ついていないかな」といった具合に一日を 振り返る。
自分にとっては何でもない言葉で JULY 2004 60 減すればいいからだ。
センターで働いている人の数が五〇人なら、 一日一人当たり六〇〇円。
さらにそれを勤務 時間の八時間で割れば、一時間当たりたった の七五円だ。
例えばピッキングを担当してい る作業員に頑張ってもらい、一時間当たりの ピッキング数を少しだけ増やしてもらうだけで 七五円なんて簡単にクリアできる。
コストダウンというと昼休みに事務所の電 気を消したり、エレベーターの稼働台数を減 らすといった取り組みに走りがちだ。
しかし節 電によるコスト削減にはどうしても限界がある。
最終的には人が絡む部分にメスを入れなけれ ば、根本的な解決策にはならない。
ではピッキングのスピードを速めるにはどう すればいいのか。
作業員の数を減らせばいい。
センターに一〇人のピッカーがいれば、まずそ れを九人に減らす。
そして一〇人の時と変わ らない件数をピッキングさせる。
もともと一〇 人でこなしていた仕事を九人で処理するため にはそれぞれが一〇%ずつ生産性を上げる必 要がある。
人間というのは不思議なもので一 〇%くらいなら、苦痛を感じずに生産性を上 げることが可能だ。
しばらくすると生産性を一〇%上げた状態 での作業にも慣れてくる。
そうしたら、再び作 業員を一人減らして八人で作業させる。
さら に生産性を一〇%上げてもらう。
その状態に も慣れてくる。
そしてまた一人減らす…。
コツは目標とする生産性を一気に目指すの ではなく、少しずつピッチを上げていくような 手順にすることだ。
最初に高い目標を立てる と、クリアできなかったときにショックが大き い。
だから少しずつレベルを上げていく。
人は 目標をクリアするとその達成感によってまた 頑張ろうという気になるものだ。
眠る前に一日を反省 社長というのは会社で一番高い給料をもら っている。
経費も一番使う。
だから本来はそ の分働かなければならない。
もし会社で一番 の働き者でなくなったら、速やかに社長職を 辞任したほうがいい。
少なくとも私はそうする つもりだ。
社長の仕事とは何か。
社長というのは雑用 係で、会社のバランスを整えるのが仕事だ。
仕 事がないのに社員が多かったら、人を減らさ ないといけない。
リストラは人事の仕事ではな い。
社長の仕事だ。
仕事がなければトップセールスで仕事を取 ってくる。
これも社長の仕事だ。
社内の人間 関係が乱れていれば、それを修正して仲直り させるのも社長の仕事だ。
会社にまつわるこ とであれば、なんでもこなせるようになること が社長になる条件だ。
人間は体のバランスが悪くなると病気を患 う。
会社も同じだ。
バランスが崩れていると業 績が悪くなっていく。
そして会社のバランスが 悪くなるのは社長がちゃんと仕事をしないで 遊び呆けているからだ。
「会社の社長は雑用係。
社内のバランスを整え るのが仕事」 61 JULY 2004 も相手の受け取り方によっては気分を損なっ ていることもある。
言い過ぎていたようであれば、次の日にその 社員に電話を入れて素直に詫びる。
しかし私 の心配をよそにケロッとしている社員も少なく ない。
無意識に発した言葉が相手にどう伝わ っているか。
それは分からない。
コミュニケー ションというのは本当にに難しい。
営業マンのあるべき姿 営業マンの仕事はお客さんから仕事をもら うことだ。
確かにそうかもしれない。
しかし仕 事をもらう前にやるべきことがある。
お客さん への情報提供だ。
お客さんのために何もしな いで、仕事だけください、といっても信用して もらえるはずがない。
相手が仕事の話を切り 出すまで、こちらから仕事については触れない ほうがいい。
情報というのはギブアンドテイクだ。
情報が 欲しければ、まず自分で情報を収集してそれ を相手に提供しなければならない。
情報を常 に提供していれば、そのうち相手も仕事に役 立つ情報を教えてくれるようになる。
相手か ら直接仕事がもらえなくても、ほかの会社を 紹介してもえるような関係になれる。
情報収集には専門紙が役に立つ。
アパレル 製品を扱う会社が商談の相手なら繊維関係の 専門紙、小売りが相手ならば流通の専門紙と いった具合に、関係する業界の専門紙二〜三 紙に目を通す癖をつけるべきだ。
気になる記 事があったらそれを切り抜いてコピーして相手 に提供するくらいのサービス精神が必要だ。
新聞の購読料は自分で払うようにしたほう がいい。
会社が払っていると最初のうちは一 生懸命目を通すが、そのうちパラパラと捲る ことさえしなくなる。
他人のカネで買っている 新聞だからだ。
これに対して自腹を切ってい れば、もったいないからといって必ず目を通す ようになる。
被害者家族に誠意を尽くす 過去にウチの会社のドライバーが高速道路 で大きな事故を起こしたことがあった。
事故 に巻き込んでしまった相手は即死だった。
ち ょうど私は事故が発生した時、自宅で朝食を とっていたが、その知らせを聞いてすぐに現場 に駆けつけた。
事故を起こしたドライバーは真っ青な顔を していた。
近くに高い建物があったら今にも 飛び降りそうなくらいの落胆ぶりだった。
事 故はそのドライバーの不注意で発生したもの だったが、私はその場では怒鳴らないことにし た。
しばらく経ってから被害者宅に焼香に伺っ た。
ただし私たちは自宅に入ることができなか った。
被害者家族に拒否されたのだ。
当然だ と思う。
大切な人を失ってしまった家族の気 持ちは痛いほど分かった。
どうしても被害者家族に焼香を許してもら いたい。
そこで私は「毎日朝、昼、晩の三回、 自宅の前で被害者を拝むように」と事故起こ したドライバーに命じた。
ドライバーは私に言 われた通り、毎日三回、自宅前に出向き、被 害者に手を合わせた。
一日も休むことなく被 害者宅に通い続けた。
その様子を見ていた近所の人たちが働き掛 けてくれたのか。
しばらくすると、被害者の家 族が焼香を許してくれた。
それだけではなかっ た。
ドライバーの罪が少しでも軽くなるように、 と被害者家族が裁判所に進言してくれた。
そ れによってドライバーは減刑となった。
運送会社はどんな理由があっても事故を起 こしてはならない。
しかしハンドルを握ってい る以上、事故が起こる可能性はゼロにはなら ない。
私は最初から減刑が目的で、ドライバ ーを被害者家族のもとに日参させるようにし たわけではない。
反省しているという気持ちを 伝えたかっただけだ。
運送会社にとって大切 なことは事故を起こしてしまった後にきちんと 誠意をもって対応することだと思う。
(以下次号に続く) おおすか・まさたか 一九四一年静岡県 浜北市生まれ。
五六年北浜中卒、ヤマハ 発動機入社。
青果仲介業などを経て、七 一年に浜松協同運送を設立。
九二年に現 社名の「ハマキョウレックス」に商号変 更した。
二〇〇三年三月に東証一部上場。
主要顧客はイトーヨーカ堂、平和堂、フ ァミリーマートなど。
流通の川下分野の 物流に強い。
大須賀氏は現在、静岡県ト ラック協会副会長、中堅トラック企業の 全国ネットワーク組織であるJTPロジ スティックスの社長も務めている。
ちな みにタイトルの「やらまいか」とは遠州 弁で「やってやろうぜ」という意味。

購読案内広告案内