ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
ロジスティクス・ビジネスはロジスティクス業界の専門雑誌です。
2013年1号
特集
意識改革 バンテック ──トップダウンで作業ミス・貨物事故を半減

*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。

 顧客からの指摘に、経営トップが冷や汗をかい た。
重要な品質クレームを知らずにその顧客を訪 問していた。
これを糧として社内組織の再編を断 行。
クレームやミス、貨物事故の発生情報の共有 化を徹底し、責任を明確化した。
トップ自ら品質 改善に本腰を入れたことで、全てが回り始めた。
「悪い情報」ほど伝わらない  二〇〇九年から一〇年にかけて、貨物事故や異 品、遅延など顧客からのクレームが相次いだ。
ミス の発生が特定の主要顧客に偏ったこともあり、社 内に衝撃が走った。
ところがこれらの問題につい て、経営トップへの報告がスムーズに行われていな かった。
顧客からの指摘で初めてトップがクレーム を認識したケースすらあった。
 危機感を覚えた当時の小山彰専務(現社長)は、 自ら改革に乗り出した。
まず手を付けたのが「一 時間ルール」の徹底だ。
重大貨物事故や自動車事 故、労災について は、発生からトッ プに報告が上がる まで一時間以内 (海外は二四時間 以内)というルー ルを定めた。
 現在、同社の品質管理責任者を務める七字俊介 執行役員技術本部長は「たとえ軽微な事故でもう やむやにはせず、全てをトップまで上げる体制を 整えた。
例えば段ボール箱を一つ落としてしまった というところまで、きちんと本社に報告する。
そ こから始めた」と振り返る。
 同時に社内体制を大幅に入れ替えた。
一一年二 月、「安全は全てに優先する」をスローガンに、ト ップ直轄の「安全品質保証部」を本社内に設立。
それまで分散していた安全管理と品質保証の機能 を統合し、管理体制の強化と、情報ルート・責任 の一元化を図った。
 「保証」という名称を付けたのは、改善のサポー トから問題対処まで、現場任せにせず保証部が自 らの手で責任を持って行うという意思の表れだっ た。
部内には小集団活動の企画・運営など現場寄 りの支援を行う改善推進課と、KPI管理などを 担当する企画管理課を置いた。
 続く三月にはバンテック傘下のグループ会社側に も、本社と協力して安全品質改善を行うカウンタ ーパートを設立。
本社のトップからグループ会社の 現場までの一貫した管理体制を整えた。
各社の安 全品質部門担当者は毎月一回のペースで事例研究 と対策の横展開のための会合を開いている。
JANUARY 2013  24  さらに一一年十一月、改めて組織を再編した。
本社に技術本部を設立し、その下に安全品質保証 部と物流技術部、情報システム部の三つを所属さ せた。
これによって品質管理を経営基盤の一つに 据えた。
 こうした組織体制の整備と歩調を合わせて、現 場レベルでの取り組みが加速した。
──トップダウンで作業ミス・貨物事故を半減 バンテック意識改革 七字俊介執行役員 技術本部長 作業進捗管理の導入 1 時間当たり5 行が リスト投入の原則 最優先ピック品棚 新人用リスト 作業者ごとの名札で リストを整理 投入されたリスト 25  JANUARY 2013  国内のある物流センターでは、震災後の体制変 更と増員などに伴って、異品・異数が大幅に増加 していた。
そこで一一年八月にピッキング台車を専 用ワゴン型に改良したところ、ピッキング中にしゃ がみ動作がなくなり、バーコードスキャンや数量確 認がスムーズになって、ミスが大幅に減った。
 ところが、翌月にはアルバイトの大量投入などが きっかけで再びミスが増加に転じる。
これを受け、 JANコードリーダーを使ってピッキングする対象 を増やしたり、棚番号の一〇桁表記を人間の目で もわかりやすいように「四・三・三」に区切って 表示するなど運用を工夫した。
 作業の進捗状況を把握するため、フロアにはピ ッキングリストを作業員別に整理する専用棚を新た に設置した。
各人のリストの枚数で、現在どれく らいの作業量を抱えているかが一目で分かる。
作 業が遅れているスタッフは手の空いたスタッフに手 助けさせる。
 これらの取り組みで、同センターで月平均五件、 ピーク時には一〇件以上あったミスの発生を、ほぼ ゼロにすることができた。
同様の取り組みが他の センターでもそれぞれ実施に移された。
その結果、 グループ全体でも一二年度はミスの発生率が前年度 比で半減したという。
現場監督者の「観察力」を鍛える  一方、貨物事故の防止はフォークリフト作業の 品質に掛かっている。
フォークリフト作業員は経験 者を仮採用した後に一、二週間の訓練を課し、一 定の基準をクリアした人間だけを本採用している。
それでも同社で発生する貨物事故の約六割がフォ ークリフト関連だ。
 そこで新たに「イエローカード制度」を導入し た。
係長・職長クラスの現場監督者がフォークリフ トの作業員の指差呼称や旋回・運転速度、荷物の 取扱いなどを随時パトロールして、問題があれば作 業を止めてその都度注意する。
この注意が何回か 続くと本社から本人に「イエローカード」が出され る。
イエローが累積すると「レッドカード」で出入 り禁止になることもある。
 同社では、現場監督者の役割として、「?仕事の 標準化と教育訓練」、「?作業観察による異常の発 見」、「?原因の追究」、「?再発防止と改善」とい うPDCAサイクルの運用を重要視している。
 このうち最も難しいのが「作業観察」だという。
七字執行役員は「監督者が異常をすぐに発見し、 指摘できない現場は事故も起こりやすい。
監督者 の目が行き届かない現場が一番危ない」と指摘す る。
 そこで、これまで座学中心だった現場監督者教 育のプロセスに、実践的な要素を取り入れた。
監 督者の役割や標準作業の設定、仕事の教え方、職 場規律、関連法規や安全基準といった基本をテキ ストベースで教えた後に、二泊三日の「合宿研修」 を開催。
監督者を各地から集め、二チームに分け て出荷作業をシミュレーションさせて、その処理時 間と作業品質を競わせる。
一チームは五人。
紙の 箱を組み立てたり、レイアウト図を作成し、改善案 を討議しながら、徐々に作業の品質・速度を上げ ていく。
 合宿の狙いはPDCAサイクル、作業標準化や チームワークの大切さを、自ら身体を動かして学ぶ ことだ。
参加者は合宿後、各々の職場に戻り、約 二カ月間で自ら設定したテーマの改善を成し遂げ、 その成果を経営幹部の前で発表する。
 参加者からは「改善結果が如実に出てくるので、 良い意識付けになった」「チームとしての共通の目 的やコミュニケーションが自然と醸成されていくの を感じた」といった声が寄せられるなど、意識変 革が着実に進んでいるという。
 その甲斐もあって、一二年度の貨物事故件数は 前年に比べ約半減で推移している。
七字執行役員 は「一三年度はミスや貨物事故をさらに半減する。
重大事故や労災はゼロが目標だ」と意気込んでい る。
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