ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
ロジスティクス・ビジネスはロジスティクス業界の専門雑誌です。
2004年5号
現場改善
パート主導でセンター業務を改善

*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。

事例で学ぶ 現場改善 日本ロジファクトリー 取締役 吉原和彦 MAY 2004 68 拠点を集約して商物分離 歯科向け医療材料・機器のジーシー(GC) は、国内ナンバーワンのシェアを持つ老舗の有 力メーカーだ。
世界シェアでも三指に入る。
国 内営業拠点は現在七カ所で、これも同業界最多。
ISO9001、14001の取得でも先陣を 切った。
二〇〇〇年には、優れた経営品質を実 現した企業に贈られるデミング賞(実施賞)も 受賞している。
そんな同社はロジスティクスの面でも「最高 品質」と「業界ナンバーワン」を求めてきた。
九 九年の秋には在庫拠点を従来の七カ所から東西 二カ所に集約する拠点再編を実施。
静岡県の主 力工場敷地内に「ジーシー東日本配送センター」、 滋賀県のグループ企業工場隣接地に「ジーシー 西日本配送センター」を新設した。
並行して顧 客からの受注業務を東京本社の「受注センター」 に集約し、東西二拠点から全国の顧客に納品す る体制を整えた。
拠点集約のきっかけはコンピュータの二〇〇 〇年問題に由来する。
同問題への対策として、同 社は情報システムを刷新。
新たにSAP社のE RP(Enterprise Resource Planning: 業務統 合パッケージ)、「R/3」を導入した。
これに 伴ってBPR(business process re-engineering :業務プロセス再構築)にも取り組んだ。
ロジスティクスも、その対象範囲だった。
? 在庫の削減、?商物分離による営業機能の強化、 ?物流拠点集約による物流業務効率化とコスト ダウン、を主な目的としてセンターの集約を計 画・実施した。
新設した東西のセンターには当時の最新設備 を投入した。
硬石こう・埋没材などの重量物、お よび紙コップや治療用手袋などの、大物消耗品 向けには立体自動倉庫。
治療用接着材や印象材、 歯ブラシなどの小物製品には自動回転ラック。
さ らにバッチ単位でピッキングした製品をバーコ ードスキャンした後、ランプが点灯したオリコン に仕分けるデジタルアソートシステムも導入した。
一部のバーコードが貼付されていない製品だ けは納品先別のマニュアルピッキングで処理す るものの、その他のほとんどの作業が自動化・ 標準化された先鋭的なセンターだ。
熟練が必要 な作業をできる限り排除することで、パート社 員の有効活用を狙った。
実際、新センターのス タッフは約八〇%がパートと派遣社員という構 成だった。
新センターは想定外の物量と慣れない作業の ため、稼動当初こそ多少混乱した時期はあった ものの、徐々に業務は落ち着き、時間の経過と ともに本来の計画に近い形で運営できるように なった。
稼動から約一年が経過した頃には、社 第17回 全国七カ所に分散していた物流センターを東西二カ所に集約。
商物分離と物 流の効率アップを実現した。
しかし、輸送距離が伸びた分、納品リードタイムに は課題が生じた。
パート・契約社員の主導による改善活動によって、センター内 業務の処理時間短縮に挑んだ。
改善に対する動機付けを工夫することで大きな 効果をあげることができた。
パート主導でセンター業務を改善 69 MAY 2004 多少のサービス品質の劣化にも目をつぶってく れた可能性が高い。
これに対して二回目の調査 結果には顧客の考えがより正確に反映されてい ると考えられる。
とりわけ二回目の調査で厳し い評価を下された「納品時間」と「受注締め時 間」の二項目は、「顧客が本当に不満に思ってい る」。
そう解釈できた。
この結果を受けてジーシ ーでは顧客満足度向上のための物流業務の改善 活動が本格化した。
その詳細を説明する前に、ジーシーのロジス ティクスに求められるサービスレベルを理解して もらうために、ここで少し歯科業界の流通事情 について触れておく必要があるだろう。
歯科業界では特約店・卸売代理店制度が今も 根強く残っている。
メーカーから出荷する製品 の納品先はその大半がディーラーと呼ぶ特約店 および代理店で、歯科医院や歯科大学などへの 直接納品はまれに発生する程度。
代理店から先 も多くは二次卸店を経由する。
典型的な多段階 流通となっている。
それでも物流のあり方は近年、大きく変化し ている。
ユーザーレベルでは、歯科医院が経営 の健全化のために在庫を持たなくなってきてい る。
必然的に卸が医院のバックヤード機能を持 たざるを得ない。
そのままでは卸の在庫する品 種と数量が増加してしまう。
しかし当然、卸も 在庫は持ちたくない。
資金的な問題だけでなく物理的にも無理だろ う。
もともと歯科業界の卸の取扱アイテム数は、 五万にも上ると言われる。
これを全て在庫する には膨大な保管スペースが必要となる。
ところ が、この業界の卸の倉庫はどこも非常に狭い。
と いうより倉庫が事務所と「混在」している。
営業や事務員が机を並べる部屋の壁側の棚に 商品が並ぶ。
その棚から物流担当や担当営業マ ンが顧客から受注した製品をピッキングする。
営 業拠点は都心の一等地。
必然的に面積は狭くな る。
「製品は並べられるところに並べろ」となる。
地域での販売量がトップクラスの卸ですら、そ うした状況にあることが珍しくない。
卸には、これまで以上に在庫を置くような余 裕はない。
しかし受注した製品のうち、在庫が ないものはメーカーに発注しなければならない。
もともと午前中の受注を当日中に納品するとい う物流がごく普通に行われている業界だ。
他業 界以上に納品リードタイムは重要視されている。
実際、メーカーからの納品された当日に卸は 顧客に届けている。
担当の営業部員がメーカー の納品車両を待ち受けて、受注製品が揃い次第、 営業兼納品に出発するのである。
卸にとってメ ーカーからの納品リードタイムは早いほどいい。
メーカーも、この要望に最大限応えている。
こ の業界では、メーカーさえもが主要都市圏では 受注当日納品体制となっているところが少なく ない。
センターを集約する以前のジーシーでも、 ほぼ全拠点で受注当日納品体制を敷いていた。
し かしセンターの集約に伴い納品リードタイムは 受注日の翌日になった。
これが顧客の不評を招 いた。
顧客満足度調査の結果を受けて、ジーシーで は満足度向上のための取り組みを行うことにな った。
東西二拠点のうち、西日本配送センター でも改善が始まった。
同センターでは早急に解 決すべき課題として、以下のテーマと対策を掲 員の的確な指示のもと、現場のパート・派遣社 員が要領よくテキパキと作業をこなせる状態に なっていた。
顧客満足度が低下 ところがこの時期に当初想定していなかった 事態が起きた。
顧客がセンター運営に対して不 満を示したのだ。
といっても顧客から直接クレ ームが来たわけではない。
ジーシーでは顧客満 足を定量的に測定・評価する目的で毎年、納品 先ディーラーの「顧客満足度調査」を実施して いる。
配送状況や、欠品・品違い、電話応対な どの項目について納品先に採点してもらい、前 年の採点と比較することで満足度を評価するも のだ。
初回のロジスティクスに対する満足度調査は、 二〇〇一年の配送センター設立から約一年後に 実施していた。
これに続いて翌二〇〇二年にも 設立後二回目の調査を行った。
二〇〇一年の総 合評価は五点満点で三・七点。
これが二〇〇二 年の調査では三・五点に低下してしまった。
〇・ 二ポイント、比率にして五・四%の悪化だ。
看 過できない事態だった。
前回と比較すると、二回目の調査時点の欠品 や品違いのミスはむしろ改善されている。
しか し、これらの調査項目の評価にはそれほど変化 は見られない。
そして「納品時間」と「受注締 め時間」の項目で評価が悪化している。
二〇〇一年に実施した調査は、顧客の採点が 多少甘かったのかもしれない。
前述の通り、稼 動直後のセンターでは業務が混乱していた。
セ ンター集約は顧客も承知しており、そのために MAY 2004 70 げた。
(1) 受注時間の延長 センター設立後は十一時三〇分となっていた 翌日納品の受注締め時間を、一時間延長し十二 時三〇分とする。
また、ジーシーとEDIによ る受発注業務を行っている顧客については、最 大一五時まで受注可能にする。
(2) 九州エリアの納品時間の改善 西日本配送センターから九州の顧客に出荷し ている製品の構成比は、およそ二五%となって いる。
顧客満足度調査で、納品時間が遅いとい う声がとりわけ目立っていたのが同エリアだっ た。
そこで同エリアを中心に納品時間の早期化 を実施することにした。
この納品時間に関する改善は、配送を請け負 う物流パートナー(物流企業)の協力によって 比較的短期間で実現できた。
それまで九州エリ アは広域路線業者(特別積み合わせトラック運 送業者)四社に委託していたが、これを二社に 集約した。
一社当たりの物量アップを図ると共 に、物流パートナーに対して早朝納品の重要性 を説くことによって、九州エリアでも出荷翌日 の朝九時までに納品できるようになった。
一方、受注締め時間の延長に対応するのは容 易ではなかった。
それを実現するには構内の物 流業務を改善して受注処理から出荷までの時間 を短縮する必要があった。
センターの一日の業 務フローは図1の通りである。
朝七時半の入庫 作業を皮切りに一八時三〇分の出荷品引渡しま で入出荷作業をバトンタッチ式に処理していた。
また東京本社の受注センターで入力したディー ラー(顧客)からの注文情報は、一日分がまと めて配送センターに送信されていた。
現場の目線で改善 最初に着手したのは、現状の作業分析であっ た。
独自に作成した「出荷作業工程改善シート」 をもとに、受注センターからのデータ受信以降の 全ての作業の所要時間を調査した。
抽出した作 業工程は一〇〇を超えた。
その結果、各工程に おけるボトルネックが浮き彫りとなった(図2)。
このボトルネックの解消こそが作業生産性向 上のカギを握る。
工程分析によって、改善すべ きポイントは見えた。
後は作業場の「ムダ」の 排除や手待ち時間の削減を、具体的にどのよう なかたちで行っていくかである。
その手法が今回の事例のポイントである。
ジ ーシーでは具体的な改善方法を、パートや派遣 項目 7:30 8:50 11:00 12:00 13:00 14:00 15:00 16:00 17:00 18:00 18:30 19:30 データ処理 昼休み 昼礼 リスト出力 納品書の封筒詰め 荷札作成 納品書荷札の配付 納品書荷札の配付 混載品運搬 掃除 積み込み 書類整理 追加データ受信 リスト出力 納品書の封筒詰め 荷札作成 昼礼 昼休み 入出庫 入庫時間 入庫時間 荷受作業 荷揃え作業(人工歯含む) 検品・梱包作業 図1 西日本配送センター作業タイムチャート 図2 工程別のボトルネック 品揃え 仕 分 梱 包 全工程 立体自動倉庫 (大型製品格納庫) 自動回転ラック (小物製品格納庫) 中量棚 (人工歯) デジタル・アソート・システム (半自動仕分機) カートン梱包 作業要員 品揃え間口までのクレーン移動時間が長い 単位時間あたりの品揃えアイテム数が少なく効率が 悪い 作業導線が長い,複雑である 作業が集中し、手待ちが発生する コンベアが停滞する 歩行距離が長い,作業姿勢が疲れる ランプ点燈が遅い カートンや梱包テープ探しが発生している カートンの再組み立てを行っている 不要なおしゃべりが多い 工 程 項 目 ボトルネック 71 MAY 2004 社員などの現場スタッフに自分で考えさせるこ とにした。
「現場で」、「現物を」、「現場スタッフ の目線で」という基本方針をとったのである。
実 際の活動は次のように進められた。
第一段階は、 現場スタッフが改善活動に効率よく取り組むた めの環境整備だ。
(1)受注センターからの送信される注文情報の バッチ処理をそれまでの一日一回から三回 に細分化した。
(2)従来から同社が部署単位で実施してきた改 善活動、「KI活動」(「ケイアイ活動」に パート・派遣社員を参加させた。
「KI活動」とは、「Kaizen Innovation 」の略 で、業務改善・方針達成率の向上を目的とした 活動だ。
活動の単位には小集団活動と個人活動 があり、全国大会も用意されている。
部署ごと に改善の活動内容と成果を発表し、活動効果が 認められたチームに対しては表彰を行う。
これ まで参加メンバーは社員が対象だったが、西日 本配送センターでは非正社員を中心とした活動 に変更した。
(3)チーム制を導入した。
改善活動をチームで行うことで、競争意識を促したのだ。
各チ ームの管理は、選定されたチームリーダー が行うこととした。
ちなみにチームは血液 型別に編成した。
血液型によって業務内容 と改善活動に変化が出るのではないかとい う、センター長のユーモア混じりのアイデ アであった。
(4)改善提案が活発になるようにするため、個 人別に提案件数を集計し、それを皆に開示 した。
(5)提案にはポイントを付けた。
効果のあった 提案に対しては定量的な効果測定の後、効 果の大きさに従ってポイントが高くなるよ うにした。
(6)ポイントは賞与に反映させた。
一ポイント 当りの金額を設定し。
獲得したポイントに 応じて賞与額が変化する仕組みにすること で、モチベーションを向上させた。
予想以上の効果 狙いは見事に的中した。
これまで単なる「作 業者」であった現場スタッフが、作業の中に数々 の非効率を発見することに懸命になり、その改 善に努めるようになった。
社員には想像するこ とすらできなかった提案が出されるようになり、 その数は月間数十件にも上った。
例えば「ムダ の排除」に対する内容では次のようなものがあ った。
(1) 歩行距離の短縮 ?中量ラックエリアの商品配置再設定による作 業動線の短縮 図3 梱包用資材キット「マイセット」 図4 KI小集団活動会合 図5 改善事例と表彰状掲示 図6 見える化活動 図7 自社製品勉強会 MAY 2004 72 ?仕分システムエリアでの間口の固定化と流動 化の使い分けによる歩行距離の短縮 ?梱包エリアでの梱包用資材キット「マイセッ ト」(図3)による歩行ゼロ化 ?同エリアでの梱包作業机を三歩以内の距離に 梱包用カートンを配置ことによる歩行距離の 短縮 (2)ロスタイムの削減 ?バラさない再利用カートンの利用による再組 立ロスの削減 ?オリコン配送率の向上よる梱包時間の削減 これらは改善提案のごく一部に過ぎない。
そ の提案の質と量には、これまで多くの物流改善 を経験してきた私も本当に驚かされた。
その後 も同センターでは改善が継続的に進むように、次 のような活動を実施している。
(1)小集団活動の会合の定期的な開催(図4) (2)休憩室掲示板への改善事例の掲示板への貼 り出し(図5) (3)休憩室には可能な限り業務が見えるよう 「見える化活動」の展開(図6) (4)パート・派遣社員にも製品情報を覚えさせ る。
製品勉強会の実施(図7) こうして構内物流業務のリードタイム短縮と いう課題はクリアされ、その後も引き続き生産 性は向上し続けている。
(図8)さらに同センタ ーから「KI活動」の全国大会に参加し、他の 正社員チームを押しのけて入賞するチームも出 るようになった。
ジーシーでは人材を「人財」と呼ぶ。
どんな にすばらしいシステムや機器を導入しても、結 局、業務はロボットではなく、意思を持った人 間が行うものである。
ましてや企業を発展させ る原動力は人財以外にはあり得ない。
それが同 社の持論である。
「人財」の指す対象範囲はパート・派遣社員ま でにも及んでいる。
パート・派遣社員といえど も、収入を得ることだけが全てあるわけはない。
彼(彼女)らの中には自身を取り巻く環境に働 きかけ、達成感を得たいと思っている者が大勢 いる。
動機付けさえしっかり与えることができ れば、物流現場の改善は驚くほど進む。
今回の 事例はそれを証明している。
よしはら・かずひこ1966年生まれ。
関西大学経済学部経済学科卒。
88年、大 手食品卸に入社。
98年、同社ロジスティ クス本部の設立メンバーとして本社に配属。
その後、日本ロジファクトリーに入社。
前 職の経験を生かし、現場に密着した業務改 善指導を目指す。
2001年、取締役に就 任。
現在に至る。
yoshihara@nlf.co.jp 図8 改善の効果 (2000年度(センター設立年)と2003年度の生産性比較) 175% 170% 165% 160% 155% 150% 10 11 12 1 2 3 4 5 6 7 8 9 対策前 対策後 目標達成! 2003年度 目標 実績 出荷作業生産性推移

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