ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
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2013年2号
物流指標を読む
第50回 円安が輸出貨物を押し上げる 「2012・2013年度の経済と貨物輸送の見通し」日通総合研究所

*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。

  物流指標を読む 第1 回 FEBRUARY 2013  88 円安が輸出貨物を押し上げる 第50 ●アベノミクス効果で想定以上に円安が進展 ●輸出貨物量は予想よりも上振れる可能性大 ●原材料の輸入物価急騰など副作用の懸念も さとう のぶひろ 1964 年 生まれ。
早稲田大学大学院修 了。
89年に日通総合研究所 入社。
現在、経済研究部担当 部長。
「経済と貨物輸送量の見 通し」、「日通総研短観」など を担当。
貨物輸送の将来展望 に関する著書、講演多数。
世界の一〇大びっくり予想  著名なストラテジストであるバイロン・ウィーン 氏(米国投資ファンド運用会社ブラックストーン・ アドバイザリー・パートナーズ副会長)による、毎 年恒例の「一〇大びっくり予想」(Ten of Surprise) が発表された。
日本経済新聞によると、要旨は以 下の通りである(注:うち、日本経済と深く関連 する五項目については、その内容を付記した)。
?イランが核保有国に ?S&P五〇〇種は一三〇〇以下に:世界景気減 速や競争激化を背景に米企業の利ざやが縮小し、 売上高の伸びが鈍化。
米主要五〇〇社の一株利 益は計一〇〇ドルを下回る(注:市場予想平均 は一一三ドル程度)。
これが失望を誘い、S& P五〇〇種株価指数は一三〇〇以下に下落する (注:二〇一二年末は一四二六)。
?金融株に向かい風強まる ?原油価格は下落:民主党の意外な後押しにより、 米国は二〇年より前に中東産石油への依存から 脱却する。
米原油先物の指標であるWTIは一 バレル=七〇ドルに下落する。
米政府は人口密 度の低い地域でのシェール岩盤層からの石油・ ガス採掘への規制緩和を提唱。
政府はエネルギ ーやインフラ、住宅関連産業を雇用創出の鍵と 見ている。
?共和党が移民政策で主導権 ?上海株式相場は活況:中国の新指導部が汚職の 根絶や七%超の経済成長の維持、健康保険・年 金制度の拡充などを進める。
上海株式相場はつ いに活気付き、(人民元建ての)A株指数は二 〇%以上上昇する。
?異常気象で不作続く ?金価格さらに上昇 ?日経平均は一万二〇〇〇円超に:日本経済は活 気に乏しい状態が続き、円の対ドル相場は一ド ル=一〇〇円に下落する。
輸出が改善し、世界 三位の経済大国の株式に投資家が戻る。
日経平 均株価は昨年十一月に始まった強い上昇基調が 続き、一万二〇〇〇円を超える。
?欧州株式相場は一〇%下落:欧州は構造的な問 題の大部分が残り、一二年に始まった緩やかな景 気後退が続く。
市民の反緊縮運動は沈静化。
ギ リシャは政府が無駄な支出を削り、一部国民の 税逃れを摘発する政策の実行に成功する。
しか し欧州株式相場は米株式の下落に連れ安し、一 〇%下げる。
 世界経済に関する懸念事項は、欧州債務危機、 米国の「財政の崖」問題、中国のバブル崩壊の懸念 など山積しているが、?や?を読む限りでは、両者 とも、抜本的な解決には至らないものの、今年中 に大問題に発展することは無いということか。
ま た「財政の崖」問題には触れられておらず、特段 気にしてもいないということなのだろうか。
 また、?については、本稿執筆時点(一月中 旬)で日経平均は一万九〇〇円台まで上昇してい る。
そもそも日本株に出遅れ感が強かったことに 加え、いわゆる?アベノミクス?が好感されたこ とを受けた急騰だ。
今後の見通しについては、二 万円台を目指すという超強気論もあれば、早晩化 けの皮がはがれるという弱気論もあるが、一万二 〇〇〇円は実現性の高い数値であると思う。
「2012・2013年度の経済と貨物輸送の見通し」日通総合研究所 89  FEBRUARY 2013  安倍首相は、「円安転換は自分の手柄」と鼻 高々かもしれない。
もっとも、ファンダメンタルズ (注:震災後、日本の貿易赤字が定着していること など)や購買力平価などを考慮すれば、一〇〇円/ ドルくらいが適切な為替レートと言われており、い ずれ円安方向に進むことは当然の帰結であったが。
 ただし、あまりにも急激に円安が進み過ぎてい るように思う。
言うまでもなく、円安は輸出にと って追い風となることから、円安を望んでいる企 業は多いであろうが、その変化があまりにも急激 過ぎると、原材料などの輸入物価の急騰などの副 作用も心配になる。
「茹で蛙」になってしまっては 大変だが、順応 し切れないほど の急激な変化も また困りものな のである。
 以下に、一 三年度の国際貨 物輸送の見通し について示すが、 前述のように、 為替レートが想 定外の幅で円安 に振れてしまっ たので、輸出に ついては、世界 経済の回復が遅 れることが無け れば、おそらく 上方修正となる 可能性が高いことをあらかじめお断りしておく。
《外貿コンテナ貨物》  二〇一三年度の外貿コンテナ貨物(主要九港) の輸出は、七〜九月期以降は世界経済が緩やかな がら回復軌道を辿ることを反映して、着実な荷動 きが期待される。
ただし、四〜六月期は世界的な 経済減速の影響が残ることから弱含む展開となり、 主力の中国向け貨物もこれまでのような力強さは 期待できないことから、年度全体では一・八%の 小幅な増加にとどまるものとみられる。
 輸入は、食料品、衣料品などの消費財について は、個人消費が盛り上がらないことから伸びは低 く抑えられるものの、機械機器は設備投資の緩や かな持ち直しを背景に底堅い荷動きとなり、下期 には消費増税前の駆け込み需要も押し上げ要因とな ることから、二・七%増になるものと見込まれる。
《国際航空》  二〇一三年度の国際航空の輸出は、アジア線は 中国向けが電子部品、自動車部品を中心に伸び悩 むため、立ち直るまでには至らず、太平洋線も七 〜九月期以降はプラスに転じるが、四〜六月期は 自動車部品の前年度大幅増の反動などにより落ち 込む模様だ。
欧州線も欧州経済低迷を受けて振る わないことから、年度全体では一・一%の減少と なり、マイナス基調から抜け出せないであろう。
 輸入は、食料品、衣料品などについては、個人 消費に力強さが望めないことから緩やかな伸びと なり、電子部品も需要の頭打ちで微増にとどまる ものの、家具などの耐久消費財では消費税増税前 の駆け込み需要もあることから、二・三%の増加 になるものと予測される。
 なお、このびっくり予想は、「世の中の人が三分 の一未満の確率でしか起こらないと考えている事 柄であるが、ウィーン氏は五〇%の確率で起きる と確信しているもの」をサプライズとして発表して いるものであり、平均的な的中率は五〇%超。
ち なみに、昨年のウィーン氏の予想は、的中が三つ、 一部的中が五つ、外れが二つであり、まあまあと 言ったところか。
円安転換は当然の帰結  さて、前号でも紹介したが、日通総合研究所は 昨年十二月に、「二〇一二・二〇一三年度の経済 と貨物輸送の見通し」を発表した。
前号において、 「今回の予測は非常に難しかった。
なぜならば、見 解の分かれそうな事案が山積しているからだ」と 書いたが、予測結果の発表から一カ月も経たない うちに、すでに前提の一つが外れかけている。
 日通総研では、安倍政権が誕生し、一段の金融 緩和策を打ち出すことから、為替(円ドル)レー トは緩やかな円安方向に向かうものと想定し、一 二年度:八〇・四円/ドル、一三年度:八三・二 円と想定した。
しかし、一月中旬現在、為替レー トは八九円前後で推移しており、九〇円突破は時 間の問題となっている。
デフレ脱却と円高是正を標 榜する安倍首相は、二%のインフレターゲットの設 定と目標達成まで無制限の金融緩和を実施するこ とを明言していた。
単純に考えれば、為替レート は通貨同士の価値によって決まることから、日本 における大幅な金融緩和は円の価値を低下させる (すなわち、円安になる)。
市場は安倍首相の本気 度を信用し、急激に円安が進んだというわけだ。
国際貨物輸送量の見通し 単位:外貿コンテナは千TEU(実入り)、国際航空は千トン ( )内は対前年同期比増減率(%) 上期下期 6,251 6,191 6,348 6,384 12,431 12,442 12,732 (△0.5) (0.7) (1.5) (3.1) (1.0) (0.1) (2.3) 2,575 2,509 2,578 2,596 5,115 5,084 5,174 (△0.0) (△1.2) (0.1) (3.5) (△3.7) (△0.6) (1.8) 3,676 3,682 3,770 3,788 7,316 7,358 7,558 (△0.8) (1.9) (2.5) (2.9) (4.5) (0.6) (2.7) 1,034.0 1,050.0 1,036.5 1,063.5 2,265.7 2,083.9 2,099.9 (△9.1) (△7.0) (0.2) (1.3) (△3.9) (△8.0) (0.8) 470.5 453.6 455.8 458.0 1,040.8 924.1 913.8 (△11.3) (△11.1) (△3.1) (1.0) (△8.2) (△11.2) (△1.1) 563.4 596.4 580.7 605.4 1,224.9 1,159.8 1,186.1 (△7.2) (△3.5) (3.1) (1.5) (0.2) (△5.3) (2.3) 2012 年度 上期下期 2013 年度2011 年度 2012 年度 2013 年度 外貿コンテナ国際航空 合計 輸出 輸入 合計 輸出 輸入

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