ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
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2012年3号
特集
第2部 注目5カ国の物流市場勢力図 中 国──主戦場は沿岸地区から内陸部へシフト

*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。

 上海、北京など沿岸部大都市の荷動きに陰りが見られる一 方、内陸部は依然として高成長を続けている。
これに伴い日 系物流企業の中国物流も、対象エリアが内陸に伸びると同時 に、内需向けの販売物流にそのスコープを広げている。
従来 のニッチ戦略はもう通用しない。
       (大矢昌浩) 春節前繁忙期の異常事態  中国の国内物流は毎年の春節(旧正月、今年は一 月二三日)前に最大の繁忙期を迎える。
十二月から 年明けの春節入りまでの期間は、平時よりも二〇% 近く物量が増加する。
ところが昨年十二月は繁忙期 がなかった。
丸協運輸貿易の神並充総経理は「昨年 の十二月は前月の十一月と比べても荷物が少ないぐら いだった。
その反動で一月上旬に荷物が集中すると 見込んで車両を押さえておいたところ、これも空振 りに終わった。
春節後も荷動きは戻っていない。
周 囲の同業者にも話を聞いてみたが、皆似たような状 況のようだ」という。
 とりわけ半導体や部品などの輸出関連製品の荷動き が振るわない。
二〇〇七年以降、米国を抜いて中国 の最大の輸出先となった欧州の経済危機が大きく影を 落としている。
統計を見る限り、昨年十一月までの EU向け輸出は比較的底堅く推移している。
しかし、 物流業者の体感温度はマクロ指標よりずっと悪い。
 日系大手物流会社の上海駐在員は「この数カ月で 状況が一気に悪化した。
昨年末から受注がぱったり 止まっているというメーカーが多い。
欧州危機の影響 はこれからが本番で、今年は相当な物量の落ち込み を覚悟している」という。
 上海ではトラック運賃相場も実質的に下がっている。
上海市は今年一月から運賃にかかる税金を、七%内 税方式の「営業税」から十一%外税方式の「増値税 (日本の消費税に相当)」に変更した。
還付を含めても 実質増税となる。
これが荷主に転嫁できていない。
 一方でコストは上がり続けている。
インフレはここ に来て沈静化の兆しが見られる。
しかし人件費の上 昇が止まらない。
上海市の最低賃金は、このところ 年率一五%〜二〇%増の改定が毎年続いている。
現 在の最低賃金は手取りで一月一二八〇元(約一万六 〇〇〇円)。
社会保険料の個人負担分などを含める と企業が支払う人件費はその約三割増しになる。
し かし、「今は手取り一五〇〇元出しても人が集まらな い」という。
運賃の低迷と人件費上昇の板挟みに合 い、物流業の収益性は悪化している。
 不動産相場の低迷も深刻だ。
北京では建築途中の まま放置されている建物が目立つようになってきた。
しかし政府による相場の押さえ込みはしばらく続き そう。
中国の経済成長の半分は不動産開発によるも のとされる。
バブル崩壊のダメージは計り知れない。
 ただし、内陸部の様子は沿岸部とかなり違う。
成 都や長沙など地方の中核都市の不動産相場はいまだ に値上がりが続いている。
荷動きも悪くない。
沿岸 部から内陸部への長距離輸送需要が増えている。
部 品や資材を工場に納品する生産物流のほか、一般消 費財を小売店や流通センターに輸送する内需向けが伸 びている。
 割安な人件費と、市場としての拡大を狙って、内 陸部に生産拠点自体を移す日系荷主企業も増えてき た。
内陸部の地場物流会社は沿岸部と比べて一〇年 〜一五年は遅れていると言われる。
品質の高い物流 サービスに対するニーズは大きい。
これに伴い日系物 流会社の内陸シフトが進んでいる。
 しかし、事業リスクは沿岸部の比ではない。
中国 遠州コーポレーションの落合岐良取締役は「内陸部も 道路や倉庫設備などのハードは沿岸部とそれほど遜 色はなくなってきた。
が、ソフトはまだまだ。
古い 商慣習が根強く残り、人材のレベルも低い。
品質の 高いサービスを提供するのは容易ではない」という。
 料金相場も渋い。
従来の高級品からボリュームゾー MARCH 2012  32 中 国 ──主戦場は沿岸地区から内陸部へシフト 注目5カ国の物流市場勢力図 第2部 ンの普及品に重点を移した荷主に、割高な運賃を支 払う余裕はない。
成長しているとはいえ、市場のパ イもまだ小さい。
「日系物流会社が内陸部で黒字を出 すのは至難の業。
何年赤字を我慢できるかが勝負に なってくる」と落合取締役はいう。
ニッチ戦略は通用しない  日系物流企業の中国進出は、メーカー向けの輸出 入業務から始まった。
日本通運、山九、日新などの 大手物流企業や総合商社が、主要荷主の拠点進出に 帯同して沿岸部に専用拠点を構え、部品輸入と製品 輸出のオペレーションを買って出た。
現地化の進展に 併せて拠点間輸送や販売物流にも対応した。
国内物 流は赤字でも、旨味の大きい輸出入業務で帳尻を合 わせことができた。
 その後、中国進出は中堅以下の物流会社や物流子 会社にも波及した。
そのスコープも輸出入業務から 国内物流、さらには川下の流通センター運営や宅配 便事業にまで広がった。
ただし、事業エリアは沿岸 部に集中し、提供するサービスも高品質だが高コスト で外資系専用だった。
しかし、今後は内陸部も含め た広域かつ現地相場での事業展開を強いられる。
 活況が伝えられる現地の通販物流も同様だ。
繁忙 期の消えた今年の春節もB to Cだけは好調だった。
通 販向けのセンター運営と宅配便の需要も急増してい る。
しかし、外資系物流企業の業績は総じて増収減 益基調にある。
人件費の上昇に加え現地系物流会社 や大手通販会社系の物流事業が育ってきている。
そ の価格攻勢を前に十分な料金を収受できていない。
 これからの中国物流に従来のニッチ戦略は通用し ない。
どれだけ長期的な視野に立って事業を展開し ていくのか、その覚悟が問われている。
33  MARCH 2012 主要物流企業の中国展開 ※1 2012 年1月時点 ※2 2011 年 9月時点(外注先の運用車両台数は一定ではないため、ヒアリングベー    スの概数) ※3 2011 年9月30日時点、持ち分法適用会社含む、台湾・香港含む、バンテック    グループ除く ※4 日本人スタッフには現地採用日本人も含む ※5 2011 年12月末時点 ※6 香港・台湾含む 代表的な現地法人 日本通運 ヤマトホールディングス 山九 日立物流※3 近鉄エクスプレス 日新 三菱倉庫 郵船ロジスティクス※5 バンテック※6 住友倉庫 日本梱包運輸倉庫 会社名都市・ 拠点数 倉庫延べ床 面積合計スタッフ数運用車両台数 (うち自社保有台数) 8 都市 18拠点 431,355? 277,000?※2 約289,000? 387,874? 100,000? 130,000? 89,010.79? 約67,800? 148,975? 299,759? 日本人8 人、 現地採用2882 人 33 都市 101 拠点 3 都市 46 拠点 14 都市 36 拠点※1 30 都市 87 拠点 47 都市 113 拠点 22 都市 68 拠点 13 都市 29 拠点 23 都市 45 拠点 15 都市 24 拠点 12 都市 25 拠点 日本人126 人、 現地採用5376 人 日本人、 現地採用計1083 人 日本人83 人、 現地採用2288 人※1 日本人68 人、 総スタッフ約4000 人 日本人62 人※4、 現地採用3163 人 日本人45 人、 現地採用1200 人 日本人30 人、 現地採用520 人 日本人45 人、 現地採用1380 人 日本人15 人、 現地採用約710 人 日本人25 人、 現地採用1484 人 零細倉庫含め 多数 396 台 (396 台) ─ ─ ─ ─ 282 台 (276 台) 300 台 (100 台) 約700 台 (321 台) 271 台 (92 台) 157 台 (19 台) 30 台 (15 台) 日通国際物流( 中国)、上海通運国際物流、華南日通国際物流、 香港日本通運 ほか YAMATO(CHINA)TRANSPORT、YAMATO TRANSPORT (HK) ほか 北京山九、上海山九、広州山九 大航国際貨運 Kintetsu World Express(China)、Kintetsu World Express (HK)、Beijing Kintetsu World Express 日新運輸倉庫(香港)、上海高信国際物流、常熟日新中外運運輸、江 蘇日新外運国際運輸、中外運−日新国際貨運、日新日倉国際貨運(上海) 上海菱華倉庫運輸、上海菱運国際貨運、香港三菱倉庫会社、富 士国際貨運(中国)、富士物流(香港)会社 YUSEN LOGISTICS (HONG KONG)、YUSEN AIR & SEA SERVICE (CHINA)、YUSEN SHENDA AIR & SEA SERVICE (SHANGHAI) 武漢万友通物流、VANTEC WORLD TRANSPORT (SHANGHAI) 住友倉儲(中国) 日梱物流(中国)、富田日梱儲運(広州) ※2 台湾 山西 西安 ●夏回族 自治区 河南 湖北安徽 浙江 福建 江西 貴州 湖南 四川 雲南広西チワン 自治区 広東 青島 江蘇 北京 天津 上海 済南 太原 陝西 石家庄 河北 成都 昆明 台北市 西宁 長沙 武漢 合肥 南昌 福州 杭州 甘粛 南宁 呼和浩特 広州 南京 市内配送は夜間が基本。
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