ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
ロジスティクス・ビジネスはロジスティクス業界の専門雑誌です。
2004年4号
特集
路線業の終わり 特積み業者とは呼ばれたくない

*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。

「細かいことは知りません。
ただ、RCCのさらに 上の方々、大蔵官僚の方々が途中で出てきてレピュテ ーションリスク云々と言い出したという報告は受けて います」 ――管理処分信託に反対する一部銀行からの要請で 役人が口を挟んできたのでは? 「わかりません。
RCCとの話がとん挫した後、民 間の信託銀行に同じ話を持ち込んだのですが、まとま りませんでした。
そして、とうとう担保権者が痺れを きらしてしまった。
管理処分信託は認めない。
不動産 を売却しろ、という結論に至った」 「経営破たん後の処理では、担保に入っている不動 産を売却して現金化してから担保権者に弁済するのが 一般的です。
信託受託権を担保権者に渡す?物納〞 のケースは前例がほとんどない。
手法の善し悪しはと もかく前例がない処理だと本店にうまく説明できない。
そう話す銀行の担当者もいました」 ――拠点の売却を余儀なくされると輸配送ネットワー クが崩れてしまう。
「担保権が設定されている不動産は入札で売却先を 決めるのですが、その入札に当社も参加できるよう配 慮してもらいました。
条件がマッチして落札できれば、 拠点を手放さなくても済むわけです。
しかし資金力に 乏しいため、既存のすべての拠点を維持することは不 可能でしょう。
自社インフラにこだわらず、リース物 件や同業他社の物件を利用するなど柔軟な発想でネ ットワークを再構築していくつもりです」 ――ライバルとのアライアンスを積極化するわけです か? 「トラックや拠点といったインフラ、情報システム を一社の負担で強化していくのには限界があります。
足りない部分は同業者とのアライアンスで補完してい 「前例がないから」が理由 ――経営破たん後、不動産の処理方法を巡る担保権 者たちとのやり取りに相当な時間を費やしました。
結 局、保有不動産は売却することで合意した。
当初検 討されていた「管理処分信託」が同意を得られなかっ たのは何故だったのでしょうか? 「担保権者である銀行団の言い分も理解できます。
わ れわれは管理処分信託によって長期間、安い料金で 拠点を引き続き使わせてほしいと主張した。
これに対 して銀行団は賃貸している間に不動産の価値が下がっ て回収額が目減りしてしまうことを危惧して最終的に は反対した。
不良債権が信託受託権に変われば、バラ ンスシート上では不良債権が貸付金という科目に変わ る。
見かけ上は不良債権処理が進んだことになるから 銀行団には受け入れてもらえるだろうと期待していま したが、ダメでした」 ――管理処分信託を請け負うはずだったRCC(整理 回収機構)が途中で手を引いた。
「昨年二月に土壌汚染の管理に関する法律が大幅に改 正され、管理の基準がとても厳しくなった。
これを背 景にRCCが『フットワークの保有不動産には重金属 などの汚染物質が混ざっている土地があるのではない か。
土壌汚染があると不動産のレピュテーション(評 価)に傷がつく。
そのリスクは誰が取ってくれるんだ』 と言い出した。
これに対して、われわれサイドは『汚 染された土壌を浄化するのに掛かる費用は担保権者が 負担すべき』と主張したわけですが、受け入れてもら えず、RCCとの話は白紙に戻りました」 ――当初、RCCは管理処分信託の実行に前向きだ った。
態度を豹変させたのは何か違う圧力が掛かった からなのでは? APRIL 2004 24 「特積み業者とは呼ばれたくない」 定時運行するトラックのキャパシティを売る路線便の商売は 他社と差別化しにくいため価格競争に巻き込まれやすい。
安定 した収益を確保するには配送や保管などの物流業務を一括で請 け負う体制が理想的だ。
再スタートを機にフットワークは特積み 専業者から3PLへビジネスモデルを改める。
(聞き手・刈屋大輔) 浅井克仁 フットワークエクスプレス社長 第2部 フットワーク破たん後の1000日 トヨタ方式に挑む 路線業の終わり 第1特集 「なぜ黒字転換できたのか。
答えは簡単です。
人件 費を圧縮できたからです。
もともとフットワークの賃 金は業界内の他社に比べて割高だった。
そこにメスが 入った。
さらに経営破たん後には従業員の数が少しず つ減っていった。
乾いた雑巾を絞るようなきついリス トラをやったわけではありません。
自然と人件費の削 減が進んでいき、会社が筋肉質になっていった」 ――経営破たん後、すぐに宅配便事業から撤退しまし た。
宅配便のような儲からない仕事から手を引いたこ とも奏功した? 「収入サイドの話、つまり荷主さんからいいプライ スが取れているかどうかというと、それは×(バツ) ですね。
いま業界内で取引されている運賃と当社が頂 いている運賃とを比較すると、平均かそれよりも低い というのが実情です。
厳しい競争に晒されています」 ――オペレーションの部分での効率化が進んだことが 大きかった? 「残念ながらそちらもバツです。
経営破たんする前よりも効率化が進んでいることが事実ですが、満足で きるレベルにはない。
結局、物流企業の利益率が相対 的に低いのは人件費負担が大きいからです。
だからと いって人を減らせば、今度はオペレーションがままな らなくなる。
ではどうすればいいか。
正社員とパート タイマーを上手に使い分けて、固定費だった人件費を 変動費化していけばいい。
実際、そうした努力をして いる企業が高収益を確保している」 フットワーク本体は利用運送に ――新生フットワークでも引き続き、特積み事業が収 益の柱になります。
「正確には特積みではなくて?運送〞が収益の柱に なります。
特積みは運送事業の中の一つのメニューと きます。
現在、特積み業者は同じような場所に同じよ うなターミナルを設置している。
同じ路線にたくさん の幹線トラックを投入している。
明らかに無駄です」 三年で売り上げを倍増 ――今年一月、フットワークは再出発を果たしました。
同時に発表した新経営計画では二〇〇六年度に売上 高一〇〇〇億円、営業利益一〇〇億円の達成を目標 に掲げました。
「直近の業績(二〇〇三年十二月期)は売上高五二 〇億円、営業利益二二億円でした。
これを三年で売 上高を二倍、営業利益を五倍にする。
こんな話をする と『何をふかしているんだ』とまったく相手にされま せんが、私はクリアできると確信していますよ」 ――その自信はどこから? 「ご存じのとおり、もともとフットワークの売上高 は一〇〇〇億円を超えていましたから。
その数字には 粉飾決算していた分も含まれていますけどね(笑)。
そ れを差し引いても最盛期には八〇〇億円程度の売り 上げを確保していた」 ――二〇〇二年度の数字になりますが、上場物流企業 で一〇%を超える売上高営業利益率を確保できたの はサカイ引越センターなど数社だけでした。
高収益企 業として知られるハマキョウレックスやヤマト運輸で さえ六〜七%台。
福山通運や西濃運輸といった特積 み業者は二〜三%台という結果でした。
「一〇%が大胆な数字であることは確かです。
しか しすでに四%まで回復できていることを考えると不可 能ではない。
特別なことをやらなくても、経営者とし て当たり前のことさえきちんとやっておけば、結果は 自然とついてくるはずです。
そもそも物流企業は他の 業界の企業に比べて利益率が低すぎる」 25 APRIL 2004 フットワーク RCC (整理回収機構) 再生担保権者 (銀行団) GHYキャピタル,   第三者 UFJ,新生銀行など 不動産ディベロッ パーなど ?不動産管理処分  信託を委託 ?拠点賃借契約 ?賃料支払い ?市況をみながら  不動産を売却 ?売却代金 ?フットワークが  受けるべき  信託受益権を譲渡 ( 譲渡によって  弁済は完了) OSL (オー・エス・エル) ●当初予定されていた管理処分信託による不動産処理  APRIL 2004 26 いう位置付けです。
だから本当はもう特積み業者とは 呼ばれたくない。
将来のマーケットを考えた場合、特 積みというのはなくならないが、決してパイが大きく なっていくような分野ではない。
特積みは決まった時 間にトラックを走らせるのでそれに合わせて荷物を出 してください、というパッケージ型のサービスです。
これに対して、いま荷主企業はオーダーメイド型のサ ービスを求めている。
特積みは時代のニーズとは逆行 しています。
物流企業が特積み一本で経営を成り立た せるのは難しくなっていくでしょう」 ――特積みの時代は終わった? 「集荷の翌日に荷物を配達できる。
それが特積みの 魅力だった。
しかし、いまではそれが当たり前になっ ている。
他社と差別化できる部分は運賃だけ。
いかに 安い料金を提示できるかで受注が決まっています。
当 社はもう価格競争の土俵には上らないつもりです。
運 賃ではなく、サービスの中身で勝負していきたい」 ――特積みから撤退するという選択肢はなかったので すか? 「それはありませんでした。
特積みには特権的なメ リットがある。
例えば市街化調整区域内にターミナル 拠点を設けられるとか。
そのため今後もライセンス (免許)は持ち続けるつもりです」 「ただし、オペレーションは従来の体制から大きく 変わります。
簡単にいうと、フットワーク本体は特積 み免許を持っていながら利用運送業者になります。
お 客さんから仕事を受託するのはフットワーク本体で、 実運送は本体の下に用意する七つの地域子会社が担 当します」 ――分業化する目的は? 「もちろんコストダウンを図ることです。
旧体制で はホワイトカラーとブルーカラーの社員が本体と子会 社で重複していた。
まずこれをきちんと整理します。
そして現業部分を担当する子会社では社員を新たに 採用します。
子会社は原則として既存の社員を引き 継ぐわけですが、その場合も新たに雇用契約を交わす かたちになります」 ――それによって賃金体系を改める。
「各地域の実態に合った賃金体系に切り替えます」 ――特積みへのこだわりが薄れたような気がします。
「縮小均衡にするつもりはありませんが、かつての ように特積みのネットワークの整備に大金を投じると いうことにはなりませんね。
幹線トラックに関して言 えば、航空会社のコードシェア便のように共同運行便 を走らせるのもひとつの手でしょう。
実はいま複数の 会社と共同運行で業務提携するための話し合いを進 めています」 ――運送事業では今後、特積み事業の再構築と並行 して区域(貸し切り)事業の開拓も積極化していく方 針です。
「今までのフットワークは特積みのサービスを売る ことしか頭になかった。
極端な言い方をすれば、お客 さんは本当は貸切トラックを必要としているのに、自 分たちの都合で無理矢理、特積みで処理していた。
特 積みでお客さんのニーズに応えられない場合は、『区 域の仕事はできません』といって簡単に断っていまし た。
商売の発想が特積みのネットワークありきだった。
しかし、これからはもっと柔軟に対応していきます。
お客さんのニーズに合わせて特積みと区域を使い分け る。
そうしないとお客さんに逃げられてしまいますか らね」 ――しかし、そうはいってもフットワークはもともと 特積みの会社です。
区域の経験に乏しい。
「そこで区域の仕事に関しては別の部隊を用意する ●フットワークの業績推移 売上高(百万円) 経常利益(百万円) 経常損失(百万円) (決算期) 96.12 2000.12 01.12 02.12 030.132.12 105,456 1,514 75,792 55,309 3,776 51,572 3,696 52,107 4,920 5,687 過去最高の売り上げ達成も後日、 粉飾決算であったことが判明 01,3/4 民事再生法 申請 02,4/30 会社更生法 申請 トヨタ方式に挑む 路線業の終わり 第1特集 27 APRIL 2004 ことにしました。
中心的な役割を果たすのは昨年七月 に買収したワンネスという会社です。
かつてワンネス は求貨求車サービスを提供していました。
まずフット ワークは受注した区域の仕事をワンネスに投げます。
ワンネスは実運送を担当する協力トラック運送会社を 管理します。
フットワークが元請けとなって、その下 に区域の協力会社組織のようなものを設けるというイ メージです」 宅配便事業に再び参入も ――もう一つの収益の柱としてSCM事業を挙げてい ます。
これは荷主企業のSCMを物流やロジスティク スの面でサポートしていこうというサービスです。
「簡単にいうと3PLです。
運送だけでなく、保管 や流通加工といった物流業務を一括で請け負うサービ スになります」 ――典型的な特積み業者だったフットワークには3P Lのノウハウが欠けている。
すぐに事業として成り立 つでしょうか? 「残念ながら現段階ではコンサルティング的な仕事 ができる営業マンが社内に二〜三人しかいません。
し かし、外部から専門家をスカウトしたりして、これを 早い時期に一〇〜一五人にまで増やす計画です。
当 初の目標はコンサル一人当たり一・五アカウント(案 件)の受注。
さらに三年後には一人当たり四アカウン トを目指します。
すでに複数の荷主に3PLでアプロ ーチしていますが、感触は決して悪くない。
近いうち に案件が立ち上がるでしょう」 ――3PLを展開していくうえでのセールスポイント は? 「武器は中国のネットワークです。
われわれはセム コープの中国現地法人(ST ―ANDA)が中国国内 に展開する物流インフラを活用できます。
ST―AN DAのネットワークは日通や山九といった日系物流企 業よりもはるかに充実している。
中国に進出している 日系メーカーにとって魅力的なはずです。
日系メーカ ーは中国国内の物流、日中間の国際輸送、日本国内 での物流を当社に一括で委託できるようになります」 「中国ビジネスではこのほかにSCMの付帯サービ スとしてトレードファイナンス(貿易金融)の提供な ども視野に入れている。
こちらではオリックスの金融 業としてのノウハウを十分に活かせるはずです」 ――逆に課題は? 「宅配便事業から撤退したため、サプライチェーン の最後の部分、つまり企業から消費者までの部分の物 流の機能を持っていない点です。
ここまでカバーでき ないと日本ではSCMにはならない。
お客さんも仕事 を任せてくれない。
これはもう少し先の話になります が、宅配便事業も復活させるという構想も温めていま す。
ただし、C to Cには手を出さない。
B to Cの部分に限定するつもりです」 「残念ながらフットワークにはSCM事業を拡げて いくうえで、二つのネガティブイメージを抱えていま す。
一つは一度倒産しているということ。
そしてもう 一つは運送屋であるというイメージです。
一度仕事を 任せてもらい、実績ができれば、お客さんは受け入れ てくれる。
しかし最初は『本当に運送屋にSCMを任 せられるのか』という意識をお待ちでしょう。
SCM 企業としてのブランドを確立するために思い切って社 名を変更してしまうという選択肢もある。
運送事業は フットワークという名前で続けて、SCM事業は分社 化して新たにブランディングしてもいい、と個人的に は考えています」 PROFILE あさい・かつひと東京大学経済学部卒、 欧州経営大学院(INSEAD)MBA。
三 菱銀行(現・東京三菱銀行)、ビジョン・ キャピタル・コーポレーションを経て、オ リックスに。

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