ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
ロジスティクス・ビジネスはロジスティクス業界の専門雑誌です。
2013年2号
特集
注目企業 トップが語る強さの秘訣 第15位 商船三井ロジスティクス──テーラーメイドのサービスで大手に対抗 加藤敏文 社長

*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。

FEBRUARY 2013  32 商船三井ロジスティクス ──テーラーメイドのサービスで大手に対抗  リーマンショック後の苦境を機に、構造改革を強 力に推進。
地道な改善で固定費を下げ、ドア・ツー・ ドアの提案強化で主力のフォワーディング事業を反 転させた。
新興国における3PL事業を今後の成長の 柱に据える。
顧客の細かなニーズを汲み上げるテーラー メイドのサービスで大手フォワーダーらに対抗する。
ロジ事業の売上比率を三割に ──リーマンショックの直撃を受けた後、業績が再 び伸びています。
 「リーマンの後は大変でした。
我々が中核とする航 空フォワーディングは二〇〇九年に入って日本から の貨物量が前年の半分以下に減ってしまいました。
これを機に、環境の激変にも対応できる体制を構築 しようと、収益構造の見直しと社内の意識改革に努 めました。
その成果が挙がり、業績が再び上向いて きました。
一三年三月期も中国の落ち込みなどはあ りますが、何とか前年並みぐらいに行けるかなとは 思っています」 ──一〇〜一二年度を対象とした現行の中期経営計 画「VISION二〇一二」には、基本方針の一 つに「全社構造改革の推進」が盛り込まれています。
 「あらゆる業務にメスを入れ、合理化と業務量の 平準化を推進しました。
例えば、書類作成などのバッ クオフィスの業務内容を合理化して浮いたスタッフ を営業部門に投入して担当者を増やすことで、一人 当たりの業務負担を減らし、より仕事に集中できる ようになりました。
関係書類のコピー部数を減らし たり、急ぎでない資料は顧客の理解を得た上でバイ ク便による配送を控えたりといった地道な取り組み を積み重ねました。
その結果、一般管理費は〇九年 度に比べて四億〜五億円ぐらい減りました」  「同時に全体の要員を増やすことなく、質を落と さずに営業活動を強化しました。
フォワーディング 事業では顧客のニーズを先取りした提案営業の強化 などに取り組んでいます。
アジアや南米、アフリカ などの新興市場の拡大に向けた布石を打つため、海 外でのコントラクト・ロジスティクス(3PL)の積 極推進も打ち出しています」 ──海外でコントラクト・ロジ拡大を目指す背景は。
 「日本の大手フォワーダーさんはグローバルに動い ている貨物を狙っていこうという姿勢です。
もちろ ん我々もグローバルな貨物をこれまで通り追い掛け ますが、価格競争は厳しいし、そこで他社と激しく 競い続けるだけの規模や体力は残念ながら無い。
そ こで、それぞれの国に根ざした、特徴あるサービス を売っていくことで独自性を発揮したい。
特定の地 域、特定の荷物を対象にするようなテーラーメイド のサービスで、お客様の細かなニーズに応えていき ます。
よそがやらない仕事でも収益を上げられるア イデアがあれば積極的に取っていきます。
我々は組 織がそれほど大きくない分、小回りが利く」  「製品や部品を配送した後も、最適な保管方法の提 案とか、倉庫のオペレーション改善とか、そういった ところでお客様と関係を深めて商売を取っていければ、 フォワーディング、通関業務といった部分でも仕事に 繋がり、シナジーを発揮できるチャンスはある」 ──テーラーメイドの物流サービスとは具体的には?  「例えば、ある自動車部品のメーカー向けに、ベ トナムで岸壁から荷受けした後、工場まで素材をト レーラーで輸送する仕事を提供しています。
コイル 状の特殊な形の素材であるため、従来は荷降ろしや 陸上輸送の際にダメージを受けることが多く、メーカー の方々にとって悩みの種でした。
そこを我々が素材 に損傷を与えないよう工夫して取り扱っています」  「現地の物流業者選定など、我々が元請けとして すべて責任を持ってやるということです。
ビジネス チャンスがあれば商船三井グループ内の専門知識や 経験を持った人たちの力も借りていく。
お客様自身 でやろうとすればできないことはないが負担が大き 加藤敏文 社長 注目企業 トップが語る強さの秘訣 第15位 33  FEBRUARY 2013 い仕事を、我々が代わりに手掛けることは、インフ ラが整備されていない国では売り物になります。
現 地法人にはいちいち日本にお伺いを立てなくていい から積極的にビジネスチャンスを見つけなさいと言っ てあります。
現法でも自分の責任でビジネスを進め るという意識が以前よりも出てきました」 ──コントラクト・ロジ部門はどの程度まで伸ばし ていく計画ですか。
 「一一年度は航空貨物が営業収益の五割、海上貨 物が三割、その他のコントラクト・ロジスティクスサー ビスなどが二割となっています。
中核の航空貨物の 取扱額は下げずに、全体の比率が四対三対三ぐらい になれば我々の経営基盤もかなり強くなる」 ミャンマーとインドネシアに新拠点準備 ──中国ではどのように事業展開していますか。
 「〇四年に『上海外高橋保税物流園区(以下、W BLZ)』へ進出し、大型の総合物流倉庫を運営し ています。
WBLZを使えば国外から輸入した原料 や部品に加え、中国国内で生産された部品や製品も 税制優遇の対象になる。
ここで在庫を管理し、必要 に応じて日本へ配送する形態を取ればコストを削減 できる。
そこで中国各地のサプライヤーから調達し た商品をWBLZで混載して日本に送る“買付物流” を日本の通販会社などに提供しています。
WBLZ の倉庫は当初の赤字から脱却し、今では累損も解消 しました」  「上海の他の地域や深圳でもWBLZのような優 遇策がある地区内の倉庫などを活用したロジスティ クスサービスを手掛けているほか、自動車部品の調 達物流などにも積極的に取り組んでいます。
時間を 掛けて進める必要がある大きなプロジェクトでは現 地法人からその支店に担当を派遣したりと、中国の 各拠点を有機的に結合できるようになってきました。
今後は西部、北部といった内陸部の対応を強化して いこうと考えています。
ただ、経済成長の鈍化や昨 年の日本政府の尖閣諸島国有化による対日感情悪化 で、荷動きは鈍くなっています。
今年の旧正月明け ぐらいには何とか回復してくれればいいのですが」 ──他のアジア諸国での対応は?  「ベトナムは現地の日本人スタッフを増員し、だい ぶ軌道に乗ってきました。
カンボジアには昨年、商 船三井の現地法人内に拠点を開き、ミャンマーは商 船三井の定期航空代理店でもある現地企業と業務提 携しました。
ミャンマーは今年か来年早々には何と か事務所を開設したいと思っています」  「このほか、インドネシアは現地法人を置こうと準 備しています。
ビジネスチャンスが増えてきたのに 対応していきます。
アジアを一つの面として捉え、 広大な地域経済圏の中で、日本が絡む物流だけでな く、アジア域内の物流、『ツー・アンド・フロム・ア ジア』を広く手掛けていくことを目指しています」 ──ナショナルスタッフの人材教育も課題では。
 「我々は航空フォワーダーとして出発しました。
日 本を起点とする輸出入がかなり旺盛だったので、き ちんとデリバリーをやればいいとか注文を受けてき ちんと品物を積み込めばいいとか、そういうところ にスタッフを使ってきました。
そのため、一番良い 姿を描いて提案営業するといった能力はまだまだ足 りないし、教育をやっていかなければいけない。
外 から能力のある人を招くこともあるでしょう。
中国 では人材がかなり育ってきて、マネージャーやGM クラスは中国人が担っていますが、他のアジアでは まだまだこれからです」 グループの中核物流企業  商船三井グループの三井航空サービス、商船航空サービ スが1989年に合併して貨客兼業の「エムオーエアシステム」 となった後、2001年に旅客部門を分割して現在の社名に変 更。
国際物流事業に専念している。
グループの中核的な物 流企業として、「MOL」ブランドを活用した航空・海上貨 物のフォワーディング事業のほか、海外を舞台にしたコント ラクト・ロジスティクス(3PL)サービスにも力を注いでいる。
 09年に国内で初めてAEO運送者に認定されるなど、積極 的に事業拡大を図ってきた。
特に中国市場で早くからネッ トワーク整備を進め、現在は上海や北京、香港、広州など に計16の拠点を持つ。
12年3月期の連結営業収益は前期比 8%増の410億円、営業利益は3割増の16億円。
本誌解説 08 年 3月期 09 年 3月期 10 年 3月期 11 年 3月期 12 年 3月期 60,000 50,000 40,000 30,000 20,000 10,000 0 1,800 1,600 1,400 1,200 1,000 800 600 400 200 0 (百万円) 業績推移(連結) 売上高(左軸) 営業利益(右軸)

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