ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
ロジスティクス・ビジネスはロジスティクス業界の専門雑誌です。
2013年4号
特集
第4部 ハローワークでガンガン採用する方法 船井総合研究所 橋本直行 東京経営支援本部 グループマネージャーシニア経営コンサルタント

*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。

APRIL 2013  46 駄目な経営者の見分け方  ドライバーの採用・教育力がトラック運送業の 勝敗を決める時代がやってきた。
 筆者が所属する船井総合研究所の物流企業支援 チームは、トラック運送会社を対象にコンサルテ ィングサービスを提供している。
筆者自身これま で一五年にわたって、車両台数一〇〇〜二〇〇台 規模の中堅運送会社を中心に経営支援に当たって きた。
 従来は営業力、つまり荷物をいかに獲得して売 り上げを伸ばすかという相談が大半を占めていた。
ところが、この二年ほどの間に、持ち込まれる相 談内容が大きく変化してきた。
ドライバーが採用 できない、苦労して採用してもすぐに辞めてしま うという相談が急増している。
 この流れは、今後ますます深刻になっていくだ ろう。
ドライバーを採用・育成できない運送会社は、 いずれ淘汰の波にさらされることになる。
本稿で は、このうち採用に関する具体的かつ効果的な対 策を紹介しよう。
 初めに伝えておきたいのは、採用活動の成否は 社長のマインドによって大きく左右されるという 点だ。
図1のチェックリストを見てほしい。
人材 面に問題を抱えている企業の経営トップにありが ちな特徴を列挙したものだ。
高過ぎる要望、無関 心、求職者視点の欠落などがうかがえる。
一つで も当てはまったら黄信号だ。
 ドライバー不足が叫ばれる現在でも、十分な人 員を採用・育成して業績を上げている運送会社は 存在する。
そういった企業では社長自身が当事者 意識を持って問題と向き合い、努力を重ねている。
個別具体的な打ち手を模索する前提として、まず 社長自らの意識を質す必要がある。
 具体的な採用手段としては、ハローワークの活 用を推奨したい。
一般の紙媒体やネット媒体を使 ってトラックドライバーを採用する場合、一人に つき最低でも一〇万〜二〇万円以上は掛かる。
そ の点、ハローワークの求人掲載料は無料だ。
これ を使わない手はない。
 この意見に疑問を持つ読者もいるだろう。
ハロ ーワークに集まる求職者には高齢者が多く、運送 会社が求めるような若年層は少ないというイメー ジがある。
そのため無料にも関わらず、ハローワ ークを敬遠している会社は多い。
 しかし、これは間違いだ。
以前に筆者があるコ ンサルティング案件で当該エリアのハローワークの 求職者を調べたところ、全体の七〜八割は若年 層と呼べる世代だった。
全国規模の調査ではない ハローワークでガンガン採用する方法  トラック運送業経営のコア・コンピタンスは営業力から ドライバーの採用・教育力にシフトした。
必要なドライバ ー数を確保できない運送会社に成長はない。
現状維持さ え難しくなっていく。
ハローワークや自社サイトを有効に 使うことで、解決の糸口が見えてくる。
船井総合研究所 橋本直行 東京経営支援本部 グループマネージャー シニア経営コンサルタント □人材教育が最も大事だと思っている □良い社員が辞めた理由を知らない □モデル社員を決めていない、または特性を知らない □人材採用にかかるお金を“費用”だと思っている □不満と不安のマネジメントを間違っている □トラック好き・現場好きの人間を育てたい □できれば経験者を採用したい □「稼ぎたい」という想いの肉食人種を採用したい □既存社員よりもっとレベルの高い人が欲しい □一流のドライバー・作業員を育てたい □ドライバー教育に力を入れていくつもり □ホームページは、採用に威力を発揮しない □入社させてみなければ、向き不向きは分からない 図1 人の問題が解決しない社長の特徴 出典:船井総合研究所 特集 47  APRIL 2013 が、他の地域でもそう大きな違いはないはずだ。
実際、ハローワークを使って質・量ともに十分な 採用ができている運送会社を筆者はいくつも知っ ている。
当たる求人票作りのテクニック  一方で、「ハローワークを活用しているが、応 募がなかなか来ない」という声も多い。
これは求 人票の書き方が悪い。
 関西のある中堅運送会社ではハローワークを使 ってガンガン人材を採用している。
その会社の求 人票と、人が集まらない会社の求人票では何が違 うのか。
比較した結果、人が集まる求人票には以 下の特徴があることが分かった。
?目いっぱい書く  人を採用できない会社の求人票は一見して白い スペースが目立つ。
会社名と所在地、仕事内容が せいぜい二〜三行書いてある程度だ。
それに対し て、人が集まる求人票には文字がびっしりと埋ま っている。
スカスカの求人票と、多くの情報が詰 まっている求人票。
仕事を探している人にとって、 どちらが魅力的に映るかは明らかだ。
?具体的に書く  例えば仕事内容の欄に、ただ「長距離ドライバ ー」とだけ書くよりも、「一週間に二回運行から 三回運行の長距離の勤務です。
郵便や航空貨物輸 送がメインで、高速道路を走る業務が多い仕事です」 と書いた方が、求職者にイメージが伝わりやすく、 応募への意欲をかき立てる効果がある。
?正直に書く  ドライバーを集めたいばかりに給与や待遇面な どを誇大に打ち出すと、採用後のトラブルにつな がる可能性が高い。
当然のことだが、正直に書く ことが基本だ。
?給与の上限は各地域の平均以上で、下限との差 は二〇万円以内に収める  給与がその地域の平均以下だと、それだけで応 募数は激減する。
また、上限と下限の差があまり に離れ過ぎていてもいけない。
例えば給与が「月 二〇万円〜五〇万円」という求人広告を見た場合、 少し怪しいという印象を与えて、敬遠されてしまう。
上限と下限の差は、二〇万程度以内に収めた方が 無難だ。
合わせて、モデル給与を備考に記載する と良い。
?安心ワードを入れる  求職者は応募する会社や仕事内容などに不安を 抱えているもの。
その会社の社風や実際の拘束時 間、労働環境などを、できるだけ知りたいと望ん でいる。
その気持ちに一切応えずに、会社側が求 める条件ばかりを書き込んでも、人は集まらない。
 例えば求人票の特記事項の欄に「当社は安全運 行を最優先し、無理な運行計画や、家に全く帰れ ないような仕事ではありません。
また各営業所に 風呂もありますので、清潔な状態で仕事ができま す」と記載する。
たったこれだけで、その会社に 対する印象は驚くほど向上する。
?教育制度を明示する  入社後に適正な教育を受けることができて、成 長していけると感じさせることが、若いドライバ ーや未経験者を確保するためのポイントになる。
?分かりやすい地図を付ける  見過ごしがちなことだが、地図があるとないと では応募実績に大きな開きが出る。
会社や面接会 場までのアクセスが分かりにくいというだけでも 図2 ハローワーク求人票事例 Before After 空白が目立つBeforeからAfterのように内容を改めたとこ ろ、応募人数は7倍に急増した APRIL 2013  48 心理的な障壁になる。
当日、面倒になって行くの をやめてしまうことさえある。
 会社や面接会場の住所だけを求人票に記載して いる企業が圧倒的に多いが、分かりやすい地図も 併記しておくことを薦める。
応募者の心理的な障 壁を解消すると同時に、行き届いた会社だと印象 付ける効果もある。
?募集エリアに最も近い拠点を事業所登録する  募集エリアに最も近い事業所を登録したほうが 良い。
本社所在地しか記載がなく、本社が自宅か ら遠い場合、実際に勤務する事業所は近くても敬 遠されてしまう。
?ハローワーク窓口担当者と良好な関係を構築する  求人票を窓口に出しっぱなしでは絶対に駄目。
ハローワークの窓口の担当者に、会社の求めてい る人材像や採用への思いやスタンスを日頃から熱 心に伝えておく。
窓口担当者は、求職者を少しで も良い会社に入れたいと考えている。
熱意を示す ことによって、良い人材を優先して紹介してくれ るようになる。
 そして忘れていけないのが、面接結果を窓口担 当者に報告すること。
特に、不採用にした場合は 必ず報告する。
窓口担当者が最も嫌うのは、紹介 した求職者が面接で落とし続けられること。
これ を繰り返すと、求職者を紹介してもらえなくなる。
落とした時はハッキリ結果を伝えて、その理由も 明確に説明する。
落とした理由が分かれば、窓口 担当者はそれを踏まえて次の求職者を紹介してく れる。
それだけミスマッチの確率も低くなる。
?求職者にこちらからアプローチする  ハローワークでは求人票を掲載するだけでなく、 求職者のプロフィールを閲覧することもできる。
日頃から目を通しておき、条件に合いそうな求職 者が現れたら面接に来てもらえるよう積極的にア プローチすることも大切だ。
書き方一つで応募者が七倍に  図2は当社が主催する物流企業経営研究会の会 員である北海道の中堅運送会社が、実際にハロー ワークに提出した求人票だ。
まずBefore。
全体的にブランクが多く、必要最低限の情報しか 記載されていない。
あまり熱意の伝わってくる求 人票ではない。
実際、この求人票ではほとんど応 募者は現れなかった。
 そこで、この運送会社の社長が先頭に立ち、当 社が先ほどのポイントをアドバイスしてAfte rのように内容を変更した。
文字がびっしりと埋 まっていて、一見した時の受ける印象が全く違う。
 詳細に内容を見てみると、その差はさらに明ら かになる。
例えば「仕事の内容」の欄では、仕事 内容を丁寧な言葉遣いで詳しく説明している。
毎 日自宅に帰れることや、手積み・荷下ろしといっ た重労働がないことを明確にうたうなど、求職者 を安心させる言葉が並んでいる。
 「求人条件特記事項」の欄では、免許取得を援 助する制度や、頑張った人が評価される人事制度 が整備されていることを説明している。
ほかにも、 昇給・賞与の存在や事業内容の丁寧な説明などが 新たに加えられている。
こうした工夫の結果、こ の運送会社ではハローワーク経由の応募者数が以 前の七倍に増えた。
 もちろんハローワークに限らず、一般媒体でも 求人票の書き方は重要になる。
図3と図4はピッ 図3 当たる求人広告の作り方? 勤務体系の自由 度を上げて、門戸 を拡げる(その上 で絞り込む) 業務の内容をできる 限り、具体的に、 分かりやすく、イメー ジできるように ターゲット求職者層を半特 定する単語を入れてしまう 可能であれば、写真 は複数掲載する ●業務の光景 ●欲しい人材像 ●荷物のイメージ キラーワード効果で、問い合わせが殺到! (掲載日のAMに40件の電話が立て続けに鳴った) スタッフ 相手視点でとらえた“キラー ワード”を刺し込む! (例:主婦向け鉄板ワード) 求める人材像を明確化し、ターゲットに働い た後のイメージをわかせる広告を作成する! ドライバー 図4 当たる求人広告の作り方? 特集 49  APRIL 2013 キングスタッフとドライバーの求人広告だが、ど ちらも十分な人材を集めることに成功した “当た る求人広告” の見本だ。
 まずピッキングスタッフから。
この広告主であ る物流会社は、以前から一般求人媒体でピッキン グスタッフを募集していたが、思うように人が集 まらなかった。
そこで当社がアドバイスして、図 3のように掲載内容を改めた。
 最大のポイントは左下の部分。
相手視点に立っ た “キラーワード” を挿入したことだ。
この求人 広告のメーンターゲットは主婦層のため、子育て をしているケースが多い。
そこで「お子様の急な 病気、学校行事などを最優先に働いていただけま す」という一文を入れた。
子育て中の主婦層を対 象に募集をかける場合、これは “鉄板” のワードだ。
 さらに、業務風景の写真を掲載して仕事内容や イメージを分かりやすく伝えたほか、面接地への アクセス方法も地図で示すなどの工夫も加えた。
その結果、掲載日の午前中だけで四〇件もの応募 の電話が鳴り、「電話が多過ぎて仕事にならない」 と怒られるほどの反響を得た。
 図4のドライバー募集の広告では、モ デルドライバーを全面的に取り上げる方 法を採っている。
仕事内容や入社した 理由、仕事のやりがい、勤務時間、休 日の過ごし方などを徹底的にインタビ ュー。
会社が求める人材像を明確化し、 入社後のイメージを伝えることを狙って いる。
やはり応募数が以前より大きく 伸びている。
自社サイトも強力な採用ツール  自社のホームページ(HP)も採用活 動の強力な武器になる。
求職者のほと んどは、応募する前にその会社のHP にアクセスすると言われている。
実際、 当社の支援先企業でも求人広告を出し た直後から数日間はアクセス数が跳ね上 がった。
そして、求職者がHPを見た ときの印象が、応募実績に大きな影響 を与える。
 図5は、先ほどハローワークを使って ドライバーをガンガン確保していると紹介した運 送会社のHPの一画面だ。
同社の社長は「これか らは人を確保できて育てられる運送会社が勝つ」 という明確な意識を持っており、HPを人材確保 の重要なツールと位置付けている。
そのため、普 通は荷主向けにコンテンツを充実させるが、同社 の場合は働く社員や入社希望者、そしてその家族 向けの情報も数多く盛り込んでいる。
 具体的には、安全に業務ができる環境が整って いることを前面に打ち出している。
エアバックや 車間距離センサー、ABSアンチロックブレーキな どの装備が整っているほか、営業所のおけるバッ クアップ体制、研修制度などが充実していること も伝わってくる。
 また全車両にGPSが搭載されているが、その IDとパスワードは荷主にはもちろん、ドライバ ーの家族にも開示されている。
WEB上でいつで も位置情報を把握できるため、家族にとっても安 心できる業務環境と言える。
まあ、これにはドラ イバーから反対の声もあるようだが。
 安全面のほかにも、表彰制度や先輩社員の声な ども充実。
求職者が知りたい情報が網羅されてい る。
同社のHPはハローワークで興味を持ってく れた人に対し、応募の最後の一押しをする役割を 担っている。
 ここまで採用に関するノウハウの一部を紹介し てきたが、採用がうまくいけば次は教育のステッ プが待っている。
せっかくドライバーを採用でき ても、きちんと定着して成長してくれなければ、 また採用に逆戻りすることになる。
紙幅に限りが あるため、教育のノウハウについてはまた別の機 会に披露したい。
図5 ドライバーの採用に成功している運送会社のホームページ 入社希望者やその家族を安心させる言葉が並んでいる

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