ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
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2013年3号
物流行政を斬る
第24回 新物流施策大綱の検討会が発足現大綱の小幅改定に留まらずわが国物流政策の大局観を示せ

*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。

MARCH 2013  74 二〇一四年に新大綱がスタート  物流行政の枠組みや方向性を規定する、最も包括 的な指針は「総合物流施策大綱(以下大綱)」である。
国土交通省、経済産業省、総務省など各省庁が縦割 りの形で独自に様々な施策を実施してきた状況を改 め、同大綱の下で連携を図り、施策の総合的・一体 的な展開を目指すものである。
一九九七年四月から これまで四回にわたり策定されてきた。
現在は二〇 〇九年に策定された大綱(以下「大綱二〇〇九」)が 実施中であり、一三年はその最終年に当たる。
 昨年十一月、一四〜一八年を対象とする新大綱策 定のための委員会「新しい総合物流施策大綱の策定 に向けた有識者検討委員会(座長:杉山武彦成城大 学教授)」が発足した。
現在までに三回の会合が開 催され、これまでの大綱二〇〇九の評価をするとと もに、新大綱の詳細な内容に関する議論が成されて いる。
 わが国の物流の今後を占う上で非常に重要な指針 であるため、今月はこの大綱について見てみること にしよう。
内容が多岐にわたるため、詳細に関す る考察は次月以降に譲り、今月はその大枠や考え方、 新物流施策大綱の検討会が発足 現大綱の小幅改定に留まらず わが国物流政策の大局観を示せ  現在施行中の総合物流施策大綱には大局観が示さ れていない。
物流と密接に関わる商流の視点等も欠落 している。
お粗末と言わざるを得ない。
二〇一四年 から新たな大綱が施行される。
その内容は現大綱から のマイナーチェンジではなく、抜本的な改定が施され たものであるべきだ。
まずは名称を?総合ロジスティ クス大綱?に改めるところから始めてはどうか。
第24回 方向性について考察する。
 まず大綱二〇〇九の骨子は図表に示す通りである。
物流をめぐる情勢変化として、?企業のサプライチ ェーンのグローバル化?京都議定書の第一約束期間 の開始・ポスト京都議定書の動向を踏まえた環境対 策の必要性?安全・確実な物流の確保に対する要請 ──の三つが指摘され、その結果、図表にある柱1 〜3が設定された。
柱1は経済政策、柱2、3は社 会政策としての色合いが濃い。
 柱1を見ると、広域物流環境を整備・改善すべく、 国際複合一貫輸送網の構築が提言されている。
輸 出入企業の通関手続きを緩和する制度も拡充すべき とされている。
また物流基盤に関しては、廉価な物 流サービスを実現するためにも、スーパー中枢港湾 プロジェクトの充実、港湾貨物ネットワークの拡充、 高速道路の活用、鉄道の輸送力増強等が指摘されて いる。
 五年前に策定された大綱二〇〇九を改めて俎上に 乗せ、それを批判するのは気が引けなくもないが、こ の内容は明らかにお粗末だと言わざるを得ない。
も ちろん大綱の理念そのもの、すなわち各省庁間の壁 を取り払い、国全体として政策を講じていこうとい うその気概は高く評価できる。
 しかし、この大綱二〇〇九からは、残念ながらわ が国は物流をどのように位置付け、その将来像をど う描こうとしているのか、全く浮かび上がってこな い。
特に経済政策として記してあるのが「グローバ ルサプライチェーンを支える効率的物流の実現」だ けであるのも、明らかに不十分である。
 商流の視点も欠落している。
省庁の役割で言えば、 経産省管轄の内容はないがしろにされている。
例え ばわが国では、諸外国に比べて過剰な物流サービス の状況が指摘されているが、なぜ多頻度小口輸配送、 時間指定輸配送、極端な短リードタイム要請、返品 や廃棄の大量発生等が常態化しているのか。
物流 事業者が荷主企業に対して書面化されていないサー ビスまで提供するのが一般的なのはなぜなのか。
こ うした議論が全く欠けている。
必ずしも米国のよう にロビンソン・パットマン法のような法律を制定し、 コストオン方式導入による効率化インセンティブを導 入するのが良い訳ではないが、取引制度面に関する 議論無くして物流を語ったところで、全ては絵に描 いた餅になってしまう。
 また総務省や公正取引委員会管轄の事項もより 物流行政を斬る 産業能率大学 経営学部 准教授 (財)流通経済研究所 客員研究員 寺嶋正尚 75  MARCH 2013  考慮すべきであった。
わが国は現在、人口減少局面 にある。
それに伴い、特に地方においては買い物難 民とされる人も増えつつある。
こうした状況の中で、 人々の暮らしの中で物流はどうあるべきかを考えて いかなければならない。
そこにはより公共性の視点 が不可欠だろう。
 さらに、買い手企業がバイイングパワーを生かした 取引を行い、その結果、物流にしわ寄せが来る場合 などは、公正取引委員会が定める優越的地位の濫用 の防止なども十二分に検討しなければならない。
大 綱二〇〇九の内容は、こうした事項が軽視されてい る感が否めない。
名称を?総合ロジスティクス大綱?に  新大綱をめぐるこれまでの検討委員会の議論を見 ると、大綱二〇〇九の策定時に比べ、物流を取巻く 環境に関するいくつかの変化が指摘されている。
東 日本大震災など大規模自然災害による物流の寸断と いった経験を踏まえ、災害に強い物流システムを構 築すること、エネルギー・環境政策の抜本的な見直 しも視野に入れ、CO2排出削減に関する取り組み の加速等である。
 もちろんこれらは非常に重要な事項であり、新た な大綱に反映させるべきものである。
ただし、こう した点のみを加筆・修正するだけでは、大綱二〇〇 九のマイナーチェンジの域を出ない。
大綱を策定す る上で最も大事な点は、わが国が採るべき大局観を きちんと明記することである。
 例えば物流基盤に関しては、韓国、中国、シンガ ポールといった国々では、主要港湾や空港を戦略的 拠点に位置付け、そこに多額の税金を投入し、低廉 な価格でサービスを提供することで自国や近隣諸国 に対してハブ機能を果たしている。
その結果、重 点拠点の近くには産業が集積し、経済の活性化に 大きな役割を果たしている。
 それに対し、わが国はどうか。
海洋大国であり、 アジア諸国と米国の結節点になり得る地理的優位 性を有しているにもかかわらず、大局観無き物流 政策の結果、既に多くの貨物や旅行客を諸外国に 奪われる事態に陥っている。
成田だ、羽田だと言 う矮小化された議論に終始するのではなく、わが 国経済において、またグローバル経済において、わ が国物流をどのように位置付け、活用していくか と言った議論がなければならないだろう。
 わが国物流政策に大局観を持たせるために、まず は「総合物流施策大綱」という名称を「総合ロジス ティクス大綱」に変更してはどうか。
言葉遊びと言 ってしまえばそれまでだが、ロジスティクスという 言葉を用いることで、国による戦略的側面、そして 物流のみならず商流面も含めたものであること、流 通を取り巻く生産や消費に関してもカバーするもの であること、などを想起させることができる。
内容 に関しても、それに見合ったものになっていくこと だろう。
 まずは「物流立国」「ロジスティクス立国」という 考えが底流にあって然るべきであり、こうした大局 観の下に描かれたものこそ総合施策大綱でなければ ならない。
そしてその下に位置付けられるのが、政 府や各省庁が個別に展開する施策である。
 物流施策大綱の具体的な内容に関しては、?競争 秩序の維持に関する政策(競争政策)、?物流活動 の振興に関する政策(振興政策)、?物流活動の調 整に関する政策(調整政策)、?物流基盤の整備に 関する政策、?需給調整のための参入規制・営業 規制、?公共の福祉の観点からの規制・制限(以上、 渡辺達郎『現代流通政策』中央経済社を参考に筆者 整理)のような視点に則り、その枠組みを構成して いくことが大事だが、これについては次月号で見て いくことにしよう。
てらしま・まさなお 富士総合研究所、 流通経済研究所を経て現職。
日本物 流学会理事。
客員を務める流通経済研 究所では、最寄品メーカー及び物流業 者向けの「ロジスティクス&チャネル 戦略研究会」を主宰。
著書に『事例 で学ぶ物流戦略』(白桃書房)など。
大綱2009 の骨子 柱1:グローバルサプライチェーンを支える効率的物流の実現 ●政府間対話等を通じたアジアにおける広域的な物流環境の改善 ●効率的でシームレスな物流網の構築 ●貿易手続や物流管理のIT 化と国際的情報連携の構築 ●セキュリティー確保と物流効率化の両立 柱2:環境負荷の少ない物流の実現等 ●輸送モードごとの総合的な対策、モーダルシフトを含めた輸送の効率化 ●環状道路の整備、ITSの推進等の交通流対策 ●地方公共団体、荷主、物流事業者等の多様な関係者の連携による取組み ●効率的な静脈物流の構築 柱3:安全・確実な物流の確保等 ●利用運送事業者と実運送事業者の連携強化 ●大型トラックの車両安全対策、運行管理の徹底等 ●交通安全施設等の重点整備 ●航行安全の推進や海賊行為への適切な対応 ●防災・滅災対策、労働力の確保・育成

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