ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
ロジスティクス・ビジネスはロジスティクス業界の専門雑誌です。
2013年12号
物流行政を斬る
第33回 トラック運送契約内容の書面化実現に向けて国交省が本格検討取引適正化を促す枠組み構築を

*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。

DECEMBER 2013  100 契約内容の書面化義務付け  今月は、トラック運送を巡る「取引内容の書面化 問題」について見ていくことにしよう。
 トラック運送業界には多数の事業者が乱立し、熾 烈な競争を展開している。
新規参入と退出も盛んだ。
価格競争が行われ、運送料金には常に下落圧力が働 いている。
 そもそもトラック業界は中小零細事業者が多く、 荷主企業に対して弱い立場に置かれている。
取引 に関しても、事前の契約で書面に表した内容以外 のサービスを、暗黙のうちに行っているケースが多 い。
 これについて、国土交通省は二〇一三年三月、 「トラック運送業における書面化の推進について」と いうガイドライン案を発表した。
荷主企業との間で 起こっている、長時間にわたる手待ち時間の発生、 契約に基づかない付帯作業の要求、契約書面の不交 付、一方的な運賃減額、協賛金の要請といった状況 への対策を講じるというものである。
 具体的には「書面契約の必要性」を説いており、 その理由として、次の六事例を挙げている。
トラック運送契約内容の書面化 実現に向けて国交省が本格検討 取引適正化を促す枠組み構築を  トラック事業者が荷主と契約していない業務を過度 に負担させられるケースが横行している。
長い手待ち 時間や付帯作業、協賛金の要請などだ。
現状を是正 するため、国土交通省は契約内容の書面化を義務付 ける方向で動き始めた。
取引適正化のためには書面 化に加え、トラック事業者の規模拡大を促す仕組みを 構築すべきだ。
第33回 ?運送依頼の取引慣行化により、「運賃」「支払期 日」「支払方法」等基本事項が不明確になっている。
?契約書がないので、責任の範囲が曖昧な状況とな っている。
?契約が書面化されていても基本契約に関するもの が中心となり、運賃等重要な契約事項は書面化さ れていない事例が多い。
?口頭契約先の荷主の仕事では、手待ち時間の発生、 付帯作業の要求が多い。
?個建て方式の契約で、一個の荷物の大きさを決め ていなかったため、五個の荷物を一個に束ね一個 分の荷物の運賃に減額された。
?体裁を整えただけの契約書が多く、詳細な条件が 明記されていないため、必要最低限の項目を網羅 した契約書のひな形的なものを作成してはどうか。
 荷主企業に比べて、立場の弱いトラック運送事業 者の姿を如実に表すものと言えるだろう。
決して放 置して良いものではなく、何らかの施策が不可欠な のは言うまでもない。
 そしてガイドライン案では、荷主とトラック運 送事業者が共有すべき必要最低限の項目について、 個々の輸送ごとに、事前に「運送状」として書面化 すべきとしている。
その項目は次の通りである。
?運送委託者/受託者名、連絡先 ?委託日、受託日 ?運送日時  ●積み込み開始日時  ●取卸し終了日時、場所 ?運送品の概要・車種、台数 ?運賃、燃料サーチャージ、消費税 ?付帯業務内容 ?有料道路利用料、付帯業務量、その他 ?支払い期日  荷主はトラック運送事業者に、FAXやメール でこの「運送状」を送る必要がある。
運送状は ?事業者が不要とした場合を除いて?提出するよう、 標準運送約款を改正するとしている。
荷主が書面と 違った運送をトラック事業者に強要した場合は、貨 物運送事業法第六四条に基づき、荷主勧告、社名 公表が行われる。
 国土交通省のみならず厚生労働省も、こうした問 物流行政を斬る 産業能率大学 経営学部 准教授 寺嶋正尚 101  DECEMBER 2013  題について、労災の観点から問題視している。
トラッ ク運送事業者が荷主企業の庭先で行う、書面化され ていない業務について契約で明確にするよう、厚生労 働省のガイドラインに記したのである。
前述の書面化 すべき基本事項の中にある付帯業務に関してである。
 荷主の庭先で行う業務を、トラック運送事業者と 荷主企業のどちらが行うか、契約上明確にしておか ないと、作業中に事故等が起きた場合、対応できな いというわけだ。
一一年に発生した荷役作業中の死 亡災害でも、契約した書面で、どちらの企業が作業 を分担しているかを明確にしていたケースはわずか 四分の一にすぎなかったとされる。
書面化に対する事業者の意見は三者三様  国土交通省は、書面化推進ガイドライン案の発表 と連動し、中小事業者を中心としたトラック事業 者一五七者に対するヒアリング調査結果を掲載した。
そこに掲載されているものをいくつか見てみよう。
●運行管理、時間管理において計画が立てやすく、 安全運行が図れるので、大賛成。
●コンプライアンスの面からも必要である。
●「言った、言わない」「聞いた、聞いてない」など のトラブルが避けられる。
●書面契約の内容を担当者やドライバーなど全員に 周知徹底できるのか。
●書面化を進めるとしても、荷主側の理解を得た上 でないと反発がある。
●詳細な点まで書面化すると、臨機応変に対応でき なくなることが危惧される。
●条件が変わった場合にその都度対応に追われるこ とになる。
その都度書面を交わすとなると迅速な 対応ができない。
 もろ手を挙げて賛成というわけではなく、いろい ろな課題が山積していることが分かる。
最善策を見 いだすのが難しい、実に困難な問題であると言える だろう。
中小企業同士の取引となると、日々の業務 ではいろいろな状況が発生するわけで、ある程度臨 機応変に対応する必要がある。
 全日本トラック協会も、国土交通省に要望書を出 し、例えば「改正案のうち『事業者が不要とした場 合を除いて』の文言を削除し、運送状等の交付を荷 主等に対して義務化すべきである」「運送状等の交付 については、約款の改正だけでは荷主等に対して実効 性が上がらないため、法律改正を伴う制度設計によ り、荷主等に義務付けるべきである」「本来運賃は車 上受け、車上渡しであり、積卸し等の付帯作業は含 まれていない。
ガイドライン案において運賃の定義に 関する記載があるが、別途通達等において運賃・料 金の定義について明確にされたい」としている。
荷 主企業に対しても等しく負担を求めると同時に、実 効性の面で大いに疑問を持っていることが分かる。
 トラック運送業の書面化推進に向けた取り組みは 不可欠であり、なぜこれまで行政の立場からきちん と指導してこなかったのか、遅きに失した感すらあ る。
これまで見てきたようにいろいろな課題はある ものの、方向性としては、書面化を推進していくべ きである。
優越的地位の濫用を規制する、公正取引 委員会との協働についても併せて考えていかなけれ ばならない。
 しかし筆者がここで言いたいのは、こうしたアプ ローチは、抜本的な解決には結び付かないというこ とである。
荷主企業とトラック事業者の間に、歴然 とした経営規模の格差が存在する以上、規模の大き い荷主企業が、規模の小さいトラック事業者より優 位な立場にあるのは言わずもがなである。
 トラック事業者の九九・九%は中小零細企業であ る。
経営実態は、必ずしも芳しくない。
全日本トラ ック協会の資料によると、トラック保有台数が二〇 台以下の企業は平均すると、営業赤字になっている ことが分かる。
 こうした現状を重視し、行き過ぎた規制緩和を是 正し、現在五台に設定されている最低保有台数規制 を引き上げるなどの措置をすることで、事業者に規 模拡大を促すような施策を実施すべきなのではない だろうか。
中小零細企業は、本業であるトラック運 送事業では赤字ながら、その他の副業でその赤字を 埋め合わせしているものと思われる。
本業のトラッ ク運送事業そのものでビジネスが成り立つようにし なければならない。
そして適正利益が得られる状況 にすることで、その利益を設備投資に回すという健 全なスパイラルを描くことが重要である。
 国土交通省は、トラック運送事業者の規模を現状 より大きくすることで、荷主企業との取引をやりや すくするという、根本的かつ構造的なアプローチに 着手すべきであると考える。
てらしま・まさなお 富士総合研究所、流通経済研究所を経 て現職。
筑波大学大学院ビジネス科学 研究科修了、博士(経営学)。
日本物 流学会理事、流通経済研究所客員研 究員、JILS調査研究委員会委員、 日本VCA講師等を務める。
著書に『事 例で学ぶ物流戦略』(白桃書房)など。

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